カテゴリー: 懲戒処分

  • 従業員が逮捕されたのですぐに解雇したいのですが問題ありますか?

    従業員が破廉恥な犯罪で逮捕されました。会社としてはすぐに解雇したいのですが、当人についた弁護士は、帰宅後の事件なので会社の就業規則は適用されないはずだ、執行猶予がつくと思うし、実刑がついても数年で社会復帰する、戻ったときに仕事がないと辛いので解雇されれば不当解雇で争う。と言っているそうです。とんでもない主張だと思います。何としても復帰させないつもりですが、どう対応すればよいか教えてください。

    結論から言うと、「私生活上の非行」でも、企業の社会的信用や職務遂行に重大な悪影響が及ぶ場合は懲戒解雇・普通解雇の対象になり得る、というのが裁判例の流れです。ただし、解雇有効性をめぐって争いになったときは、どのような判決が出るかわかりません。リスクが高いので、慎重に手順を踏んで進める必要があります。

    会社として検討すべき事項

    1. 就業規則の確認
      • 「社員が刑事事件を起こして逮捕・起訴された場合」「会社の信用を著しく失墜させた場合」など、懲戒解雇や諭旨解雇の条項があるか確認しましょう。社会的評価を失墜させる行為が懲戒事由に含まれている会社は多いです。
    2. 犯罪内容と職務の関連性の検討
      • 破廉恥罪(性犯罪やわいせつ系など)の場合、会社の社会的信用への影響は大きいです。その社員が対外的に顧客接点がある職種なら、特に重大です。つまり、「私生活だから関係ない」とは必ずしも言えません。
      • ただし、勤務時間外の行為そのものを懲戒対象にすることはできません。
    3. 処分の選択肢
      • 懲戒解雇:一番重い処分。裁判になれば争われやすい。
      • 諭旨解雇/退職勧奨:争いを避けやすい。合意退職に持ち込むことも選択肢。
      • 休職→自然退職:有罪判決で服役する場合、「一定期間の休職期間満了により自然退職」も可能。
    4. 手続きの適正確保
      • 就業規則に基づき、本人に弁明の機会を与える。
      • 処分理由を文書で明示する。社会的信用や業務影響を具体的に示す。

    主張への反論

    • 「私生活上の行為でも、会社の名誉や業務に重大な影響を及ぼす場合は懲戒事由になる」→ 裁判例上も認められている。
    • 「執行猶予つきなら解雇できない」→ 執行猶予の有無ではなく、事実の重大性と会社への影響が判断基準。
    • 「戻ったときに仕事がないと困る」→ 会社は福祉施設ではない。会社の秩序維持・信用保持のために解雇が有効とされる余地は十分ある。

    安全な進め方

    • 当方も速やかに弁護士を依頼する。
    • 事実誤認・冤罪の可能性もあります。早い段階で「破廉恥な犯罪を犯した」と断定して行動すると名誉棄損など別な問題になることもあります。
    • 従業員・取引先への説明は最小限にしましょう。名誉毀損リスクもあるので注意が必要です。
    • 本人から退職願が提出されれば通常の退職として処理できます。争いを持ち越すこと無く決着できます。

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  • 無断欠勤したので就業規則の定めに則って解雇しましたが問題ありませんね?

    当社の就業規則には3日以上の無断欠勤は解雇と明記されています。従業員の一人が無断欠勤を始めてから3日経ったので、すぐに解雇通知書を郵送しました。その後、1週間経っても返事がないので、給料の精算をして、職安や年金事務所にも退職に伴う手続きをしました。離職票などは本人に郵送しました。就業規則に書いてある通りの処分なので問題ないと思うのですが、何かリスクはありますか?

    これは問題がありそうです。以下で解説します。

    就業規則に書いているから良いとは言えない

    まず、就業規則に「3日以上の無断欠勤は解雇」と定められていても、それだけで即座に解雇が有効になるとは限りません。

    労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。

    解雇について就業規則に定めるのは必要なことですが、それは、一つの要素にすぎません。実際に解雇するときは、さらに、いろいろな観点から考えて実施しなければなりません。

    次に、裁判になった場合、そもそも「3日以上の無断欠勤は解雇」という規定は「短すぎる」と判断される可能性があります。

    何日なら良いという決まりはありません。少し古い通達ですが、「昭和63年3月14日付け基発第150号、昭和31年3月1日付け基発第111号、昭和23年11月11日付け基発第1637号」では、労働者の責めに帰すべき事由」の一つに、「原則として2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と例示しているのが参考になるかもしれません。

    事例から考えられるリスク

    解雇予告のリスク

    解雇するには、原則30日前の解雇予告か30日相当分の解雇予告手当が必要です(労働基準法第20条)。無断欠勤を理由に「懲戒解雇」した場合でも、予告手当が不要になるには労働基準監督署長の認定が必要です。

    ご相談内容には予告手当について書いていませんが、もし払っていないなら、請求されるリスクがあります。

    欠勤理由によるリスク

    無断欠勤の原因が、職場でのハラスメント等にある場合があります。後日、そのような主張があった場合は、解雇無効となる可能性が高いです。

    無断欠勤している理由に思い当たることがないか、本人の周辺を調査する必要があります。

    無断欠勤の理由が、本人の意図しないやむを得ない事情(例えば、事故に遭った、病気で動けなかったなど)だった場合、「合理的な理由」を欠いていると判断されるでしょう。

    上で述べた「病気で動けなかった」には高熱を出していた、だけでなく、メンタル不調で連絡がとれなかったという場合も含まれます。

    以上のように、無断欠勤には多くの場合は理由があるので、単に何日経過したからという形式的条件を満たしたとして処分するのはリスキーです。

    連絡・確認不足のリスク

    無断欠勤が始まってから3日という短い期間だと、本人への連絡や状況確認が不十分だとされ、解雇が無効となるリスクが高まります。

    つまり、就業規則に3日と書いてあるとしても、連絡・確認の努力をどの程度したかが後日問題になります。

    • 本人への連絡:電話やメール、書面など、複数の方法で連絡を試みる。
    • 家族などへの連絡:本人の状況が不明な場合、緊急連絡先として登録されている家族に連絡を取る。
    • 書面による警告:無断欠勤が続けば解雇となる旨を記した警告書を郵送または交付する。

    これらの手続きを踏まずに、いきなり解雇通知書を送付した場合、解雇の有効性が争われる可能性があります。

    懲戒手順のリスク

    解雇する場合は、社内手続きをきちんと行う必要があります。特に、懲戒解雇の場合は手続きが重要です。

    • 充分に調査したか
    • 会議(懲戒委員会等)を開いて審議したか
    • 本人の弁明を聴いたか

    関連記事:懲戒処分をするときの注意点

    今後の対応について

    解雇以外の選択肢

    無断欠勤を理由に解雇するのではなく、状況に応じて、普通退職として処理することも検討しましょう。

    就業規則に、「〇日以上連絡なく無断欠勤し、会社からの連絡にも応じない場合は、会社からの最終通知後〇日を経過した日をもって退職とする」という規定があれば、解雇とは異なり、会社側の意思表示がなくても退職が成立するため、解雇紛争のリスクを低減できます。

    解雇不当で訴えられたら

    本人が後で「解雇は不当」「退職の意思はなかった」と争ってくる可能性があります。そうした場合、「就業規則に3日と書いてある」というだけでは通らない可能性があります。会社としては、本人の欠勤理由が処分に値するものであることを説明し、解雇に至るまでに十分な努力をしたことを証明する必要が出てきます。

    また、離職票には「会社都合退職(解雇)」と記載したと思われますが、このような場面では、本人の主張と食い違いがでることが考えられ、手続きがやり直しになるリスクがあります。

    解雇に関する問題は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することもご検討ください。


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  • 公益通報者に報復的懲戒をすれば刑事罰の対象になる

    公益通報者保護法の改正

    先生: 社長、本日はお時間をいただきありがとうございます。先般、公益通報者保護法が改正され、2025年6月4日に参議院本会議で可決・成立しましたので、その内容と御社への影響についてご説明させていただきたく参りました。

    社長: ああ、ニュースでやっていましたね。詳しくは把握できていませんが、通報者を保護する法律ですよね。うちのような中小企業にも関係ある話なんでしょうか?

    先生: はい、もちろん関係があります。今回の改正は、特に通報者の保護を強化する内容となっており、事業者の皆さまにはより一層の対応がもとめられています。

    報復行為に刑事罰が導入されます

    先生: まず、最も重要な点からお話しします。今回の改正で、通報を理由に報復的な解雇や懲戒処分を行った場合、それに関与した人に対して刑事罰が科されることになりました。

    社長: 刑事罰ですか!具体的にはどういうことでしょう?

    先生: はい。もし通報した従業員を、その通報を理由に解雇やその他の懲戒処分をしたりすると、その行為に関わった担当者や役員に「6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金」が科される可能性があります。そして、会社にも「3,000万円以下の罰金」が科されます。そして、この部分は、すべての企業が対象です。企業規模による免除はありません。

    社長:すべての企業ということですが、例えば、個人事業主も含まれまれるのですか?

    先生:はい、報復的な解雇や懲戒処分への刑事罰の対象となる「企業」には、個人事業主も含まれます。公益通報者保護法における「事業者」の定義は、「法人その他の団体及び事業を行う個人」とされています。つまり、株式会社のような営利法人だけでなく、公益法人、協同組合、NPO法人、そして個人事業主や、国、地方公共団体なども含まれることを意味します。

    社長:もう一つ、解雇だけでなく始末書や訓戒程度の軽い懲戒でも対象になるのですか?

    先生:はい、この法律でいう「懲戒処分」は、解雇のような重いものだけでなく、訓戒や減給、降格、出勤停止など、広範な不利益な取り扱いが含まれると解釈されています。重要なのは、その懲戒が公益通報への報復目的であるかどうかです。

    社長: それは厳しいですね。行政指導ではなく、いきなり刑事罰になるということですか?

    先生: その通りです。これまでは行政指導や民事上の損害賠償が主な抑止力でしたが、今回は直接的な刑事罰が導入された点が非常に大きい変更点です。

    社長: 不当な配置転換は対象にならないと聞きましたが、それはどうなのでしょう?

    先生: はい、不当な配置転換については、今回は刑事罰の対象からは外されました。しかし、だからといって問題がないわけではありません。通報者への不利益な取り扱いとして、民事上の責任を問われる可能性は依然として残りますので、注意が必要です。

    事業者側の立証責任

    先生: もし御社が通報者を解雇や懲戒処分にした場合、その処分が「通報を理由とするものではない」ということを、会社側が証明する責任を負うことになります。

    社長: え、会社側が証明するんですか?それは大変ですね。

    先生: はい。これまでは通報者が不利益な取り扱いを受けた場合に、通報者がその関連性を立証する必要があるケースもありました。しかし、これからは事業者側がその合理性をより明確に示す必要が出てくると理解してください。

    先生:それと、通報後1年以内の懲戒には特に注意してください。改正では「公益通報後1年以内に解雇や懲戒を受けた場合は通報への報復を受けたと推定する」 という規定が導入されました。「推定する」というのは、覆されない絶対的な判断ではありませんが、通報後1年以内は、通報者にとって有利な「推定」が働くことになったということです。

    その他の改正点

    社長: 他に注意すべき点はありますか?

    先生: はい、いくつかあります。

    内部通報体制の整備義務違反への罰則

    先生:従業員が301人以上の企業には、適切な内部通報窓口の設置や調査体制の整備が義務付けられています。これを怠り、行政からの是正命令にも従わない場合、30万円以下の罰金が科されます。御社は現在300名以下ですが、今後従業員が増える際には特にご留意いただく必要があります。

    守秘義務違反への罰則

    先生:内部通報の受付や調査を担当する従業員、いわゆる「公益通報対応業務従事者」が、通報者の名前など、特定につながる情報を漏らした場合、30万円以下の罰金が科されます。これは内部通報制度の信頼性を保つ上で非常に重要です。

    保護対象の拡大

    先生:今回の改正で、フリーランスの方や退職された方も公益通報の保護対象となりました。業務委託などで関わる方々からの通報も保護の対象になるため、より広範な視点での対応が求められます。

    不利益な取扱いの範囲拡大

    先生:退職金を不支給にしたり、通報者に対して損害賠償を請求したりするといった行為も、不利益な取扱いの範囲に含まれ、禁止されます。

    今後の対応

    社長: なるほど。それで、この改正はいつから施行されるんでしょうか?

    先生: この改正法は、公布から「1年6か月以内」に施行される予定です。具体的な日付はまだ決まっていませんが、来年の冬頃までには施行される見込みです。

    社長: そうですか。まだ少し時間があるとはいえ、これは早めに対応を考えないといけませんね。

    先生: その通りです。今後の対応としては、以下の点が重要になります。

    就業規則の見直し

    先生:懲戒規定など、通報者への報復行為と誤解されないような規定になっているか確認が必要です。

    内部通報制度の再確認・整備

    先生:現行の通報窓口が適切に機能しているか、通報者のプライバシー保護が徹底されているか、もう一度見直しましょう。従業員数が301名に近づいた場合は、特に体制整備の義務が発生しますのでご注意ください。

    従業員への周知・研修

    先生:公益通報者保護法の趣旨や、通報制度の利用方法、そしてハラスメント防止などと合わせて、従業員全員に周知徹底することが非常に大切です。特に管理職の方々には、通報があった際の適切な対応や、報復行為と見なされないための注意点などを充分に理解してもらう必要があります。

    社長: 刑事罰の導入というのは本当に大きいですね。今のうちに、社内の体制をもう一度確認して整備を進めていきたいと思います。

    先生: ぜひ、そのようになさってください。ご不明な点があればいつでもご相談ください。


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  • 遅刻や無断欠勤への対応

    就業規則はどうなっているか

    多くの就業規則は、解雇の事由として次の項目を掲げていると思います。

    ・正当な理由なく無断欠勤14日以上に及び、且つ再三の出勤の督促に応じなかったとき。

    現実には、このような行方不明に等しいような無断欠勤をする人は稀でしょう。

    多いのは、1日から数日の無断欠勤をし、上司が注意するが、忘れたころに又繰り返すというようなケースではないでしょうか。その場合は、上記のような規定は適用できません。

    もちろん、数日の無断欠勤で解雇というのは厳しすぎると思いますが、7日や10日ではなく、なぜ14日以上なのでしょうか。

    それは、行政通達で、解雇できる事例が示されており、その中の一つに、「2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」という記載があるからです。これをもとに作られた就業規則が多いのです。

    その是非はともかく、連続無断欠勤で懲戒解雇するには14日というのが一つの基準になっていることは確かです。

    では、それよりも少ない無断欠勤にはどう対処すればよいのでしょうか。

    行政通達が示す解雇事例には、「出勤不良又は出欠常ならず数回にわたって注意を受けても改めない」というのもあります。

    これに沿って、解雇事由に次の項目を追加しておけばだいぶ穴をふさぐことができます。
    ・正当な理由なく遅刻、早退、無断欠勤が著しく、再三の注意にもかかわらず、改善がみられないとき

    ただし、
    ①どういう場合が正当な理由と言えるか
    ②著しいとは何回以上か
    ③再三の注意とは何回か、また、注意した証拠はあるか

    など、安易に適用すれば、突っ込まれるところがいろいろあります。内規等で、基準を決め、さらに従業員に周知させることが必要です。

    けん責規定を見直す

    すぐに解雇を考えるのは短絡的です。

    まず、けん責処分をし、それでも改まらない場合に解雇に持ってい行くという運用がよいでしょう

    1.けん責処分事由に次を追加する
    ・正当な理由のない無断欠勤をしたとき
    ・正当な理由のない遅刻が月に〇回に及んだとき、又は正当な理由のない無断早退をしたとき

    2.懲戒解雇事由に次を追加する
    けん責以上の処分を受けることが半年間に〇回に及び、特段の考慮すべき事情が認められないとき

    注意の記録を残さなければならない

    遅刻や無断欠勤に対して、上司は注意を与えていると思います。しかし、注意の記録が残っていないことがほとんどです。争いになったときは、1にも証拠2にも証拠です。あとで証言したり、文書を提出することもできますが、都度都度作成していた文書が強い証拠能力を持ちます。

    いずれにしても解雇には慎重になるべきで、なるべく解雇などしない方がよいのですが、放置すると職場の秩序がたもてないという状況であれば、他の社員のためにも毅然とした対応が必要なときもあります。

    懲戒処分をするときは→懲戒処分について

    ねばり強く指導して改善させるのが一番

    従業員には決められた時間に出社する義務があります。そういう約束で雇用されているのですから、約束を守らないのであれば、懲戒処分は可能です。

    しかし、悪意のないうっかりミスのような事案で懲戒などというのは重すぎるでしょう説諭はもちろんですが、遅刻しないような対策を当人と一緒に考えてみるなど、懲戒処分の前にいろいろ手立てがあると思います。


    会社事務入門従業員による不適切な行動への対応>このページ

  • 私的行為は懲戒処分できない

    原則として処分できない

    懲戒処分は、原則として会社で起こした不始末に対して科せられるものです。会社を離れたときの行為は、原則として懲戒処分の対象とはなりません。

    労働契約上の従業員の義務は、勤務時間内に仕事をすることであって、仕事を離れている時間に何をするかは従業員の自由だからです。悪いことをしてよいというものではありませんが、会社の管理が及ばないということです。

    したがって、不倫行為や、家庭のトラブル、私的な金銭トラブル、勤務時間外に行ったケンカ、などに対して懲戒処分をするのは無理があると考えられています。

    処分できる場合もある

    私生活上の行為は処分できないということではありません。会社の社会的評価に大きな影響を与えたり、具体的に会社に損害を与えていることがあれば懲戒処分が認められる可能性もでてきます。

    裁判ではいろいろな事情を考慮して総合的に判断するので、一概には言えませんが、①会社の信用を傷つけた程度が大きい、②従業員の職位が高い、③事件が従事している仕事と関連がある、④量刑の程度が重い、などであれば解雇有効の判断もありうるようです。

    事例

    勤務時間外に他人の住居に侵入したことで逮捕され、住居侵入罪により罰金刑に処されられた従業員を懲戒解雇したところ、従業員はそれを不服として解雇無効を訴えた事件がありました。判決は解雇無効でした。裁判所の判断を要約すると、その行為が私生活上の行為であること、罰金刑ではあるがその額が低額であること、当該従業員の地位が低いことなどにより、会社の体面を著しく汚したとはいえないとしています。

    痴漢を行った従業員を懲戒解雇した例では、会社が鉄道会社であり、痴漢の現場が電車内であったこと、懲役4か月の判決を受けたことなどを理由に、「会社の社会的評価に重大な影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められる」として懲戒解雇を容認しています。勤務時間外の行為であっても、会社の信用を害することになれば解雇もあるという事例です。

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  • 懲戒処分は所定の手順に従って進めなければならない

    処分手続き厳守の原則

    懲戒処分は処分される従業員にとっては生活がかかるほどの重要な決定です。したがって、懲戒処分を軽々しく取り扱うことは許されず、きちんと手続きを踏まなければなりません。

    これを「処分手続き厳守の原則」といいます。

    懲戒処分を決める際には、結論ありきではなく、慎重に審議する必要があります。慎重な審議は、慎重に審議したと言うだけでは証明できません。懲戒規定などで懲戒事案が発生したときの手順を事前に定めてあり、実際にそのように行ったことが記録等で明白であることが必要です。

    特に重要なポイントは、本人の弁明聴取しその内容を吟味することです。

    必要な手順を踏まない懲戒処分は、手続きの不備を問題にされて処分そのものが無効になる可能性がありますが、特に本人の弁明を飛ばした場合には無効に可能性が高まります。

    あらかじめ手順を決めておく

    就業規則に懲戒手順のあらましを定めます。

    就業規則規定例:懲戒の手順|就業規則

    あわせて、懲戒手順の詳細を記載した懲戒委員会規程を定めます。

    関連規程:懲戒委員会規程

    具体的な手順

    調査する

    まず、事実関係を調査しなければなりません。事実は明らかだというのは先入観です。

    調査は次の手順で行います。

    1.会社が調査担当者を指名する
    2.調査担当者は、当事者や関係者から聞き取りをする(概略ではなく一問一答形式の記録を残す)
    3.必要に応じて当事者や関係者から、報告書を提出してもらう。
    4.不明の点を再調査する(この際も、詳細な記録が重要)
    5.調査報告書を作成する

    調査担当者は取り調べをするのではありません。あくまでも事実関係を聴取するのであって、不明の点は不明のまま、意見が相違するところは相違するままの報告書を作成する必要があります。

    調査期間中に、本人に自宅待機を命じることがありますが、これが出勤停止処分と見なされると、さらに重い懲戒処分を科すことができなくなります。調査のための待機であることを明確にしてください。

    安易に自宅待機を命じないようにしましょう。そもそも自宅待機させる必要があるかどうか判断し、必要だと認める場合は期間を最小限にし、その期間は有給にするのが原則です。

    調査の際に、本人から文書で報告させる場合には、文書名やその内容に注意しましょう。文書名は「報告書」です。「始末書」にしてはいけません。内容はあくまでも事実の列記にとどめさせ、文中に反省的な内容や、対策的な内容を書かせないようにしましょう。このようなことに注意を払わないと、始末書を提出させるという一つの処分を行ったことになる可能性があるからです。

    一つの処分を行ったとみなされれば、本格的な処分ができなくなってしまう恐れがあります。

    関連記事:同じ人を重複して懲戒処分してはいけない

    調査担当者の報告書は、懲戒委員会等に提出します。

    懲戒委員会を開催する

    懲戒委員会を開催します。

    合議であることが大事であり、また結論を出さなければならないので、多数決ができるように3名以上の奇数にします。

    就業規則に懲戒委員会の設置規定がない場合は、臨時に取締役を含む委員会を組織するか、取締役会で懲戒審議を行うことになります。

    懲戒委員会は、調査担当者の報告書を読み、必要に応じて調査担当者に質問します。

    懲戒委員会は、総務部長等の法務担当者に、当該事案について就業規則に照らしてどのような処分が妥当であるか処分案の提出を求めます。

    本人の弁明聴取

    処分対象者に弁明の機会を与えることは特に重要です。事実が明らかであるからなどの理由で本人の弁明を聞かずにした懲戒処分を無効にした裁判例がいくつもあります。ちょっとした手続きミスとはみなされません。

    この際、処分対象者が出席の条件として立会人の同席を希望した場合、就業規則に基づく非公開の社内手続きであることを理由に拒むこともできますが、それによって本人の弁明機会が消滅すれば、手続きに瑕疵がのこるので、できるだけ希望に沿うのがよいでしょう。

    弁明聴取の過程で本人から逆質問があった場合、真摯に調査回答するべきですが、パワハラ・セクハラ案件では、本人が証言者に対し自ら反論したい旨申し立てがあっても、被害者を反対尋問の場に立たせることをしてはいけません。

    関連記事:本人の弁明を聴く懲戒委員会シナリオの例

    合議による結論

    懲戒委員会は、審議を尽くした後に結論を出し、議事録を作成します。処分案は答申のかたちで社長などの処分権者に伝えます。

    処分権者の決裁を得て、総務部長等が、処分(不処分もありうる)の内容を本人に文書で伝えます。解雇のときは解雇理由証明書も準備します。


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