カテゴリー: 懲戒処分

  • 出勤停止処分をするときの注意点

    出勤停止処分とは

    出勤停止処分とは、懲戒処分の一つで、一定期間、従業員の就労を禁止して、事業場へ入場させない処分です。

    懲戒解雇の一つなので処分決定の手続きは厳正に行わなければなりません。例えば、本人の弁明機会を省略すれば手続きの相当性を欠くとして無効になる場合もあります。懲戒処分をするときの注意点のページの「懲戒処分の条件」の項を参考にしてください。

    出勤停止の日数

    出勤停止の期間については、明確な法律上の規制はありませんが、おのずと常識的な限度はあると考えられます。一般的には「7日」が多く「10日」「15日」もあるようです。

    一概には言えませんが、解雇と違って、反省してもう一度会社で頑張って貰おうという趣旨ですから、長くすれば良いというものではないでしょう。数日から1週間程度が妥当ではないでしょうか。非違行為の内容に比して著しく長い出勤停止は処分が過酷すぎるとして無効になる可能性があります。

    関連記事:懲戒処分の軽重は違反の程度に見合う必要がある

    なお、日数を指示するにあたっては、従業員が誤解しないように明確にしなければなりません。

    例えば「8月1日より10日間の出勤停止を命ずる」という通知であれば、その期間中に含まれる休日をどうするのか分かりにくいため、「8月1日より会社の休日を除いて10日間の出勤停止を命ずる」などとします。

    出勤停止は労働日に対して科すものであり、会社の休日のように労働義務がない日を対象するのは矛盾するからです。

    出勤停止中の賃金

    出勤停止処分中は賃金を支給する必要はありません。戒めるための処分なので、むしろ有給の方が問題があるでしょう。

    出勤停止処分の結果により減給にっても労働基準法第91条(減給の制限)は適用されません。

    関連記事:減給処分をするときの注意点

    また、有給休暇を使いたいと申出があっても、そもそも有給休暇は、休養し仕事からくる疲労を回復するための制度ですから、有給休暇の趣旨を逸脱しているということで拒否できます。

    控除される賃金額の計算方法について、明確な法律上の規制はありません。平均賃金を用いる場合が多い様ですが、そのことも就業規則に明記しておきましょう。

    出勤停止中の行動制限

    出勤停止処分は会社に来ないことを義務付けるものです。江戸時代の閉門蟄居のような謹慎を命じることはできません。

    自宅待機との違い

    出勤停止処分と自宅待機の違いに注意してください。

    自宅待機は、懲戒相当のことをした従業員に、処分が決まるまで引き続き業務を担当させるわけにはいかない、調査を円滑に実施するために職場から引き離したい、などの理由により、処分が決定するまでのあいだ処分の調査のために出勤を禁止するものです。

    この用語をあいまいに使っていると、会社の思うところは「自宅待機」であったとしても、懲戒処分の「出勤停止」と見なされることがあります。

    出勤停止処分だと見なされれば、すでに処分を科したということになるので、解雇等の別な懲戒処分を科すことができなくなります。二重処分ということになるからです。自宅待機を命じるときは、調査のための待機であることを明確にしなければなりません。

    関連記事:同じ人を重複して懲戒処分してはいけない

    ポイントの1つは賃金です。懲戒処分の一つとして行われるの出勤停止処分の期間は賃金を支払わないのが普通ですが、自宅待機命令は不正行為の有無の調査など業務命令の一環として行うものですから賃金の支払いが必要です。

    調査をしている段階では従業員に不正があると決めつけるわけにはいかないので、給与全額を支払う必要があります。

    ただし、就業規則や労働契約に、調査のための自宅待機期間には休業手当相当の金額を支払う旨が明確に定められている場合には、平均賃金の60%以上の金額にすることは可能です。

    懲戒処分を予定している者に賃金を支払うのは納得できないかも知れませんが、賃金を支払うことで、この自宅待機が懲戒として行ったものでない証明になります。

    また、自宅待機の期間が長期間にならないように注意してください。必要以上の長期間の自宅待機は、事実上の懲戒処分とみなされる可能性があります。

    また、賃金の60%を適用する場合には、安易に自宅待機を命じることがないように注意が必要です。実質40%の賃金カットをする結果になってしまうので、必要性が乏しい自宅待機を命じたと認められれば、処分無効に発展するリスクがあります。

    出勤停止処分の基準

    何をどれくらいすれば出勤停止処分の対象になるのかという基準を、就業規則で決めておく必要があります。

    就業規則記載例
    (戒告、減給又は出勤停止処分)
    第〇条 会社は従業員に対し懲戒処分をすることがある。従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、戒告、減給又は出勤停止とする。
    (1)正当な理由なく無断欠勤〇日以上に及んだとき
    (2)正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき
    (3)過失により会社に損害を与えたとき
    (4)素行不良で会社内の秩序又は風紀を乱したとき
    (5)第〇条から第〇条の規定に違反したとき
    (6)その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき

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  • 減給処分をするときの注意点

    減給処分とは

    就業規則違反などに対する懲戒処分の一つとして、賃金から一定額を差し引くことを減給処分といいます。ただし、減給できる賃金の上限金額について、労働基準法は次の制限を定めています。

    1.1回の減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えない
    2.1賃金支払期において減給できる額は、その賃金総額の10分の1以内

    関連記事:平均賃金とは

    ここで言う1回とは、懲戒対象の事案1回です。例えば、度重なる遅刻と職場内の危険行為などのように性格が異なる事案であれば別々に数えることができますが、「度重なる遅刻」を懲戒対象にするときに遅刻の1回毎を1回とすることはできません。「度重なる遅刻」として1回です。

    なお、遅刻した時間、欠勤した日などに対して勤怠控除として減給することは減給処分に該当しないので事務的に行うことができます。賃金は労働を提供している時間に対して支払うもので、労働していない時間に払わない(ノーワークノーペイの原則)ことは当然だからです。

    関連記事:欠勤遅刻早退の控除計算

    減給の限度額

    懲戒処分の一つとして減給処分をする場合の制限について例で説明します。実際にはその人の賃金をもとに平均賃金の計算をしなければなりませんが、ここでは大雑把に説明します。

    月の給料が20万円の従業員を減給処分にするとします。この人の月給を30日で割ると約6,660円になります。したがって、1回の減給はその半分の3,330円が最大値になります。

    この1回というのは、処分の対象となった不始末1回に対して1回です。1回(事案一つに対してという意味です)の不始末について、平均賃金の1日分の半額を何回にもわたって減額してもよいという意味ではありません。

    労働基準法の定めに疎い使用者が、「3か月の減給に処す」という処分をして、先の例で、3,330円を3か月にわたって減額したとすれば、9,990円の減給処分ですから、限度金額を超える処分を科したことになり、労働基準法違反となります。

    別の不始末であれば話しは別です。もし、その人が、同じ月にいろいろな種類の異なる不始末をしたのであれば、減給処分が複数回になる場合があります。しかし、その場合には賃金総額の10分の1という定めが生きてきます。

    1賃金支払期の賃金が20万円であれば、その10分の1は2万円です。つまり、3,330円の減給処分を月に6回受ければ、上限に達し、7回目の減給処分は、翌月の賃金から減額しなければならないことになります。

    しかし、同じ月に6回以上の減給処分を受けるということは現実的ではありません。賃金総額の10分の1以内という定めが現実に適用されることはめったにないでしょう。

    日給の半分だけしか減額できないという説明をすると、多くの経営者の方は、たったそれだけの減給では意味がないと感じるようです。減給処分は、処分をしたという事実が重要なのであって、その金額は形式的なものだと考えるべきでしょう。

    減給処分の基準

    何をどれくらいすれば減給処分の対象になるのかという基準を、就業規則で決めておく必要があります。就業規則に定めていない処分をすることはできません。

    就業規則記載例
    (戒告、減給又は出勤停止処分)
    第〇条 会社は従業員に対し懲戒処分をすることがある。従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、戒告、減給又は出勤停止とする。
    (1)正当な理由なく無断欠勤〇日以上に及んだとき
    (2)正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき
    (3)過失により会社に損害を与えたとき
    (4)素行不良で会社内の秩序又は風紀を乱したとき
    (5)第〇条から第〇条の規定に違反したとき
    (6)その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき

    関連記事:仕事ができないことを理由に給与を下げれるか


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  • 戒告処分をするときの注意点

    戒告処分とは

    懲戒処分の中では最も軽い処分に位置づけられます。口頭または文書で公式に注意を与える処分です。始末書の提出をセットにする場合もあります。

    軽い処分ではありますが懲戒解雇の一つなので処分決定の手続きは厳正に行わなければなりません。例えば、本人の弁明機会を省略すれば手続きの相当性を欠くとして無効になる場合もあります。懲戒処分をするときの注意点のページの「懲戒処分の条件」の項を参考にしてください。

    厳重注意処分、譴責(けんせき)処分という名称を用いることもあります。戒告は注意をする処分で譴責は注意に加えて始末書の提出を伴うもの、と区別している会社もありますが、一般的には区別せずに用いられています。

    また、他の懲戒処分と同様に、戒告処分をしたらそれで一件落着としなければなりません。以後の人事考課に影響する仕組みを作っている会社もありますが、何らかの不利益を継続させることになるので二重処分とみなされる可能性があります。また、就業規則に記載していない方法で処分を実施しているとみなされる可能性もあります。注意しましょう。

    始末書について

    通常、戒告処分について就業規則には「始末書を提出させて将来を戒める。」と記載してあるのが一般的です。

    始末書が提出されない場合

    処分を本人に通知したが、処分に納得しない従業員が始末書を提出しないというケースがあります。また、処分には同意するが始末書の提出は嫌だとして提出しないというケースがあります。こういう場合はどうすればよいでしょうか?

    このような場合は、始末書ではなく、事実経緯のみを記載した報告書の提出を求め、それにも応じない場合は、始末書を提出しなかったことを記録して一件落着にしましょう。戒告処分を下したことで会社の意思表示は終わっているのですから、メンツを重んじて書類一枚のことで深追いするのは得策ではありません。

    始末書の提出という業務命令に従わないのですから、業務命令違反でもう一つ処分することがでるという説があります。一方、その事件が戒告処分で決着したのであれば、追加の処分は二重処分にあたる可能性があるという説もあります。後者の方が有力のようです。説が分かれているときは安全策をとる方が無難です。提出しないことを理由とする処分はやらない方がよいでしょう。

    始末書の記載内容

    始末書に何をどう書くかということでもめることがあります。会社としては反省と謝罪を書かせたいが、本人は受け入れがたいという場合です。会社は、一定の指導はできますが、書かないという者に無理に書かせることはできませんし、書かないことを理由に処分するのは無理筋の面があります。

    本人が書ける範囲で書いてもらえばよいでしょう。

    説諭について

    次に「将来を戒める」の部分です。これは、説諭(説教)するということです。しかし、すでに懲戒処分が決定したのですから、クドクドと言い聞かせるのではなく、戒告処分になったという事実を伝え、「このようなことを繰り返さないよう気をつけてください」という程度で終了しましょう。

    戒告処分の基準

    何をどれくらいすれば戒告の対象になるのかという基準を、就業規則で決めておく必要があります。

    就業規則記載例
    (戒告、減給又は出勤停止処分)
    第〇条 会社は従業員に対し懲戒処分をすることがある。従業員が次のいずれかに該当するときは、情状に応じ、戒告、減給又は出勤停止とする。
    (1)正当な理由なく無断欠勤〇日以上に及んだとき
    (2)正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退するなど勤務を怠ったとき
    (3)過失により会社に損害を与えたとき
    (4)素行不良で会社内の秩序又は風紀を乱したとき
    (5)第〇条から第〇条の規定に違反したとき
    (6)その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき

    処分にあたる行為を事前にすべて網羅するのは困難です。当初は簡単に決めておき、不足している事項や不必要な事項に気がついた都度修正を加え、それぞれの会社に適用する就業規則に育てていきましょう。

    就業規則に詳細を決めても、実際の適用が難しい場合もあります。遅刻などのように月に何回などと数字で決めることができるものは良いのですが、例えば、仕事上のミスは、本人の不注意の程度、経験年数、損害や被害の程度等によって懲戒を加減する必要があり、なかなか明確に基準を示すことができません。不公平な処分をしてしまえば、当事者のみならず周りの従業員の士気に悪影響を及ぼすことになり、本末転倒という事態になりかねません。

    戒告処分は軽い処分ではすが、処分を受けるものにとっては重大なことです。軽い処分であっても手続きを簡単にすることはできません。後述する処分手続きを厳守する必要があります。

    重ねての戒告

    就業規則に、「懲戒処分を再三にわたって受けたにもかかわらず、なお改善の見込みがないときは解雇」などという規定があるときは、戒告の繰り返しも解雇事由に該当することになります。

    しかし、しかし、懲戒処分の原則からすれば、一度処分をした件を蒸し返すことはできません。なので、就業規則に解雇条件の一つとして記載してあっても、実際に解雇を審議するときは、過去の処分の回数だけで解雇を適用することはできません。

    個々の非違行為に関連があり、度重なる指導等にも関わらず改善せず、改善の見込みが無いというところまで証明しなければなりません。過去の処分を一つ一つ検討する必要がでてくるので、懲戒処分の記録管理が重要です。

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