シンプルな評価制度でスタートするーその1

Last Updated on 2025年9月17日 by

シンプルで始めやすい評価制度としておすすめなのは、目標管理制度(MBO)とコンピテンシー評価を組み合わせたものです。

シンプルな評価制度の設計案

目標管理制度(MBO)

何を評価するか: 「何をやったか(成果)」を評価します。

シンプルな運用のポイント:

  • 年に1回、または半年に1回の頻度で、個人またはチームで達成すべき具体的な目標を設定します。
  • 目標は、部署や会社全体の目標と連動させることが重要です。
  • 目標の数は、多すぎると管理が大変になるので、1人あたり3~5個程度に絞りましょう。
  • 目標設定の際は、SMARTの法則(具体的か、測定可能か、達成可能か、関連性があるか、期限が明確か)を意識すると、評価しやすくなります。
  • 評価は、期末に目標の達成度を自己評価し、上司が面談でフィードバックを行う形が効果的です。

コンピテンシー評価

何を評価するか: 「どのようにやったか(行動プロセス)」を評価します。

シンプルな運用のポイント:

  • 会社のビジョンや行動指針に基づき、全従業員に共通して求める行動特性を定義します。
  • いきなり細かく定義するのではなく、「主体性」「協調性」「課題解決力」など、3~5つ程度に絞ると良いでしょう。
  • それぞれの行動特性について、3段階(例:期待以上、期待通り、改善が必要)程度の簡単な尺度で評価できるようにします。

導入と運用のためのアドバイス

目的の明確化と説明

  • なぜこの制度を導入するのか、その目的(従業員の成長支援、公平な処遇決定など)を全従業員に丁寧に説明しましょう。
  • 目的が曖昧だと、ただの面倒な作業と捉えられ、反発を招く可能性があります。

評価者(上司)へのトレーニング

  • 評価制度の成否は、評価者のスキルに大きく左右されます。
  • 評価の基準や面談の進め方について、事前に研修や説明会を実施し、評価者全員が同じ理解を持つようにします。
  • 特に、フィードバック面談の重要性を伝え、従業員の成長を促す機会として活用するよう促しましょう。

まずは試験運用から

  • 全社一斉に始めるのではなく、まずは一部の部署やチームで試験的に運用してみるのがおすすめです。
  • 実際に運用してみて出てきた課題を洗い出し、制度を改善してから全社に展開することで、スムーズな導入ができます。
  • 初めての導入は、シンプルさを最優先に考え、まずは「やってみる」ことが大切です。完璧な制度を目指すよりも、運用しながら従業員の声を聞き、少しずつ改善していく姿勢が、制度を定着させる一番の近道になるでしょう。

人事評価シート

「目標管理制度(MBO)」と「コンピテンシー評価」を組み合わせた、シンプルな評価シートのサンプルです。


人事評価シート(サンプル)

氏名: [氏名]

部署: [部署名]

評価期間: [YYYY年MM月~YYYY年MM月]

評価者: [評価者氏名]

評価日: [YYYY年MM月DD日]

1. 目標評価(MBO)

この項目では、評価期間内に達成した「成果」を評価します。設定した目標の達成度合いについて、自己評価と上司評価を記入してください。

No.目標項目設定した目標自己評価(具体的な達成状況)上司評価(達成度)
1[例:営業成績][例:新規顧客を5件開拓する][例:3件の新規顧客開拓に成功。残り2件は商談中。][達成度:B]
2[例:業務改善][例:非効率な経費精算プロセスを改善する][例:経費精算システムを導入し、手作業での作業時間を50%削減した。][達成度:A]
3[例:自己啓発][例:〇〇資格を取得する][例:参考書学習と模擬試験を繰り返し、合格圏内に入った。][達成度:B]

<評価尺度>

  • A:期待を大きく上回る成果を出した
  • B:期待通りの成果を出した
  • C:期待を下回る成果だった

2. 行動評価(コンピテンシー評価)

この項目では、評価期間中にとった「行動プロセス」を評価します。会社の行動指針に基づき、設定した項目について、自己評価と上司評価を記入してください。

行動項目自己評価(具体的な行動例)上司評価
主体性
(指示を待たず、自ら考え行動できるか)
[例:チームの課題を共有し、改善策を自ら提案した。][評価:2]
協調性
(周囲と協力し、円滑な人間関係を築けるか)
[例:他部署との連携が必要なプロジェクトで、進捗状況を積極的に共有し、調整役を担った。][評価:3]
課題解決力
(問題の本質を見抜き、解決策を導き出せるか)
[例:顧客からのクレームに対し、根本原因を特定し、再発防止策を立案・実行した。][評価:3]

<評価尺度>

  • 3:期待を上回る行動が見られた
  • 2:期待通りの行動が見られた
  • 1:改善が必要な行動が見られた

3. 総評・フィードバック

自己評価コメント:

[評価期間を振り返っての所感、今後の目標や改善点などを自由に記入してください。]

上司コメント:

[被評価者の良かった点、さらなる成長のためのアドバイス、次期に期待することなどを記入してください。]

署名欄

被評価者: [氏名]

上司: [氏名]

※上記サンプルはあくまで一例です。御社の事業内容や従業員に求める行動に合わせて、項目や評価尺度を調整してください。

昇給や賞与に反映する

評価シートの結果を昇給や賞与に反映させる方法は、いくつか考えられます。シンプルさを保ちつつ、公平性を確保するための代表的な方法を2つご紹介します。

方法1:総合評価を段階分けして反映する

この方法では、まず評価シートの「目標評価」と「行動評価」の点数を集計し、総合的な評価ランクを決定します。

評価の点数化

  • 目標評価:A(3点)、B(2点)、C(1点)のように点数をつけ、平均点を算出します。
  • 行動評価:3(3点)、2(2点)、1(1点)のように点数をつけ、平均点を算出します。

総合評価ランクの決定

  • 総合点を算出します(例:目標評価の平均点 × 50% + 行動評価の平均点 × 50%)。
  • 総合点に基づき、S、A、B、C、Dといったランクを決定します。

昇給・賞与への反映

決定したランクごとに、昇給額や賞与の支給率をあらかじめ設定しておきます。

評価ランク昇給額の目安賞与の支給率
S[平均より高い金額][基本給の〇〇%上乗せ]
A[平均的な金額][基本給の〇〇%上乗せ]
B[平均より低い金額][基本給の〇〇%上乗せ]
C[昇給なし][支給率を調整]
D[昇給なし、または減給][支給率を調整]

この方法の利点は、誰がどのランクに該当するかが明確になり、計算しやすい点です。一方で、評価項目ごとの詳細な差が埋没してしまう可能性があります。

方法2:目標評価と行動評価を個別に反映する

この方法では、成果(目標評価)とプロセス(行動評価)を分けて、それぞれに重みづけをして昇給や賞与を決定します。

昇給への反映

  • 能力・行動評価(コンピテンシー評価)のウェイトを大きくします。
  • なぜなら、昇給は「その人の将来的な能力や期待」に対する対価という意味合いが強いためです。例えば、行動評価の点数に応じて、昇給額の基本部分を決定します。

賞与への反映

  • 成果評価(目標評価)のウェイトを大きくします。
  • なぜなら、賞与は「過去の一定期間における成果」に対する報奨という意味合いが強いためです。例えば、目標評価の点数に応じて、賞与の変動部分を決定します。
  • この方法の利点は、「頑張ったこと(成果)」と「成長したこと(行動)」を分けて適切に評価できる点です。例えば、目標達成はできなかったけれど、プロセスは非常に評価が高かった場合、昇給では報われ、次の機会へのモチベーションにつながります。

シンプルに始めるためのアドバイス

最初から複雑な計算式を導入するのではなく、まずは「方法1」のように総合的な評価ランクを定め、それに連動させるのが最もシンプルで始めやすいでしょう。

ただし、人事考課を単なる賃金決定ツールに終わらせず、「社員の成長を促すための面談」に重点を置くことが重要です。評価結果を給与に反映させる際には、必ず面談を通じて、なぜその評価になったのか、今後の成長のために何をすれば良いのかを丁寧にフィードバックすることを忘れないでください。


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