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評価制度

評価の甘辛傾向を改善するための説得法(人事担当者向け)

Last Updated on 2025年7月28日 by

評価の甘い・辛い傾向が見られる管理職への個別指導は、デリケートで難しい課題です。単に「あなたの評価は甘い」「辛い」と伝えるだけでは、相手は納得せず、反発したり、評価の質がさらに低下したりする可能性があります。

重要なのは、評価者のプライドを尊重しつつ、客観的なデータに基づき、会社として求める評価のあり方と、それが評価者自身や部下にもたらすメリットを論理的かつ共感的に伝えることです。

説得のポイント

1.データに基づいた客観的な事実提示: 感情論ではなく、具体的な評価分布データや過去の傾向などを示し、「なぜ問題なのか」を明確にします。

2.評価者の意図を理解しようとする姿勢: まずは相手の評価に対する考えや、そう評価するに至った背景を聞く姿勢を見せましょう。

3.評価の目的を再確認: 人事考課が単なる点数付けではなく、部下の成長支援や適正な処遇、ひいては組織全体のパフォーマンス向上に繋がることを改めて伝えます。

4.評価者自身へのメリットを提示: 公平で適切な評価が、評価者自身のマネジメント能力向上や、部下からの信頼獲得に繋がることを伝えます。

5.具体的な改善策の提示とサポート: 「どうすれば良いか」を明確に示し、人事部門としてサポートする姿勢を見せます。

6.継続的なフォローアップの約束: 一度で完璧にならなくても、継続的に改善を支援する姿勢を示します。

会話例:評価が甘い管理職の場合

登場人物:

人事担当者:○○さん

評価が甘い傾向のある管理職:Aさん

導入:Aさんの評価への感謝と今日の目的の共有

人事担当者: 「Aさん、お忙しいところありがとうございます。先日提出いただいた人事考課の件でお話しさせていただきたく、お時間をいただきました。」

Aさん: 「いえ、とんでもないです。何かありましたか?」

人事担当者: 「はい。Aさんの評価結果を全体的に拝見して、いくつか気になる点があり、今日はその改善についてご相談したいと思っています。決してAさんのこれまでの評価を否定するものではありませんので、率直なご意見をお聞かせいただけますと幸いです。」

事実の提示:データと客観的な状況の説明

人事担当者: 「まず、こちらをご覧ください。(評価分布グラフや過去の評価傾向データを示す)これは、Aさんの担当されている部下の方々の評価分布と、他部署の評価分布を比較したものです。Aさんの部署では、S評価やA評価といった高評価の割合が他部署と比較してかなり高く、平均点も突出して高い傾向が見られます。」

Aさん: 「そうですね、私の部署のメンバーはみんな本当に頑張っていますから。特にB君やCさんは目覚ましい成長を遂げていますし、Dさんもベテランで安定感がありますからね。」

評価者の意図理解:傾聴と共感

人事担当者: 「Aさんの部下への深い理解と期待、そして個々の努力を高く評価されているお気持ち、とてもよく伝わってきます。それは素晴らしいマネジメントの姿勢だと思います。ただ、一点だけご意見を伺いたいのですが、これだけ高評価が多いと、『評価を上げることで部下のモチベーションを上げたい』というお気持ちや、『部下の可能性を信じてあげたい』というお気持ちも強くあるのでしょうか?」

Aさん: 「そうですね。みんな一生懸命やっているので、私もできるだけ評価してあげたいという気持ちはあります。高い評価をもらえば、もっと頑張ろうと思ってくれるんじゃないかと。」

評価の目的再確認と課題提示:会社として求める評価のあり方

人事担当者: 「Aさんのお気持ち、とてもよく分かります。部下への愛情ゆえのことと理解しています。しかし、人事考課の目的は、単にモチベーションを上げることだけではありません。個々の成長を促し、強みと課題を明確にし、適材適所で最適な人材配置を行い、そして適正な報酬・昇給へと繋げるという重要な役割があります。

Aさんの部署の評価が相対的に高すぎると、例えば、他部署の同レベルのパフォーマンスの社員と比べて、Aさんの部下だけが不当に昇給・昇格しやすくなってしまう可能性があります。そうなると、他部署の社員からは『Aさんの部署は甘いから入りたい』といった不公平感が生まれるかもしれませんし、会社全体としての人件費コントロールや、組織の健全な新陳代謝を阻害してしまうことにも繋がりかねません。」

評価者自身へのメリット提示:Win-Winの関係構築

人事担当者: 「また、部下の方々にとっても、常に高評価ばかりだと、『本当に自分がどこを改善すればもっと成長できるのか』というフィードバックが得にくくなる、という側面もあります。時には、耳の痛いフィードバックこそが、その後の大きな成長に繋がることもあります。

Aさんが、会社全体の基準に沿って、より客観的で適切な評価を行うことは、Aさんご自身のマネジメント能力の向上に直結しますし、部下の方々からも『公平で信頼できる上司』として、より一層の尊敬と信頼を得られることに繋がると信じています。それがAさんのリーダーシップ強化にも貢献するはずです。」

具体的な改善策の提示とサポート

人事担当者: 「そこで、Aさんにお願いしたいのは、評価基準の再確認と、より客観的な視点での評価です。例えば、各評価項目について、『期待通り』『期待を上回る』といった各レベルに、どのような具体的な行動や成果が紐づくのか、改めて人事部の資料や、先日実施した評価者訓練の資料を一緒に見直してみませんか?

必要であれば、私がAさんの部下の方々の業務内容や成果について、Aさんからヒアリングさせていただき、第三者的な視点から評価のポイントを一緒に整理することも可能です。また、評価に迷った際は、いつでも私にご相談ください。」

継続的なフォローアップの約束

人事担当者: 「この件は、一度で全てが解決するものではないと思っています。私も含め、人事部として今後も継続的にサポートさせていただきますので、ぜひ一緒に取り組んでいただけませんか?」

Aさん: 「…そうですね。言われてみれば、確かに私の部署だけ評価が高いのは気になっていました。部下のためを思ってやっていたことですが、それが結果的に彼らの成長機会を奪ったり、会社全体に影響を与えてしまったりする可能性もあるんですね。ご指摘ありがとうございます。改めて、評価基準を見直して、しっかり向き合っていきたいと思います。」

人事担当者: 「ありがとうございます!Aさんのその前向きな姿勢、本当に心強いです。何か困ったことがあれば、遠慮なくいつでもご連絡くださいね。」

会話例:評価が辛い管理職の場合

導入・事実提示:甘い場合と同様にデータを見せる

人事担当者: 「Aさんの部署では、C評価やD評価といった評価の割合が他部署と比較してかなり高く、平均点も低い傾向が見られます。」

評価者の意図理解:傾聴と共感

人事担当者: 「Aさんのお気持ちは、とてもよく分かります。Aさんは、部下の方々に高い期待を寄せ、常に上を目指してほしいという強い思いをお持ちで、だからこそ、安易に高評価を与えず、厳しく接することで成長を促したいと考えていらっしゃるのではないでしょうか?また、『プロである以上、できて当たり前』という意識も強くお持ちなのかもしれませんね。」

Aさん: 「その通りです。私が若い頃はもっと厳しく指導されましたし、それで成長できたと思っています。それに、今の若手は少し優しくするとすぐに慢心してしまうのではないかと心配で。厳しく評価することで、彼らに危機感を持ってほしいんです。」

評価の目的再確認と課題提示:会社として求める評価のあり方

人事担当者: 「Aさんの部下を思う気持ち、そしてプロ意識の高さは素晴らしいです。ただ、人事考課の目的は、単に厳しさで成長を促すことだけではありません。『適切な評価』とは、部下の努力を認め、成果を正当に評価することで、自信とモチベーションを高め、その上で改善点を明確に伝えることです。

Aさんの部署の評価が相対的に低すぎると、例えば、他部署の同レベルのパフォーマンスの社員と比べて、Aさんの部下だけが不当に昇給・昇格しにくくなってしまう可能性があります。そうなると、部下の方々は『いくら頑張っても報われない』と感じ、モチベーションを失い、最悪の場合、離職に繋がってしまうリスクも考えられます。」

評価者自身へのメリット提示:Win-Winの関係構築

人事担当者: 「また、常に厳しい評価ばかりだと、部下は『自分は認められていない』と感じ、萎縮してしまい、積極的にチャレンジしたり、上司に相談したりすることが難しくなるかもしれません。それは、Aさんご自身が期待されている『部下の成長』をむしろ阻害してしまう可能性があります。

Aさんが、会社全体の基準に沿って、ポジティブな面もきちんと評価し、適切なバランスでフィードバックを行うことは、Aさんご自身のリーダーシップの幅を広げ、部下の方々からの信頼をさらに厚くすることに繋がります。部下も、『厳しさの中にもきちんと見てくれている』と感じることで、Aさんの期待に応えようと、より前向きに努力してくれるようになるはずです。」

具体的な改善策の提示とサポート

人事担当者: 「そこで、Aさんにお願いしたいのは、ポジティブな面や、目標達成に向けたプロセスにおける努力も、積極的に評価に反映させる視点です。例えば、各評価項目について、『期待通り』『期待を上回る』といった各レベルに、どのような具体的な行動や成果が紐づくのか、改めて人事部の資料や、先日実施した評価者訓練の資料を一緒に見直してみませんか?

部下の良い点を見つけるためのヒントや、効果的なフィードバックの仕方など、具体的なトレーニングや資料提供も可能です。評価に迷った際は、いつでも私にご相談ください。」

継続的なフォローアップの約束

人事担当者: 「この件は、一度で全てが解決するものではないと思っています。私も含め、人事部として今後も継続的にサポートさせていただきますので、ぜひ一緒に取り組んでいただけませんか?」

Aさん: 「…分かりました。部下のモチベーション低下や離職のリスクがあるというのは、私の本意ではありません。厳しくすることで成長させたいと思っていましたが、逆効果になってしまう可能性もあるのですね。一度、ご提示いただいた資料を見直して、評価の仕方について考え直してみます。また相談させてもらうかもしれません。」

人事担当者: 「ありがとうございます!Aさんのその前向きな姿勢、本当に心強いです。何か困ったことがあれば、遠慮なくいつでもご連絡くださいね。」

指導の際の追加のヒント

「私」メッセージを使う: 「あなたは甘い/辛い」ではなく、「私の部署で確認したところ、○○という傾向が見られました」のように、主語を「私(人事部)」にして客観的な事実として伝えます。

非難ではなく「相談」の姿勢: 「指摘」や「命令」ではなく、「一緒に解決策を考えたい」という「相談」のスタンスで臨みましょう。

具体的な改善行動を促す: 「意識を変えてください」ではなく、「今期は○○を意識して評価してみてください」など、具体的な行動目標を設定します。

成功体験の共有: 過去に評価が改善した管理職の事例があれば、個人情報に配慮しつつ共有することも有効です。

これらのアプローチを通じて、管理職が納得し、自律的に評価行動を改善できるよう支援することが重要です。


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