カテゴリー: 安全衛生管理

  • 会社は従業員の喫煙をどこまで禁止できるか?

    施設内禁煙の法的根拠

    会社は施設内での喫煙を全面的に禁止することができます。

    健康増進法

    • 事業者は、受動喫煙を防止するために必要な措置を講じる努力義務があると規定されています。
    • 学校・病院・行政機関などは原則敷地内禁煙、事業所や飲食店も原則屋内禁煙となりました。→ つまり「受動喫煙防止」の観点から、事業者は施設内禁煙を実施する法的義務や責任があるのです。

    労働契約法

    • 会社は、従業員の安全と健康を確保する安全配慮義務を負っています。喫煙による健康被害から非喫煙者を守ることは、この義務を果たすためにも重要です。

    施設管理権と企業秩序維持件

    • 施設管理権・企業秩序維持権: 会社は、その施設を管理する権限(施設管理権)と、会社の円滑な運営を維持する権限(企業秩序維持権)を持っています。受動喫煙による非喫煙者への健康被害を防止したり、会社全体の健康経営を推進したりすることは、この権限に基づく正当な目的とみなされます。

    喫煙の権利は?

    • 憲法上は「幸福追求権」の一部として、一定の自己決定の自由(喫煙を含む)が尊重されます。ただしこれは絶対的な権利ではなく、他者の権利(健康を守る権利)や公共の福祉によって制限されます。

    休憩時間中の施設内での喫煙

    休憩時間においても会社は施設内の喫煙を禁止することができます。

    労働基準法では、休憩時間は「労働者が労働から離れることを保障された時間」とされており、自由に利用できるのが原則です。しかし、昭和22年の通達(昭和22年9月13日発基第17号)により、「休憩時間の利用について事業場の規律保持上必要な制限を加へることは休憩の目的を害さない限り差し支へないこと。」とされています。

    休憩時間中も含めて禁煙にする処置は、受動喫煙防止、他の労働者への安全配慮の観点から、会社が施設管理権・企業秩序維持権を行使するものであり、「事業場の規律保持上必要な制限」の範囲内とみなされています。

    休憩時間中の敷地外での喫煙

    会社の門付近など、敷地の外での喫煙を禁止することも、状況によっては可能です。

    • 社会的な評価の低下: 会社の門付近での喫煙は、通行人や近隣住民に不快感を与え、会社の社会的評価や信用を損なう可能性があります。特に、清掃やポイ捨ての問題も発生しやすくなります。
    • 労働契約上の義務: 会社は、企業秩序維持の一環として、従業員に対して会社の信用を失墜させるような行為をしないよう命じることができます。
    • 健康増進法による配慮義務: 健康増進法では、喫煙をする際は、周囲の状況に配慮し、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう努めることが義務付けられています。会社の門付近での喫煙は、この配慮義務に違反する可能性が高いです。

    会社の門前など、会社の事業活動と密接に関連し、その評判に直接影響を与える場所での喫煙は、企業秩序維持の観点から禁止できると解釈されます。

    私生活も含めて禁煙させることは?

    一般的に、プライベートな時間や場所での喫煙まで全面的に禁止することは、従業員の私生活上の自由を過度に制限するため、原則として認められません。

    労働契約関係は「職場における労務提供」と「その対価」である賃金を中心とするものです。私生活における喫煙習慣は、業務に直接関係がなければ、会社が介入できる範囲を超えています。

    ただし、勧奨(推奨・サポート)は可能であり、一般的にも広く行われています。

    健康増進法の趣旨(受動喫煙防止・健康づくり推進)に沿う取り組みとして、禁煙外来の費用補助、禁煙キャンペーン、健康診断後の指導などは広く導入されています。

    これは「命令」ではなく、あくまで本人の自主性を尊重した「推奨」なので問題ありません。

    また、職務上の特殊性から必要性が認められる場合は、合理的制限として許される可能性があります。


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  • 産業医は会社の健康診断にどのように関与するのですか?

    産業医の健康診断への関与の範囲

    産業医は「診断そのものを行う」役割ではなく、健康診断の結果を踏まえた事後措置に関与することが中心です。

    準備段階での関与

    実施計画の相談

    健康診断の計画立案への助言: 事業場の特性(有害物質の有無、作業環境など)を考慮し、必要な検査項目の追加や、診断実施時期について事業者へ助言します。

    項目の確認

    健康診断の必須項目は法律で定められていますが、必要に応じて追加検査を助言することがあります。

    例:騒音作業のある工場 → 聴力検査の頻度や方法を助言

    実施段階での関与

    健診自体を診断する必要はなく、結果を基に就業上の措置の意見を述べる。

    産業医が健康診断を実施する場合もありますが、通常は健康診断は、健康診断を実施する医療機関で行います。産業医が自ら健診を行う義務はありません。

    実施後の関与

    異常所見があった場合

    産業医は、健康診断結果を確認し、異常所見がある労働者に対して、受診勧奨(専門医受診のすすめ)、生活習慣の改善指導などを助言します。

    事業主に対して就業上の措置に関する意見(労働時間短縮、配置転換、一時休養など)を述べます。

    産業医は「その労働者の主治医」ではなく、「事業場全体の健康管理を担う立場」です。したがって、自ら健康診断を行っていなくても、健診結果や医療機関からの情報をもとに、就業上の意見を述べることができます。

    例:「高血圧(要医療)」と出た → 産業医は「主治医の治療を受けつつ、一定期間は残業を減らすように」と事業者に意見する。

    例:「腰痛あり」と診断されている → 産業医は「重量物取り扱い作業から外す」よう事業者に助言する。

    実務上のイメージ

    健康診断の「診断」は健診医の役割です。

    産業医は「診断結果をもとに、職場で安全に働けるかどうかを判断し、事業者へ意見を述べる」役割です。


    関連記事:産業医の職務と権限

    会社事務入門労働安全衛生法に基づく健康診断>このページ

  • ストレスチェック後の医師による面接指導とはどういうものか?

    制度の趣旨

    ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された労働者が申し出た場合、事業者は医師による面接指導を受けさせる義務があります。

    目的は、労働者の心身の健康状態を把握し、必要な就業上の措置につなげることです。

    ストレスチェック後の面接指導を行うのは医師のみであり、ストレスチェックの実施者になれる保健師や精神保健福祉士であっても、面接指導を行うことはできません。

    この場合の医師というのは、産業医が想定されていますが、産業に限られません。

    指導とは誰に対するものか

    面接指導の中心は労働者本人に対する医学的な助言・指導です。例としては、生活習慣の見直し、睡眠改善、受診勧奨などです。

    その上で、医師は事業者に対して、労働時間の調整、配置転換、一時休養の必要性など、就業上の措置の意見を提出します。

    面接指導の流れ

    ① 申出

    面接指導の対象者となるのは高ストレス者と判断されるなど医師の面接指導が必要とされた従業員のうち、本人から面接指導を申し出た人です。

    面接指導の申し出は結果の通知から1か月以内に、面接指導の実施は申し出から1か月以内に行う必要があります。

    ② 面接指導の実施

    産業医や精神科医等が本人と面接します。

    内容は、ストレスの原因(職場環境・人間関係・業務量など)、睡眠・食欲・気分の変化、過重労働の有無、心身の健康状態などについて、本人の希望や不安を確認します。

    医師による面接指導は、対面での面接が原則ですが、実施者が表情やしぐさなどを確認できるといった一定の要件を満たせば、テレビ電話などの通信機器を用いた面接指導を行うことができます。これは長時間労働者への医師による面接指導と同様の扱いです。

    ③ 医師の助言・指導(本人向け)

    今後の生活や受診に関するアドバイスをします。必要に応じて専門医療機関の受診を勧めることもあります。

    ④ 医師の意見書作成(事業者向け)

    本人の同意を前提に、事業者へ「就業上の措置に関する意見」を提出します。これには、労働時間の制限、配置変更の検討、休養の必要性などが含まれます。

    医師による意見は、面接指導終了後1か月以内に聴取しなくてはなりません。

    ⑤ 事業者の対応

    医師の意見を踏まえ、就業上の措置を講じる義務があります。ただし、本人のプライバシー保護に十分配慮しなければなりません。

    産業医以外の医師が面接指導した場合

    法令上の位置づけ

    ストレスチェック制度に関する医師の面接指導は、労働安全衛生法に規定されています。

    ここでは「医師による面接指導」とだけ定められており、必ずしも産業医に限られていません。つまり、他の医師でも実施可能です。

    ただし、労働安全衛生法で、産業医は事業者に対して労働者の健康管理について意見を述べる役割を担っています。したがって、実務上は以下のように整理されます。

    実務上の扱い

    面接指導を行った医師は、事業者に「就業上の措置に関する意見書」を提出します。

    その内容を踏まえて事業者は就業上の措置を検討しますが、その際に産業医の職務と権限を考慮して、事業者から産業医に情報を共有する必要があります。

    その他実務上のポイント

    面接指導は医師と労働者との信頼関係が前提で、守秘義務が重要になります。したがって、事業者に伝えるのは「必要最小限の意見」であり、診断名など詳細は伝えられないことがあります。

    面談の記録は、実施後5年間保存することが義務付けられています。

    面接指導を申し出た(あるいは申し出ない)こと、面接指導の結果などを理由として、その労働者に対して不利益取り扱いをしてはいけません。


    関連記事:産業医の職務と権限

    会社事務入門ストレスチェックのあらまし>このページ

  • 産業医が「意見」を述べるのはどういうときですか?

    産業医が意見を述べる場面は多岐にわたります。その意見は主に事業者に述べられ、その強制力は状況によって異なります。

    意見を述べる主な場面

    産業医が意見を述べる場面は、労働安全衛生法や関連法令に基づき、主に以下のものが挙げられます。

    健康診断の結果に基づく意見: 健康診断で異常の所見があった労働者について、就業上の措置(就業場所の変更、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少など)に関する意見を事業者に述べます。

    長時間労働者への面接指導後の意見: 長時間労働者に対する面接指導の結果、その労働者の健康を確保するために必要な措置について意見を述べます。

    ストレスチェック後の高ストレス者への面接指導後の意見: ストレスチェックで高ストレスと判定され、面接指導を受けた労働者について、就業上の措置に関する意見を述べます。

    職場巡視後の意見: 月1回(特定の要件を満たす場合は2か月に1回)の職場巡視を行い、作業方法や衛生状態に問題がある場合に改善を求める意見を述べます。

    衛生委員会での意見: 衛生委員会に出席し、職場の衛生管理や労働者の健康確保に関する事項について、医学的な専門家としての意見を述べます。

    休職・復職判定に関する意見: 傷病により休職していた労働者の復職の可否や、復職後の就業上の配慮(短時間勤務、業務内容の制限など)に関する意見を述べます。

    意見を述べる相手

    産業医が意見を述べる相手は、原則として事業者(会社)です。具体的には、労働者の健康管理を統括する人事担当者や、事業場の責任者である事業場長などに対して意見が伝えられます。

    意見の強制力

    産業医の意見には、法的な強制力はありません。しかし、多くの場面で事業者はその意見を尊重し、必要な措置を講じる義務があります。

    労働安全衛生法上の義務: 健康診断や面接指導後の意見に関して、労働安全衛生法では「事業者は、医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずること」と定められています。これにより、事業者は産業医の意見を軽視することはできません。

    安全配慮義務: 企業には、労働者が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります。産業医の意見を無視して労働者の健康が損なわれた場合、この義務違反として、損害賠償責任などを問われる可能性があります。

    したがって、産業医の意見は直接的に「〇〇しなければならない」という強制力を持つわけではありませんが、事業者が意見を無視することは、法律上の義務違反や安全配慮義務違反につながるリスクが高いため、実質的には強い影響力を持つと言えます。


    会社事務入門産業医とはどういう制度ですか?産業医の職務と権限>このページ

  • 産業医は衛生委員会に「出席」しなければならないか?

    規定上、産業医は衛生委員会のメンバー(委員)として指定されている場合がほとんどです。欠席が続くことは望ましくありません。

    衛生委員会の構成

    労働安全衛生法により、衛生委員会のメンバーには以下の者が含まれることが義務付けられています。

    • 総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者
    • 衛生管理者
    • 産業医
    • 労働者の中から、事業者が指名した者

    産業医を衛生委員会の委員として選任することは、労働安全衛生法で義務付けられています(第18条第2項)。

    このため、法律上、常時50人以上の労働者がいる事業場では、産業医は衛生委員会の委員として選任しなければなりません。

    欠席することの問題点

    しかし、その委員である産業医が毎回(月1回以上開催)の委員会に出席することは、法律で義務付けられていません。出席することが前提になっているのですが、直接的に出席を義務付ける規定はありません。

    しかし、次の点に注意しなければなりません。

    法的要件の不履行: 産業医が委員会のメンバーとして選任されていながら出席しない状態が常態化すると、法律で定められた委員会の構成要件を満たしていないとみなされる可能性があります。

    専門的助言の欠如: 委員会の目的は、専門家の意見を聞き、労働者の健康と安全に関する具体的な対策を議論することです。産業医が出席しないと、この目的が果たせません。議事録の確認だけでは、その場の議論の背景やニュアンスを理解することは難しく、的確な助言を得ることは困難です。

    「名義貸し」の疑い: 委員会への出席や職務遂行が不十分である場合、産業医としての役割を適切に果たしていない「名義貸し」と判断されるリスクがあります。

    したがって、法律上、出席しないことへの強制力はないものの、企業の健康経営やリスク管理の観点から、産業医にはできる限り衛生委員会に出席してもらうことが強く推奨されます。

    解決策

    産業医の出席が難しい場合には、以下の方法で対応を検討してください。

    出席頻度の調整: 法律上、毎月1回以上開催することが義務付けられていますが、毎回必ず産業医が出席しなければならないとまでは定められていません。産業医と相談し、たとえば2か月に1回は出席してもらうなど、出席頻度を柔軟に調整することが現実的な対応策となります。

    オンラインでの出席: 遠方や多忙な産業医でも参加しやすいよう、オンライン会議システムを利用して委員会に出席してもらうことを提案してください。これにより、移動時間を削減し、出席率を高めることが可能です。

    衛生委員会の議題の事前共有: 委員会で議論する内容を事前に産業医に共有し、書面で意見をもらう体制を整えることも有効です。ただし、これは出席に代わるものではなく、あくまで補助的な手段とすべきです。


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  • 医師による面接指導とはどういうものか?

    労働安全衛生法に基づき義務付けられている医師による面接指導は、長時間労働者への面接指導と、ストレスチェックによる高ストレス者への面接指導です。

    長時間労働者への面接指導

    これは、労働者の過重労働による健康障害を予防するために設けられた制度です。

    対象者は

    時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり100時間を超える者:事業者は、対象となる労働者に対して面接指導の実施を義務付けられます。

    時間外・休日労働時間が1ヶ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者:この場合、労働者からの申し出があれば、事業者は面接指導を実施する義務があります。

    研究開発業務従事者や高度プロフェッショナル制度適用者:特定の条件を満たす場合も、この面接指導の対象となります。

    関連記事:長時間労働者への医師による面接指導とはどういうものか?

    ストレスチェックによる高ストレス者への面接指導

    これは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することを目的とした制度です。

    対象者は

    ストレスチェックの結果、医師が「高ストレス者」と判定した労働者。

    ただし、面接指導を受けるかどうかは労働者本人の意思に委ねられており、本人の申し出があった場合に事業者は面接指導を実施する義務があります。

    関連記事:ストレスチェック後の医師による面接指導とはどういうものか?

    医師による保健指導

    これら2つの「面接指導」とは別に、「保健指導」というものがあります。

    これは、健康診断の結果、異常の所見があった労働者に対して行われる指導で、事業者の努力義務とされています。面接指導が「労働時間」や「ストレス」といった特定の要因に基づく健康管理であるのに対し、保健指導は「健康診断の結果」に基づく健康管理という点で異なります。

    人事としてこれらの制度を運用する際は、各面接指導の対象者を正確に把握し、労働者への周知徹底、そして面接指導後の医師の意見に基づいた適切な措置を講じることが重要となります。

    ここで言う医師は産業医なのか?

    「医師による」という規定は、「産業医による」ことだけを意味するものではありません。労働安全衛生法では、企業の規模や状況に応じて、産業医以外の医師が関与することも認められています。

    常時50人未満の労働者を使用する事業場では、産業医の選任義務はありません。この場合、長時間労働者に対する面接指導は、事業者が労働者の健康管理を行うことができると認められる産業医以外の医師(地域産業保健センターの医師など)に依頼することも可能です。

    また、産業医を選任している事業場でも、専門的な知見が必要な場合や、産業医のスケジュールの都合などで、精神科医などの専門医に面接指導を依頼することもあります。

    労働安全衛生法では、面接指導を行うのは「医師」と規定されており、「産業医」とは限定していません。そのため、産業医以外の医師(例:労働者本人が選んだ主治医、会社が契約した外部医師)でも実施できます。

    ただし、産業医が選任されている場合は、面接指導結果や所見を産業医に共有し、事後の健康管理と連携する必要があります。


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