カテゴリー: 懲戒処分

  • 懲戒処分の対象にする行為を就業規則に列記する

    懲戒事由

    懲戒処分の対象にする行為を懲戒事由といいます。代表的な懲戒事由としては次のものがあります。

    業務命令違反

    就業に関する命令に従わない行為です。出張、残業、その他仕事上の指示に正当な理由なく従わなかった場合です。

    業務命令に従わなかっただけで懲戒処分が認められるわけではありません。なぜそのようなことになったのか、命令に従わなかった従業員の側に汲むべき事情がないか検討しましょう。また、処分をする場合でも、軽微な違反に対して重い懲戒をすることはできません。

    服務規律違反

    代表的なものとして、無断欠勤、無断職場離脱などがあります。

    ただし、就業規則に無断欠勤の限度日数を定めていたとしても、機械的に処分を実施すると処分無効とされる可能性があります。欠勤や離脱の事情を確認して汲むべき事情があるかどうか検討しましょう。

    また、就業規則やその他の会社規程に定められた事項に違反する行為も服務規律違反として懲戒処分の対象にすることができます。セクハラ、パワハラ等のハラスメント、企業機密の漏えいなどがあります。

    経歴詐称

    採用時に経歴を偽ることです。採用、すわわち労働契約は、信頼関係に基づくので、採用時に経歴、特に学歴を偽ることは信頼関係を揺るがす行為だとして、解雇もやむを得ないという判例があります。

    病歴の秘匿については、その程度や秘匿の事情によっては、懲戒処分を無効とする判決例もあります。

    勤務成績不良

    勤務成績が不良で改善の見込みが無いという理由での解雇はよく聞く事例です。ただし、勤務成績が不良であるという理由での解雇は、裁判になった場合には多くの場合で使用者に不利です。

    私生活上の非行

    勤務時間外の非行については、原則として使用者による懲戒処分はできないとされています。しかし、その非行によって、使用者の利益や名誉が毀損されたとき、あるいは企業秩序に直接の影響がある場合には懲戒処分の対象になるという判例があります。

    また、痴漢行為を繰り返していた社員を懲戒解雇にしたところ、勤務態度などを考慮して懲戒解雇を認めず、退職金の一部支給を相当とした判決もあります。

    就業規則に記載がないと処分できないことがある

    就業規則に、懲戒処分の対象になる行為を具体的に記載し、その列記した行為に該当したときに懲戒処分の対象にできます。この考え方を「就業規則該当事由の原則」といいます。

    逆に言えば、就業規則に列記されていない行為をした者を懲戒処分にするのは難しいということです。

    どう難しいかと言うと、懲戒処分をするときには、「当該従業員の行為は、就業規則第〇条の〇に違反するので〇〇処分とする」などと、根拠になる就業規則の条文を示さなければなりません。これを示せなければ、処分されたことを不服として争いになったときに会社が不利になってしまうのです。

    就業規則に懲戒事由の記載が必要だという最高裁判決があります。

    使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。(フジ興産事件第二小判平15・10・10)

    できるだけ列挙する

    そこでどの就業規則にも、次のような禁止行為が列記されています。

    ① 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき。
    ② 正当な理由なく無断欠勤が〇日以上に及ぶとき。
    ③ 正当な理由なくしばしば欠勤、遅刻、早退をしたとき。
    ④ 過失により会社に重大な損害を与えたとき。
    ⑤ 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき。
    ⑥ 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行ったときでその違反行為が軽微であるとき。
    ⑦ 素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。
    ⑧ 本規則に定める遵守すべき事項に違反したとき。

    この禁止行為は、それぞれの会社の実情をベースに考えていくと記述がどんどん増えてしまうのが普通です。

    また、会社の業種等によって従業員に禁止したい行為は異なります。共通する部分もありますが、異なる部分が必ずあるはずです。

    例えば、トイレからでたら手を洗うことは誰にでも求められる行為ですが、一般の事務所で手を洗わなかった者を懲戒処分対象にすることはほぼ無いでしょう。しかし、食品工場においては手を洗わないことを懲戒処分対象にすることは十分に理があることです。

    記載が煩雑になってくるともう少しまとめてシンプルにしようと考えがちですが、どの項目もいろいろな経緯があって設定されているはずです。安易にカットすると後で後悔することが多いものです。ある程度の煩雑さは仕方ありません。

    その他準じる行為

    とは言っても、記述が膨大になればよいというものでもありません。

    そこで、就業規則の煩雑さを少しでも減らすために、また、記載されていない場合の穴を埋めるために、一つの抜け道ではありますが、多くの就業規則は列記事項の最後に「その他これに準じる行為」と書いてあります。

    これは、いわゆる包括条項(バスケット条項ともいう)と呼ばれる規定です。

    ぴったり当てはまらないときはこの「その他これに準じる」を活用します。

    仮に、倉庫内で立小便をした人がいたとします。生理現象ですからやむを得ずしたのであればかわいそうですが、見つかれば叱られるのは当然です。場合によっては戒告処分したらどうかという声が上がるかもしれません。

    しかし、倉庫内の立小便を禁止事項として明記している就業規則はほぼ無いと思います。

    このようなときに「その他これに準じる」を活用します。就業規則のどこかに、職場の清潔の維持や備品を粗略にしないなどという項目があると思います。立小便をすれば職場が不衛生になり、その場所が汚染されるのですから、清潔維持や備品損壊に「準じる」としても無理はないでしょう。

    ただし、この「その他準じる行為」という記載は万能ではありません。拡大解釈が可能であれば、従業員の身分は非常に不安定になってしまうからです。裁判においても「就業規則の懲戒条項を解釈するにあたっては、これを厳格に解釈しなければならず、安易に類推適用することは許されない」として懲戒解雇が無効になった例があります。

    つまり「準じる行為」というのは、誰もが無理なく、準じると受け止めることができる類似の行為でなければいけません。そういう適用は強引だと思われるようなことをすると、争いになったときに不利になります。そこで話が戻りますが、考えられる限りの禁止行為列記が必要になるのです。

    マニュアルとの連携

    就業規則の本文を煩雑にしないために、禁止事項の記載の一部を手順マニュアルなどに移すことがあります。手順マニュアルの禁止事項も就業規則による懲戒処分の対象になりますが、適用させるには、就業規則と当該マニュアルが、以下のように相互の適用について明確につながっている必要があります。

    就業規則記載例
    従業員が次のいずれかに該当するときは懲戒処分の対象になることがある。
    〇.故意または重大な過失により〇〇マニュアルの手順に従わないことで会社に損害を与えたとき

    マニュアル記載例
    故意または重大な過失により本マニュアルに違反したときは就業規則〇条に基づいて懲戒処分を科すことがある。

    また、就業規則と手順マニュアルを連携させたときは、当該手順マニュアルも就業規則の作成改正と同様に扱い、労働者代表からの意見聴取、ならびに労働基準監督署への届け出が必要です。

    定期的なアップデートが必要

    これまでも度々あったように、これからも時代の変化で新しい規制が必要になるかもしれません。思いがけないことをする非常識な人が現われるかもしれません。ですから、就業規則に記載する禁止項目は、常に不足がないか、逆に時代遅れになったものはないか点検してアップデートする必要があります。最低年1回はスケジュール化しましょう。

    私的行為に対する懲戒処分

    禁止行為を就業規則に列記しておくことで違反したときに懲戒処分の対象とすることができますが、この行為が就業中に行われた場合に限定されます。

    勤務外の時間であれば、法律違反の行為はそれぞれの法律によって裁かれますが、就業規則によって裁くことはできないのが原則です。ただし、勤務外の行為が直接会社に悪影響を及ぼすのであれば、懲戒処分の対象にできる場合があります。

    関連記事:私的行為に対して懲戒処分できるか

    就業規則記載例

    就業規則の規定:懲戒の事由|就業規則

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  • 退職後は懲戒処分できない

    退職後に不正が発覚した場合

    従業員が退職後に使い込みなどの不祥事が発覚することがあります。在職中は巧妙に隠していたものが、退職後に別の人が担当することで発覚することが多いようです。

    原則としては、すでに退職した人との間には雇用契約が無く、したがって、就業規則を適用させることはできないので、懲戒処分はできません。

    犯罪行為の発覚が目前にせまり、処分を逃れるための退職届を出し、会社が気付かずに退職させてしまった場合には、難しいのですが、詐欺的な行為だとして退職の無効を主張できる余地があります。

    裁判等の手続きが必要になりますが、退職が無効と認められれば雇用契約が存在していることになるので懲戒処分が可能になります。

    また、会社が懲戒処分できない場合でも、その者に対して民事上の損害賠償請求をすることができ、警察に被害届を出すなどして司法に委ねることができます。

    退職直前に発覚した場合

    退職の意思表示があっても、実際に退職するまでは従業員ですから就業規則が適用されます。退職日ギリギリに不祥事が判明したときは、直ちに退職届の不受理を通知するなどの対処することで懲戒処分が可能になります。

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  • 従業員に損害賠償請求ができるか

    原則論では賠償請求は可能

    従業員が、仕事上のミスで会社に損害を与えた場合、会社は従業員に対して損害賠償を請求できるのでしょうか。

    原則論としては、従業員が会社に損害を与えたときは、会社はその損害額を請求することができます。

    損害賠償を請求する場合、次の規定が関係します。

    民法第415条
    債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

    従業員が役割を果たさずに会社に損害を与えたときは民法415条により賠償請求できます。

    民法第709条
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

    従業員が故意または過失で会社に損害を与えたときは、民法709条により賠償請求できます。

    上記のように、損害が生じれば、その損害の原因である相手方に対して賠償請求できるのが原則です。しかし、従業員に対する賠償請求は簡単ではありません。

    賠償予定は禁止されている

    労働基準法16条に次のようにあります。

    労働基準法第16条
    使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

    労働基準法は、実際に生じた損害についての賠償請求を禁止しているわけではありません。

    違約金や損害賠償額を定めた労働契約を禁止しています。

    つまり、遅刻1回で千円、商品をこわしたら弁償、期限前に辞めたら10万円などという条件を示せば労働基準法違反です。

    責任制限の法理を考慮する

    民法の定めでは、

    ① 労働者の「債務の不履行」によって損害が発生した場合
    ② 労働者の行為が「不法行為」によって損害が発生した場合

    この2つの場合に損害賠償請求をすることができます。

    一方で、

    責任制限の法理があります。

    労働者の行為が債務不履行や不法行為に該当するものであったとしても、負うべき責任の範囲は制限されるというものです。

    労働者が使用者の指揮命令に従って業務に従事していることや、労働者のミスはそもそも業務に内在するものであることなどを考慮して、たとえ労働者に過失などがあったとしても、全ての責任を労働者に負わせるべきではないという考え方です。

    全ての責任がない、ということではなく、責任には限度があるという考え方です。

    では、どの程度の責任を負わせることができかというと、事業の性格、規模、労働者の業務内容、労働条件、施設の状況、勤務態度、加害行為の態様、その予防等に対する使用者の配慮など、様々な事情を考慮すべきであると考えられています。

    つまり、普通に働いているうちに生じたミスであれば、むしろ、会社の作業上の指示が適切だったかどうか、マニュアルは整備されていたか、損害保険をかけていたかなど、会社の責任も考慮されます。

    例えば、機械の操作ミスで機械を壊したとしても、操作方法をしっかり教育したのか、操作方法に習熟したことを確認したのか、状況に応じて適切な指導をしていたか、などという点に会社に不充分な点があれば、その損害については会社にも責任があると言えるので、一方的に労働者に責任を押し付けることはできません。

    報償責任の原則を考慮する

    報償責任の原理とは、

    使用者が自分のために被用者を使い、利益を上げている以上、使用者は被用者による事業活動の危険を負担すべきだ。

    という考え方です。

    信義則の原則を考慮する

    加えて、民法には信義則という規定があります。「民法第1条②権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」というものです。

    労働者の損害賠償責任が認められる場合にも、賠償金額は、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度において減額されるべき、という考え方です。

    なお、この信義則を採用した判決では、会社が被った損害額の4分の1を限度とすべきであるという判決が出たため、実務上の一つの基準となっています。ただし、事情は事件ごとに異なるのでこの範囲であれば良いというものではありません。

    負担能力を考慮しなければならない

    従業員の収入、損害賠償に対する負担能力なども考慮されます。

    どの程度損害賠償が減額されるかは、事情に応じて異なります。

    賠償させた金額が従業員の生活に大きな影響を与える額は、認められる可能性が低くなります。

    減給処分に限度額がある

    使用者が、従業員の非違行為に対して懲戒権を行使することは一定の制限付きで認められています。懲戒処分のなかには給料を減額する処分があります。この場合、減給額に制限があるので注意が必要です。

    減給処分をするときの注意点

    回収方法も制限される

    賠償させることができるとしても、賃金からの引き落としはできません

    労働基準法第24条
    賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。

    賃金は労働者に全額を払わなければならないというのは、差し引きして払ってはならないという意味です。

    労働基準法第17条
    使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

    労働基準法に賃金との相殺については前借金のみが労働基準法に明記されていますが、損害賠償金についても判例によって相殺禁止の対象とされています。

    ただし、労働者側も相殺に納得している場合は相殺が有効になる場合もあります。この場合、労働者が自由な意思に基づき相殺に同意することや、「自由な意思」と認められる「合理的な理由」が存在することなどが要件となります。

    身元保証人への請求も簡単ではない

    保証人に責任を負わせるのは簡単ではありません。不祥事を防げなかった会社の管理責任があるからです。会社は従業員が不正をしないようにどのような内部けん制の仕組みをもっていたか、上司は仕事ぶりをきちんと見ていたかという点を考慮しなければなりません。

    まして、その保証が会社入社時のもので、一定の期間を経過した後の不祥事であれば、さらに会社の責任が大きくなります。

    採用に際して身元保証人を求めるときの注意点

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  • 諭旨解雇処分をするときの注意点

    諭旨解雇とは

    「諭旨(ゆし)」は、趣旨を諭す(さとす=言い聞かせてわからせる)という意味です。

    辞めてもらわなければけじめがつかないが懲戒解雇処分とするのは気の毒だ、あるいは会社の体面を考慮して穏便に済ませたい、というときにされる懲戒処分の一つです。

    会社の申し出を受け入れて退職に同意すれば、普通退職扱いになりますが、従わない場合には懲戒解雇に移行するのが一般的です。

    退職と引き換えに懲戒処分をしないということなので、対外的には自主退職と説明するのが一般的です。

    手続き上は本人の願いによる退職ですから、退職金の支給など、通常退職と同様にする場合が多いですが、退職条件は双方の納得によるので、会社が退職金減額などの条件をつけることもあります。

    就業規則に定めるか

    諭旨解雇する場合、まず話し合いがあり、その結果、自主退職、普通解雇、懲戒解雇のいずれかを選択することになります。

    自主退職であれば、就業規則の懲戒規定は適用されません。普通解雇または懲戒解雇の場合はそれぞれの規定を適用すればよいので、一般的には諭旨解雇という規定は必要ありません。

    ただし、自主退職であるが退職金は支給しないなど、本来の自主退職と違う処遇をする場合には、就業規則にそのような定めが必要です。

    諭旨解雇という名称で処分する場合には就業規則の定めが必要です

    就業規則規定例
    (諭旨解雇)
    第〇条
    本来なら懲戒解雇となるような重大な事由がある場合に、諸般の事情を考慮して諭旨解雇にすることがある。諭旨解雇とは解雇事由について本人に説諭したうえで解雇するものである。諭旨解雇される者には、その状況を勘案して退職金の一部または全部を支給しないことがある。

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  • 懲戒解雇をするときの注意点

    懲戒解雇とは

    懲戒解雇とは、重大な規律違反をした従業員に対する処分です。懲戒処分の中でも最も重い処分です。

    通常は退職金の一部または全部の不支給を伴います。

    懲戒解雇をするためには

    懲戒解雇するには、他の懲戒処分と同様に、就業規則にもとづく処分であること、公正に調査し、本人弁明の機会を与えるなどいろいろな条件があります。

    懲戒処分をするときの注意点

    解雇はケースバイケースです。裁判例などを読んでこれは勝てる勝てないと簡単に予測がつくものではありません。個別の事情で判断されています。慎重に対応する必要があります。

    就業規則の規定

    どういうことをすれば懲戒処分の対象になるか、その内容を、就業規則に具体的に列記しなければなりません。

    就業規則記載例
    (懲戒解雇処分)
    第〇条 従業員が次のいずれかに該当するときは、懲戒解雇とする。この場合において、行政官庁の認定を受けたときは、解雇予告は行わない。ただし、平素の服務態度その他情状によっては、普通解雇又は減給若しくは出勤停止とすることがある。
    (1) 重要な経歴を詐称して雇用されたとき
    (2) 正当な理由なく、無断欠勤○日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき
    (3) 正当な理由なく無断でしばしば遅刻、早退又は欠勤を繰り返し、○回にわたって注意を受けても改めなかったとき
    (4) 正当な理由なく、しばしば業務上の指示・命令に従わなかったとき
    (5) 故意又は重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき
    (6) 会社内において刑法その他刑罰法規の各規定に違反する行為を行い、その犯罪事実が明らかとなったとき(当該行為が軽微な違反である場合を除く。)
    (7) 素行不良で著しく会社内の秩序又は風紀を乱したとき
    (8) 数回にわたり懲戒を受けたにもかかわらず、なお、勤務態度等に関し、改善の見込みがないと認められたとき
    (9) 相手方の望まない性的言動により、円滑な職務遂行を妨げたり、職場の環境を悪化させ、又はその性的言動に対する相手方の対応によって、一定の不利益を与えるような行為を行ったとき
    (10) 許可なく職務以外の目的で会社の施設、物品等を使用したとき
    (11) 職務上の地位を利用して私利を図り、又は取引先等より不当な金品を受け、若しくは求め、又は供応を受けたとき
    (12) 私生活上の非違行為や会社に対する誹謗中傷等によって会社の名誉信用を傷つけ、業務に重大な悪影響を及ぼすような行為があったとき
    (13) 会社の業務上重要な秘密を外部に漏洩して会社に損害を与え、又は業務の正常な運営を阻害したとき
    (14) その他前各号に準ずる程度の不適切な行為があったとき

    このように、できるだけ具体的に記述しなければなりません。

    解雇できない場合があります

    労災で治療中の人や産前産後休業中の人はその休業期間と休業が終わってから30日間は解雇が認められません。この期間にある人に対しては、解雇するべき十分な理由があっても解雇できません。文字通り、解雇ができないのです。

    次のような解雇は法律で禁止されています

    解雇予告について

    従業員を解雇しようとする場合、少なくとも30日前に予告しなければなりません。30日前の予告をしない場合、不足日数に対する平均賃金を支払わなければなりません。

    懲戒解雇であっても、解雇予告または解雇予告手当の支払は必要です。例外として労働基準監督署長の認定を受けた場合は予告義務が除外されます。

    解雇予告と解雇予告手当

    証明書の発行

    解雇された従業員は退職日までに、解雇の理由についての証明書を請求できます。これを一般に「解雇理由証明書」といいます。

    解雇理由証明書について

    また、解雇理由証明書の他に、従業員が、在職中の契約内容等について証明書の交付を請求したときは、いわゆる「退職証明書」を交付しなければなりません。労働者は退職証明書に解雇理由の記載を求めることができます。解雇理由が記載された退職証明書は、解雇理由証明書と同等です。

    退職証明書について

    金品の返還と規制旅費

    7日以内に残余の賃金の支払いをし、その他返還すべき金品を返還しなければなりません。

    満18歳に満たない者を解雇した場合には、帰郷のための旅費を支給しなければなりません。

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  • 降格処分をするときの注意点

    降格処分とは

    懲戒処分の一つに降格処分というものがあります。従業員の役職や資格を下位のものに引き下げる処分です。

    降格処分の内容

    業務命令違反や勤怠不良などの服務上の違反行為があり、その内容が指導的立場にあるものとしてふさわしくない行為と認定されたときに、科せられる処分の一つです。

    課長を平従業員にするなどということもありますが、一般的には、販売課長であった者に営業部長付を発令するなどのように、一時的にラインから外すことが行われます。

    縦割りが基本である職場において降格は大変厳しい処分です。降格処分を適用せざるを得ないのか、他の処分では不足なのか十分な検討が必要です。

    降格処分の基準

    何をすれば降格処分の対象になるのかという基準を、就業規則で決めておく必要があります。

    就業規則記載例
    (降格処分)
    第〇条 従業員が次のいずれかに該当するときは、降格処分を実施する。
    (1)職務上の地位を利用してセクハラ・パワハラ等を行ったとき
    (2)職務上の地位を利用して、不当に金銭等の利益を得たとき。
    (3)当社の管理職としてふさわしくない言動があったとき
    (4)その他、前各号に準ずる不都合な行為があったとき

    例えば、上記のように定めておけば、セクハラをした上司を降格させることが可能になります。

    規定の文章が、従業員が次のいずれかに該当するときは「懲戒処分」を実施する、となっていれば、懲戒処分をすることができますが、別のところで懲戒の種類として降格処分が規定されていなければなりません。

    結果的に減給となる場合

    降格処分を行えば、役職手当が変更されるなどの影響で給料が減ってしまうことがあります。

    減給になってしまう場合は、注意が必要です。

    賃金は使用者と労働者の労働契約を根拠に支給されるものなので、両者の合意がなければ減給できないのです。懲戒処分による場合でもこの原則は考慮しなければなりません。

    ただし、例外的に役職手当の減額は認められます。

    役職手当は、その職位にあることを条件として支給されるものなので、降格という懲戒処分の結果として減給になるのであれば、労働基準法に定める減給処分には該当しないとされているのです。

    この場合、懲戒処分の一つとして降格するという就業規則の規定があり、懲戒処分の手続きが妥当で、行った非違行為に対して降格処分が相当であり、賃金規程等で役職と役職手当が結びついて規定されている必要があります。

    関連記事:減給処分をするときの注意点

    また、降格させたときは当然に職務内容や責任の程度が変更されなければなりません。職務内容や責任の程度が変わらない状態で役職手当を減額すれば労働基準法の減給処分にあたる恐れがあります。

    人事制度上の降格との区別

    知識や経験の不足、指導力不足、健康不調等により管理職として適格性に疑問が生じたとき、懲戒処分ではなく、人事異動という形で管理職からはずすことがあります。

    このような人事権は使用者の裁量の範囲として広く認められています。しかし、行き過ぎはいけません。裁量権の濫用から多くのトラブルが発生しています。

    関連記事:降格させるときの注意点


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