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懲戒処分

連帯責任をとらせてはいけない

Last Updated on 2021年7月29日 by

個人責任の原則とは

公職選挙法では、重要な立場にある者が選挙違反をしたことを理由として、選挙違反に直接関与していない候補者を当選無効にする連座制があります。しかし、会社が行う懲戒処分は、本人に対して科すものであって、本人となんらかの関係をもつからといって他の者にも責任を負わせることはできないのが原則です。

これを個人責任の原則といいます。責任の無いことに対して懲戒処分をしたことになるので、争いになれば処分無効とされる可能性が髙いでしょう。

連帯責任はいけない

例えば、小売店でレジが一つしかなく、アルバイトを含めた従業員5人が交替でレジをやっていたとします。閉店後、お金が5000円足りないことが判明し、店主は、お釣りの渡し間違いと推定しました。誰が間違えたか分からないので、店主は従業員全員の連帯責任だと言って、一人1000円ずつ出すように求め徴収しました。

これでよいのでしょうか。

よいわけがありません。

基本的には間違えた者に責任があり、間違えた者以外には責任がないことは自明です。一律1000を負担させれば、お釣りを間違えていない者にとっては、何の理由もなく金銭を取られたことになります。誰がミスしたか分からないときは、従業員から徴収することはできません。金銭を管理する最終責任がある店主の責任と考えるべきでしょう。

この例は賠償請求なので懲戒処分とは違いますが、懲戒処分についても同じです。

例えば、ある部署に所属する従業員が集金したお金を使い込んだとします。その従業員は懲戒解雇されても仕方ないでしょう。しかし、同じ部署にいただけの他の従業員に対して、気付けなかった責任があるとして減給などの処分を科すことはできません。

ただし、協力していれば処分の対象になり得るし、協力とは言えないまでも知っていたのに見逃していたなどの消極的協力があったことが明白であれば個々の責任を問うことができる余地があります。

管理職の管理責任を問える場合がある

このように、単なる同僚であれば連帯責任を問うことは難しいですが、上司である従業員であれば少し事情が違います。

上司に対しては懲戒処分を科すことは可能です。

ただし、就業規則に「従業員が懲戒処分を受けたときは、その管理監督の任務にある管理職を管理不行届きにより懲戒することがある。」旨の規定が必要です。

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この場合、単に上司だということで責任を取らせることができるわけではありません。その上司に、管理職として義務の不履行があったかどうか、明確に示せなければなりません。

普通の注意を払っていれば不正を見抜けたはず、普通の指導をしていればそのような不祥事は起こらなかっただろう、そのような普通の注意や指導が足りなかったという根拠が必要です。

出張中の出来事に管理職の責任を問うのも一般的には難しいでしょう。

予想がつかないような不祥事についても管理職の責任を問うことはできません。

また、管理責任の場合は、本人の処分より軽くする必要があるでしょう。本人が懲戒解雇処分であったケースでは、管理責任だけで上司も一緒に懲戒解雇するのは無理です。ただし、不正を知って黙認し、その結果会社に重大な損害が生じたケースでは懲戒解雇を妥当とした裁判例もあります。

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