カテゴリー: 評価制度

  • 職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能資格等級表とは、職能給制度で使う「社員の能力や役割を段階的に整理した一覧表」のことです。社員の能力レベルを等級に分け、その等級ごとに求められる能力や役割を明文化したものです。

    職能資格等級表

    職能資格等級表の目的

    ・能力評価や昇格の基準を明確化する

    ・社員に「自分が何を身につければ昇格できるか」を理解させる

    ・公平・一貫性のある賃金運用を可能にする

    職能資格等級の構成の基本例

    等級呼称主な役割・責任必要能力・スキル代表職位昇格目安
    1級初級指示を受けて定型業務を遂行基本的な業務知識・技能一般職(新人)入社1〜3年
    2級中級業務を自律的に遂行専門知識の習得、問題解決力一般職(中堅)3〜5年
    3級上級後輩の指導・業務改善指導力、チーム調整力主任5〜8年
    4級監督部署の目標管理・戦略立案高度な判断力、マネジメント力係長・課長補佐8〜12年
    5級管理部署責任者として全体統括経営的視点、部門戦略策定力課長以上12年以上

    運用イメージ

    人事評価の際、この等級表と照らし合わせて「現在の能力がどの等級に該当するか」を判断。

    等級が上がると職能給(基本給部分)が昇給する。

    多くの企業では、この等級表を社員にも公開し、昇格の道筋を見える化しています。

    等級表作成の注意点

    基準が抽象的すぎると評価が曖昧になり、不公平感が生まれる。

    時代や事業環境の変化に合わせて定期的な見直しが必要。

    実務上は「実力より年齢で昇格」という運用になりがちなので、評価制度と連動させることが重要。

    「等級」と「号俸」の関係

    職能資格制度は「等級」だけで運用されることは少なく、多くの場合は「号俸」の二段階構造で運用されています。給与額をきめ細かくコントロールするための方法です。

    等級:社員の能力レベル・役割の大枠を示す階層(1級、2級…)

    号(号俸):同じ等級内での細かな給与段階(1号、2号…)

    イメージとしては、「等級=大きな段」、「号=その段の上に並んだ細かいステップ」という感じです。

    多くの企業は「等級昇格=昇格試験や昇格評価が必要」、「号昇給=年次評価で判断」という運用をしています。

    人件費シミュレーションをしながら等級間・号間の昇給幅を決めるのが重要です。

    なぜ号を設定するのか

    昇給の柔軟性
    等級を頻繁に上げると人件費の変動が大きくなるため、まずは等級内で号を上げて調整。

    評価結果を細かく反映
    年間の評価が「優」「良」「可」などの場合、優は2号昇給、良は1号、可は据え置き…と反映できる。

    給与表が安定する
    長期的に人件費計画を立てやすくなる。

    運用例(サンプル)

    例:職能資格等級表と号俸表を組み合わせた場合

    等級月額(円)昇給幅(円)
    2級1号220,000
    2級2号224,000+4,000
    2級3号228,000+4,000
    2級4号232,000+4,000
    3級1号240,000等級昇格で+8,000

    昇給の例

    年度評価「A」→ 2号昇給(例:224,000円 → 232,000円)

    年度評価「B」→ 1号昇給(例:224,000円 → 228,000円)

    年度評価「C」→ 昇給なし

    メリット・デメリット

    メリット

    等級を大きく変えなくても昇給できるため、昇格ハードルを維持できる。

    評価制度との連動がしやすく、モチベーション管理に使える。

    デメリット

    制度が複雑になりやすい(給与表の管理負担)。

    社員が「何年経てば何号になる」と年功的に考える傾向が出やすい。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識主な賃金制度の解説職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します>このページ

  • 職能給とはどういうものか?分かりやすく解説します

    職能給(職能資格給)は、日本の多くの企業で長年使われてきた給与制度で、社員の能力や成長度合いを評価して支給額を決める方式です。

    職能給の基本的な考え方

    「人材は育てれば価値が上がる」という発想に基づき、社員の潜在能力や将来の期待値を給与に反映します。

    担当している仕事の内容だけでなく、「その人ができると期待されること」まで評価に入ります。

    評価基準の例

    職能給制度は、統一的な規格があるわけではないので、企業によって細部の制度設計が異なりますが、主に以下が評価対象になります。

    知識(専門知識、業務知識の広さ・深さ)
    技能(作業・技術の精度やスピード)
    判断力(問題解決や意思決定能力)
    コミュニケーション能力(社内外との調整力)
    マネジメント力(部下育成やチーム運営)
    経験年数(経験の蓄積に伴う熟練度)

    運用の仕組み

    職能資格等級表を作り、「等級ごとの期待能力・役割」を定義します。

    たとえば「等級1=基本的業務を指示通りこなせる」「等級3=後輩を指導できる」など。

    定期的(年1回など)に評価し、能力が基準に達したら等級を上げ、連動して給与を昇給させます。

    関連記事:職能資格等級表とはどういうものか?「等級」と「号俸」の関係も解説

    職能給のメリット

    特定の仕事ができるかどうかより、会社員としての総合力を評価する制度なので、人事異動があって別の部署に移っても従来の等級を維持することができます。

    どのような点を向上させれば等級があがるかを明示できるので、賃金への納得感が高まります。

    職能給のデメリット

    等級の前提となる評価が正しく実施されないことがあると、結果として年功給と変わりない結果になります。

    低成長時代には、役職のポストが少ないので、等級が上昇しても希望通りの役職昇任ができない人が増えます。

    役職昇任する人が少なくても、基本給の大部分は等級によって決まるので、人件費は引き続き膨張します。


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  • 多面評価(360度評価)とは?メリット・デメリットと導入手順を解説

    多面評価(360度評価)は、多面的な視点から個人の能力や行動を評価する手法で、近年導入が広がっています。その概要、メリット、注意点、そして具体的なやり方について解説します。

    多面評価とは?

    多面評価とは、上司だけでなく、同僚、部下、他部署の関連者、そして本人自身(自己評価)など、複数の関係者が様々な角度から対象者を評価する仕組みです。これにより、一方向の評価では見えにくい強みや課題を浮き彫りにし、個人の成長促進や組織全体のパフォーマンス向上に繋げることを目的とします。

    多面評価導入のメリット

    多角的・客観的な評価

    上司だけでは把握しきれない、日常業務における行動や対人関係のスキルなど、多角的な情報を得られます。

    一人の評価者の主観や偏りを排除し、より客観的で納得感のある評価に近づけます。

    自己認識の深化と成長促進

    自分と他者の評価のギャップを知ることで、自己認識が深まり、自身の強みや改善点に気づくことができます。

    具体的な行動変容のきっかけとなり、個人の成長を促します。

    リーダーシップ・マネジメント能力の向上

    特に管理職にとっては、部下や同僚からのフィードバックを通じて、自身のマネジメントスタイルやコミュニケーションの課題を認識し、改善に繋げることができます。

    組織風土の改善

    オープンなフィードバック文化を醸成し、相互理解を深めることで、チームワークの向上や組織全体のコミュニケーション活性化に貢献します。

    ハラスメントの早期発見や、部署間の連携強化にも役立つことがあります。

    納得感のある人事評価への貢献

    最終的な人事評価に直接結びつけるかは企業によりますが、多面的な情報が加わることで、評価の信頼性が高まり、被評価者の納得感向上に繋がります。

    多面評価導入の注意点(デメリット・リスク)

    多面評価はメリットが多い一方で、導入や運用を誤ると逆効果になるリスクもあります。

    人間関係の悪化リスク

    匿名性が担保されない、あるいは不適切なフィードバックが行われると、人間関係に亀裂が入る可能性があります。

    報復的な評価や、忖度による甘い評価が行われることもあります。

    評価者の負担増

    評価項目が多くなると、評価者の負担が増大し、形骸化したり、適当な評価になったりする可能性があります。

    評価の質のばらつき

    評価者のスキルや理解度によって、フィードバックの質にばらつきが生じることがあります。

    感情的な評価や、具体的な行動に基づかない抽象的な評価になりがちです。

    導入目的の誤解

    「人事評価の査定ツール」としてのみ捉えられると、本質的な目的である「成長支援」が見失われ、不信感を生む可能性があります。

    フィードバックの受け止め方

    フィードバックを素直に受け止められない被評価者もいるため、丁寧な説明とサポートが必要です。

    ネガティブなフィードバックが多すぎると、自信喪失やモチベーション低下に繋がることもあります。

    多面評価の導入手順

    多面評価を成功させるためには、以下のステップを慎重に進めることが重要です。

    これらのステップを丁寧に進めることで、多面評価は個人の成長と組織の発展に大きく貢献する強力なツールとなり得ます。

    1. 目的の明確化と共有

    なぜ多面評価を導入するのか? (例: 個人の成長支援、リーダーシップ開発、組織風土改善など)

    目的を明確にし、経営層から従業員まで、全員にその目的と意義を丁寧に説明し、理解と協力を得ることが最も重要です。人事評価に直結させるのか、あくまで成長のためのフィードバックツールとするのかも明確にします。

    2. 評価項目の設定

    何について評価するのか? 企業のビジョン、ミッション、求める人材像、行動規範(コンピテンシー)に基づき、具体的な行動に結びつく評価項目を設定します。

    例えば、「コミュニケーション能力」「問題解決能力」「リーダーシップ」「チームワーク」など。

    抽象的ではなく、「会議で自分の意見を明確に発言しているか」「困難な課題に対し、自ら解決策を提案しているか」など、具体的な行動を問う質問形式が望ましいです。

    項目数は多すぎず、負担にならない範囲(20~30項目程度)に絞るのが一般的です。

    3. 評価者の選定

    誰が誰を評価するのか? 一般的には以下の組み合わせで行われます。

    上司 → 部下

    同僚 → 同僚(業務で関わりの深い複数名)

    部下 → 上司(複数名)

    本人 → 本人(自己評価)

    関連記事:自己評価制度について

    評価者数は、被評価者1人に対して3~5名程度が目安です。

    評価者選定の基準(例: 半年以上の業務関わりがある者、直近でプロジェクトを共にした者など)を明確にします。

    4. 評価期間と実施方法の決定

    いつ実施するのか? 年に1回、あるいは半年に1回など、定期的に実施します。

    どのように実施するのか? 専用のシステムやツールを導入することが一般的です。匿名性を担保できるシステムを選びましょう。

    5. 評価者への説明とトレーニング

    評価の目的、評価項目の意味、適切なフィードバックの書き方(具体的、建設的、行動に焦点を当てるなど)を徹底的に説明し、訓練を行います。

    「感情的にならない」「人格を否定しない」「具体的な行動事実に基づいて記述する」といったルールを明確にします。

    匿名性の担保についても、評価者に改めて説明し、安心して評価できる環境を整えます。

    6. 評価の実施

    設定した期間内に、評価者がオンラインシステムなどを通じて評価を入力します。

    匿名性を担保するため、評価者が特定できないような集計方法を検討します(例: 評価者数が一定数以下の場合、フィードバックを個別に表示しないなど)。

    7. フィードバックレポートの作成と共有

    集計された評価結果を、被評価者本人に分かりやすいレポート形式で提供します。

    自己評価と他者評価のギャップが視覚的に分かるような工夫を凝らします。

    ネガティブなフィードバックだけでなく、ポジティブなフィードバックもバランス良く記載されるようにします。

    8. フィードバック面談の実施

    評価結果を本人に手渡し、内容を説明する面談を、上司または人事担当者が行います。

    面談では、フィードバックの受け止め方をサポートし、具体的な行動計画の策定を支援します。

    「なぜこのような評価になったのか」を一方的に伝えるのではなく、「このフィードバックをどう受け止めるか」「今後どう活かしていくか」を被評価者自身に考えさせることが重要です。

    上司は、部下からのフィードバック(部下から上司への評価)を真摯に受け止め、自身のマネジメント改善に活かす姿勢を見せることが求められます。

    9. 改善計画の実行とフォローアップ

    フィードバック面談で策定した行動計画に基づき、被評価者が改善に取り組みます。

    上司や人事担当者は、その進捗を定期的に確認し、必要に応じてサポートや追加のフィードバックを行います。


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  • 評価の甘辛傾向を改善するための説得法(人事担当者向け)

    評価の甘い・辛い傾向が見られる管理職への個別指導は、デリケートで難しい課題です。単に「あなたの評価は甘い」「辛い」と伝えるだけでは、相手は納得せず、反発したり、評価の質がさらに低下したりする可能性があります。

    重要なのは、評価者のプライドを尊重しつつ、客観的なデータに基づき、会社として求める評価のあり方と、それが評価者自身や部下にもたらすメリットを論理的かつ共感的に伝えることです。

    説得のポイント

    1.データに基づいた客観的な事実提示: 感情論ではなく、具体的な評価分布データや過去の傾向などを示し、「なぜ問題なのか」を明確にします。

    2.評価者の意図を理解しようとする姿勢: まずは相手の評価に対する考えや、そう評価するに至った背景を聞く姿勢を見せましょう。

    3.評価の目的を再確認: 人事考課が単なる点数付けではなく、部下の成長支援や適正な処遇、ひいては組織全体のパフォーマンス向上に繋がることを改めて伝えます。

    4.評価者自身へのメリットを提示: 公平で適切な評価が、評価者自身のマネジメント能力向上や、部下からの信頼獲得に繋がることを伝えます。

    5.具体的な改善策の提示とサポート: 「どうすれば良いか」を明確に示し、人事部門としてサポートする姿勢を見せます。

    6.継続的なフォローアップの約束: 一度で完璧にならなくても、継続的に改善を支援する姿勢を示します。

    会話例:評価が甘い管理職の場合

    登場人物:

    人事担当者:○○さん

    評価が甘い傾向のある管理職:Aさん

    導入:Aさんの評価への感謝と今日の目的の共有

    人事担当者: 「Aさん、お忙しいところありがとうございます。先日提出いただいた人事考課の件でお話しさせていただきたく、お時間をいただきました。」

    Aさん: 「いえ、とんでもないです。何かありましたか?」

    人事担当者: 「はい。Aさんの評価結果を全体的に拝見して、いくつか気になる点があり、今日はその改善についてご相談したいと思っています。決してAさんのこれまでの評価を否定するものではありませんので、率直なご意見をお聞かせいただけますと幸いです。」

    事実の提示:データと客観的な状況の説明

    人事担当者: 「まず、こちらをご覧ください。(評価分布グラフや過去の評価傾向データを示す)これは、Aさんの担当されている部下の方々の評価分布と、他部署の評価分布を比較したものです。Aさんの部署では、S評価やA評価といった高評価の割合が他部署と比較してかなり高く、平均点も突出して高い傾向が見られます。」

    Aさん: 「そうですね、私の部署のメンバーはみんな本当に頑張っていますから。特にB君やCさんは目覚ましい成長を遂げていますし、Dさんもベテランで安定感がありますからね。」

    評価者の意図理解:傾聴と共感

    人事担当者: 「Aさんの部下への深い理解と期待、そして個々の努力を高く評価されているお気持ち、とてもよく伝わってきます。それは素晴らしいマネジメントの姿勢だと思います。ただ、一点だけご意見を伺いたいのですが、これだけ高評価が多いと、『評価を上げることで部下のモチベーションを上げたい』というお気持ちや、『部下の可能性を信じてあげたい』というお気持ちも強くあるのでしょうか?」

    Aさん: 「そうですね。みんな一生懸命やっているので、私もできるだけ評価してあげたいという気持ちはあります。高い評価をもらえば、もっと頑張ろうと思ってくれるんじゃないかと。」

    評価の目的再確認と課題提示:会社として求める評価のあり方

    人事担当者: 「Aさんのお気持ち、とてもよく分かります。部下への愛情ゆえのことと理解しています。しかし、人事考課の目的は、単にモチベーションを上げることだけではありません。個々の成長を促し、強みと課題を明確にし、適材適所で最適な人材配置を行い、そして適正な報酬・昇給へと繋げるという重要な役割があります。

    Aさんの部署の評価が相対的に高すぎると、例えば、他部署の同レベルのパフォーマンスの社員と比べて、Aさんの部下だけが不当に昇給・昇格しやすくなってしまう可能性があります。そうなると、他部署の社員からは『Aさんの部署は甘いから入りたい』といった不公平感が生まれるかもしれませんし、会社全体としての人件費コントロールや、組織の健全な新陳代謝を阻害してしまうことにも繋がりかねません。」

    評価者自身へのメリット提示:Win-Winの関係構築

    人事担当者: 「また、部下の方々にとっても、常に高評価ばかりだと、『本当に自分がどこを改善すればもっと成長できるのか』というフィードバックが得にくくなる、という側面もあります。時には、耳の痛いフィードバックこそが、その後の大きな成長に繋がることもあります。

    Aさんが、会社全体の基準に沿って、より客観的で適切な評価を行うことは、Aさんご自身のマネジメント能力の向上に直結しますし、部下の方々からも『公平で信頼できる上司』として、より一層の尊敬と信頼を得られることに繋がると信じています。それがAさんのリーダーシップ強化にも貢献するはずです。」

    具体的な改善策の提示とサポート

    人事担当者: 「そこで、Aさんにお願いしたいのは、評価基準の再確認と、より客観的な視点での評価です。例えば、各評価項目について、『期待通り』『期待を上回る』といった各レベルに、どのような具体的な行動や成果が紐づくのか、改めて人事部の資料や、先日実施した評価者訓練の資料を一緒に見直してみませんか?

    必要であれば、私がAさんの部下の方々の業務内容や成果について、Aさんからヒアリングさせていただき、第三者的な視点から評価のポイントを一緒に整理することも可能です。また、評価に迷った際は、いつでも私にご相談ください。」

    継続的なフォローアップの約束

    人事担当者: 「この件は、一度で全てが解決するものではないと思っています。私も含め、人事部として今後も継続的にサポートさせていただきますので、ぜひ一緒に取り組んでいただけませんか?」

    Aさん: 「…そうですね。言われてみれば、確かに私の部署だけ評価が高いのは気になっていました。部下のためを思ってやっていたことですが、それが結果的に彼らの成長機会を奪ったり、会社全体に影響を与えてしまったりする可能性もあるんですね。ご指摘ありがとうございます。改めて、評価基準を見直して、しっかり向き合っていきたいと思います。」

    人事担当者: 「ありがとうございます!Aさんのその前向きな姿勢、本当に心強いです。何か困ったことがあれば、遠慮なくいつでもご連絡くださいね。」

    会話例:評価が辛い管理職の場合

    導入・事実提示:甘い場合と同様にデータを見せる

    人事担当者: 「Aさんの部署では、C評価やD評価といった評価の割合が他部署と比較してかなり高く、平均点も低い傾向が見られます。」

    評価者の意図理解:傾聴と共感

    人事担当者: 「Aさんのお気持ちは、とてもよく分かります。Aさんは、部下の方々に高い期待を寄せ、常に上を目指してほしいという強い思いをお持ちで、だからこそ、安易に高評価を与えず、厳しく接することで成長を促したいと考えていらっしゃるのではないでしょうか?また、『プロである以上、できて当たり前』という意識も強くお持ちなのかもしれませんね。」

    Aさん: 「その通りです。私が若い頃はもっと厳しく指導されましたし、それで成長できたと思っています。それに、今の若手は少し優しくするとすぐに慢心してしまうのではないかと心配で。厳しく評価することで、彼らに危機感を持ってほしいんです。」

    評価の目的再確認と課題提示:会社として求める評価のあり方

    人事担当者: 「Aさんの部下を思う気持ち、そしてプロ意識の高さは素晴らしいです。ただ、人事考課の目的は、単に厳しさで成長を促すことだけではありません。『適切な評価』とは、部下の努力を認め、成果を正当に評価することで、自信とモチベーションを高め、その上で改善点を明確に伝えることです。

    Aさんの部署の評価が相対的に低すぎると、例えば、他部署の同レベルのパフォーマンスの社員と比べて、Aさんの部下だけが不当に昇給・昇格しにくくなってしまう可能性があります。そうなると、部下の方々は『いくら頑張っても報われない』と感じ、モチベーションを失い、最悪の場合、離職に繋がってしまうリスクも考えられます。」

    評価者自身へのメリット提示:Win-Winの関係構築

    人事担当者: 「また、常に厳しい評価ばかりだと、部下は『自分は認められていない』と感じ、萎縮してしまい、積極的にチャレンジしたり、上司に相談したりすることが難しくなるかもしれません。それは、Aさんご自身が期待されている『部下の成長』をむしろ阻害してしまう可能性があります。

    Aさんが、会社全体の基準に沿って、ポジティブな面もきちんと評価し、適切なバランスでフィードバックを行うことは、Aさんご自身のリーダーシップの幅を広げ、部下の方々からの信頼をさらに厚くすることに繋がります。部下も、『厳しさの中にもきちんと見てくれている』と感じることで、Aさんの期待に応えようと、より前向きに努力してくれるようになるはずです。」

    具体的な改善策の提示とサポート

    人事担当者: 「そこで、Aさんにお願いしたいのは、ポジティブな面や、目標達成に向けたプロセスにおける努力も、積極的に評価に反映させる視点です。例えば、各評価項目について、『期待通り』『期待を上回る』といった各レベルに、どのような具体的な行動や成果が紐づくのか、改めて人事部の資料や、先日実施した評価者訓練の資料を一緒に見直してみませんか?

    部下の良い点を見つけるためのヒントや、効果的なフィードバックの仕方など、具体的なトレーニングや資料提供も可能です。評価に迷った際は、いつでも私にご相談ください。」

    継続的なフォローアップの約束

    人事担当者: 「この件は、一度で全てが解決するものではないと思っています。私も含め、人事部として今後も継続的にサポートさせていただきますので、ぜひ一緒に取り組んでいただけませんか?」

    Aさん: 「…分かりました。部下のモチベーション低下や離職のリスクがあるというのは、私の本意ではありません。厳しくすることで成長させたいと思っていましたが、逆効果になってしまう可能性もあるのですね。一度、ご提示いただいた資料を見直して、評価の仕方について考え直してみます。また相談させてもらうかもしれません。」

    人事担当者: 「ありがとうございます!Aさんのその前向きな姿勢、本当に心強いです。何か困ったことがあれば、遠慮なくいつでもご連絡くださいね。」

    指導の際の追加のヒント

    「私」メッセージを使う: 「あなたは甘い/辛い」ではなく、「私の部署で確認したところ、○○という傾向が見られました」のように、主語を「私(人事部)」にして客観的な事実として伝えます。

    非難ではなく「相談」の姿勢: 「指摘」や「命令」ではなく、「一緒に解決策を考えたい」という「相談」のスタンスで臨みましょう。

    具体的な改善行動を促す: 「意識を変えてください」ではなく、「今期は○○を意識して評価してみてください」など、具体的な行動目標を設定します。

    成功体験の共有: 過去に評価が改善した管理職の事例があれば、個人情報に配慮しつつ共有することも有効です。

    これらのアプローチを通じて、管理職が納得し、自律的に評価行動を改善できるよう支援することが重要です。


    会社事務入門評価制度のあらまし人事考課における評価の甘辛調整方法>このページ

  • 自己評価制度について

    自己評価制度とは

    自己評価制度は、本人から見た評価を、会社の求めにより提出する制度です。

    多くの会社では、自己評価制度を評価制度を補完する仕組みとして活用しています。上司の一方的な評価を補完し、正当な評価を実現することを目的としています。

    自己評価の評価段階は、上司の評価段階と同様で、通常はS・A・B・C・Dの5段階です。

    自己評価用紙に記載された項目ごとに、5段階で評価を記入します。

    自己評価の活用

    自己評価制度を実施する場合、一般的には、部下の目標設定と、上司と部下の面談が組み込まれます。

    評価者面談のやり方

    上司は面談を通じて、部下の目標設定を支援し、達成状態を共に確認し、今後は何をすればよいか、などについて指導します。

    したがって、自己評価制度がうまく動くかどうかは、上司次第とも言えます。管理職に対する教育、マニュアル整備等による支援が重要です。

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  • 自己申告制度について

    自己申告制度とは

    自己申告制度は、配属や勤務地などについての希望を、会社の求めにより提出する制度です。

    人材の配置や研修に活用する

    社員に将来のキャリア意向や担当している仕事への意欲や適性等を聞くことで、適材適所の人事異動やキャリア開発のための研修などに活用することができます。

    ただし、本人の思いが現実離れしていることもあるので、単純に希望をかなえる方向で動くことがよいとは限りません。

    受け止める上司の側に、やるべきことを前に進める実行力や、できないことをきちんと説明する説得力が無ければ、不満・不信をつのらせるだけになりかねません。

    職場環境の改善に活用する

    職場が抱えている問題点が浮き彫りになることがあります。不満や問題点を取り上げて改善を図り解消する努力をすることで、職場環境の改善に活用することができます。

    自己申告制度を実施するとこれまで隠れていた問題点があぶりだされることがあります。そのような問題点は、一人の上司の力では解決が難しいものです。個々の上司に対する会社としてのバックアップ体制をつくる必要があります。

    自己申告制度の手順

    実施時期

    例えば、4月に定期異動を実施する会社であれば、意向調査は12月賞与の評価が実施される10月頃に実施することが多いようです。自社の状況によって決めればよいでしょう。

    実施の流れ

    人事から自己申告書を配布する

    社員は自己申告書に記入して上司または人事に提出する

    提出を受けて必要に応じて面談を実施する

    人事と関係部署は対象社員の異動などの希望について協議する

    上司または人事はフィードバック面談を行い、会社の意向を説明する

    自己申告書

    自己申告書の設問の設定にあたっては、社員にストレスがかからないように、記入のしやすさを考慮しましょう。できるだけチェック欄を設け、自由記入欄を少なくするようにしましょう。

    一般的な項目を説明します。

    現在の仕事に対する意見

    現在の仕事内容や状況について聞きます。仕事の量や質、満足度などを聞きます。

    仕事への適性について

    現在の仕事の適性を聞きます。得意な仕事、不慣れな仕事、苦手な仕事などを聞きます。

    キャリアについての意向

    将来のキャリアについてどのように考えているか聞きます。

    異動についての希望

    異動についての希望を聞きます。配置換え、転勤、昇任などの希望を聞きます。今の職位が重荷になっていることもあるので、降任についての記載欄もあればよいでしょう。

    その他

    一般的には自由意見欄を設けます。

    自己申告制度の問題点と対策

    本人が上司に気兼ねして本音で記載しないこともあります。できるだけ本音を引き出すために、記載内容によって評価に影響を与えたり、不利益を受けることがないことを表明して、不安を取り除く必要があります。

    また、自己申告制度は、自分の能力やキャリアを向上させるための資料として、主体的な活用が期待されていること、希望がかなえられるとは限らないことなどの、制度自体の説明も欠かせません。

    希望や意見が反映されないと自己申告制度に批判的になりがちです。希望が通らなかった社員に対して、その理由を個別に説明し納得を得る努力が必要です。

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