労働安全衛生法の改正により、特定の状況下で作業場所管理事業者に新たな義務が課されることになります。これは、複数の事業者が一つの場所で作業する際の労働災害防止を目的とした重要な改正です。
主な内容と施行時期は以下の通りです。
義務の内容:作業場所管理事業者による措置
この改正により、作業場所管理事業者(その場所を管理し、自らも仕事を行う事業者)は、以下の条件を満たす場合に、労働災害防止のための必要な措置を講じることが義務付けられます。
1. 義務の対象となる事業者
- 作業場所管理事業者:仕事を自ら行う事業者であって、当該仕事を行う場所を管理するものと定義されます。
2. 措置が必要となる作業の条件
- 作業場所管理事業者が管理する一つの場所において、
- 自社の作業従事者、または請負人の作業従事者のいずれかが、
- 危険性または有害性等を勘案して厚生労働省令で定める業務に係る作業を行うとき。
- この「厚生労働省令で定める業務」は、具体的に今後定められる予定ですが、危険・有害な業務が対象となります。
3. 講じるべき主な措置
作業が行われることによって生ずる労働災害を防止するため、主に以下の措置が義務付けられます。
- 作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置
- 例: 危険な作業の時間帯や場所の共有、作業手順の調整など。
- その他必要な措置
この義務は、現場における作業の混在によるリスクを低減し、災害防止のための連携を強化することを目的としています。
作業場所管理事業者と元方事業者の違い
労働安全衛生法の改正で導入される「作業場所管理事業者」は、従来の「元方事業者」とは、その対象となる事業や状況において異なります。
この新しい義務付けは、従来の建設業・造船業に限定されていた元方事業者の責任を、より幅広い業種における混在作業の危険防止に拡大する意図を持っています。
作業場所管理事業者(新設・令和9年4月1日施行予定)
定義
- 仕事を自ら行う事業者であって、当該仕事を行う場所を管理するもの。
- 作業場所管理事業者は、主に建設業・造船業以外の業種で、場所を管理し、かつ自らも仕事を行う事業者に、混在作業時の連絡調整等の義務を課すために新設された概念です。
対象となる事業・場面
- 業種を問わず、作業場所を管理する事業者が対象。
- その管理する場所において、自社の作業従事者 または 請負人の作業従事者 のいずれかが、危険・有害な業務を行う場合。
- 従来の元方事業者の規制対象外であった、製造業やその他の業種における構内(工場敷地内など)の混在作業を主なターゲットとしています。
- 例えば製造業の工場など、従来の元方事業者の規制が適用されなかった事業場において、危険・有害な作業が行われる際の災害防止対策を強化する目的があります。
- 「作業場所管理事業者」は、既存の「元方事業者」の規定を置き換えるものではなく、新たなカテゴリーとして労働安全衛生法に追加され、新たな義務が課せられます。
義務の核心
- 危険・有害な業務による災害を防止するため、作業間の連絡調整等の必要な措置を講じること。
- 場所の管理権限と自ら仕事を行うことを併せ持つ事業者に、その場所全体の安全確保を義務付けるものです。
元方事業者(既存の規定)
定義
- 建設業または造船業に属する事業の仕事を行う事業者で、注文者から直接仕事を請け負った事業者(特定元方事業者)を含む。
- 元方とは、仕事の全体を請け負う者、または仕事の一部を請け負いながらも、下請けに仕事を出す者、というニュアンスです。
- 元方事業者(主に建設業・造船業)に関する規定(労働安全衛生法第30条など)は、引き続き有効です。
- ただし、この元方事業者が講じるべき統括管理措置の対象が、従来の「元方事業者と関係請負人の労働者」に加えて、「個人事業者等の作業従事者」まで拡大されます。これは、既存の枠組みの中で、一人親方などの保護を強化するための改正です。
対象となる事業・場面
- 主に建設業や造船業に属する事業。
- 一の場所において、元方事業者と関係請負人の労働者が混在して作業を行う場合。
義務の核心
- 統括安全衛生責任者の選任、協議組織の設置・運営、作業間の連絡調整、作業場所の巡視、安全衛生教育への指導・援助など、統括的な安全衛生管理措置を講じること。
違いのまとめ
| 項目 | 作業場所管理事業者(新設) | 元方事業者(既存) |
| 主な対象業種 | 業種を問わない(特に製造業等) | 建設業、造船業 |
| 規制の趣旨 | 危険・有害な作業が行われる場所の管理権限に基づく災害防止責任 | 建設・造船現場における重層的請負構造全体の統括管理責任 |
| 発動要件 | 危険・有害な業務の実施 | 労働者等が一の場所で混在して作業をすること |
| 主な義務 | 作業間の連絡調整等の必要な措置 | 統括管理(協議組織、連絡調整、巡視など) |
つまり、今回の改正は、建設業等以外でも工場や作業場を管理し、かつそこで危険な作業が行われる場合に、その場所の安全責任を明確にするための措置と言えます。
構内下請けについて
製造業や化学工業、鉄鋼業などで見られる「構内下請け」は、新しい「作業場所管理事業者」の義務付けのケースに該当する可能性が高いです。
親企業は、下記4つの条件を満たし「作業場所管理事業者」に該当する場合、令和9年(2027年)4月1日以降、措置を講じることが義務付けられます。
1. 「場所の管理」要件を満たす
親企業(発注者)は、その工場や事業場の構内という場所を管理しています。
2. 「自ら仕事を行う事業者」要件を満たす
親企業は、構内で自社の事業(製造等)という仕事を自ら行っています。
3. 「請負人の作業従事者」が作業を行う
構内下請けは、親企業からの仕事を請け負い、その構内で作業を行います。この下請け事業者の労働者や一人親方などは「請負人の作業従事者」に該当します。
4. 「危険・有害な業務」の存在
製造業の構内作業には、機械設備のメンテナンス、危険物や化学物質の取り扱い、高所作業、溶接など、危険性または有害性の高い業務が多く含まれます。
施行時期
この作業場所管理事業者に関する改正は、主に令和9年(2027年)4月1日から施行される予定です。
「作業場所管理事業者」に義務付けられる「作業間の連絡調整等の必要な措置」について、その具体的な内容はこれから詳細に定まっていくことになります。
1. 法律の規定と今後の手続き
現在、改正法で義務付けられているのは、措置の大枠です。
| 規定レベル | 内容 | 決定時期 |
| 法律(労働安全衛生法) | 「作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置その他必要な措置」を講ずること(義務の骨子)。 | 既に成立 |
| 政令(労働安全衛生法施行令) | 義務の対象となる「作業場所管理事業者」の定義など、法律の細則。 | 今後制定・改正 |
| 省令(労働安全衛生規則) | 措置の具体的な実施方法や、対象となる「危険性または有害性等を勘案して定める業務」の詳細。 | 今後制定・改正 |
現在、厚生労働省において、法律の施行に向けて、これらの政省令を整備するための議論が進められています。
2. 現時点で想定される具体的な措置
具体的な内容は省令で定められますが、この規定が従来の元方事業者の統括管理義務に準ずるもの、またはそれを参考に簡素化されたものになる可能性が高いため、現行の元方事業者等の措置から、以下のようなものが含まれると想定されています。
| 措置の項目 | 想定される具体的な内容 |
| 連絡調整 | 作業計画の共有:自社と請負人の作業日時、場所、使用設備などを事前に共有し、作業が重なる時間帯(混在作業)を把握する。 |
| 安全に関する協議 | 定期的な会議:混在作業の危険性について話し合い、安全対策を決定するための協議組織(またはそれに準ずる会議)の開催。 |
| 作業の統一的ルール | 危険作業時のルール設定:高所作業やクレーン作業など危険作業を行う際の、他の作業者への周知方法や立入禁止区域の設定。 |
| 情報の伝達・周知 | 危険情報の伝達:作業現場の危険箇所、使用する化学物質、緊急時の連絡体制などを、作業者全員に周知徹底すること。 |
| 現場巡視 | 作業状況の確認:作業が計画通り、かつ安全ルールに従って行われているかを定期的に巡視・確認すること。 |
3. 施行までのスケジュール
令和9年(2027年)4月1日施行に向けて、遅くとも令和8年(2026年)中には、対象となる具体的な業務や措置の実施方法を定める省令の詳細が公表される見込みです。
具体的な内容は、厚生労働省の労働基準局安全衛生部などで今後示されるパブリックコメント(意見公募)の過程などで確認することができます。
