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懲戒処分

就業規則を後追いで適用することはできない

Last Updated on 2021年7月29日 by

不遡及の原則

憲法第39条
何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

憲法39条の太字で示した部分を一般に不遡及の原則と言います。

会社が行う懲戒処分もこの原則にしたがわなければ、その決定は無効になります。

後追い改定は適用できない

従業員のある行為が、会社や他の従業員に迷惑をかけ、また、一般常識に照らしても明らかに不適当な行為であるときに、何らかの懲戒処分をしなければならない、いや、むしろこれを懲戒処分にしなければ示しがつかない、と考えたとします。

ところが、就業規則をどう読んでも、その行為を禁止する記述がありません。こういうときにはどうすればよいのでしょうか。

一部の経営者は、それは就業規則が不備なのだから早急に訂正して適用すればよい、と考えます。しかし、それはこの不遡及の原則により禁じ手なのです。

仮に急いで禁止項目を追加しても、今回の不始末にその規定を適用することはできません。適用できるのは次回からになります。

そのようなことが無いように、日頃から就業規則を点検し必要に応じて改訂していればよいのですが、なかなかそこまでできないものです。

関連記事:懲戒処分の対象になる行為を就業規則に列記する

その他これに準じる行為を適用する

直接適用する項目が見つからないときは、就業規則の禁止規定の最後に記載されている「その他これに準じる行為」という項目を適用できるかを検討します。

これは類似する行為であれば適用できます。ただし、強引に屁理屈をつけて結びつけると後に懲戒処分が無効になってしまうことがあるので注意が必要です。

どのくらい類似性があれば適用できるかという境界はむずかしいです。

例えば、会社にコーヒーメーカーを持ち込んで自分のコーヒーを沸かしている者がいるとします。注意しても何が悪いのかと開き直るので、会社は禁止命令を出して更に従わなければ懲戒処分を科そうと考えたとします。就業規則には「会社の備品、設備、事務用品を私用に使ってはならない」という項目があります。私用に使っているのは電気ですが、電気については明示されていません。しかしこのようなケースでは「その他これに準じる行為」を適用させることができるでしょう。

例えば、経営者にまつわる個人的な情報、つまり、社長が酔っ払いだとか、教養が無いなどということをことさらに外部に語った者がいて、そのことによって会社の評判が多少とも傷ついたとします。その会社の就業規則に「業務上の秘密事項を他に漏らしてはならない」という規定があったとします。経営者の私事ですから、業務上の秘密事項に該当するかどうかは微妙です。しかしこのようなケースでは「その他これに準じる」を適用できる余地はあります。

行為の影響を処分対象にする

ある行為を禁じる直接の項目が見つからない場合は、その行為の影響を処分対象にできるか検討します。

例えば、上司に暴力をふるった者がいたとします。就業規則には暴力禁止規定はあまりみかけません。今後はパワハラ禁止の規定を折り込むなかで整備されてくると思われますが、あまりに当たり前のことなので現状では規定していないことが多いのです。

したがって、従業員の暴力行為は警察に被害届を出すなりして刑法の裁きに委ねることになりますが、会社としても懲戒処分をしたいということであれば、やはり、規定されているかどうかが問題になります。その場合、そのことによって業務の遅滞などの支障をきたしたということで、「故意または重大な過失により業務に支障をきたしたとき」という規定を適用できる余地があります。

まとめ

時代の流れで、これまではなかった行為が問題になることがあります。ニュースなどで、これまでは無かったケースを耳にしたときは、「わが社ではそのケースは懲戒事由に入っているか」という視点で就業規則を見直す習慣が必要です。

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