各種法律で義務付けられている相談窓口を外部(弁護士事務所、社労士事務所、専門の代行業者など)に設置することに、法律上の制限はありません。むしろ、厚生労働省の指針等では、相談体制を整備する際の手段の一つとして「外部機関への委託」が例示されています。
以下に、外部委託が可能な主な相談窓口と、導入・運用時の注意点を整理しました。
外部設置が認められている主な窓口
以下は外部委託が可能な社内相談窓口の例です。
- パートタイム・有期雇用労働者法に基づく相談窓口(待遇差の理由説明や苦情などへの対応)
- ハラスメント相談窓口(パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント)
- 改正公益通報者保護法に基づく内部通報窓口(法令違反等の通報受付)
- フリーランス保護新法に基づくハラスメント相談窓口
外部委託する際の注意事項
外部委託が可能だと言っても、単に「窓口の連絡先を外部にする」だけでは、法律上の義務を果たしたことにはなりません。以下の点に留意が必要です。
会社(人事・担当部署)との連携体制
外部窓口が相談を受けた後、どのように会社へフィードバックし、会社が事実確認や是正措置を行うかのフローを明確にしておく必要があります。
外部窓口はあくまで「受付・ヒアリング」の代行であり、最終的な事実認定や処分を下すのは会社です。
周知の徹底
外部に設置したことを全従業員(パート・アルバイト・派遣社員含む)に周知しなければなりません。主な周知事項は次のとおりです。
- 相談窓口の名称、電話番号、メールアドレス、受付時間
- 外部委託先であれば、その名称
- 「相談したことによって不利益な取り扱いをしない」旨の明文化と周知
専門性と中立性の確保
委託先がその分野(労働法やハラスメントの判断基準)に精通しているかを確認してください。
- プライバシー保護: 相談者の秘密が厳守される体制か。
- 中立性: 会社寄りすぎず、相談者が安心して話せる環境か。
公益通報窓口特有のルール
公益通報者保護法に基づき窓口を設ける場合、外部委託先であっても、通報者の秘密を守る「従事者」を定める必要があります。また、通報者が「社外の方が安心できる」と感じられるよう、内部窓口と外部窓口を併設することが推奨されています。
相談窓口業務の業務委託契約書
契約書のサンプル
外部の専門機関(社会保険労務士、弁護士、専門代行業者など)と締結する契約は、一般的に「業務委託契約」となります。
この契約において最も重要なのは、「どこまでが委託先の役割で、どこからが会社の責任か」という境界線と、「情報の取り扱い」を明確にすることです。
以下に、標準的な契約書の骨子サンプルを示します。
業務委託契約書
株式会社〇〇(以下「甲」)と、〇〇(以下「乙」)は、甲の従業員等を対象とする相談窓口業務(以下「本業務」)の委託について、次の通り契約を締結する。
第1条(目的)
甲は、乙に対し、甲の従業員等からのハラスメント、労働条件、その他コンプライアンスに関する相談を受け付ける窓口業務を委託し、乙はこれを受託する。
第2条(委託業務の内容)
乙が遂行する業務の内容は次の通りとする。
- 電話、メール、または専用フォームによる相談の受付
- 相談者へのヒアリングおよび事実関係の整理
- 甲(担当部署:人事部)への相談内容の報告
- 相談解決に向けた助言・アドバイス(※契約内容により調整)
第3条(報告のルール)
- 乙は、相談を受けた場合、原則として〇営業日以内に甲に報告するものとする。
- 乙は、相談者が甲への氏名開示を拒否した場合には、匿名性を維持したまま報告を行わなければならない。ただし、生命・身体に危険が及ぶ緊急事態と乙が判断した場合はこの限りではない。
第4条(秘密保持)
乙は、本業務を通じて知り得た相談者の個人情報および甲の機密情報を、第三者に漏洩してはならない。本契約終了後も同様とする。
第5条(再委託の禁止)
乙は、本業務を第三者に再委託してはならない。ただし、甲の書面による事前の同意を得た場合はこの限りではない。
第6条(委託料)
- 本業務の委託料は、月額〇〇円(消費税別)とする。
- 相談対応件数が月〇件を超えた場合、または対面での調査同行等が発生した場合は、別途協議の上、追加費用を支払うものとする。
(他に、契約期間、解除、反社会的勢力の排除、合意管轄なども必要に応じて定める)
契約締結時の注意事項
窓口の実効性を高めるために、以下の3点は契約前に必ず確認・調整してください。
① 報告の「深さ」と「範囲」
委託先が「単に話を聞いて伝えるだけ(御用聞き)」なのか、「法的な見解や解決案まで提示してくれるのか」を明確にします。
- ライトな契約: 受付と報告のみ(安価)
- フルサポート: 事実確認のアドバイスや、是正勧告まで含む(高価、専門職向け)
② 秘密保持と「匿名相談」への対応
相談者が「会社に名前を伏せてほしい」と言った場合、どのレベルまで情報を伏せて報告してもらうかを委託先と合意しておく必要があります。完全な匿名だと会社が調査できない場合があるため、委託先から相談者に「調査のために名前が必要になる可能性」を説明してもらうフローを含めるとスムーズです。
③ 責任の所在
万が一、委託先の対応が悪く(例:高圧的な態度など)、相談者が二次被害を受けたと訴えてきた場合の免責事項や責任分担を確認しておきましょう。
関連規程のサンプル
外部相談窓口を導入するときは関連規程を改訂する必要があります。主な改訂ポイントは、「窓口の定義」「相談の手続き」「プライバシー保護」の3点です。以下にサンプルを示します。
第〇条(相談窓口)
- 職場におけるハラスメントに関する相談および苦情に応じるため、次の相談窓口を設置する。① 内部窓口: 人事部(担当:〇〇)② 外部窓口: 〇〇法律事務所(または「当社が指定する外部専門機関」)
- 従業員は、前項の窓口のうち、自ら選択した窓口に対して相談を行うことができる。
- 外部窓口の連絡先および利用方法については、社内掲示板、イントラネット等により全従業員に周知する。
第〇条(相談への対応・調査)
- 外部窓口が相談を受けた場合、相談者の同意を得た範囲内において、速やかに会社(人事部)へその内容を報告するものとする。
- 会社は、前項の報告を受けた場合、または内部窓口が相談を受けた場合、速やかに事実関係を調査し、必要な措置を講じなければならない。
- 調査にあたっては、外部窓口の専門家のアドバイスを求めることができる。
次は「公益通報」に関する規定です。
第〇条(通報の方法)
通報者は、実名または匿名により、電話、電子メール、書面または面談のいずれかの方法により、以下の窓口に通報することができる。
(1) 内部窓口(コンプライアンス委員会事務局)
(2) 外部窓口(〇〇代行サービス)第〇条(外部窓口の役割)
- 外部窓口は、通報を受理したときは、通報者に対し受領した旨を通知し、遅滞なく会社に報告する。
- 通報者が会社への氏名開示を希望しない場合、外部窓口は通報者の秘匿性を保持したまま会社と連携し、調査の進捗や結果を通報者に伝達する役割を担う。
規定を書き換える際は、以下の文言が含まれているか最終確認してください。
- [ ] 選択制の明記: 「社内か社外か、好きな方を選べる」という表現になっているか。
- [ ] 匿名性の担保: 外部窓口から会社へ報告する際の「氏名秘匿」のルールが明確か。
- [ ] 外部委託先との契約との整合性: 規定に書いた内容(例:24時間対応など)が、外部業者との委託契約内容と矛盾していないか。
従業員向け周知文書
外部に相談窓口を設置(または追加)したことを従業員に知らせるための通知サンプルを示します。このサンプルは、「ハラスメント」や「パート・有期雇用労働者の待遇相談」、「内部通報」などを幅広くカバーできる形式にしています。貴社の状況に合わせて適宜調整してご活用ください。
令和〇年〇月〇日
従業員各位
株式会社〇〇〇〇
代表取締役 〇〇 〇〇
外部相談窓口の開設に関するお知らせ
当社では、誰もが安心して働くことができる職場環境を維持・向上させるため、これまでの社内相談窓口に加え、新たに外部専門機関による社外相談窓口を設置いたしました。
職場におけるハラスメント、パートタイム・有期雇用労働法に基づく待遇の差に関する質問、その他コンプライアンスに関する不安などがある場合は、一人で悩まずに安心して相談してください。
記
1. 相談の対象となる事項
- 各種ハラスメント(パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産・育児休業等に関するもの)
- 労働条件・待遇に関する相談(正社員との待遇差の理由確認、苦情等)
- 法令違反・不正行為に関する通報
- その他、職場環境に関する悩み
2. 外部相談窓口の連絡先
- 委託先名称: 〇〇法律事務所
- 電話番号:xx-xxxx-xxxx(受付時間:平日 10:00〜17:00)
- メールアドレス:
- URL(専用フォーム):
3. 相談にあたってのルール(プライバシー保護と不利益取り扱いの禁止)
- 秘密の厳守: 相談者のプライバシーは厳重に守られます。相談者の同意がない限り、相談内容や相談した事実が会社側に詳細に伝わることはありません。
- 不利益取り扱いの禁止: 相談や通報をしたことを理由として、解雇、配置転換、その他の不利益な取り扱いを行うことは法律および就業規則により固く禁じられています。
- 匿名での相談: 外部窓口への相談は匿名で行うことも可能です。
4. 運用開始日
令和〇年〇月〇日より
以上


