カテゴリー: 雇用制度

  • 正社員登用制度とは?導入前に考えるべきこと

    正社員登用制度の意義

    正社員登用制度の意義は、企業の持続的成長と従業員の安定的なキャリア形成を両立させることにあります。

    企業にとっての意義

    1. 優秀な人材の確保と定着: 会社や業務内容をよく理解している非正規社員を正社員として登用することで、新たな採用活動にかかるコストと時間を削減できます。また、非正規から正社員への道が明確であれば、従業員のモチベーションが高まり、離職率の低下にもつながります。
    2. 人材育成への投資: 登用制度は、企業が非正規社員の能力開発に投資するインセンティブを生み出します。非正規社員を育成し、より高いレベルの業務や責任を任せることで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。

    従業員にとっての意義

    1. 雇用の安定: 非正規雇用では不安定な立場にありますが、正社員になることで、雇用の安定性が格段に向上します。これにより、将来の生活設計が立てやすくなります。
    2. キャリア形成と成長: 正社員になることで、より責任のある仕事や、専門的なスキルを必要とする業務に就く機会が増えます。これにより、自身のキャリアを長期的に見据えて計画し、成長していくことが可能になります。

    正社員登用制度は、単なる「雇用形態の変更」ではなく、企業と従業員双方にとっての重要な成長戦略であると言えます。

    制度設計の透明性と公平性

    正社員登用制度を検討する場合、制度の設計と運用において、公平性、透明性、そして社員のモチベーションに焦点を当てることが重要です。

    基準の明確化

    誰でも理解できるように、正社員登用の基準を具体的に明文化することが最も重要です。以下の点を明確に定めます。

    • 経験・スキル: 担当業務における実務経験年数や、求められる専門スキル(例:特定の資格、マネジメント能力)。
    • 評価: 勤務態度、実績、そして会社が定める行動規範(コンピテンシー)など、客観的に評価する項目。
    • プロセス: 応募資格、選考方法(筆記試験、面接、論文など)、合否通知の時期などを明確にします。

    受験資格要件の合理性

    正社員登用制度における受験資格を定める際には、公平性と透明性を確保することが最も重要です。以下の点を考慮して、基準を明確に定める必要があります。

    1. 勤続年数

    • 単なる期間ではない: 勤続年数を単なる「○年以上」とするだけでなく、その期間が、正社員として求められるスキルや知識を習得するのに必要な合理的な期間であることを明確にします。例えば、「当社の業務を一人で遂行できるレベルになるには最低でも2年かかる」といった具体的な理由が必要です。
    • 短縮の可能性: 優れた実績や高い能力を持つ社員には、勤続年数を満たしていなくても受験資格を与える、といった柔軟な運用を検討することも有効です。

    2. 業務実績と評価

    • 数値目標: 目標管理制度(MBO)やOKRなどで設定された目標の達成度を、客観的な評価項目として組み込みます。
    • 行動特性(コンピテンシー): チームワーク、リーダーシップ、問題解決能力など、企業が求める行動特性をどの程度発揮しているか、上司の評価を反映させます。
    • 能力開発: 登用を希望する職務に必要なスキルや知識を習得しているか、研修受講実績や資格取得などを考慮に入れます。

    3. 健康状態と勤務態度

    • 健康状態: 正社員登用後の職務遂行に支障がないか、健康診断の結果などを基に判断します。
    • 勤務態度: 欠勤や遅刻の状況、社内のルールやコンプライアンスを遵守しているか、といった勤務態度も重要な判断材料です。ただし、恣意的な判断を避けるため、評価項目を具体的に定めておく必要があります。

    登用後のミスマッチを防ぐ

    • 本人の意思確認: 転勤の有無、職務内容の変更、残業時間など、正社員登用後の働き方について本人が十分に理解し、同意していることを確認します。
    • 職務内容の適性: 希望する職務が本人の能力や適性に合っているか、面談などを通じて見極めることも重要です。

    これらの要素を組み合わせることで、「なぜその人が正社員にふさわしいのか」を客観的に説明できる、透明性の高い正社員登用制度を構築できます。

    登用試験のやり方と注意点

    正社員登用試験は、通常、以下の3つのステップで構成されます。これらのステップを通じて、非正規社員が正社員として求められる能力や資質を備えているかを総合的に判断します。

    1. 書類選考

    この段階では、主に以下の書類を提出してもらいます。

    • 登用試験の申込書:氏名や所属部署などの基本情報に加え、登用を希望する理由や将来のキャリアプランを記述してもらいます。
    • 業務実績報告書:これまでの業務でどのような成果を上げたか、具体的な実績や貢献を記載してもらいます。
    • 上司の推薦書:直属の上司に、受験者の勤務態度や能力、成長性などを評価・推薦する書類を作成してもらいます。

    2. 筆記試験

    筆記試験は、正社員として共通して求められる基本的な知識や思考力を測るために実施されます。

    • 一般常識・適性検査:社会人として必要な一般常識や、論理的思考力、言語能力などを測ります。
    • 専門知識試験:現在の担当業務や、将来的に正社員として従事する可能性のある業務に関する専門知識を問います。
    • 小論文:会社の課題解決策や、自身のキャリアプランなど、思考力や表現力を評価します。

    3. 面接

    面接は、最終的な判断を行う最も重要なステップです。

    • 一次面接(部署の上司など):これまでの業務実績や、協調性、コミュニケーション能力などを確認します。
    • 二次面接(人事担当者や役員など):正社員登用への熱意、会社の理念や文化への適合性、長期的なキャリア志向などを確認します。

    注意点

    • 基準の透明性:選考基準は、受験者全員に事前に公開し、公平性を保ちます。どのような能力や実績が評価されるのかを明確にすることが重要です。
    • プロセスの一貫性:試験の各ステップ(書類選考、筆記、面接)で評価する項目に一貫性を持たせ、最終的な判断に矛盾が生じないようにします。
    • フィードバックの提供:不合格者には、可能であれば、不合格になった理由や今後の課題についてフィードバックを提供します。これにより、社員の次の挑戦や成長を促すことができます。

    運用の柔軟性と実効性

    教育・育成機会の提供

    登用制度を設けるだけでなく、非正規社員が正社員登用を目指せるように、必要なスキルを習得する機会を提供します。研修制度や資格取得支援、OJT(On-the-Job Training)などを充実させます。これにより、登用制度が単なる「選抜」ではなく、「育成」を目的としたものになります。

    登用後の待遇と職務

    正社員登用後の待遇や職務内容についても、事前に明確に伝えておく必要があります。これにより、登用後のミスマッチを防ぎます。

    • 待遇: 給与テーブル、賞与、手当、退職金など。
    • 職務: 異動の有無、責任範囲の拡大、昇進の可能性など。

    継続的な制度見直し

    正社員登用制度は、一度作って終わりではありません。制度が機能しているか、定期的に見直すことが重要です。

    • 登用実績の分析: 毎年、何人が登用され、その後の定着率はどうかを分析します。
    • 社員からのフィードバック: 非正規社員や登用された社員から、制度に対する意見や改善点をヒアリングします。

    これらの点を踏まえることで、正社員登用制度は、単なる人事制度ではなく、企業の成長戦略に貢献する重要な人材育成の仕組みとして機能します。


    会社事務入門>このページ

  • ジョブ型雇用とは?従来の雇用との違いやメリット・デメリットを解説

    ジョブ型雇用とは

    ジョブ型雇用をスポーツチームで例えると…

    ジョブ型雇用は、「サッカーチームでフォワードとして活躍できる人を募集します!」というように、最初に「どんな仕事をするか(ポジション)」をはっきり決めてから、それにぴったりの人を探して雇うイメージです。

    つまり、

    1. まず「フォワード」という仕事(ジョブ)がある。
    2. 次に「フォワードの仕事ができる人」を契約する。
    3. 給料は「フォワードとしてどれだけゴールを決めたか(成果)」で決まる。

    これがジョブ型雇用の基本です。

    従来の雇用制度とどう違うの?

    多くの日本企業がこれまで採用してきたのは、メンバーシップ型雇用と呼ばれるものです。これは、「サッカーチームに入ってくれる人を募集します!」というように、まずは「会社の一員(メンバー)」として採用し、入社後にいろいろな仕事を任せていくイメージです。

    ジョブ型雇用メンバーシップ型雇用
    考え方「仕事に人をつける」「人に仕事をつける」
    給料担当する仕事の内容や成果で決まる勤続年数や年齢、能力などで決まる
    異動原則として、決まった仕事しかしないさまざまな部署に異動して経験を積む
    求められる人特定の分野の専門家(スペシャリスト)いろいろな仕事ができる総合職(ゼネラリスト)

    メリットとデメリット

    ジョブ型雇用には、得意なことを活かして専門性を深められるというメリットがあります。また、成果が給料に直結しやすいため、モチベーションも上がります。

    一方で、決められた仕事以外はあまり担当しないため、幅広い経験が積みにくいというデメリットもあります。また、もし担当していた仕事がなくなると、会社に残ることが難しくなる可能性もあります。

    政府はジョブ型雇用を推進している

    2024年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」では、日本企業の競争力を高めるために、ジョブ型人事の導入を推進していく方針が明確に示されています。

    政府がジョブ型雇用を推進する背景

    政府がジョブ型を推進するのは、以下のような課題を解決するためです。

    1. 賃金の上昇:個人のスキルや職務の成果に直結するジョブ型にすることで、年齢や勤続年数に関係なく賃金が上がる機会を増やし、賃金全体の底上げを目指しています。
    2. 従業員のキャリア自律:従来のメンバーシップ型では、個人のキャリアは会社主導の異動に左右されがちでした。ジョブ型では、職務が明確になることで、従業員が自ら必要なスキルを学び(リスキリング)、主体的にキャリアを選択できるようになることを期待しています。
    3. 専門人材の確保:グローバル化やデジタル化が進む中で、企業は特定の高度なスキルを持つ専門人材を迅速に確保する必要があります。ジョブ型は、このニーズに応えやすい雇用形態です。

    この計画に基づき、政府は既にジョブ型人事制度を導入している企業の事例をまとめた「ジョブ型人事指針」を公表し、各企業が自社の実情に合わせて導入を検討できるように支援しています。

    賃金制度は職務給に移行する

    政府がジョブ型雇用を推進しているということは、将来的には賃金制度として職務給が主流になる可能性が高いことを意味します。

    これまで日本企業に広く浸透してきた職能給(個人の能力や勤続年数に応じて賃金を決める仕組み)から、職務給(担当する仕事の価値や責任に応じて賃金を決める仕組み)への移行を、国全体で促していく方向性になると思われます。

    なぜ職務給が主流になると考えられるのか

    政府が職務給を推進する背景には、いくつかの狙いがあります。

    • 賃金の底上げと流動性の向上職務給は、年齢や勤続年数に関係なく、仕事の価値で賃金が決まります。これにより、特定の専門スキルを持つ若手や中途採用者が、入社直後から高い給与を得るチャンスが生まれます。優秀な人材が職種や企業を超えて活躍しやすくなり、労働市場全体の活性化につながると期待されています。
    • 同一労働同一賃金同じ仕事をしているのに、雇用形態や勤続年数が違うだけで給料に差が出るという不公平感をなくすため、職務給は有効な手段とされています。
    • グローバルな競争力強化海外ではジョブ型雇用と職務給が一般的であり、日本企業がグローバルな人材獲得競争で勝つためには、世界標準の賃金制度に合わせる必要性が高まっています。

    もちろん、全ての企業がすぐに職務給に移行するわけではありませんし、日本独自の慣習も考慮した「日本型ジョブ型」が模索されています。しかし、政府の方針や多くの大企業が導入を検討している流れを見ると、将来的には職務給が賃金制度のスタンダードになっていく可能性が高いと言えるでしょう。


    関連記事:職務給をわかりやすく解説!海外で主流なのは本当?

    会社事務入門主な賃金制度の解説>このページ