「次世代育成支援対策推進法」と「女性活躍推進法」は一体で取り組むことが推奨されているため、ここでは一体的な行動計画を策定する手順を、「現状把握・課題分析」「目標設定」「計画策定」の3つのステップを掘り下げて解説します。
現状把握と課題分析
まず自社の状況を客観的に把握し、把握した「現状」を分析します。
現状把握
従業員101人以上の企業は、労働時間の状況と育児休業等の取得状況について把握・分析する必要があります。
1. 労働時間の状況に関するチェック項目(例)
この分野では、「長時間労働の是正」と「休暇取得の促進」に関する状況を把握します。
| No. | チェック項目 | 単位・備考 |
| 1 | 年次有給休暇の平均取得率 | %(取得日数 ÷ 付与日数) |
| 2 | 年次有給休暇の平均取得日数 | 日 |
| 3 | 全従業員の月平均所定外労働時間 | 時間(残業時間の平均) |
| 4 | 月45時間を超える所定外労働者がいる部署の割合 | %(特に負荷が集中している部署の特定) |
| 5 | 年次有給休暇を5日以上取得した従業員の割合 | %(労働基準法遵守の観点) |
| 6 | 年間の総実労働時間(一人あたり) | 時間(所定内+所定外労働時間の合計) |
| 7 | 計画的付与制度の利用状況 | % または 利用人数 |
| 8 | 時間単位の年次有給休暇制度の導入の有無と利用人数 | 有無 / 人数 |
| 9 | 勤務間インターバル制度の導入の有無 | 有無 / 制度の内容 |
| 10 | 深夜・休日労働(法定外)の平均時間 | 時間(健康確保と業務の平準化の観点) |
2. 育児休業等の取得状況に関するチェック項目(例)
この分野では、「育児休業の利用実績」と「両立支援制度の活用状況」を把握します。
| No. | チェック項目 | 単位・備考 |
| 1 | 男性従業員の育児休業等(育児目的休暇含む)の取得率 | %(計画期間内の対象者数に対する取得者数) |
| 2 | 女性従業員の育児休業取得率 | %(計画期間内の対象者数に対する取得者数) |
| 3 | 男性従業員の育児休業等(育児目的休暇含む)の平均取得日数 | 日 |
| 4 | 育児休業から復帰した従業員の復帰後1年間の定着率 | %(育児休業後の継続雇用の状況) |
| 5 | 小学校就学前の子を持つ従業員数 | 人 |
| 6 | 育児短時間勤務制度の利用人数(男女別) | 人 |
| 7 | 子の看護休暇制度の利用人数(男女別) | 人 |
| 8 | 育児休業取得意向を確認するための面談実施状況(男性) | %(対象者に対する実施率) |
| 9 | 育児休業を取得した従業員の復職先・役職維持の状況 | %(復職後のポジションが休業前と同じかどうかの割合) |
| 10 | 育児休業制度に関する社内周知の実施頻度 | 回数または 有無(制度が従業員に伝わっているかの確認) |
さらに、女性活躍推進法に基づき、以下の項目も把握・分析することが強く推奨されます(301人以上は必須)。
- 採用:採用した労働者に占める女性労働者の割合
- 継続勤務:男女の平均継続勤務年数の差異
- 管理職:管理職に占める女性労働者の割合
- その他:男女の賃金の差異(301人以上は情報公表も必須)
ポイント:これらのデータから、「男性の育休取得が進んでいない」「長時間労働が常態化している」など、自社の問題点を明確にします。
課題分析
課題分析は、「現状把握」で集めた客観的なデータ(数値)を基に、「なぜその数値になっているのか?」という原因や根本的な問題を深掘りする作業です。
課題分析の具体的な手順
課題分析は、主に以下のステップで進めます。
① 定量データの要因分析
「現状把握」で集めた必須項目や選択項目の数値データについて、その背景にある要因を分析します。
| 現状把握データ(事実) | 課題分析(なぜそうなっているか?) |
| 男性の育児休業取得率が5% | 原因の特定: 制度はあっても周知が不十分、管理職の意識が低い、業務量が多すぎて引継ぎが困難、代替要員がいない、など。 |
| 平均所定外労働時間が月25時間 | 原因の特定: 会議が多い、非効率な業務プロセス、特定の部署や個人に負荷が集中している、業務目標の設定が曖昧、など。 |
| 女性の管理職比率が低い | 原因の特定: 育児休業後のキャリア形成支援不足、 OJT(現場研修)に偏りがある、昇進・昇格の基準が不透明、など。 |
② 定性データ(従業員のニーズ)の把握
数値データだけでは見えない、職場の雰囲気や従業員の意識・ニーズを把握します。
- アンケートの実施: 育児休業制度に対する意見、労働時間に関する意識、キャリア継続の希望などについて、従業員にアンケートを実施します。
- 例:「育休取得の際、上司・同僚に遠慮を感じましたか?」(雰囲気の把握)
- ヒアリング・面談: 特に取得率が低い層や、長時間労働が常態化している部署の従業員や管理職に個別ヒアリングを行い、生の声を集めます。
③ 優先順位付けと課題の特定
集めた定量・定性データを突き合わせ、「解決の優先度が高い課題」と「自社で最も取り組むべき課題」を特定します。行動計画の目標は、この特定された「課題」を裏返す形で設定されます。
数値目標の設定
目標設定への流れ
現状把握と課題分析の結果に基づき、いつまでに何を達成するかという定量的な数値目標を設定します。現状把握、課題分析、目標設定の流れをわかりやすくするために、いくつかの例を示します。
| 現状把握(データ) | 課題分析(原因・問題点の特定) | 目標設定(課題の解消) |
| 男性育休取得率:10% | 【課題】「休むと評価が下がる」という職場の雰囲気があり、管理職が取得推奨をしていない。 | 目標: 男性従業員への取得推奨面談実施率を100%とし、取得率を50%以上とする。 |
| 年次有給休暇取得率:50% | 【課題】 特定の時期に業務が集中するため、計画的に休みが取れない。業務の属人化が進んでいる。 | 目標: 計画的付与制度による連続休暇(3日以上)の取得率を80%以上とする。 |
| 平均残業時間:25時間/月 | 【課題】 非効率な紙の事務作業が残っている。会議時間が長く、目的が曖昧な会議が多い。 | 目標: 社内ペーパーレス化率を80%とし、平均所定外労働時間を15時間以下とする。 |
目標設定のルール
- 計画期間:概ね2年~5年間とします。
- 必須目標:従業員101人以上の企業は、「労働時間等の状況」と「育児休業等の取得状況」からそれぞれ1つ以上の数値目標を設定することが義務付けられています。
- (例1)「男性の育児休業等取得率を計画期間内に〇〇%以上とする。」
- (例2)「全従業員の所定外労働時間を一人あたり月平均〇時間以下とする。」
- 女性活躍目標:女性活躍推進法に基づく項目(採用、継続勤務、管理職など)からも目標を設定します。
数値目標の策定例
次世代育成支援対策推進法に基づき、一般事業主行動計画に定めるべき必須の目標分野である「労働時間等の状況」と「育児休業等の取得状況」について、それぞれ10個の数値目標の例を提示します。
1. 労働時間等の状況に関する数値目標(10例)
「労働時間等の状況」では、主に残業削減、有給休暇の取得促進、生産性の向上を目指します。
| No. | 目標 |
| 1 | 全従業員の月平均所定外労働時間を、計画期間内に5時間削減し、15時間以下とする。 |
| 2 | 年次有給休暇の平均取得日数を、計画期間内に3日増加させ、年間12日以上とする。 |
| 3 | 時間単位の年次有給休暇制度の利用率を、計画期間終了時までに30%以上とする。 |
| 4 | 1週間当たりの法定外労働時間が10時間未満の従業員の割合を、計画期間終了時までに90%以上とする。 |
| 5 | 計画的付与制度を利用した連続休暇(3日以上)の取得率を80%以上とする。 |
| 6 | 年次有給休暇を5日以上取得していない従業員をゼロとする。 |
| 7 | 所定外労働時間が月45時間を超える従業員の割合を5%以下に抑える。 |
| 8 | フレックスタイム制度や裁量労働制度の利用率を20%以上に引き上げる。 |
| 9 | ノー残業デーの実施率(定時退社した従業員の割合)を80%以上に引き上げる。 |
| 10 | 年間での総労働時間を、一人あたり1,900時間以下とする。 |
2. 育児休業等の取得状況に関する数値目標(10例)
「育児休業等の取得状況」では、主に男性の育児参加の促進と、育児休業後の定着を目指します。
| No. | 目標 |
| 1 | 男性の育児休業等(育児目的休暇を含む)の取得率を、計画期間内に50%以上とする。 |
| 2 | 女性の育児休業取得率を100%に維持する。 |
| 3 | 男性従業員の育児休業等(育児目的休暇を含む)の平均取得日数を7日以上とする。 |
| 4 | 配偶者が出産した男性従業員への個別制度説明の実施率を100%とする。 |
| 5 | 育児休業から復帰した従業員の復帰後1年間の定着率を95%以上とする。 |
| 6 | 小学校就学前の子を持つ従業員の時短勤務制度の利用人数を、計画期間中に10名以上とする。 |
| 7 | 男性の連続した育児休業(1ヶ月以上)の取得率を10%以上とする。 |
| 8 | 育児休業・介護休業に関する制度周知のための社内研修の受講率を80%以上とする。 |
| 9 | 育児のための時差出勤制度を導入し、年間利用件数を50件以上とする。 |
| 10 | 女性の育児休業の平均取得期間を12ヶ月以上とする。 |
これらの目標設定の際は、貴社の従業員数、業種、現在の実績値などを踏まえて、達成可能かつ挑戦的な内容に調整してご活用ください。
行動計画本体の作成
設定した目標を達成するための「対策」と「実施時期」を具体的に記述します。これが計画の本体になります。一例を示します。
| 項目 | 記載内容 |
| 計画期間 | 〇〇年〇月〇日~〇〇年〇月〇日(〇年間) |
| 目標 | (例) 計画期間内に、男性の育児休業等取得率を50%以上にする。 |
| 対策 | 目標達成のための具体的な取り組み(制度の整備、研修の実施、意識改革など) |
| 実施時期 | 各対策をいつから開始・実施するかを明記 |
対策の記入例
| 対策の柱 | 具体的な対策内容 | 実施時期 |
| 男性育休の促進 | * 管理職向けに、部下の育児休業取得を促すための研修を実施する。 | 〇年〇月~ |
| * 育児休業制度と育児目的休暇制度の詳細を社内報やイントラネットで周知する。 | 〇年〇月~ | |
| 長時間労働の是正 | * ノー残業デー(週2日)の徹底と、部門ごとの残業時間実績を部署内で公開する。 | 〇年〇月~ |
| * 業務効率化のため、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を導入する。 | 〇年〇月~ |
厚生労働省のウェブサイトには、企業の規模や課題に応じた「一般事業主行動計画 策定支援マニュアル」や記入例が掲載されています。

