カテゴリー: 評価制度

  • 正社員登用制度とは?導入前に考えるべきこと

    正社員登用制度の意義

    正社員登用制度の意義は、企業の持続的成長と従業員の安定的なキャリア形成を両立させることにあります。

    企業にとっての意義

    1. 優秀な人材の確保と定着: 会社や業務内容をよく理解している非正規社員を正社員として登用することで、新たな採用活動にかかるコストと時間を削減できます。また、非正規から正社員への道が明確であれば、従業員のモチベーションが高まり、離職率の低下にもつながります。
    2. 人材育成への投資: 登用制度は、企業が非正規社員の能力開発に投資するインセンティブを生み出します。非正規社員を育成し、より高いレベルの業務や責任を任せることで、組織全体のパフォーマンスを向上させることができます。

    従業員にとっての意義

    1. 雇用の安定: 非正規雇用では不安定な立場にありますが、正社員になることで、雇用の安定性が格段に向上します。これにより、将来の生活設計が立てやすくなります。
    2. キャリア形成と成長: 正社員になることで、より責任のある仕事や、専門的なスキルを必要とする業務に就く機会が増えます。これにより、自身のキャリアを長期的に見据えて計画し、成長していくことが可能になります。

    正社員登用制度は、単なる「雇用形態の変更」ではなく、企業と従業員双方にとっての重要な成長戦略であると言えます。

    制度設計の透明性と公平性

    正社員登用制度を検討する場合、制度の設計と運用において、公平性、透明性、そして社員のモチベーションに焦点を当てることが重要です。

    基準の明確化

    誰でも理解できるように、正社員登用の基準を具体的に明文化することが最も重要です。以下の点を明確に定めます。

    • 経験・スキル: 担当業務における実務経験年数や、求められる専門スキル(例:特定の資格、マネジメント能力)。
    • 評価: 勤務態度、実績、そして会社が定める行動規範(コンピテンシー)など、客観的に評価する項目。
    • プロセス: 応募資格、選考方法(筆記試験、面接、論文など)、合否通知の時期などを明確にします。

    受験資格要件の合理性

    正社員登用制度における受験資格を定める際には、公平性と透明性を確保することが最も重要です。以下の点を考慮して、基準を明確に定める必要があります。

    1. 勤続年数

    • 単なる期間ではない: 勤続年数を単なる「○年以上」とするだけでなく、その期間が、正社員として求められるスキルや知識を習得するのに必要な合理的な期間であることを明確にします。例えば、「当社の業務を一人で遂行できるレベルになるには最低でも2年かかる」といった具体的な理由が必要です。
    • 短縮の可能性: 優れた実績や高い能力を持つ社員には、勤続年数を満たしていなくても受験資格を与える、といった柔軟な運用を検討することも有効です。

    2. 業務実績と評価

    • 数値目標: 目標管理制度(MBO)やOKRなどで設定された目標の達成度を、客観的な評価項目として組み込みます。
    • 行動特性(コンピテンシー): チームワーク、リーダーシップ、問題解決能力など、企業が求める行動特性をどの程度発揮しているか、上司の評価を反映させます。
    • 能力開発: 登用を希望する職務に必要なスキルや知識を習得しているか、研修受講実績や資格取得などを考慮に入れます。

    3. 健康状態と勤務態度

    • 健康状態: 正社員登用後の職務遂行に支障がないか、健康診断の結果などを基に判断します。
    • 勤務態度: 欠勤や遅刻の状況、社内のルールやコンプライアンスを遵守しているか、といった勤務態度も重要な判断材料です。ただし、恣意的な判断を避けるため、評価項目を具体的に定めておく必要があります。

    登用後のミスマッチを防ぐ

    • 本人の意思確認: 転勤の有無、職務内容の変更、残業時間など、正社員登用後の働き方について本人が十分に理解し、同意していることを確認します。
    • 職務内容の適性: 希望する職務が本人の能力や適性に合っているか、面談などを通じて見極めることも重要です。

    これらの要素を組み合わせることで、「なぜその人が正社員にふさわしいのか」を客観的に説明できる、透明性の高い正社員登用制度を構築できます。

    登用試験のやり方と注意点

    正社員登用試験は、通常、以下の3つのステップで構成されます。これらのステップを通じて、非正規社員が正社員として求められる能力や資質を備えているかを総合的に判断します。

    1. 書類選考

    この段階では、主に以下の書類を提出してもらいます。

    • 登用試験の申込書:氏名や所属部署などの基本情報に加え、登用を希望する理由や将来のキャリアプランを記述してもらいます。
    • 業務実績報告書:これまでの業務でどのような成果を上げたか、具体的な実績や貢献を記載してもらいます。
    • 上司の推薦書:直属の上司に、受験者の勤務態度や能力、成長性などを評価・推薦する書類を作成してもらいます。

    2. 筆記試験

    筆記試験は、正社員として共通して求められる基本的な知識や思考力を測るために実施されます。

    • 一般常識・適性検査:社会人として必要な一般常識や、論理的思考力、言語能力などを測ります。
    • 専門知識試験:現在の担当業務や、将来的に正社員として従事する可能性のある業務に関する専門知識を問います。
    • 小論文:会社の課題解決策や、自身のキャリアプランなど、思考力や表現力を評価します。

    3. 面接

    面接は、最終的な判断を行う最も重要なステップです。

    • 一次面接(部署の上司など):これまでの業務実績や、協調性、コミュニケーション能力などを確認します。
    • 二次面接(人事担当者や役員など):正社員登用への熱意、会社の理念や文化への適合性、長期的なキャリア志向などを確認します。

    注意点

    • 基準の透明性:選考基準は、受験者全員に事前に公開し、公平性を保ちます。どのような能力や実績が評価されるのかを明確にすることが重要です。
    • プロセスの一貫性:試験の各ステップ(書類選考、筆記、面接)で評価する項目に一貫性を持たせ、最終的な判断に矛盾が生じないようにします。
    • フィードバックの提供:不合格者には、可能であれば、不合格になった理由や今後の課題についてフィードバックを提供します。これにより、社員の次の挑戦や成長を促すことができます。

    運用の柔軟性と実効性

    教育・育成機会の提供

    登用制度を設けるだけでなく、非正規社員が正社員登用を目指せるように、必要なスキルを習得する機会を提供します。研修制度や資格取得支援、OJT(On-the-Job Training)などを充実させます。これにより、登用制度が単なる「選抜」ではなく、「育成」を目的としたものになります。

    登用後の待遇と職務

    正社員登用後の待遇や職務内容についても、事前に明確に伝えておく必要があります。これにより、登用後のミスマッチを防ぎます。

    • 待遇: 給与テーブル、賞与、手当、退職金など。
    • 職務: 異動の有無、責任範囲の拡大、昇進の可能性など。

    継続的な制度見直し

    正社員登用制度は、一度作って終わりではありません。制度が機能しているか、定期的に見直すことが重要です。

    • 登用実績の分析: 毎年、何人が登用され、その後の定着率はどうかを分析します。
    • 社員からのフィードバック: 非正規社員や登用された社員から、制度に対する意見や改善点をヒアリングします。

    これらの点を踏まえることで、正社員登用制度は、単なる人事制度ではなく、企業の成長戦略に貢献する重要な人材育成の仕組みとして機能します。


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  • OKR(Objectives and Key Results)とは?わかりやすく解説

    OKRとは

    OKR(Objectives and Key Results)のあらまし、具体的な進め方を教えてください。

    OKR(Objectives and Key Results)は、「目標」と「主要な結果」という2つの要素で構成される、組織の目標設定・管理フレームワークです。

    従来の目標管理制度(MBO)が個人の目標達成度を評価に使うことが多いのに対し、OKRは組織全体の高い目標達成と、メンバー間の連携を促進することに重点を置いています。

    OKRのあらまし:OKRの3つの特徴

    1. 挑戦的な目標設定OKRの「O(Objectives)」は、達成が難しい、意欲的な目標を設定します。達成度は60~70%が理想とされ、100%達成は非常に稀です。これにより、メンバーは現状維持ではなく、常に成長を目指すことができます。
    2. 透明性の確保OKRは、経営層から社員まで、すべてのメンバーの目標が全社で公開されます。これにより、全員が「今、会社がどこに向かっているのか」「自分の仕事がどう貢献しているのか」を理解しやすくなります。
    3. 短いサイクルでの運用OKRは、四半期(3か月)などの短い期間で設定・見直しを行います。これにより、市場や環境の変化に迅速に対応でき、計画の修正が容易になります。

    OKRの具体的な進め方

    OKRは、以下の4つのステップでサイクルを回していきます。

    ステップ1:組織全体のOKRを設定する

    まず、経営層が「今四半期で最も重要なこと」を話し合い、全社共通のOKRを設定します。

    • 【O】:例)製品Aを業界のトップに押し上げる。
    • 【KR】
      • KR1:月間アクティブユーザー数(MAU)を100万人に増やす。
      • KR2:顧客満足度調査で5点満点中4.5点を達成する。
      • KR3:製品のレビューで「使いやすさ」に関する言及を20%増やす。

    ステップ2:チーム・個人のOKRを設定する

    全社OKRをもとに、各部署やチーム、そして個人のOKRを策定します。

    • 【チームOKR】(例:マーケティングチーム)
      • 【O】:製品Aの市場での認知度を圧倒的に高める。
      • 【KR】:
        • KR1:ウェブサイトの新規訪問者数を月間50万人に増やす。
        • KR2:SNSフォロワー数を2倍にする。
        • KR3:主要メディアに製品Aに関する記事を5本掲載する。
    • 【個人OKR】(例:ウェブ担当者)
      • 【O】:ウェブサイトの新規訪問者を増やす。
      • 【KR】:
        • KR1:SEO対策で主要キーワードの検索順位を10位以内に上げる。
        • KR2:ブログ記事を週2本公開する。

    このように、上位のOKRと下位のOKRが連鎖するように設定されるのが特徴です。

    ステップ3:週次チェックイン(進捗確認)

    OKRを設定したら、週に一度、チームや個人で進捗状況を確認します。

    • 「今週の進捗はどうか?」
    • 「達成を妨げているものは何か?」
    • 「来週は何にフォーカスすべきか?」この短いミーティング(チェックイン)を通じて、目標達成に向けた軌道修正を行います。

    ステップ4:四半期ごとのレビュー(成果の振り返り)

    四半期の終わりに、設定したOKRの達成度を振り返ります。

    • OとKRはどの程度達成できたか?
    • なぜ達成できたのか? / なぜ達成できなかったのか?
    • 次の四半期の目標は何か?

    このレビューで達成度を確認し、次のOKRサイクルへとつなげます。評価はあくまで学びと成長のために行われ、報酬とは基本的に切り離して運用されます。

    なぜ週1のレビューが必要ですか?

    OKRの目標は、週1度のレビューが必要なくらいの目標を設定するのが普通ですか。短期的には動きが少ない目標設定はなじみませんか。

    OKRにおいて、目標の進捗を週1回レビューするのは、目標管理を成功させる上で非常に重要な要素です。週次レビューは、目標の達成度を測るためというよりは、目標達成に向けた軌道修正とコミュニケーションを目的としています。

    OKRの目標は、MBOと比較してより野心的で挑戦的なものです。週次で進捗を確認しなければ、四半期の終盤に「このままでは達成できない」と気づくことになり、手遅れになってしまいます。週1回のレビューは、以下のような点でOKRの目標設定と相性が良いとされています。

    • リアルタイムな軌道修正: OKRの目標は変化が激しい市場に対応するために、3ヶ月といった短い期間で設定されます。週次でレビューすることで、計画にずれが生じた際に、迅速に戦略や行動を調整できます。
    • モチベーションの維持: 毎週の進捗確認は、小さな達成感を積み重ねる機会となります。これにより、遠い目標へのモチベーションを保つことができます。
    • 透明性の向上: チーム全体で進捗を共有することで、誰が何に貢献しているのか、誰が助けを必要としているのかが明確になり、チームワークが促進されます。

    短期的な動きが少ない目標への適用

    ご指摘の通り、短期的には大きな進捗が見えにくい目標もあります。そうした目標でも、OKRは十分に適用可能です。

    • 長期的な目標を短期的なKRに分解する: たとえば、「新規事業の立ち上げ」という長期目標は、短期的には進捗が見えにくいかもしれません。しかし、これを「市場調査を完了させる」「プロトタイプを作成する」といった、週単位で進捗を測れる具体的なKR(主要な結果)に分解することで、目標の見える化が図れます。
    • 行動や学習の進捗を測る: もし定量的な結果がすぐに得られない場合でも、目標達成に向けた「行動」や「学習」の進捗を測ることをKRに設定できます。例えば、「新しいスキルに関する研修を週1回受講する」「顧客インタビューを月5件実施する」などです。

    このように、OKRは常に「挑戦」と「学習」のサイクルを回すことを重視するため、週次レビューは目標の性質にかかわらず、その運用に不可欠な要素と言えます。

    進捗確認は会議形式が必須ですか?

    OKRの進捗確認はシンプルなので、かならずしも対面会議やテレビ会議にする必要はなく、メールのやり取りやLINEなどでできそうな気がしますが。

    進捗確認をメールやLINEで済ませたいというお気持ちはよくわかります。しかし、OKRの進捗確認は、原則として会議形式(対面またはオンライン)で行うべきです。 簡潔なやり取りでは見過ごされてしまう、OKR運用の核心部分があるからです。

    OKRの進捗確認を会議で行うべき理由

    OKRの週次レビューは、単なる進捗報告の場ではありません。その目的は、「対話」と「協働」にあります。

    1. 問題の早期発見と軌道修正:メールやLINEでは、進捗が遅れている理由や、目標達成を阻んでいる障害を深く掘り下げることができません。会議では、「なぜうまくいっていないのか?」という本質的な問いを投げかけ、チーム全員で解決策をブレインストーミングできます。これにより、軌道修正を迅速に行い、手遅れになるのを防ぎます。
    2. チーム間の連携強化:OKRは、チーム全体で共通の目標を達成することを目指しています。週次の会議では、各メンバーの進捗を共有し、お互いの状況を把握できます。これにより、「あの人がこのタスクで困っているなら、私が手伝おう」といった助け合いが自然に生まれ、チームワークが強化されます。
    3. モチベーションの維持と感謝の共有:会議では、小さな成果でも全員で共有し、称賛し合えます。これは、単なるテキストメッセージでは伝わりにくい、ポジティブなエネルギーを生み出します。誰かが大きな貢献をしたときには、それをチーム全員で認めることで、個人のモチベーションが向上し、一体感も高まります。

    メールやLINEでのやり取りは、あくまで会議で話し合った内容の補足や、緊急時の連絡手段として活用するのがよいでしょう。OKRを形骸化させず、組織の推進力として最大限に活用するためには、週に一度、数分でもよいので、顔を合わせて対話する時間を設けることを強くおすすめします。

    経営層はどのように参加しますか?

    OKR(Objectives and Key Results)の運用において、経営層が週次レベルで進捗状況を確認することは、必須ではありませんが、非常に重要です

    経営層のレビューが必要な理由

    OKRの目的は、組織全体の目標達成に向けた協調性を高めることです。経営層が定期的にレビューに参加することで、以下の効果が期待できます。

    • 全社の進捗把握と戦略調整: 経営層が各チームのOKR進捗を直接確認することで、全社の目標達成状況を把握できます。もし、特定の目標が遅れている場合は、リソースの再配分や戦略の変更といった重要な意思決定を迅速に行えます。
    • 組織のコミットメントを示す: 経営層がOKRに積極的に関わる姿勢は、社員に「この目標は会社全体で真剣に取り組むべきことだ」というメッセージを伝えます。これは、OKRが形骸化するのを防ぐ上で大きな効果があります。
    • コミュニケーションの円滑化: 経営層と各チームが直接対話することで、階層を超えたスムーズなコミュニケーションが生まれ、組織の風通しが良くなります。

    フィードバックは各チームに届けるか

    はい、経営層のレビュー内容は、必ず各チームにフィードバックされるべきです

    OKRの透明性という原則に基づき、経営層からのフィードバックは、チームの進捗に対する評価や、次の四半期に向けた期待、あるいは全社的な戦略変更の意図などを明確に伝える貴重な機会となります。

    このフィードバックは、チームが自分たちの仕事が会社全体にどう貢献しているかを理解するのに役立ち、次の目標設定をより効果的に行うための重要な情報となります。

    結論として、経営層がOKRに積極的に関与し、その結果を適切にフィードバックすることで、OKRは単なる目標管理ツールを超え、組織全体のコミュニケーションと戦略実行を強力に推進するフレームワークとして機能します。


    関連記事:目標管理制度とはどんな制度か?その目的は、メリットとデメリットは

    会社事務入門評価制度のあらまし>このページ

  • 目標管理制度とはどんな制度か?その目的は、メリットとデメリットは

    目標管理制度とは

    目標管理制度とはどんな制度か、目標管理制度を導入する目的、メリットとデメリットを解説してください。

    目標管理制度(MBO: Management by Objectives)は、従業員一人ひとりが自分で目標を設定し、その達成度で評価する仕組みです。

    これは、ただ上司から与えられた目標をこなすのではなく、個人の自律的な成長と組織全体の目標達成を同時に目指すことを目的としています。

    導入する目的

    目標管理制度を導入する主な目的は以下の3つです。

    1. 組織目標と個人目標の連動: 会社の大きな目標を、各部署や個人の具体的な目標に落とし込むことで、社員全員が同じ方向を向いて働くように促します。
    2. モチベーションと自律性の向上: 自分で目標を決めることで、「やらされ感」が減り、社員は主体的に仕事に取り組むようになります。これにより、モチベーションが高まり、自己成長にもつながります。
    3. 公平な評価: 漠然とした評価ではなく、設定した目標の達成度という客観的な基準で評価することで、評価の公平性と透明性を高めます。

    メリットとデメリット

    メリット

    • 従業員の主体性が高まる: 自分で立てた目標に向かって努力するため、仕事への当事者意識が向上します。
    • 評価の納得度が高まる: 評価基準が明確なので、評価結果に納得しやすくなります。
    • 組織のパフォーマンスが向上する: 全員が共通の目標に向かって努力することで、組織全体の成果が向上します。

    デメリット

    • 形骸化するリスク: 面談や目標設定が形式的になり、本来の目的が失われることがあります。
    • 短期的な成果に偏る可能性: 定量的な目標を重視しすぎるあまり、チームワークや長期的な成長といった、数値化しにくい部分がおろそかになることがあります。
    • 適切な目標設定の難しさ: 高すぎる目標はモチベーション低下を招き、低すぎる目標は成長を妨げます。適切な難易度の目標を個人や上司が設定することが難しい場合があります。

    主体的な目標設定が重要

    「自分で目標を設定し」と言いますが実際は上司との面談で決まりますよね

    ご指摘の通り、目標管理制度(MBO)の実態として、上司との面談で目標が決まることが多いのは事実です。それは決して悪いことではありません。しかし、そのプロセスには「何のために面談を行うか」という目的が重要になります。

    上司との面談は「対話」であるべき

    目標管理制度がうまく機能している企業では、上司との面談は単に上司が目標を「与える」場ではなく、「対話を通じて目標をすり合わせる」場になっています。

    1. 自己分析の共有: まず、あなたが仕事で何を目指しているのか、どんなスキルを身につけたいのかを上司に伝えます。
    2. 会社の目標との接続: 上司は、あなたの考えを踏まえつつ、部署や会社が今、何を重要視しているのかを説明します。
    3. 目標の調整と合意: お互いの考えをすり合わせ、最終的に納得できる目標を一緒に決めます。

    このように、上司が一方的に決めるのではなく、本人の意見が反映され、最終的に「自分で納得して決めた」と思えることが重要です。このプロセスを経て設定した目標は、単に上司に指示された目標よりも、はるかに高いモチベーションにつながります。

    避けるべき「いけない」面談

    逆に、以下のような面談は、目標管理制度の本来の目的から外れてしまうため、避けるべきです。

    • 「ノルマの通達」: 上司が一方的に厳しいノルマを課し、あなたがそれに従うだけになるケース。これでは「目標管理」ではなく「管理」だけになってしまいます。
    • 「形だけの儀式」: 毎年同じ目標を使い回したり、お互いが深く考えずに形式的に終わらせたりするケース。これは、モチベーション向上や成長には繋がりません。

    目標管理制度は、上司と部下が協力してキャリアや成長について話し合うためのツールであり、その対話を通じて「自分の目標」を明確にすることが最も大切なのです。

    形骸化をどう防ぐか

    デメリットのところで解説していただいた通り、当社においても「形骸化」が指摘されています。いろいろ働きかけてきましたが、基本的には甘い目標を設定しようとする傾向が止まりません。目標管理廃止論もでていますが、アドバイスをお願いします。

    ご指摘の通り、目標管理制度(MBO)が形骸化し、甘い目標設定が蔓延するという問題は、多くの企業で共通の課題です。目標管理を単なる評価のための事務手続きと捉えると、こうした傾向は避けられません。目標管理の「廃止」を考える前に、まずその目的を再定義することをおすすめします。

    なぜ「甘い目標」を設定するのか?

    目標設定が甘くなる背景には、いくつかの心理的な要因があります。

    • 評価への恐怖: 達成が難しい目標を立てて失敗するよりも、確実に達成できる目標を立てて高い評価を得たいという心理が働きます。
    • 手間を省きたい: 意味のある目標を真剣に考えるのが面倒だと感じ、過去の目標を流用したり、形式的な目標で済ませたりする傾向があります。
    • 管理職の指導力不足: 部下と目標について深く対話する時間やスキルがなく、部下の提案をそのまま承認してしまう、あるいは一方的に簡単な目標を割り振ってしまうケースです。

    目標管理を「機能させる」ためには

    目標管理制度を復活させ、本来の目的を果たすためのアプローチは、制度そのものを変えるよりも、「運用」の仕方と「目的」の認識を変えることにあります。

    1. 「評価」から「成長」に目的をシフトする
      • 目標管理制度の最大の目的を「社員の能力開発と成長」であると、経営層が明確に打ち出しましょう。評価はあくまでその結果に過ぎません。
      • 目標達成率だけでなく、目標に向かってどのようなプロセスで努力したか、何から学びを得たかを評価の重要な要素に加えます。
    2. 対話の質を高める
      • 目標設定面談を年2回ではなく、四半期ごとなど定期的に行うようにします。進捗をこまめに確認し、目標が現状に合わなくなったら見直す柔軟な運用が大切です。
      • 上司と部下が「目標は一緒に創り上げるもの」という共通認識を持ちます。上司はコーチやメンターとして、部下のキャリアプランを踏まえて目標設定をサポートします。
    3. 目標の「ストレッチ度合い」を見直す
      • 「挑戦的だが達成可能」な目標を設定する文化を醸成します。これを「ストレッチ目標」と呼びます。
      • 目標の難易度に応じて評価を調整する仕組みを導入します。例えば、100%達成した時の評価基準を、単に「A評価」とするのではなく、「挑戦的な目標を100%達成した場合」と「簡単な目標を100%達成した場合」で明確に分けます。

    目標管理制度を補完する新たな選択肢

    OKR(Objectives and Key Results)の導入

    もし、目標管理制度そのものの再設計が必要であれば、OKR(Objectives and Key Results)の導入を検討するのも一つの手です。

    OKRは、MBOよりもさらに挑戦的な目標設定と、組織全体での透明な情報共有を重視するフレームワークです。

    • Objectives(目標): 「社員のモチベーションを最高レベルに高める」のように、定性的で野心的な目標を設定します。
    • Key Results(主要な結果): その目標を達成したか測るための「鍵となる結果」を3~5個、定量的に設定します。「従業員満足度を80%に向上させる」などです。

    OKRは報酬評価と切り離して運用されることが多く、四半期など短いサイクルでレビューするため、目標が形骸化しにくいという利点があります。OKRは、MBOの弱点である「甘い目標設定」や「評価との結びつきすぎ」を補完する強力なツールとなり得ます。

    あなたの会社では、目標管理を「ノルマ管理」から「自律的な成長と対話の機会」へと変えることが、目標管理制度廃止論に対する最善の答えとなるでしょう。

    目標管理を報酬評価から切り離すのであれば、従来の評価システムを復活させることになり、目標管理を続ける意味がなくなる、と懸念するのですが・・・、いかがでしょうか。

    目標管理を報酬評価から完全に切り離すことに対する懸念は理解できます。たしかに、目標管理制度(MBO)の多くの利点は、成果が評価と報酬に結びつくことによって生まれてきました。

    しかし、目標管理を報酬から切り離す意味は、「報酬を基準にした甘い目標設定」という根本的な問題を解決し、本来の目的である「個人の成長と組織への貢献」に立ち返ることにあります。

    報酬と目標管理の新しい関係性

    目標管理を評価から切り離すという考え方は、報酬評価の仕組みをなくすことではありません。むしろ、報酬を決める別の評価軸を明確にすることが重要です。

    1. 報酬評価の新たな軸

    目標管理制度が報酬から切り離された場合、企業は、社員の報酬を決めるために別の評価軸を設けることになります。これには、主に以下の要素が考えられます。

    • 職務遂行能力: 職務給の考え方に基づき、担当する職務の価値や、その職務を遂行するために必要なスキル・知識のレベルを評価します。
    • コンピテンシー(行動特性): 会社が求める行動様式(例:チームワーク、リーダーシップ、問題解決能力など)をどの程度体現しているかを評価します。
    • 企業の価値観との一致: 会社のミッションやビジョンにどれだけ貢献しているかを評価します。

    2. 目標管理制度の本来の価値

    では、目標管理制度の役割は何になるのでしょうか。目標管理は、報酬を直接決めるのではなく、上記の新たな評価軸をより適切に評価するための「具体的なツール」となります。

    • キャリア開発のツール: 目標設定のプロセスは、社員が自身のキャリアや成長について深く考える機会となります。上司は、目標達成に向けたアドバイスやフィードバックを通じて、社員の成長をサポートするコーチ役を担います。
    • 能力開発の羅針盤: 例えば、「新しい技術を習得する」という目標を立てた場合、その進捗を管理することで、職務遂行能力の向上を客観的に示す証拠となります。

    つまり、目標管理は直接的な報酬決定要因ではなく、「成長の記録」「能力開発の証拠」として機能するのです。

    従来の評価システムとの違い

    この新しい考え方は、単に昔の評価システムに戻すわけではありません。

    従来の評価システム(例:年功序列や職能給のみ)では、個人の成果や貢献が賃金に反映されにくいという問題がありました。一方、報酬と切り離した目標管理制度は、以下の点で優れています。

    • 健全な目標設定: 報酬が直接かかっていないため、社員は失敗を恐れずに、より挑戦的で意欲的な目標を設定できるようになります。
    • 評価の公正性: 報酬は個人の能力や行動特性に基づいて決まり、目標管理は個人の成長を促すための別のツールとして機能します。それぞれの役割が明確になることで、評価制度全体の透明性と公正性が高まります。

    この新しいアプローチは、目標管理制度が「ノルマ達成のため」ではなく、「個人と組織の成長」のために真に機能するよう、その目的を再定義する試みだと言えるでしょう。


    関連記事:OKR(Objectives and Key Results)とは?わかりやすく解説

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  • 上司評価と自己評価に大きな違いが生じたら、上司はどうすべきか?

    部下の自己評価と上司の評価に大きな違いが生じた場合、面談の進め方は特に慎重に行う必要があります。部下のモチベーションを下げずに、今後の成長につなげるためには、事前の準備と面談中のコミュニケーションが非常に重要です。

    面談に臨む心構え

    部下の自己評価を尊重する

    まず、部下面談の一般的な心得ですが、部下がどのような意図でその自己評価に至ったのかを理解しようとする姿勢が大切です。自己評価は、部下が自分なりに考えた結果です。たとえ上司の評価と異なっても、頭ごなしに否定するのではなく、その評価を尊重し、耳を傾けることから始めましょう。

    事実に基づいたフィードバックを準備する

    具体的な事実や客観的なデータに基づいて話すことが重要です。「頑張りが足りない」といった抽象的な表現ではなく、「〇〇の納期が遅れた」「〇〇で大きなミスが発生した」などのように、事実に基づく準備しておきましょう。そのためには、日頃から問題だと感じたことについて、その経緯を記録しておくことが必要です。

    ゴールを明確にする

    評価後の面談の目的は、部下を非難することではなく、お互いの評価のギャップを埋め、今後の成長につなげることです。部下と建設的な対話ができるように、今後の行動計画についていくつかのアイデアを準備しましょう。

    面談の進め方

    ケース1:大部分の項目で自己評価と上司評価に違いが生じた場合

    大部分の項目で大きな違いがあるケースでは、自分の仕事に対する認識が不十分であるとともに、上司が期待する役割を理解していない可能性が高いです。面談は、お互いの認識を丁寧にすり合わせるプロセスとなります。

    想定されるやり取り

    オープニング:

    上司:〇〇さんの自己評価シートを拝見しました。私もいくつかの点で、〇〇さんの努力を高く評価しています。ただ、私の方で少し見方が異なる点もあるので、今日はそのすり合わせと、今後の目標について話し合いたいと思います。

    自己評価の聴取:

    上司:まずは、この自己評価にについて、〇〇さんから補足説明をお願いします。特に、高い評価をつけた項目について、どんな点に着目して高い評価をつけたのか、できるだけ具体的に教えてください。

    部下:〇〇プロジェクトでは、新しい提案を積極的に行い、チームに貢献したつもりです。△△の業務でも、効率化のための改善を提案して一部実施しました。

    上司評価の提示(事実に基づいて):

    上司:〇〇プロジェクトでの〇〇さんの積極性は認めています。ただ、そのプロジェクトでは、顧客からのフィードバックは、あまり良いものではありませんでした。特に、納期遅延への不満が大きかったようです。チームへの貢献という点では、チーム内の情報共有が不足し、〇〇さんから情報が伝えられなかった他のメンバーの負担が増えたという事実もあります。△△業務の効率化も、データを見ると、残念ですが結果的に品質が低下した言わざるを得ません。これらのことについて、〇〇さんはどう捉えていますか?

    ギャップのすり合わせ:

    上司:〇〇さんが「頑張った」という気持ちは理解できます。ただ、評価は「結果」と「プロセス」の両面から行われます。今回の場合、プロセスでの努力は認めたいと思いますが、結果に結びついていない部分があったと私は考えています。この認識の違いはどこから来ていると思いますか?

    まとめ方:

    上司:今日の話から、お互いの認識に違いがあったことが分かりました。今後は、努力が結果につながるように、次の点を意識して仕事に取り組んでみませんか。1つは「〇〇」、もう1つは「△△」です。これらを具体的な目標として設定し、定期的に進捗をチェックしていきましょう。

    ポイント:

    一方的な説教にならない: 「あなたと私の間にはこれだけのギャップがある」と突きつけるのではなく、「あなたと私の間にはこれだけのギャップがあるようですが、どうすればそのギャップを埋められるでしょう、一緒に考えませんか」という前に進む議論になるように心がけましょう。

    期待の明確化: 上司に何を期待しているのかを、具体的に理解できるように、具体的な行動目標を設定しましょう。

    ケース2:数カ所の項目で自己評価と上司評価に違いが生じた場合

    このケースは、部分的な認識のズレであり、大きな問題に発展する可能性は低いでしょう。面談は、そのズレを修正し、部下がさらに成長するためのアドバイスを与える場となります。

    想定されるやり取り

    オープニング:

    上司:〇〇さんの自己評価シートを拝見しました。多くの項目で私の評価と一致していて、私は〇〇さんの仕事ぶりを評価しています。ただ、いくつか、もう少し頑張ってもらえると嬉しいな、という点があるので、今日はそのことについて話し合いましょう。

    自己評価の聴取:

    上司:今回の評価項目で、特に〇〇の項目について、〇〇さんは高い自己評価をしていますが、どのような点でそう考えましたか?

    部下:〇〇プロジェクトのとき、課長もご存知のように予期せぬトラブルが発生しました。あのとき、素早く原因を特定し、解決策を提案できた点です。

    上司評価の提示(事実に基づいて):

    上司:その対応は素晴らしかったと思います。ただ、私の評価では、そもそも、実施前のチェックが甘かったことがトラブル発生の原因ではないかと考えています。例えば〇〇の確認について、チーム全体に情報を流しておけば、防げたのではないでしょうか。その点について、どう思いますか?

    ギャップのすり合わせ:

    上司:トラブルを解決する力は高い。そこは大いに認めます。ただ、より高いレベルを目指すなら、トラブルを未然に防止するところまで踏み込んでほしかったと思います。今後は、他のチームメンバーに的確に情報を流すということを意識すると、さらに良いと思います。

    まとめ方:

    上司:今日の話で、〇〇さんの「課題解決力」は、非常に高いレベルにあることが再確認できました。今後は、さらに一歩進んで、トラブルを未然に防ぐための情報の流し方を考えるように意識していきましょう。そうすることで、〇〇さんの強みはさらに伸びるはずです。

    ポイント:

    成功体験を否定しない: 部下の自己評価が高い部分は認め、その上で「さらに上を目指すためのアドバイス」として伝えることで、部下のモチベーションを維持しましょう。

    具体的な改善点を提示: 「どうすればいいのか」を具体的に示し、部下が次の行動につなげられるように促しましょう。

    いずれのケースにおいても、面談の締めくくりは前向きな言葉で終わらせることが非常に重要です。面談後も、部下との信頼関係を築き、成長をサポートする姿勢を継続していきましょう。

    部下が納得しないときは

    部下が自己評価を譲らず、上司の評価が間違っていると固執する場合、感情的な説得は逆効果です。そのような場合、まずは、客観的な事実に基づいた対話に立ち戻り、評価の根拠を冷静に提示することが重要です。

    説明の繰り返し

    まず、部下を頭ごなしに否定せず、「あなたの考えは分かりました」と一度受け止めます。その上で、以下のポイントで説得を試みます。

    評価の「ものさし」を共有する

    上司:〇〇さんの評価が間違っているとは言いません。ただ、私たちが評価する際に使う「ものさし」が、もしかしたら少し違うのかもしれませんね。私は会社やチームの目標、そして〇〇さんの職務記述書にある「〇〇の達成」という基準で見ています。〇〇さんは、どのような「ものさし」で自己評価をしましたか?」

    ポイント:

    「間違っている」と断定するのではなく、「ものさし」の違いとして提示することで、対立ではなく対話の姿勢を見せます。

    評価基準を明確にし、部下の評価が主観的である可能性を考えてもらいます。

    具体的な事実とデータを再提示する

    上司:この評価項目については、結果を客観的な事実で見るとあなたの評価と少し違ってきます。例えば、私が担当した〇〇プロジェクトでは、顧客満足度調査で満足とやや満足が△△%に留まりました。あなたの貢献はあったものの、目標の〇〇%には届きませんでした。これはどう捉えますか?

    ポイント:

    「私はこう思う」という主観ではなく、「データがこう示している」という客観的な事実を示します。

    議論の焦点を感情論から事実へと移し、冷静な判断を促します。

    役割の違いを説明する

    上司:部下の成長を促すのが私の仕事です。今の〇〇さんを高く評価するのは簡単ですが、それでは「なぜこの評価なのか」を理解してもらえなくなります。この評価は、〇〇さんがさらに成長するために、私が今伝えておくべきことだと考えました。この評価の背景にある私の意図を理解してもらえませんか?

    ポイント:

    上司としての責任や期待を伝え、評価が部下への「期待」であることを示唆します。

    評価が「過去の評価」だけでなく「未来への投資」であることを伝え、部下の成長への関心を示します。

    意見が一致しなかった場合のまとめ

    すべての説得が成功するわけではありません。どうしても意見が一致しない場合は、無理に合意を求めず、「合意しないことに合意する」という形で面談を締めくくります。

    まとめ方の例

    「今日の面談で、お互いの意見がすべて一致しなかったことは事実です。それは、お互いが真剣に仕事に向き合っている証拠でもあります。ただ、評価の最終決定権は私にあります。今日の評価は、私が見た客観的な事実と、今後の期待を込めたものです。

    これ以上議論しても、おそらく平行線になってしまうと思うので、今日はここまでにしましょう。ただ、〇〇さんの自己評価が高いこと、そして自分の考えをしっかりと持っていることは、私は素晴らしいことだと思います。

    この評価を不服に思うかもしれませんが、まずは「評価のギャップがあった」という事実を受け止めてください。そして、次の目標を設定するにあたり、どうすればこのギャップを埋められるか、一緒に考えていきましょう。これからの〇〇さんの活躍を期待しています。」

    ポイント:

    平行線を認める: 無理に説得しようとせず、意見が一致しなかった事実を認めます。

    最終決定権を明示する: 上司としての役割と責任を明確に伝え、これ以上の議論は生産的ではないことを示唆します。

    未来志向で締めくくる: 過去の評価に固執するのではなく、「今後の成長」という未来に焦点を当てて話を終えます。

    面談で意見が一致しなくても、部下との信頼関係を完全に崩さないことが重要です。面談後も部下の様子を気にかけ、今後の行動で成果が出た際には、積極的にフィードバックをするなど、丁寧なフォローアップを心がけましょう。


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  • 「ハロー効果」に要注意!元気=営業、は思い込みかもしれません

    部下を評価する際、「ハロー効果」という心理的なバイアスがあるのをご存じですか?これは、ある一つの目立つ特徴に引きずられて、他の評価項目もすべて良く見えたり、逆に悪く見えたりする現象です。

    ハロー効果とは?

    ハロー効果の「ハロー(halo)」は、聖人の頭上に描かれる「光輪(後光)」を意味しています。後光が差していると、その人がとても素晴らしい人に見えるように、一つの良い特徴が全体を良く見せてしまうことを「ハロー効果」と言います。

    具体例

    • Aさんはプレゼンが非常に上手で、活発で目立つタイプです。
      • つい「あの人は仕事ができる」と高く評価してしまいがちですが、実は細かな事務作業や報告書の提出は苦手かもしれません。
    • Bさんはいつも静かです。
      • 「仕事ぶりも特別のことはないかな」と思ってしまいがちですが、実は地道な作業を着実にこなし、チームの縁の下の力持ちとして貢献しているかもしれません。

    このように、私たちの評価は、「第一印象」や「目立つ特徴」に大きく左右されやすいのです。

    なぜハロー効果は起きるの?

    ハロー効果は、人間の脳が情報を効率的に処理しようとするために起こります。すべての情報を細かく分析するのは大変なため、脳は特定の情報をもとに「この人はこういうタイプだ」とパターン化しようとします。

    たとえば、「活発な人は営業に向いている」という思い込みがあると、活発な人を見ただけで「この人はきっと営業として成功するだろう」と決めつけてしまうのです。これは、過去の経験や社会的なステレオタイプに基づいていることが多く、無意識のうちに私たちの思考に影響を与えています。

    ハロー効果を避けるための対策

    評価項目を明確にする

    「この人は活発だ」という印象だけで評価せず、「売上達成率」「顧客への対応」「チームへの貢献度」など、具体的な評価項目ごとに客観的な事実に基づいて評価しましょう。先を急がずに、項目ごとに一つずつ丁寧に評価することで、全体的な印象に引きずられにくくなります。

    多角的な視点を持つ

    部下を評価するときは、あなた一人の視点だけでなく、それとなく、同僚や他部署からのフィードバックも参考にしましょう。周囲からの声を鵜呑みにしてはいけませんが、よく考えてみれば、あなたが見ていなかったその人の別の側面を発見できるかもしれません。

    思い込みに気づく自己トレーニング

    「この人は大人しそうだから事務職向きだ」「あの人はリーダーシップがあるから管理職向きだ」といった自分の思い込みに気づくことが大切です。その思い込みは本当に正しいか?と自問自答する習慣をつけましょう。

    まとめ

    人事考課は、誰でも苦労しています。完璧な評価は難しいかもしれませんが、こうした「評価エラー」の存在を知っているだけでも、公正な評価への第一歩になります。

    ハロー効果で言えば、活発な人も、大人しい人も、声が大きい人も、声が小さい人も、それぞれの個性や強みが必ずあります。先入観にとらわれず、その人自身をしっかり見てあげてください。それが、部下を成長させ、チームを強くする一番の秘訣です。


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  • あらかじめ決めている順番になるように点数を操作している評価者がいます

    一部の評価者は、あらかじめ部下の順位を決めて、その順位になるように評価点を操作しているそうです。不公平になりかねないので改めさせたいのですが?

    それは、「メイキング」という評価エラーの一つです。どのようなものか、どう対策すればよいか以下で解説します。

    メイキングの具体例

    人事考課における「メイキング」とは、評価者が事前に決めた評価結果に合うように、後から理由や事実をでっち上げる評価エラーのことです。先に結論があり、後付けで理由を探すため、「事実に基づく評価」ではなくなってしまいます。

    メイキングは、以下のような状況で起こります。

    例1:嫌いな部下の評価

    ある評価者が、個人的にそりが合わない部下を「仕事ができない」と決めつけていたとします。その部下は真面目に業務をこなしていますが、評価者は「その部下を低く評価する」という結論を先に持っています。

    そこで評価者は、面談の際に「君の報告は要領を得ない」などと些細なミスを強調したり、実際にはない「君の言動で困っている人がいる」などと決めつけたりして、低い評価に結びつけます。

    例2:好きな部下の評価

    逆に、考課者が個人的に親しい部下のことを「優秀だ」と先に決めていたとします。その部下が大きな成果を出していないにもかかわらず、評価者は「彼は見えないところで努力を続けている」「大変成長している」といった曖昧な理由を並べ立て、高い評価を与えます。

    このように、メイキングは個人の感情や先入観が評価の根拠を歪めることで発生します。

    メイキングをやめさせる方法

    メイキングは、多くの場合、無意識ではなく意識的な行動です。本人が意図的に行う不正行為に近い側面があるので、やめさせるのは困難なケースもありますが、いくつか対策を提示します。

    評価を補正する

    簡単な方法としては、上司や人事が評価を強制的に修正する方法があります。しかし、評価結果を強制的に補正するアプローチには、いくつかの大きな問題があります。

    • 補正の基準が不透明:どのくらいの割合で、どの評価者の点数を補正するのか、その基準を客観的に設定するのは非常に困難です。
    • 客観的に補正したとしても、「補正された」という事実が評価者に知られると、不信感を生み評価者自身の責任感やモチベーションがさらに低下する恐れがあります。
    • 本質的な問題の放置:補正はあくまで対症療法に過ぎません。なぜその評価者がメイキングをするのか、という根本的な問題(個人的な感情、不公平感、評価制度への不満など)を解決することにはなりません。

    推奨される対策

    強制補正よりも有効な対策は、評価のプロセスを厳格に管理することです。

    考課者トレーニングの実施

    考課者に対し、メイキングを含む様々な評価バイアスについて理解を深めるための研修を行います。バイアスが存在することを知り、その対策を学ぶことで、自身の評価行動を客観的に見つめ直すきっかけとなります。ただし、メイキングは、バイアスの存在などの評価制度を理解した上で行うことが多いので、トレーニングの効果は限定的です。

    複数評価者による評価と調整

    360度評価を行い、直属の上司だけでなく、同僚や他部署のリーダーなど複数の視点から評価を行うことで、一人の評価者の主観が入り込む余地を減らせます。

    また、複数の考課者が評価を行い、その結果をすり合わせることで、一人の考課者の個人的な感情が評価に影響するのを防ぐことができます。

    評価プロセスの可視化と

    考課面談の記録や評価の根拠を詳細に記録させ、第三者が確認できるようにします。

    評価の根拠を明確化する仕組み

    評価者が、具体的な行動や成果に基づいた詳細なコメントを記入することを必須とします。たとえば、「真面目さ」「積極性」といった抽象的な評価項目ではなく、「数字」を中心にした事実に基づいた評価項目を多めに設定します。これにより、感情的な理由付けが難しくなり、客観的な評価がしやすくなります。

    評価会議の実施

    評価者全員が集まり、各被評価者の評価結果と根拠を共有する評価会議を行います。この場で、評価が甘すぎる、または厳しすぎるケースについて議論し、評価の統一を図ります。これにより、個人的な感情や先入観が入り込むことを防ぎ、評価の公平性を高めることができます。

    これらの方法を組み合わせることで、「事実を先に、評価は後に」という健全な評価プロセスを定着させ、メイキングを防ぐことができます。


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