カテゴリー: 評価制度

  • 人事考課における評価の甘辛調整方法

    人事考課で管理職によって評価に甘い辛いが出てしまうのは、多くの企業で共通の課題です。これを補正し、より公平で納得感のある評価を実現するための方法をいくつかご紹介します。

    評価者訓練(キャリブレーション研修)の実施

    最も重要かつ効果的な方法の一つです。評価基準の解釈の統一、評価スキルの向上、評価者間の認識合わせを行います。

    内容:

    評価項目の定義や評価基準の具体的な説明。

    実際の評価事例を用いたディスカッションやグループワーク。

    評価エラー(ハロー効果、中心化傾向、寛大化傾向、厳格化傾向など)についての学習と対策。

    評価者間の認識のズレを認識し、調整する機会を設ける。

    ポイント:

    定期的に実施し、評価期間中も適宜フォローアップを行うことで、評価者間の目線を合わせ続けることが重要です。

    評価者研修について

    評価基準・期待値の明確化と共有

    評価のブレをなくすためには、評価される側も評価する側も、何が期待されているのか、どのような基準で評価されるのかを明確に理解している必要があります。

    詳細な評価基準の作成: 各評価項目について、具体的な行動例や成果レベルを尺度(ルーブリック)として明記します。例えば、「期待を上回る」「期待通り」「改善が必要」といったレベルごとに、具体的な行動や成果を記述します。

    目標設定の明確化: 部下の目標設定時に、達成度合いを測る具体的な指標(KPIなど)を明確にし、評価者と被評価者間で合意します。

    複数評価者による評価

    一人の評価者の主観に頼らず、複数の視点を取り入れることで、評価の偏りを軽減します。

    直接の上司以外の評価者: 部門長や他部署の連携の多い管理職など、複数の視点から評価を行うことを検討します。

    評価調整会議(キャリブレーション会議)の実施

    評価提出後に、複数の管理職が集まり、評価結果を比較・検討し、調整を行う会議です。

    目的:

    管理職間で評価の妥当性を確認し、甘すぎたり辛すぎたりする評価がないか、部門間のバランスが取れているかなどを協議します。

    内容:

    各管理職が担当部下の評価結果を報告し、その根拠を説明します。

    特に高い評価や低い評価、評価者間で意見が分かれるケースについて集中的に議論します。

    客観的なデータ(過去の評価履歴、目標達成度、行動データなど)も参考にしながら調整を行います。

    ポイント:

    会議を主導する人事部門は、公平性を保ちつつ、適切な調整が行われるようファシリテーションを行います。

    評価システムの活用とデータ分析

    人事考課システムを導入している場合、その機能を活用して評価の偏りを分析できます。

    評価分布の可視化: 各管理職の評価結果の分布(平均点、高評価・低評価の割合など)を比較し、極端な偏りがないかを確認します。

    過去データとの比較: 同じ管理職の過去の評価傾向や、部署全体の評価傾向と比較することで、異常値を特定しやすくなります。

    フィードバック: データに基づいて、個別の管理職に評価傾向のフィードバックを行い、改善を促します。

    人事部門による監視と介入

    人事部門は、人事考課プロセス全体を統括し、公平性が保たれているか監視する役割を担います。

    評価内容のレビュー: 必要に応じて、提出された評価内容を人事部門がレビューし、評価の妥当性に疑問がある場合は管理職に再考を促します。

    個別指導: 特に評価が甘い・辛い傾向が見られる管理職に対しては、個別にフィードバックや指導を行います。

    これらの方法を組み合わせることで、人事考課の公平性と透明性を高め、部下の納得感を醸成し、最終的には組織全体のパフォーマンス向上につなげることができます。

    評価の甘辛傾向を改善するための説得法(人事担当者向け)

    評価結果の分布に基づく点数調整の是非

    各管理職の評価結果の分布を比較し、甘い管理職から点数を控除し、辛い管理職に点数を加算するという方法は、一見すると公平性を担保できるように思えますが、実際には多くの問題点やデメリットをはらんでおり、推奨できません。

    メリット

    評価者間の公平性の担保: 形式的には、評価者の「甘い」「辛い」といった個人的な傾向を数値的に是正し、評価者間の不公平感を解消できる可能性があると考えられます。

    調整プロセスの効率化: 毎回個別の評価内容を精査する手間を省き、機械的に調整できるため、人事部門の工数削減につながると考えられるかもしれません。

    相対評価の強制: 全体として特定の分布(例:正規分布)に近づけることで、従業員間の相対的な位置づけを明確にしようとする意図があるかもしれません。

    デメリット・問題点(強く推奨しない理由)

    しかし、これらのメリットを大きく上回るデメリットが存在します。

    1.評価の本質からの逸脱:

    人事考課は、部下のパフォーマンスや能力を正確に評価し、成長を促すためのものです。機械的な点数調整は、この本質的な目的から外れ、評価の信頼性や妥当性を著しく損ないます。

    2.評価者のモチベーション低下と不信感:

    「甘い」と判断された管理職: 正当な評価をしたにもかかわらず点数を減らされることで、評価者としての責任感やモチベーションが低下します。「どうせ調整されるなら適当でいい」という意識が生まれる可能性があります。

    3.「辛い」と判断された管理職への影響:

    不当に高評価を与えられたと感じ、かえって不信感を抱くことがあります。

    結果として、評価制度全体への不信感が募り、エンゲージメントの低下につながります。

    4.被評価者の不満と納得感の欠如:

    自分のパフォーマンスが正しく評価されたと思っても、最終的に点数が調整されることで、「なぜ自分の点数が下がったのか」「なぜあの人の点数が上がったのか」といった疑問や不満が生じます。

    透明性が失われ、評価への納得感が得られにくくなります。

    5.「調整ありき」の評価行動を助長:

    管理職が「どうせ調整されるから」と、最初から極端な評価(甘くつけすぎたり、辛くつけすぎたり)を行うようになる可能性があります。

    これは、正確な評価を困難にし、人事考課制度の形骸化を招きます。

    6.不適切な調整のリスク:

    ある管理職の評価分布が「甘い」ように見えても、それはその部署のメンバーのパフォーマンスが全体的に非常に高かった結果かもしれません。逆もまた然りです。

    そのような状況で一律に点数を調整すると、本来高評価であるべき社員が不当に低評価になったり、その逆が起きたりする可能性があります。これは、評価の公正性を損ないます。

    7.根本的な問題の未解決:

    評価の甘辛が発生する根本原因(評価基準の曖昧さ、評価スキル不足、評価者訓練の不足など)を解決せずに、結果だけを操作しようとする対症療法に過ぎません。

    根本原因を放置することで、将来的に同じ問題が再発したり、より深刻な問題に発展したりする可能性があります。


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  • 評価者研修について

    評価者を対象に研修を実施する

    評価が公正に適切に行われるには、評価を担当する者が、評価制度についての正しい知識とスキルを持っていなければなりません。

    評価は上司が行いますが、上司の立場にいる人は、通常、担当の分野については能力とスキルを持っていますが、評価者に求められる能力やスキルを兼ね備えているとは限りません。

    評価はルールに基づいて実施するもので、そのルールは会社によって若干の違いがあります。したがって、評価者は自社の評価制度についてきちんと理解することが必要です。

    また、人事評価には、評価者によって違いが出てしまう「評価エラー」と呼ばれるものがあります。 この評価エラーの内容を理解してもらう必要があります。

    評価エラーについて

    こうしたことは、資料の配布等で済ませるべきではなく、一定の時間をとってしっかりと勉強してもらうために、研修として実施することが必要です。

    評価される方からすれば、自分を評価する上司が、評価制度についての正しい知識やスキルをもっていなければ、上司に対して不信感を持つことになり、それは評価制度そのものに対する否定的な感情につながるおそれがあります。

    評価者研修の実施時期

    評価者研修は、できれば、特別な変更が無くても定期的に実施することが望ましいでしょう。見直しをしないで評価を続けていくと評価に対する考え方がマンネリ化し、自己流になっていく傾向があります。

    特に、管理職昇格時と評価制度の内容を変更したときは必須です。

    評価者研修の内容

    研修内容は何を主目的にするかで異なります。

    初めて評価者になる人に対する研修では、評価制度そのものについての知識に時間をかけます。

    すでに評価を経験している人に対しては、評価をやってみて苦労したことなどについて事前に聞き取り調査を実施し(調査は全員にやる必要はありません)、その調査結果を研修プログラムに組み込むと良いでしょう。

    一般的に現場のニーズが強いのが面談スキルについての研修です。部下に確定した評価結果をどのように伝えるか、ただ伝えるだけでなく、どのように話すことでモチベーションを高められるか多くの面談者は悩んでいます。

    評価者面談のやり方

    また、目標管理制度を導入している場合には、適切な目標を設定するための知識やスキルを習得させることが必要です。

    評価者研修の進め方

    自社独自の研修を行うのは手間がかかるので、外部研修に派遣したり、一般的なテキストを購入して済ませてしまう傾向があります。

    自社で行えば、会社に現実に使用している規程や書式がそのまま使え、実際の評価の流れも同一ですから、実践的な研修になります。

    参加者の意見等から実際の問題点が浮き彫りになり、改善も早く行うことができます。

    研修プログラムの例

    評価者研修は、実践的なすぐに役立つ研修でなければなりません。しっかりと知識を吸収できるように、講義形式で行う部分はなるべく少なめにして、ロールプレイング形式やケースワーク形式などを取り入れて活気のある研修にしたいものです。

    内容
    手法
    人事考課制度の理解度診断テスト小テスト
    評価制度の仕組みについて講義
    評価をして困ったこと(評価を控えて心配なこと)ワークショップ
    評価者が陥りがちな間違いについて講義
    面談の進め方模擬面談
    上司のコメントの書き方講義

    講師については、社内で適当な人がいなければ、外部に依頼することでもよいでしょう。ただし、会社の現在の制度についてしっかりと理解してもらうことが必要です。

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  • 評価を賞与に反映する

    賞与決定の考え方

    賞与は、成果配分が基本です。会社の業績がよかった時に、その業績に対する貢献度に応じて、大きく貢献してくれた人には多い見返りを提供するものです。

    従業員の方も、やってもやらなくても同じということでは納得しません。

    ただし、問題は、貢献度の測定が難しいので、なかなか皆が納得する結果が出ないことにあります。

    賞与の内訳

    賞与は月の給料と違って、利益に連動させることができます。利益が増えれば賞与が増える、貢献すれば賞与が増えるというのが原則です。

    では、賞与は余分な収入で、あればラッキーな収入かと言えばそうではありません、現実には生活を支える原資の一つであって、金額が簡単に変動しては困るものになっています。

    よって、会社は、業績ベースが基本だとは言いつつも、昨年実績を考慮し、業績の変化にかかわらず、どのようにすれば捻出できるかを考えるようになっています。その結果、どうしても基本給などに連動する固定的部分が増加し、貢献度に対して支払う部分は縮小してきているのが現実です。

    賞与額の決定

    賞与を個人別に決定する前に、まず賞与支給可能額、すなわち賞与源資を確定します。

    次に、この原資を3つに分けます。一つは評価により配分する額、一つは生活給として配分する額、もう一つは調整による支給額です。例えば、評価による支給額を7割、生活給による支給額を2割、調整の原資を1割などと決めます。

    評価による支給額の決定

    では、はじめに評価による配分の計算をします。下のような半分の基準になる表を用意します。評価に対応する数字は会社ごとに実情を反映して定めます。下の表の金額は仮に数字を入れたものです。

    資格評語評価単位
    部長資格20
    18
    16
    14
    12
    課長資格16
    14
    12
    10
    係長資格10
    一般資格

    上の表によると、評語Sで課長資格の場合の評価単位は16です。

    次に総評価単位を計算します。

    資格評語評価単位(A)該当人数(B)A×B
    部長資格20
    18
    16
    14
    12
    課長資格16
    14
    12
    10
    係長資格10
    一般資格
    合計(総評価単位)

    この表の合計欄が総評価単位です。

    最初に決定した賞与資金のうち評価で配分する部分を、この総評価単位で割ります。これを評価単価といいます。

    各人の評価単位に評価単価を掛けると各自に支給する評価による賞与額が算出されます。

    資格による支給額の決定

    各資格の持ち点を決めます。例えば、部長資格は10、課長資格は7、係長資格は5とします。次の表で持ち点の総合計を出します。

    資格資格別持ち点(A)人数(B)
    A×B
    部長資格10 
     
    課長資格 
     
    係長資格 
     
    合計持ち点合計

    賞与資金のうち、資格により支給する部分を、資格別持ち点の合計で割ると資格単価になります。

    各人の資格別持ち点に資格単価を掛けると各自に支給する資格による賞与額が算出されます。

    調整による支給額

    上記の評価による支給額と生活給としての支給額で、賞与支給額は9割方決まるのが一般的です。残りの1割を、社長か人事担当役員が微調整する調整財源に用います。

    調整財源は、だれかの分を削って誰かの分を足すというやり方では、やっているうちに制度のルールがくずれてしまい、結果的に評価制度の信用度を失います。別個の調整財源を用意して、特に貢献度が大きかった人に加算してやる方法がよいでしょう。

    賞与支給一覧表

    評価により配分する額、生活給として配分する額、調整による支給額、それぞれを次のような表で一覧にして合計を計算します。

    氏名評語評価単位(A)評価単価(B)評価配分(A×B=C)
         
         
         
         
         
    合計    
    資格別持ち点(D)資格単価(E)資格配分(D×E=F)調整(G)支給額(C+F+G)
         
         
         
         
         
    合計    

    このような表をエクセルなどで作成します。

    賞与の減額

    出勤率によって賞与を減額することは多くの会社で採られているやり方です。ただし、休みが多くても、その人の成績がよければ減額する必要はないと考えるやり方もあります。特に有給休暇を使うと評価が悪くなるというような運用をしてはいけません。


    会社事務入門賃金・給与・報酬の基礎知識賞与を支給するときはどういう点を注意すればよいですか?>このページ

  • 評価を昇給に反映する

    賃金表を作る

    人事考課を昇給に反映させるには、賃金表が作られていて、従業員それぞれの賃金が賃金表のどこかに位置づけられていることが前提になります。

    職能給制度で用いられる賃金表は、一般的に「等級」と「号俸」の2つの軸で構成されるマトリクス(二次元表) 形式で示されます。この表は、従業員の能力(職能)を等級で分類し、さらにその等級内での習熟度や評価結果を号俸で細かく表現するものです。

    以下に、職能給制度で使われる一般的な賃金表の構造を、概念的な例として示します。

    賃金表の一般的な構造

    この表は、等級(社員の職能ランク) と号俸(等級内の細かなステップ) に応じた月額基本給のモデルです。

    号俸1級(一般社員)2級(係長クラス)3級(課長代理クラス)4級(課長クラス)5級(部長クラス)
    10号¥220,000¥270,000¥350,000¥450,000¥550,000
    9号¥215,000¥265,000¥345,000¥445,000¥545,000
    8号¥210,000¥260,000¥340,000¥440,000¥540,000
    7号¥205,000¥255,000¥335,000¥435,000¥535,000
    6号¥200,000¥250,000¥330,000¥430,000¥530,000
    5号¥195,000¥245,000¥325,000¥425,000¥525,000
    4号¥190,000¥240,000¥320,000¥420,000¥520,000
    3号¥185,000¥235,000¥315,000¥415,000¥515,000
    2号¥180,000¥230,000¥310,000¥410,000¥510,000
    1号¥175,000¥225,000¥305,000¥405,000¥505,000

    表の見方

    • 等級(縦軸): 従業員の職務遂行能力や求められる役割のレベルを示します。一般的に、等級が上がるほど、職務の難易度や責任が大きくなり、基本給も上がります。例では、1級が新入社員や一般社員、5級が管理職の最上位クラスを想定しています。
    • 号俸(横軸): 同じ等級内での能力の熟練度や、人事考課の結果を反映させるための細かなステップです。号俸は通常、毎年人事考課の結果に応じて1〜数号ずつ上がります。これにより、同じ等級の社員でも、評価や経験年数によって給与に差をつけることができます。

    職能給賃金表の主な特徴

    • 能力主義: 等級は、職務内容ではなく「社員が持つ能力」によって決定されます。そのため、同じ職務についている社員でも、能力が認められれば上の等級に昇格する可能性があります。
    • 安定性: 1号俸あたりの昇給額は比較的固定されているため、給与の予測がしやすくなります。
    • 昇給の仕組み: 毎年、人事考課の結果に基づいて、どのくらい号俸が上がるかが決定されます。前回の回答で示したように、「評価Sなら4号アップ、評価Bなら2号アップ」といった形で運用されます。

    この賃金表はあくまで概念的な例であり、実際の金額、等級数、号俸幅は企業や業界、地域によって大きく異なります。また、基本給に加えて、役職手当や住宅手当、家族手当などが別途支給されるのが一般的です。

    評価を参考に昇給幅を決定する

    一般的に、職能給制度における人事考課の結果は、従業員の等級と評価に応じて、次年度の号俸昇給に反映されます。号俸昇給の仕組みは企業によって異なりますが、ここでは一般的なモデルを提示します。

    職能給制度の一般的なモデル

    この表は、人事考課の評価ランク(S、A、B、C、D) と、社員の等級(1級~5級) に応じて、次年度に何号の号俸がアップするかを示しています。

    等級S評価(特進)A評価(優秀)B評価(標準)C評価(努力)D評価(降給)
    5級5号4号3号2号0号
    4級5号4号3号2号0号
    3級5号4号3号2号0号
    2級4号3号2号1号0号
    1級4号3号2号1号0号

    表の見方

    • S評価(特進): 非常に優秀な成績を収めた社員で、標準よりも大幅に高い昇給となります。
    • A評価(優秀): 期待を上回る成果を出した社員で、標準よりも高い昇給となります。
    • B評価(標準): 期待通りの成果を出した社員で、一般的な昇給となります。
    • C評価(努力): 改善が必要な点があった社員で、昇給幅が抑えられます。
    • D評価(降給): 評価が著しく低かった社員で、昇給は見送られ、場合によっては号俸が下がる(降給)こともあります。

    号俸とは、基本給を細かく分けた単位で、号俸が1つ上がると給与が一定額増えます。上記の表では、等級が高いほど、そして評価が高いほど、アップする号俸数が増えるのが一般的です。

    この表はあくまで一例であり、実際の昇給ルールは企業の人事制度によって大きく異なります。企業によっては、号俸昇給のほかに、等級そのものが上がる昇格や、基本給を大きく見直すベースアップと組み合わせることもあります。

    運用は慎重に

    評価制度が動き出すと、制度が独り歩きしがちです。100%完璧な評価制度というものは無いけれども、何らかの方法で従業員の仕事振りを判定しなければならない。ほかに適切な方法が見当たらないので、便宜的に今の評価制度を実施している。という現実を、経営者は忘れてはいけません。

    よって、上がってきた評価結果を、経営者の目で吟味し、時には修正を加えることも経営者の仕事になります。ドラスティックな変化を与えることが、発奮するきっかけになれば良いのですが、やる気を失う、反発するだけの結果になることもあります。よい人には高リターンを、よくない人にはその反対、評価制度はそういう方向を指し示していますが、経営者は、その結果が、当人やまわりに与える影響まで考えを及ぼさなければなりません。

    せっかく評価制度を実施した以上、その結果を賃金に反映しなければならないと思い込んでしまうと、意に反して不満足な結果に終わることがあります。管理職の努力を無にすることなく、評価される人へのショックをやわらげ、全体として組織の底上げをはかる、経営者の手腕が期待される場面です。


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  • 評価項目の決め方

    評価項目にはどういうものがあるか

    評価(人事考課)を行う際に、最初に決めなければならないのは、どういうところを評価の対象にするかです。評価の項目といいます。

    評価の項目は、会社によって違いますが、おおむね次の3つの項目で評価しています。

    能力の評価

    知識や行動力など、仕事を遂行する能力がどれくらいあるかを判定します。その能力が仕事に生かされたかどうかは考慮しません。あくまでも保有している能力が対象です。どんな能力があればよいかは、評価制度を作る際に定めておきます。

    態度の評価

    積極性や責任感、協調性など、仕事をしている様子を評価します。「頑張っている」「あいさつがいい」などはこの項目で評価します。

    業績の評価

    一定期間の仕事の成果を判断します。営業部門は把握しやすいのですが、成果を把握しにくい部門もあります。仕事の改善や会社の知名度をあげたなど、数字で表しにくい部分もしっかり評価する必要があります。

    自社に適した評価項目にする

    評価の項目は、参考書を参考にしてよいのですが、社長が自分の会社では何が大事と考えるかということで項目の内容も力点も違ってきます。

    折衝力が必要であるとか、明るいほうがいいとか、何より実績だとか、いろいろな考えがあると思います。中小企業向けの標準的な成績評価報告書を作成したので参考にしてください。

    成績評価報告書のサンプル

    (評価期間:令和  年  月  日より令和  年  月  日)

    評価者氏名:
    1次評価者氏名:
    2次評価者氏名:

    別添の評価基準表を参考に評価項目ごとに評価を実施してください。評価点数欄には、次の点数を記入します。

    S評価=14点 A評価=12点 B評価=10点 C評価=8点 D評価=6点

    評価項目ごとに、どの評価段階に当てはまるかを考えてください。5段階評価です。とても優れているがS評価、まったくだめがD評価、普通がB評価です。

    評価項目1次評価点数2次評価点数
    日常業務は一人でこなせるか
    仕事への積極性はどうか
    改善や工夫の提案はあるか
    安全衛生への気配りはどうか
    笑顔で応対できているか
    整理整頓はどうか
    規程やルールは守ったか
    無断欠勤はどうか
    遅刻はどうか
    10守秘義務は守っていたか
    11度を越えたさぼりはなかったか
    12備品をていねいに扱うか
    13敬語の使い方は適切か
    14挨拶はどうか
    15指示の受け方はどうか
    16部下又は後輩への指導はどうか
    17同僚との協力はどうか
    18責任逃れをしないか
    19会議等での発言はあるか
    20私語が多くないか
    合計

    評価項目と評価基準は、一度決めると毎年踏襲しがちですが、できれば、それぞれの会社の経営理念や社員の期待を反映して年々検討を加えるべきです。

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  • 評価のスケジュール

    評価の主な日程

    評価の日程を決定します。流れはおおむね次のようになります。通常は年2〜3回、賃上前と賞与支給前に実施します。

    評価用紙の作成

    評価者教育の実施

    評価用紙を管理職に配布

    回収

    人事部門で個人別の集計表を作成する

    人事部門が甘辛の補正など一定の調整をし、各人別の評語案を作成する

    役員等による人事会議を開催し、各人別の評語を決定する。

    このように手順を検討すると、準備に入ってから終わるまで、すでに人事考課制度に実績がある会社でも、最低でも1ヶ月前から準備が必要なことがわかります。年2回の評価を実施する会社であれば、6月と12月が賞与の支給月とすれば、最新の評価を賞与に生かすためには、5月1日準備開始、5月末には評価決定済みという具合にいきたいものです。

    評価実施のスケジュール例

    4月中   評価者研修を実施する
    5月 1日 評価用紙などの配布資料を準備する
    5月 8日 評価用紙などを評価者に配布する
    5月15日 締切日に評価用紙を回収する
    5月22日 人事部門で集計と評価案を決定 人事委員会に提出
    5月25日 人事委員会の審議終了 評価の最終決定
    5月29日 人事部門で記録を整備

    会社の規模によっては、上位の管理職による2次評価、あるいは調整評価を間にはさみます。

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