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懲戒処分 法律

公益通報者に報復的懲戒をすれば刑事罰の対象になる

Last Updated on 2025年6月7日 by

公益通報者保護法の改正

先生: 社長、本日はお時間をいただきありがとうございます。先般、公益通報者保護法が改正され、2025年6月4日に参議院本会議で可決・成立しましたので、その内容と御社への影響についてご説明させていただきたく参りました。

社長: ああ、ニュースでやっていましたね。詳しくは把握できていませんが、通報者を保護する法律ですよね。うちのような中小企業にも関係ある話なんでしょうか?

先生: はい、もちろん関係があります。今回の改正は、特に通報者の保護を強化する内容となっており、事業者の皆さまにはより一層の対応がもとめられています。

報復行為に刑事罰が導入されます

先生: まず、最も重要な点からお話しします。今回の改正で、通報を理由に報復的な解雇や懲戒処分を行った場合、それに関与した人に対して刑事罰が科されることになりました。

社長: 刑事罰ですか!具体的にはどういうことでしょう?

先生: はい。もし通報した従業員を、その通報を理由に解雇やその他の懲戒処分をしたりすると、その行為に関わった担当者や役員に「6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。そして、会社にも「3,000万円以下の罰金」が科されます。そして、この部分は、すべての企業が対象です。企業規模による免除はありません。

社長:すべての企業ということですが、例えば、個人事業主も含まれまれるのですか?

先生:はい、報復的な解雇や懲戒処分への刑事罰の対象となる「企業」には、個人事業主も含まれます。公益通報者保護法における「事業者」の定義は、「法人その他の団体及び事業を行う個人」とされています。つまり、株式会社のような営利法人だけでなく、公益法人、協同組合、NPO法人、そして個人事業主や、国、地方公共団体なども含まれることを意味します。

社長:もう一つ、解雇だけでなく始末書や訓戒程度の軽い懲戒でも対象になるのですか?

先生:はい、この法律でいう「懲戒処分」は、解雇のような重いものだけでなく、訓戒や減給、降格、出勤停止など、広範な不利益な取り扱いが含まれると解釈されています。重要なのは、その懲戒が公益通報への報復目的であるかどうかです。

社長: それは厳しいですね。行政指導ではなく、いきなり刑事罰になるということですか?

先生: その通りです。これまでは行政指導や民事上の損害賠償が主な抑止力でしたが、今回は直接的な刑事罰が導入された点が非常に大きい変更点です。

社長: 不当な配置転換は対象にならないと聞きましたが、それはどうなのでしょう?

先生: はい、不当な配置転換については、今回は刑事罰の対象からは外されました。しかし、だからといって問題がないわけではありません。通報者への不利益な取り扱いとして、民事上の責任を問われる可能性は依然として残りますので、注意が必要です。

事業者側の立証責任

先生: もし御社が通報者を解雇や懲戒処分にした場合、その処分が「通報を理由とするものではない」ということを、会社側が証明する責任を負うことになります。

社長: え、会社側が証明するんですか?それは大変ですね。

先生: はい。これまでは通報者が不利益な取り扱いを受けた場合に、通報者がその関連性を立証する必要があるケースもありました。しかし、これからは事業者側がその合理性をより明確に示す必要が出てくると理解してください。

先生:それと、通報後1年以内の懲戒には特に注意してください。改正では「公益通報後1年以内に解雇や懲戒を受けた場合は通報への報復を受けたと推定する」 という規定が導入されました。「推定する」というのは、覆されない絶対的な判断ではありませんが、通報後1年以内は、通報者にとって有利な「推定」が働くことになったということです。

その他の改正点

社長: 他に注意すべき点はありますか?

先生: はい、いくつかあります。

内部通報体制の整備義務違反への罰則

先生:従業員が301人以上の企業には、適切な内部通報窓口の設置や調査体制の整備が義務付けられています。これを怠り、行政からの是正命令にも従わない場合、30万円以下の罰金が科されます。御社は現在300名以下ですが、今後従業員が増える際には特にご留意いただく必要があります。

守秘義務違反への罰則

先生:内部通報の受付や調査を担当する従業員、いわゆる「公益通報対応業務従事者」が、通報者の名前など、特定につながる情報を漏らした場合、30万円以下の罰金が科されます。これは内部通報制度の信頼性を保つ上で非常に重要です。

保護対象の拡大

先生:今回の改正で、フリーランスの方や退職された方も公益通報の保護対象となりました。業務委託などで関わる方々からの通報も保護の対象になるため、より広範な視点での対応が求められます。

不利益な取扱いの範囲拡大

先生:退職金を不支給にしたり、通報者に対して損害賠償を請求したりするといった行為も、不利益な取扱いの範囲に含まれ、禁止されます。

今後の対応

社長: なるほど。それで、この改正はいつから施行されるんでしょうか?

先生: この改正法は、公布から「1年6か月以内」に施行される予定です。具体的な日付はまだ決まっていませんが、来年の冬頃までには施行される見込みです。

社長: そうですか。まだ少し時間があるとはいえ、これは早めに対応を考えないといけませんね。

先生: その通りです。今後の対応としては、以下の点が重要になります。

就業規則の見直し

先生:懲戒規定など、通報者への報復行為と誤解されないような規定になっているか確認が必要です。

内部通報制度の再確認・整備

先生:現行の通報窓口が適切に機能しているか、通報者のプライバシー保護が徹底されているか、もう一度見直しましょう。従業員数が301名に近づいた場合は、特に体制整備の義務が発生しますのでご注意ください。

従業員への周知・研修

先生:公益通報者保護法の趣旨や、通報制度の利用方法、そしてハラスメント防止などと合わせて、従業員全員に周知徹底することが非常に大切です。特に管理職の方々には、通報があった際の適切な対応や、報復行為と見なされないための注意点などを充分に理解してもらう必要があります。

社長: 刑事罰の導入というのは本当に大きいですね。今のうちに、社内の体制をもう一度確認して整備を進めていきたいと思います。

先生: ぜひ、そのようになさってください。ご不明な点があればいつでもご相談ください。


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