課長は「始末書をだせ」と言えない!では、どうすればいいの?

懲戒処分

以前の企業文化

古いサラリーマン映画をみると、課長が「始末書を持ってこい」と部下に命じていたり、部下の方でも「始末書をたくさん書いた」と誇っていたり、どうも今の感覚と違うようです。

もちろん、あれは誇張された表現です。映画やドラマでは、視聴者の共感を呼ぶために、サラリーマンの苦労や組織の不条理をコミカル、あるいはドラマチックに誇張して描くことが多々あります。

しかし、全部があり得ない描写かと言えばそうでもなく、企業が急成長する中で、上意下達の「体育会系」的な指導や、精神論が重視される風潮があり、始末書提出は、上司が部下を厳しく指導し、反省を促すための儀式的な側面もあったようです。

現在は、パワハラ問題やコンプライアンスの意識の高まりから、始末書の提出はより慎重に、扱われるようになりました。昭和の映画のような光景はほぼ見られないでしょう。

始末書を出せと気軽に言ってはいけない

現在は、古い映画のような感覚で「始末書を持ってこい」と気軽に命じることは「できないと考えた方がよい」でしょう。

ハラスメント

これは主にハラスメントへの意識が高まっているためです。

仕事上のミスや問題行動があったとしても、必要以上に責め立てたり、始末書を強要する行為は、精神的な苦痛を与えるとしてパワハラと認定される危険性があります。

コンプライアンス

また、始末書は懲戒処分の一つなので、一課長の独断で命じることはできません。やるには社内規程に基づく相応の社内手続きが必要です。

多くの企業では、始末書の提出は最も軽い懲戒処分である「けん責(譴責)」「戒告」とセットで運用されています。

懲戒処分は、社員にとって不利益となる重大な決定事項です。そのため、その処分権限は、通常、代表取締役(社長)や人事権を持つ役員、あるいは懲戒委員会など、会社(使用者)の正式な権限を持つ者にあります。一般的に、課長などの管理職には、懲戒処分を下す権限はありません

ミスや規律違反への対応策

部下のミスや規律違反に対応する場合、「指導と改善」に主眼を置き、コンプライアンスとパワハラ防止を徹底した段階的なアプローチが主流です。

会社が取るべき対応は、その問題の軽重性質によって異なります。

懲戒処分とするほどではない軽微なミスや、単なる能力不足、あるいは初歩的な規律違反が起きた場合、上司は以下の措置を取ります。

口頭または書面による注意・指導

  • 継続的な指導: ミスや改善点について具体的なフィードバックを行い、指導内容を記録(指導記録)に残します。
  • 業務の調整: 能力や適性を踏まえ、業務内容の変更や配置転換を検討します。

顛末書の提出(事実報告)

  • 文書名: 文書名は、始末書(反省文)ではなく、事実関係を客観的に報告させることを目的とする顛末書(報告書)です。
  • 権限: これは業務上の「報告命令」であり、懲戒権限のない課長でも命じることができます。
  • 内容: 5W1H(いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)に基づき、事態の経緯、原因、そして具体的な再発防止策を部下自身に考えさせ、文書にまとめさせます。
  • メリット: 部下に問題の原因と対策を客観的に見つめさせる訓練となり、再発防止策を組織で共有できます。

注意や指導で改まらない場合

注意や指導をしても部下の態度が改まらない場合、課長は「指導監督責任者」として、以下の目的と手順で、さらに上の上司(部長や役員など)、あるいは人事部門に対して報告・相談を行います。

これは、「課長個人の問題」から「組織全体で対応すべき問題」へと引き上げるための正式なステップです。

課長がさらに上の上司に対して行うべき対応

  • 組織的な対応の要請: 課長一人の指導では限界があるため、人事評価や懲戒といったより強い権限を持つ組織による介入と、その後の具体的な措置を依頼する。
  • 責任の明確化: 課長としての指導を尽くした事実を記録し、これ以降は上の上司や人事部門が対応を引き継ぐことで、課長自身の指導監督責任の範囲を明確にする。
  • 正式な懲戒プロセスの開始: 改善が見られない場合、就業規則に基づく正式な処分(けん責、減給など)を検討するための情報提供と助言を求める。

課長が報告するべき内容(文書で提出するのが望ましい)

報告書には、以下の客観的な事実を網羅することが重要です。

項目具体的な内容目的
問題行動の履歴いつ、どのようなミス・規律違反が何回発生したか(顛末書、メールなどの証拠を添付)。事実の明確化
課長の指導履歴いつ、どのような内容で、どのように(口頭、メール、書面など)指導を行ったか。指導の努力と有効性の限界
指導後の部下の反応指導に対して反省の態度が見られたか、態度が改善された期間はあったか、指導を無視または拒否したか。改善の可能性評価
問題が及ぼす影響業務への支障、他部署や顧客への迷惑、職場の雰囲気への悪影響など、客観的な損害。問題の重大性評価
今後の対応の提案課長として指導の限界を報告した上で、「人事評価への反映」「配置転換」「懲戒処分の検討」などの次のステップを上申する。組織としての次の一手

次の上司・人事部門が検討する措置

報告を受けた上の上司や人事部門は、提出された記録に基づき、以下の措置を検討します。

  1. 人事評価への反映: 勤務態度や実績の悪化を評価に反映させます。
  2. 指導の強化: 課長の上司(部長など)が直接面談し、指導の階層を上げます。
  3. 配置転換: 部署や業務内容を変更し、本人と職場の環境を変えて改善を促します。
  4. 正式な懲戒処分: 就業規則に基づき、「けん責(始末書提出)」、「減給」、「出勤停止」といった正式な懲戒処分を検討し、実行します。

このように、現在の会社では、部下の問題行動に対して「指導の記録→上層部への報告→組織的な対応(懲戒・配置転換など)」という段階を踏むことが、リスク管理の観点からも求められます。