カテゴリー: 法律

  • 中小受託取引適正化法(旧下請法)のあらまし

    中小受託取引適正化法(通称:取適法)は、従来の下請法(下請代金支払遅延等防止法)が改正され、2026年1月1日から施行される新しい法律です。この改正は、中小企業や小規模事業者の賃上げを後押しするため、取引の適正化をさらに推し進める目的で実施されました。

    下請法からの改正ポイント

    新人:「課長、ニュースで『下請法』が改正されて『中小受託取引適正化法』になるって聞いたんですが、どういうことなんですか?」

    課長:「いい質問だね。改正の目的は、最近の物価や人件費の高騰を背景に、中小企業がちゃんと価格転嫁できるように取引を適正化することなんだ。要は、弱い立場の受託事業者を守る仕組みを強化したんだよ。」

    新人:「なるほど。いつから変わるんですか?」

    課長:「2026年1月1日から施行されるよ。2025年に国会で成立して、年明けから実際に運用が始まる。」

    新人:「具体的には、下請法と何が違うんでしょうか?」

    課長:「大きく分けて5つある。
    1つ目は名前と用語
    『親事業者/下請事業者』が『委託事業者/中小受託事業者』に変わる。呼び方から“対等さ”を意識させているんだ。」

    新人:「用語の変更って意外と大きいですね。」

    課長:「2つ目は価格交渉の義務化
    今までは発注者が値上げ要請を無視しても法律違反ではなかった。でも改正後は“価格据え置き”が禁止されて、協議に応じなければならなくなる。」

    新人:「それならコスト増をちゃんと反映できそうですね。」

    課長:「3つ目は支払方法の厳格化
    手形払いはもちろん、ファクタリングみたいに支払期日までお金が受け取れない方法も禁止されるんだ。キャッシュフロー改善を狙ってる。」

    新人:「中小企業にはありがたいですね。」

    課長:「4つ目は対象範囲の拡大
    運送委託も対象に追加された。あと、資本金だけでなく従業員数の大小でも規制対象が決まるようになった。」

    新人:「運送まで入るんですか。幅が広がりましたね。」

    課長:「最後に執行体制の強化と電子化
    違反への監視が広がるし、書面の交付も電子でOKになる。中小側の同意は不要だから、やり取りがスピーディになるんだ。」

    新人:「整理すると――目的は価格転嫁の確保、施行は2026年1月1日。主な改正は、用語変更、価格協議義務化、手形禁止、対象拡大、そして執行・電子化の強化……ですね。」

    課長:「その通り!現場でも価格交渉や契約方法に影響が出るから、しっかり押さえておくといいよ。」

    中小受託取引適正化法の概要

    この法律は、従来の「下請代金支払遅延等防止法」が改正され、2026年1月1日から施行される新しい法律です。

    その目的は、委託事業者(発注者)と中小受託事業者(受注者)の公正な取引を確保し、中小受託事業者の利益を保護することにあります。この法律では、対等な立場の取引を促すため、用語を「親事業者・下請事業者」から「委託事業者・中小受託事業者」に変更しました。

    主要ポイント

    第2条(定義)

    法律が適用される「中小受託取引」の範囲が明確に定義されています。

    • 適用対象の拡大: 従来の「資本金」による基準に加え、新たに「従業員数」による基準が追加されました。例えば、製造委託・修理委託・情報成果物作成委託などでは、資本金が3億円超または従業員数が300人超の委託事業者が、資本金が3億円以下かつ従業員数が300人以下の事業者に委託する場合に適用されます。
    • 対象取引の追加: 従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加えて、新たに「特定運送委託」が追加されました。これにより、製造や販売に必要な物品の運送を委託する取引もこの法律の規制対象となります。

    第4条(中小受託事業者の給付の内容その他の事項の明示等)

    委託事業者が負う最も基本的な義務です。

    • 書面交付義務: 委託事業者は、中小受託事業者に委託する際、直ちに発注内容を記載した書面を交付しなければなりません。これには、委託内容、代金の額、支払い期日などが含まれます。これにより、後々のトラブルを防ぎます。

    第5条(委託事業者の遵守事項)

    この条文には、委託事業者が行ってはならない「禁止行為」が具体的に列挙されています。

    • 受領拒否の禁止: 中小受託事業者に責任がないにもかかわらず、納品された成果物の受領を拒否してはなりません(第1項第1号)。
    • 支払い遅延の禁止: 納品物を受領した日から起算して60日以内に代金を支払わなければなりません。これに違反することは禁止行為です(第1項第2号)。
    • 手形払いの禁止: 支払い期日までに代金相当額を現金化することが困難な手形や一部の電子記録債権などによる支払いは原則として禁止されます(第1項第2号)。
    • 買いたたきの禁止: 中小受託事業者に通常支払われる対価に比べて、著しく低い代金を不当に定めてはなりません(第1項第3号)。
    • 一方的な代金決定の禁止: 中小受託事業者が代金に関する協議を求めたにもかかわらず、これに応じなかったり、必要な説明を怠ったりして、一方的に代金を決定する行為は禁止されます。これは、対等な価格交渉を確保するための新しい規定です(第2項第4号)。
    • 返品、不当なやり直しの禁止: 中小受託事業者に責任がないのに、納品物を不当に返品したり、やり直しを要求したりすることは禁止されます(第1項第4号)。
    • 報復措置の禁止: 中小受託事業者が公正取引委員会などに違反行為を通報したことを理由に、取引を打ち切るなどの不利益な取り扱いをすることは禁止されます。

    第6条(遅延利息の支払い)

    • 遅延利息の対象に減額を追加: 委託事業者が代金を減額した場合、その減額分についても、60日を経過した日から実際に支払う日までの期間の遅延利息を支払う義務が生じます。

    第8条(主務大臣による指導及び助言)

    • 執行体制の強化: 公正取引委員会や中小企業庁に加えて、各事業を所管する省庁(例:国土交通省、経済産業省など)も、法律の円滑な運用を図るため、指導や助言を行えるようになります。これにより、より多くの機関が連携して取引適正化を進める体制が構築されます。

    このように、中小受託取引適正化法は、中小受託事業者の保護を強化するため、適用範囲を広げ、不当な取引慣行(特に価格決定と支払い方法)をより厳しく規制する内容となっています。


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  • 独占禁止法について中小企業が知っておくべきポイント

    独占禁止法とは

    新人課員: 課長、最近、独占禁止法について勉強しているのですが、中小企業には関係ない法律だと思っていました。でも、どうやら違うようですね。

    課長: そう、多くの人がそう勘違いしているが、それは大きな間違いだ。独占禁止法は、企業規模にかかわらず、すべての事業者が守るべきルールなんだ。特に、中小企業が知らずに違反してしまうケースは少なくない。

    新人課員: どのような行為が問題になるのでしょうか?

    課長: 例えば、共同の取引拒絶だ。同業他社と申し合わせて、特定の会社と取引しないようにしたり、取引条件を不利にしたりする行為だ。うちはやったことはないが、他社の動向を気にしてうっかり巻き込まれないように注意する必要がある。

    新人課員: なるほど。他に中小企業が陥りやすいケースはありますか?

    課長: そうだね。うちは製造業だが、再販売価格の拘束もそうだ。うちの製品を扱う小売店に対して、「定価で売ってくれ。安売りするなら取引をやめるぞ」と指示するような行為は違法だ。小売店が自由に価格を決められるようにするのが原則だ。

    新人課員: 確かに、営業部門からそういう話を聞いたことがあります。気をつけます。

    課長: それから、最近特に問題視されているのが、優越的地位の濫用だ。うちが取引している下請けさんに対して、一方的に納品価格を下げさせたり、注文をキャンセルしたり、本来受け取らないといけない代金を支払わなかったりすると、これは独禁法違反になる。相手がうちより小さな会社だからといって、無茶な要求をしてはいけない。常に公正な取引を心がけなければいけない。こういうことも独占禁止法で禁止されている。

    新人課員: もし違反してしまった場合、どうなるのでしょうか?

    課長: まず、公正取引委員会から排除措置命令が出る。これは、「その違反行為をやめなさい」という命令だ。さらに、違反行為で不当に利益を得ていたと判断されれば、課徴金納付命令が出される。これは、違反期間の売上などに基づいて計算されるが、かなり高額になることもある。

    新人課員: 罰金のようなものですね。

    課長: その通り。さらに悪質な場合は、刑事罰の対象にもなる。懲役や罰金が科せられる可能性もあるんだ。会社の信用も失墜する。軽視すると、取り返しのつかないことになる。

    新人課員: 中小企業でも、独占禁止法に抵触する可能性があることがよく分かりました。日々の業務で意識して行動するようにします。

    課長: その心がけが大事だよ。

    独禁法違反となる主な行為

    独占禁止法は、独占的な力を持つ大企業が適用される法律というイメージがありますが、中小企業にも関係する法律です。

    独占禁止法は、商業、工業、金融業その他の事業を行う者(事業者)を対象としています。資本金や従業員数に関わらず適用されます。なお、役員・従業員等も事業者に入ります。

    共同の取引拒絶・共同ボイコット

    (独占禁止法2条9項1号、一般指定1項)

    これは、複数の事業者が共同して特定の事業者との取引を拒絶したり、取引条件を不利にしたりする行為です。例えば、同業者団体が、特定の会員企業を排除するために、その企業と取引している他の企業に圧力をかけ、取引をやめるように仕向けるような行為がこれにあたります。

    不当廉売

    (独占禁止法2条9項3号、一般指定6項)

    通常、企業努力によって競争者よりも低い価格で商品や役務を供給することは問題ありません。しかし、体力のある大企業が一時的であっても原価割れの低価格で商品を供給すれば、競争者は市場での競争に負けて退場することになります。競争者いなくなった市場で大企業が思い通りの過価格で販売できるようになるようでは、競争秩序が害されてしまいます。そのため、独占禁止法は不当廉売を規制しています。

    再販売価格の拘束

    (独占禁止法2条9項4号)

    これは、製造業者や卸売業者が、小売業者に対し、商品の販売価格を指示し、その価格で販売するように強制する行為です。例えば、メーカーが小売店に対し、「この商品は定価で販売すること。安売りしたら取引を停止する。」と圧力をかけるような行為がこれにあたります。

    優越的地位の濫用

    (独占禁止法2条9項5号)

    これは、取引上の地位が優越している事業者が、相手方に対し、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与える行為です。例えば、大手の小売業者が、下請けの中小企業に対し、納入価格の一方的な引き下げを要求したり、返品を強要したりするような行為が該当します。

    関連記事:中小受託取引適正化法のあらまし

    排他条件付取引

    (一般指定11項)

    これは、取引の相手方に、特定の事業者との取引を制限・排除させることを条件として取引を行う行為です。例えば、ある製造業者が、卸売業者に対し、自社の製品を扱う代わりに、他社の競合製品を扱わないように要求するようなケースが該当します。

    独占禁止法違反に対する法的措置

    独占禁止法に違反した場合、公正取引委員会が以下のような措置を講じます。

    排除措置命令

    公正取引委員会は、独占禁止法違反の疑いがある場合、事業者に対し、その違反行為を是正するための排除措置命令を出します。これには、違反行為の中止、関係者の解雇、競争環境を回復するための措置などが含まれます。

    課徴金納付命令

    違反行為によって不当な利益を得た事業者に対しては、課徴金の納付が命じられます。課徴金の額は、違反行為の種類や期間、売上額などに基づいて計算されます。中小企業でも、違反の内容によっては高額な課徴金が課されることがあります。

    刑事罰

    悪質な違反行為の場合、公正取引委員会は検察官に刑事告発を行うことがあります。刑事罰としては、懲役や罰金が科せられる可能性があります。

    中小企業もこれらの法的措置の対象となるため、事業活動を行う際は、独占禁止法を遵守することが非常に重要です。

    賠償請求もあり得る

    不公正な取引方法により損害を被った事業者は、不公正な取引方法を行った事業者に対して損害賠償請求をすることもできます。

    この損害賠償請求では、不公正な取引方法を行った事業者は、故意又は過失がなかったことを証明しても損害賠償責任を免れることはできない「無過失責任」となるので注意が必要です(独占禁止法第25条)。


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  • 不正競争防止法のあらまし

    不正競争防止法とは

    不正競争防止法とは、企業間の不適切な競争を防ぐための法律です。

    不正競争に該当する行為

    「不正競争」に該当するとされているのは以下の行為です。

    周知表示混同惹起行為

    他人の商品・営業の表示(商品等表示)として広く認識されているものと同一または類似の表示を使用し、混同を生じさせる行為です。

    「商品等表示」は、人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器・包装、その他の商品または営業を表示するものです。

    事例
    有名コーヒーチェーンの「珈琲所コメダ珈琲店」と類似する店
    舗外観を使用した同業者に対し、店舗外観の使用禁止が認められた。(東京地判平28.12.19)

    著名表示冒用行為

    他人の商品や営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為です。

    「周知表示混同惹起行為」のように混同を生じさせないものの、顧客吸引力の不当な利用、ブランドイメージの稀釈化、ブランドイメージの汚染などの悪影響を与えるような行為を指します。

    事例
    三菱の名称及び三菱標章(スリーダイヤのマーク)が企業グループである三菱グループ及びこれに属する企業を示すものとして著名であるとして、信販会社、建設会社や投資ファンドへの使用を差し止めた。(三菱信販事件-知財高判平22.7.28)(三菱ホーム事件-東京地判平14.7.18)(三菱クオンタムファンド事件-東京地判平14.4.25)

    形態模倣商品の提供行為

    他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為です。

    ここでいう「商品の形態」とは、需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる、商品の外部及び内部の形状並びに形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感のことです。

    ここでいう「模倣」とは、他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことです。

    営業秘密の侵害

    窃取等の不正な手段によって営業秘密を取得し、自ら使用する、もしくは第三者に開示する行為などです。

    なお、「営業秘密」として法律の保護を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

    ① 秘密として管理されていること(秘密管理性)
    ② 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること(有用性)
    ③ 公然と知られていないこと(非公知性)

    関連記事:営業秘密の侵害

    限定提供データの不正取得等

    窃取等の不正な手段によって限定提供データを取得し、自ら使用する、もしくは第三者に開示する行為などです。

    ここでいう「限定提供データ」は、企業間で複数者に提供や共有されることで、新たな事業の創出につながったり、サービス製品の付加価値を高めるなど、その利活用が期待されているデータのことです。

    なお、「限定提供データ」として法律の保護を受けるためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。

    ① 業として特定の者に提供する(限定提供性)
    ② 電磁的方法により相当量蓄積されている(相当蓄積性)
    ③ 電磁的方法により管理されている(電磁的管理性)

    技術的制限手段無効化装置等の提供行為

    技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴やプログラムの実行などを可能とする(技術的制限手段の効果を無効化する)装置、プログラム、指令符号(シリアルコードなど)、役務を提供するなどの行為です。

    ここでいう「技術的制限手段」は、音楽、映像、ゲーム等のデジタルコンテンツについて、無断複製や無断視聴などを防止するための技術的手段のことです。

    ドメイン名の不正取得等の行為

    図利加害目的で、他人の商品・役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有、または使用する行為をです。

    ここでいう「図利加害目的」は、不正の利益を得る目的または他人に損害を加える目的のことです。

    事例
    原告の著名な商品等表示である「maxell」と類似する「maxellgrp.com」というドメイン名を使用し、ウェブサイトを開設して、その経営する飲食店(風俗業)の宣伝を行っていた会社に対し、使用許諾料相当額(第5条第3項)の損害賠償(約530万円)が命ぜられた。(マクセルコーポレーション事件-大阪地判平16.7.15)

    誤認惹起行為

    商品・役務またはその広告等に、原産地、品質・質、内容等について誤認させる表示をする行為、またはその表示をした商品を譲渡するなどの行為です。

    事例
    酒税法上「みりん」とは認められない液体調味料を、「本みりん」の部分のみの印象が強く残り「タイプ」の部分は目にとまらないような態様で「本みりんタイプ」との商品表示を行い販売した行為が誤認惹起行為に当たるとした。(本みりんタイプ調味料事件-京都地判平2.4.25)

    信用毀損行為

    競争関係にある他人の、営業上の信用を害する虚偽の事実を告知または流布する行為です。

    ここで「競争関係」とは、双方の営業につき、その需要者又は取引者を共通にする可能性があることで足りるとされています。なお、非競争者間での誹謗行為等は、本法ではなく、一般不法行為(民法第709条)の問題です。

    ここで「他人」とは、名称自体が明示されていなくても、告知等の内容及び、業界内の情報等から、告知の相手方において誰を指すのか理解できれば足りるとされています。

    代理人等の商標冒用行為

    パリ条約の同盟国等において商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なく、その商標を使用などする行為です。

    不正競争行為への対応

    不正競争行為が行われた場合、被害者が取り得る手段として、加害者に対する民事上の①差止請求、②損害賠償請求、③信用回復措置請求があります。

    差止請求

    不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができます(法第3条1項)。

    損害賠償請求

    他人の不正競争行為によって営業上の利益を侵害された被害者は、侵害者に対する損害賠償請求を行うことができます(法第4条)。

    信用回復措置請求

    不正競争行為によって営業上の信用を害された者は、侵害者に対し、営業上の信用の回復をするために必要な措置を請求することができます。(法第14条)


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