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福利厚生

従業員の「資格取得」を支援する制度をつくるときの留意点(規程例付き)

Last Updated on 2025年9月8日 by

資格取得支援制度の意義

会社の視点から見ると、従業員の資格取得を奨励することは、単なる福利厚生ではなく、企業の持続的な成長に不可欠な戦略投資でもあります。これは、人材の質的向上と企業価値の向上という、二つの大きな意義をもたらします。

競争力の強化と生産性の向上

従業員の資格取得は、専門知識やスキルを体系的に習得する機会を提供し、個々の能力を飛躍的に向上させます。これにより、企業全体の技術力、サービス品質、および生産性が底上げされます。

特定の資格を持つことで、従業員はより複雑な業務をこなせるようになり、業務の効率化や新しい価値創造に貢献できます。結果として、競合他社に対する優位性を確立し、市場での競争力を強化することにつながります。

従業員のモチベーションの向上

資格取得を支援する制度は、従業員に対する投資のメッセージを伝えます。これは、「会社はあなたの成長を真剣に考えている」という信頼関係を築く上で非常に重要です。

自己成長の機会を与えられた従業員は、仕事に対するモチベーションやエンゲージメントが高まります。さらに、スキルアップを通じてキャリアパスが明確になることで、将来への不安が軽減され、会社への帰属意識が強まります。これにより、優秀な人材の離職を防ぎ、定着率の改善に繋がります。

企業のブランドイメージの向上

多くの資格は、その分野における専門性や信頼性の証明となります。従業員が資格を取得することで、顧客や取引先に対して「この会社は専門知識を持ったプロフェッショナル集団だ」という信頼性の高いブランドイメージを構築できます。

特に、法務、経理、情報技術、医療、建設業など、専門性が求められる分野では、有資格者の存在そのものが企業の信頼の証となり、新規顧客の獲得やビジネスチャンスの拡大に直結します。

これらの理由から、資格取得の奨励は、単なる従業員支援に留まらず、会社の未来を築くための重要な経営戦略と言えるのです。

資格取得を奨励する主な施策

資格取得を奨励する施策には、金銭的な補助だけでなく、さまざまな方法があります。金銭的な補助をする場合、業務に関連する資格であれば基本的に福利厚生費として非課税扱いとできますが、個人的な目的や高額すぎる場合は給与扱いになる可能性があります。

従業員の資格取得を促すには、以下のような施策があります。

  • 金銭的な補助
    • 費用負担: 受験料、教材費、講座受講料など、資格取得にかかる費用の一部または全部を会社が負担します。
    • 合格報奨金: 資格取得が完了した際に、一時金として報奨金を支給します。難易度に応じて金額を変えることも一般的です。
    • 資格手当: 取得した資格に応じて、毎月の給与に手当を上乗せして支給します。業務で活用している場合に支給するなど、条件を設けることが多いです。
  • 非金銭的な支援
    • 推奨資格リストの作成: 会社として取得を推奨する資格を明確にすることで、従業員が目標を立てやすくなります。
    • 社内研修の実施: 資格取得に向けた社内研修や勉強会を開催し、知識習得をサポートします。
    • 外部講習会・通信教育費用の補助:業務に必須の資格であれば、合格率を上げるために考慮しましょう。
    • 受験日の特別休暇付与:業務に必須の資格であれば、有給休暇の消化ではなく、有給の試験休暇を考慮しましょう。
    • 人事評価への反映: 取得した資格を昇進・昇格や人事評価に反映させ、キャリアアップの機会と結びつけます。

金銭的補助の税務上の扱いについて

従業員の資格取得費用を会社が負担した場合、税務上の扱いは「福利厚生費」か「給与」になります。

  • 福利厚生費となる場合:
    • 業務上の必要性: 資格が従業員の職務に直接必要であり、業務遂行に不可欠であると認められる場合に、費用は福利厚生費として扱われ、従業員は非課税となります。例えば、経理担当者の簿記資格や、電気工事業者の電気工事士資格などです。
    • 適切な金額: 社会通念上、高額すぎない費用であることが条件です。
    • 全従業員への公平性: 一部の従業員にだけ適用されるのではなく、資格取得支援制度として全従業員に公平に適用されることが望ましいです。
  • 給与扱いとなる場合:
    • 個人的な目的: 資格が業務に直接関係なく、従業員の個人的なキャリアアップや趣味を目的とする場合は、給与として扱われ、所得税の課税対象となります。
    • 高額な場合: 費用が社会通念上の妥当な範囲を超えて高額な場合も、給与と見なされることがあります。

もし給与扱いになると、従業員には所得税や住民税が課税され、社会保険料の負担も増えるため、従業員のモチベーション低下につながる可能性があります。そのため、資格取得支援制度を導入する際は、税理士など専門家と相談し、制度の目的や対象資格を明確に定めることが大切です。

社員向け通知文(サンプル)

令和○年○月○日

社長 ○○○○

資格取得費用補助制度のお知らせ

社員の皆さんへ

このたび当社では、社員のスキル向上を支援するため「資格取得費用補助制度」を開始いたします。

本制度では、会社の事業運営に必要な資格(衛生管理者、危険物取扱者など)や、社員の能力開発につながる資格(簿記検定、ITパスポートなど)を対象とし、受験費用等を補助します。

【制度のポイント】

  • 必須資格:受験料・講習費等を会社が全額補助
  • 推奨資格:受験料の一部補助(合格時は全額補助)
  • 年間上限:1人あたり○万円まで
  • 利用方法:所定の申請書を所属長に提出してください

社員一人ひとりの成長が、会社全体の力になります。ぜひ積極的に活用してください。

以上

資格取得支援規程(サンプル)

○○株式会社資格取得支援規程

第1条(目的)

本規程は、社員の業務遂行能力の向上及び自己啓発を支援するため、資格取得に要する費用を会社が補助する取扱いについて定めることを目的とする。

第2条(対象資格)

  1. 補助の対象となる資格は、次のとおりとする。
     (1) 必須資格:事業運営上、法令等により取得が求められる資格(例:衛生管理者、危険物取扱者 等)
     (2) 推奨資格:社員の専門性向上に資すると会社が認める資格(例:簿記検定、ITパスポート 等)
  2. 対象資格の一覧は、別途「資格区分表」として定める。

第3条(補助内容)

  1. 必須資格については、受験料・登録料・講習会受講料を全額補助する。
  2. 推奨資格については、受験料の半額を補助し、合格した場合は残額も補助する。
  3. 補助の年間上限額は、1人あたり○万円とする。

第4条(申請手続き)

  1. 補助を希望する社員は、所定の申請書に受験案内等を添付し、所属長を経由して総務部へ提出すること。
  2. 合格後は、速やかに合格証等を提出すること。

附則

本規程は令和○年○月○日より施行する。


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