ハラスメントや懲戒事案の調査の結果、証拠不十分と判断したときの対応

懲戒処分

ハラスメント認定や懲戒処分は従業員にとって非常に大きな不利益となるため、客観的で合理的な証拠がなければ、軽々に断定することはできません。心証として疑わしいだけでは、原則として「処分なし」と判断せざるを得ません。

証拠不十分ではあるが「疑わしい」場合の対応策

しかし、企業秩序の維持や他の従業員の不安を解消するため、「処分なし」以外にも、証拠不十分な事案に対して会社が取れる対応策やアプローチはいくつかあります。

「指導・教育的措置」を講じる

ハラスメント認定や懲戒処分をしない場合でも、疑わしき言動があったことが事実であれば、指導・監督を強化することで、再発防止と注意喚起を行います。

対応策内容目的
注意・口頭指導正式な処分はしないが、行為の疑いがあること、会社として問題視していることを明確に伝え、再発防止を強く指導する。証拠がなくても行える、最も軽い措置。本人に会社の姿勢を伝える。
配置転換・異動問題が発生した部署から、職務内容や人間関係を切り離す部署へ異動させる。組織防衛と、問題の機会を遠ざける。ハラスメント相手方への配慮もある。ただし、業務上の必要性を根拠とする必要があり、懲罰的な異動と見なされないよう注意が必要です。
研修・教育の実施倫理規定、コンプライアンス、ハラスメントなど、問題となった行為に関する内容の再教育を命じる。知識不足が原因である可能性を考慮し、意識改革を促す。

さらなる「徹底的な調査」を行う

心証として疑わしい場合には、何らかの証拠が埋もれている可能性があります。場合によっては調査期間を延長してさらに調査を尽くす必要があります。

対応策内容目的
デジタル・フォレンジック必要であれば、該当従業員のPCやスマートフォンについて、専門業者による削除データの復元やログ解析を行う。プライバシー侵害にあたらないよう、就業規則や情報管理規程に基づき、本人の同意または正当な業務上の必要性を要件とすべきです。
周辺事実の再収集従来の調査対象外だった、関係者の人間関係や日常の行動、外部の取引先、監視カメラのデータなどを時間を遡って再確認する。新しい証拠が発見されることもある。
聴取方法の工夫聴取経験が豊富な外部の弁護士などに同席してもらい、より専門的な聴取技術で矛盾点や事実関係を丁寧に引き出す。証言の矛盾点が浮き彫りになることもある。

「合意による解決」を目指す

最もリスクの低い対応策の一つです。

対応策内容目的
退職勧奨懲戒処分ではなく、会社と本人の合意に基づき、退職を促す。穏便に退職させることで、企業秩序を回復する。

拙速は避ける(重要)

証拠不十分のまま「心証が疑わしい」という理由だけでハラスメント認定や懲戒処分を行うのは絶対に避けるべきです。対応に迷う場合は、必ず労働問題に精通した弁護士に相談してください。