Last Updated on 2025年9月8日 by 勝
独占禁止法とは
新人課員: 課長、最近、独占禁止法について勉強しているのですが、中小企業には関係ない法律だと思っていました。でも、どうやら違うようですね。
課長: そう、多くの人がそう勘違いしているが、それは大きな間違いだ。独占禁止法は、企業規模にかかわらず、すべての事業者が守るべきルールなんだ。特に、中小企業が知らずに違反してしまうケースは少なくない。
新人課員: どのような行為が問題になるのでしょうか?
課長: 例えば、共同の取引拒絶だ。同業他社と申し合わせて、特定の会社と取引しないようにしたり、取引条件を不利にしたりする行為だ。うちはやったことはないが、他社の動向を気にしてうっかり巻き込まれないように注意する必要がある。
新人課員: なるほど。他に中小企業が陥りやすいケースはありますか?
課長: そうだね。うちは製造業だが、再販売価格の拘束もそうだ。うちの製品を扱う小売店に対して、「定価で売ってくれ。安売りするなら取引をやめるぞ」と指示するような行為は違法だ。小売店が自由に価格を決められるようにするのが原則だ。
新人課員: 確かに、営業部門からそういう話を聞いたことがあります。気をつけます。
課長: それから、最近特に問題視されているのが、優越的地位の濫用だ。うちが取引している下請けさんに対して、一方的に納品価格を下げさせたり、注文をキャンセルしたり、本来受け取らないといけない代金を支払わなかったりすると、これは独禁法違反になる。相手がうちより小さな会社だからといって、無茶な要求をしてはいけない。常に公正な取引を心がけなければいけない。こういうことも独占禁止法で禁止されている。
新人課員: もし違反してしまった場合、どうなるのでしょうか?
課長: まず、公正取引委員会から排除措置命令が出る。これは、「その違反行為をやめなさい」という命令だ。さらに、違反行為で不当に利益を得ていたと判断されれば、課徴金納付命令が出される。これは、違反期間の売上などに基づいて計算されるが、かなり高額になることもある。
新人課員: 罰金のようなものですね。
課長: その通り。さらに悪質な場合は、刑事罰の対象にもなる。懲役や罰金が科せられる可能性もあるんだ。会社の信用も失墜する。軽視すると、取り返しのつかないことになる。
新人課員: 中小企業でも、独占禁止法に抵触する可能性があることがよく分かりました。日々の業務で意識して行動するようにします。
課長: その心がけが大事だよ。
独禁法違反となる主な行為
独占禁止法は、独占的な力を持つ大企業が適用される法律というイメージがありますが、中小企業にも関係する法律です。
独占禁止法は、商業、工業、金融業その他の事業を行う者(事業者)を対象としています。資本金や従業員数に関わらず適用されます。なお、役員・従業員等も事業者に入ります。
共同の取引拒絶・共同ボイコット
(独占禁止法2条9項1号、一般指定1項)
これは、複数の事業者が共同して特定の事業者との取引を拒絶したり、取引条件を不利にしたりする行為です。例えば、同業者団体が、特定の会員企業を排除するために、その企業と取引している他の企業に圧力をかけ、取引をやめるように仕向けるような行為がこれにあたります。
不当廉売
(独占禁止法2条9項3号、一般指定6項)
通常、企業努力によって競争者よりも低い価格で商品や役務を供給することは問題ありません。しかし、体力のある大企業が一時的であっても原価割れの低価格で商品を供給すれば、競争者は市場での競争に負けて退場することになります。競争者いなくなった市場で大企業が思い通りの過価格で販売できるようになるようでは、競争秩序が害されてしまいます。そのため、独占禁止法は不当廉売を規制しています。
再販売価格の拘束
(独占禁止法2条9項4号)
これは、製造業者や卸売業者が、小売業者に対し、商品の販売価格を指示し、その価格で販売するように強制する行為です。例えば、メーカーが小売店に対し、「この商品は定価で販売すること。安売りしたら取引を停止する。」と圧力をかけるような行為がこれにあたります。
優越的地位の濫用
(独占禁止法2条9項5号)
これは、取引上の地位が優越している事業者が、相手方に対し、正常な商習慣に照らして不当に不利益を与える行為です。例えば、大手の小売業者が、下請けの中小企業に対し、納入価格の一方的な引き下げを要求したり、返品を強要したりするような行為が該当します。
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排他条件付取引
(一般指定11項)
これは、取引の相手方に、特定の事業者との取引を制限・排除させることを条件として取引を行う行為です。例えば、ある製造業者が、卸売業者に対し、自社の製品を扱う代わりに、他社の競合製品を扱わないように要求するようなケースが該当します。
独占禁止法違反に対する法的措置
独占禁止法に違反した場合、公正取引委員会が以下のような措置を講じます。
排除措置命令
公正取引委員会は、独占禁止法違反の疑いがある場合、事業者に対し、その違反行為を是正するための排除措置命令を出します。これには、違反行為の中止、関係者の解雇、競争環境を回復するための措置などが含まれます。
課徴金納付命令
違反行為によって不当な利益を得た事業者に対しては、課徴金の納付が命じられます。課徴金の額は、違反行為の種類や期間、売上額などに基づいて計算されます。中小企業でも、違反の内容によっては高額な課徴金が課されることがあります。
刑事罰
悪質な違反行為の場合、公正取引委員会は検察官に刑事告発を行うことがあります。刑事罰としては、懲役や罰金が科せられる可能性があります。
中小企業もこれらの法的措置の対象となるため、事業活動を行う際は、独占禁止法を遵守することが非常に重要です。
賠償請求もあり得る
不公正な取引方法により損害を被った事業者は、不公正な取引方法を行った事業者に対して損害賠償請求をすることもできます。
この損害賠償請求では、不公正な取引方法を行った事業者は、故意又は過失がなかったことを証明しても損害賠償責任を免れることはできない「無過失責任」となるので注意が必要です(独占禁止法第25条)。
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