Last Updated on 2025年10月6日 by 勝
アンガーマネジメントとは
アンガーマネジメント(Anger Management)とは、「怒り」の感情と上手に付き合い、適切にコントロールするための心理トレーニングや教育プログラムのことです。
怒りの感情を「なくすこと」や「抑え込むこと」が目的ではなく、怒るべきことには上手に怒り、怒る必要のないことには怒らなくて済むようになることを目指します。これにより、衝動的な言動を減らし、人間関係の改善やストレスの軽減、仕事の効率化などに役立つとされています。
アメリカで1970年代に、DV(家庭内暴力)や軽犯罪者の矯正プログラムとして開発されたものが、現在では一般化し、企業研修などでも広く取り入れられています。
アンガーマネジメントは、知識を身につけるだけでなく、日常で実践を重ねてトレーニングすることが重要です。
1. 基本的な知識の学習
- 書籍やウェブサイトでの独学:
- アンガーマネジメントの定義、怒りの仕組み(人が怒る理由)、自分の怒りの傾向(怒りのタイプ診断など)について学びます。
- eラーニングや通信講座:
- 専門の協会や団体が監修したテキストや動画教材を用いて、体系的に学習できます。資格取得を目指せる講座もあります。
2. 実践的なトレーニング(テクニックの習得)
日常生活で活用できる具体的なテクニックを訓練します。
- 6秒ルール:
- 怒りの感情のピークは長くて6秒程度と言われています。カッとしたら衝動的に反応する前に、心の中で6秒数えて怒りの衝動をやり過ごす方法です。この間に深呼吸をしたり、気持ちが落ち着く言葉(コーピングマントラ)を唱えたりします。
- アンガーログ(怒りの記録):
- 怒りを感じた時、その日時、場所、事実(何が起こったか)、そのとき思った感情、怒りの程度(10段階評価など)を記録し、後から客観的に分析します。これにより、自分が何に怒りやすいか、怒りの傾向を知ることができます。
- 「べき」の境界線を広げる:
- 怒りの多くは「○○すべき」「○○のはずだ」といった自分の固定観念が裏切られたときに生じます。この「べき」の範囲を広げたり、人によって「べき」が違うことを認識したりすることで、無駄な怒りを減らします。
- スケールテクニック:
- 怒りの度合いを10段階で数値化し、自分の感情を客観視する訓練です。
- タイムアウト:
- 怒りを感じそうな状況から一旦その場を離れるなど、物理的に距離をとる方法です。
3. 専門的なプログラムへの参加
- セミナー・講演会・研修:
- 専門家(アンガーマネジメントファシリテーターなど)による対面またはオンラインのセミナーや、企業・団体向けの研修に参加し、理論と実践方法を学びます。
- 資格講座:
- 日本アンガーマネジメント協会などの団体が提供する、アンガーマネジメントを教える専門家になるための資格講座を受講する方法もあります。
研修の効果は期待できますか?
アンガーマネジメント研修の効果については、多くの機関や協会で研究や調査が行われており、その効果はさまざまな方法で実証されています。
行動変容を長期にわたってフォローするのは難しいですが、主にアンケート調査や自己評価スケール、行動観察などを用いて効果が検証されています。
研修の効果は、主に以下の3つの側面で測定・報告されています。
1. 受講者個人の変化(心理的・認知的効果)
研修を受けた個人レベルで、ストレスや怒りの感情に対する向き合い方が変化したことが確認されています。
効果 | 実証方法 | 具体的な変化の例 |
ストレス軽減・心の健康向上 | 研修前後でのメンタルヘルス・ストレスチェック(アンケート)の実施 | 怒りをコントロールできるようになった結果、イライラが減り、ストレスレベルが低下したことが数値で示される。 |
客観的視点の獲得 | 自己評価スケール(例:「怒りを感じてもすぐには口に出さなくなったか」「怒りを後になってまで引きずることが少なくなったか」などの設問) | 自分の怒りのパターンや強度を客観視できるようになり、「怒りの頻度」や「持続性」が減少したと回答する。 |
衝動性の低下 | 6秒ルールやスケールテクニック(怒りの温度を0〜10で採点する)といったテクニックの活用報告 | 感情が爆発する前に「一呼吸置く」行動が習慣化され、反射的な言動が減少する。 |
2. 組織・職場の変化(対人関係・行動的効果)
個人の行動の変化が、組織全体やチーム内の環境改善に寄与していることが確認されています。
効果 | 実証方法 | 具体的な変化の例 |
ハラスメント防止 | パワハラ相談件数やハラスメントに関するアンケートの経年比較 | 特に管理職の受講後、部下に対する感情的な叱責が減り、ハラスメントの発生リスクが低下する。 |
心理的安全性向上 | 部下へのアンケート調査(例:「上司は冷静に指導してくれるか」「意見を言いやすい雰囲気になったか」) | 部下側が上司の行動変容を認識し、職場のコミュニケーションが円滑になった、心理的安全性が高まったと評価する。 |
チーム生産性の向上 | 業務効率やトラブル対応時間の計測 | 無駄な衝突が減り、建設的な話し合いが増えることで、業務に集中できる時間が増加し、生産性向上に貢献する。 |
3. 専門機関による実証研究の事例
日本のアンガーマネジメント協会などが実施した研究では、アンガーマネジメント研修を受けた民間企業の役職者およびその部下を対象としたアンケート調査の結果、受講者の行動変容が部下の「心理的安全性」を高める効果が示されています。
このように、アンガーマネジメントの効果測定は、研修直後の知識定着度だけでなく、受講者本人および周囲の人の行動・意識の変化を追うことで多角的に実証されています。効果の持続性については、学んだスキルを日常的に「実践し続けること」が鍵となります。
怒りっぽい社員を研修に出すと懲罰とみなされる?
アンガーマネジメント研修の受講指示は懲罰でも懲戒処分でもありません。
- 目的が制裁ではない:
- 研修の目的は、過去の行為に対する罰ではなく、社員の感情コントロール能力を向上させ、将来のトラブルやハラスメントを予防し、働きやすい職場環境を維持することにあります。これは教育・指導の一環です。
- 不利益の伴わない業務命令:
- 懲戒処分には、給与の減額や雇用の喪失といった労働者への明確な不利益が伴います。
- 研修の受講指示は、職務遂行上必要なスキル(感情のコントロール、適切なコミュニケーション)を習得させるための業務命令であり、それ自体が直接的な経済的・身分的な不利益を伴うものではありません。
懲罰と受け取られるリスクの回避策
研修の指示が社員に「罰」や「お前は問題児だ」というメッセージとして受け取られ、モチベーションや人間関係が悪化するリスクはあります。これを回避し、研修の効果を高めるためには、以下の点に配慮することが重要です。
1. 指示の目的を明確にする
「あなたは怒りすぎるから研修に行け」といった個人的な非難と受け取られる言い方を避け、研修の目的を前向きに伝えます。
- 「ハラスメントの予防と健全な職場環境の維持のため」
- 「リーダーシップや指導力を発揮するために必要な感情管理スキル習得のため」
- 「感情を建設的に伝え、ストレスを軽減するためのセルフマネジメントスキル向上のため」
2. 対象者を限定しない(可能であれば)
特定の怒りっぽい社員のみを対象にすると、その社員が差別的な扱いと受け取るリスクが高まります。可能であれば、管理職層全体やコミュニケーションスキルの向上を目的とする全社員を対象とした研修の一環として実施するのが最も理想的です。
これらの措置を講じることで、研修の指示を懲戒と誤解されることなく、社員のスキルアップという本来の目的に集中させることができます。