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  • 従業員の勤務時間外の飲酒を規制できるか?運転職以外にも呼気検査をできるか?

    勤務時間外の飲酒規制について

    勤務時間外の飲酒を規制することは、原則として従業員のプライバシーや個人の自由を侵害する可能性が高く、一般的には許容されません。ただし、特定の状況下では例外的に規制が認められる場合があります。

    労働者は、労働契約に基づき、業務時間中は会社の指揮命令に従う義務がありますが、勤務時間外は個人の自由な時間であり、基本的には何をするにも自由です。飲酒もこの個人の自由な活動の一つであり、会社がこれを規制することは、憲法が保障する個人のプライバシー権や私生活の自由を不当に侵害すると見なされる可能性が高いです。

    たとえ就業規則に「勤務時間外の飲酒を禁止する」という規定があったとしても、その規定は「合理的ではない」と判断され、法的に無効となる可能性が高いです。

    例外的に規制が認められる場合

    以下のような「合理的な理由」がある場合には、勤務時間外の飲酒規制が例外的に認められる可能性があります。これは、飲酒が翌日の業務に重大な支障をきたし、会社の事業運営や安全管理に深刻な影響を与える場合に限られます。

    • 運転業務など危険な業務に従事する従業員
      飲酒運転や、飲酒による判断力低下が重大な事故につながるリスクがあるためです。特に、翌日の業務開始時に酒気帯び状態にあることを防ぐため、前日の飲酒を制限する規定は、安全配慮義務の観点から合理的と判断される場合があります。
    • 出張や海外赴任中の従業員
      現地の法令遵守、会社の信用維持、または安全管理上の理由から、勤務時間外であっても行動に制約を設ける場合があります。
    • 社会的信用を失墜させる可能性がある場合
      勤務時間外の過度な飲酒が原因で事件や事故を起こし、それが報道されるなどして会社のブランドイメージを著しく傷つける行為は規制できる可能性があります。ただし、この場合、個人の飲酒行為そのものを禁止するのではなく、「会社の信用を毀損する行為を禁止する」という就業規則に基づいて処分が行われることが一般的です。

    これらの場合でも、規制は必要最小限にとどめるべきであり、飲酒の量や時間、場所などを細かく限定するような過剰な規制は、やはり違法と見なされる可能性があります。

    結論として、 企業は、従業員のプライベートな行為である勤務時間外の飲酒を安易に規制することはできません。ただし、その飲酒行為が翌日の業務遂行に深刻な影響を与え、企業の安全管理や社会的信用を維持するために不可欠であると客観的に判断できる、ごく限られた場合に限り規制することができると考えられます。

    運転職に対する呼気検査について

    アルコールの呼気検査が法的に義務付けられているのは、主に「道路交通法に基づく自動車の運転者に対してです。

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    また、工場における工作機械等の操作や、高所作業などについては、労働者の安全を守るための「労働安全衛生法」の趣旨に基づき、企業が自主的にアルコール検査を導入しているケースは多くあります。これは、企業の安全に対する責任として、非常に重要な取り組みと言えます。

    一般従業員に呼気検査できるか

    一般の従業員、例えば、危険があるとは言えない事務職の従業員に、アルコールの呼気検査を求めることは違法となる可能性が高いと考えられます。その理由は、以下の複数の法的原則に抵触する可能性があるためです。

    1. プライバシー権の侵害

    労働者は、企業に従事するとはいえ、一人の人間として、個人のプライバシーを尊重される権利があります。アルコールの呼気検査は、その人の健康状態や前日の行動(飲酒)に関する情報を得る行為であり、これは個人のプライベートな領域に属する情報です。

    問題点: 業務上、自動車の運転や危険な機械の操作といった、生命や身体の安全に直結する業務に従事していない事務職の従業員に、一律または疑いを理由に検査を求めることは、「業務上の必要性」が極めて低いと判断される可能性が高いです。

    業務上の必要性が認められないにもかかわらず、検査を強制することは、個人のプライバシー権を不当に侵害する行為と見なされる可能性があります。

    2. 権限濫用

    使用者は、労働契約に基づき、労働者に対して業務上の指揮命令権を持っています。しかし、この権限は無制限ではなく、業務を遂行する上で「合理的な範囲」でなければなりません。

    問題点: 事務作業は、一般的に飲酒による業務遂行能力の低下が重大な事故につながる可能性が低い業務です。にもかかわらず、飲酒を疑って呼気検査を強制することは、企業の指揮命令権の範囲を逸脱した「権限濫用」と判断される可能性があります。

    特に、就業規則に明確な根拠がない場合や、特定の従業員のみを対象とする場合は、恣意的な人権侵害として問題視されるリスクが高まります。

    3. 就業規則の不備

    企業が従業員にアルコール検査を求める場合、その根拠を就業規則に明確に定めておく必要があります。そして、その規定は、検査の目的、対象者、実施方法、結果に基づく措置(懲戒処分など)について、合理的な範囲でなければなりません。

    問題点: 事務職を含むすべての従業員を対象としてアルコール検査をするには、それを実施する合理的理由が問われます。前日の深酒を防止するため、二日酔いで勤務してほしくない、というだけでプライバシーの問題、権限乱用の問題をクリアできない可能性が強いです。

    また、就業規則に検査を拒否した場合の懲戒規定を設けていたとしても、検査の命令自体が不当であると判断されれば、懲戒処分も無効となる可能性があります。

    企業がアルコール検査を実施する場合、その目的を「飲酒運転防止」や「危険作業における事故防止」といった明確な理由に限定し、対象者を限定することが重要です。

    自家用車通勤の許可条件にできるか

    自家用車で通勤する従業員に対して、自家用車通勤許可の条件としてアルコール呼気検査を義務付けることについても、慎重な判断が必要です。

    法律上は、通勤のみを目的とする自家用車の運転は、道路交通法のアルコールチェック義務化の対象外とされています。

    したがって、企業は法律上の義務に基づいて自家用車通勤者全員に検査を強制することはできません。

    法的な義務がないにもかかわらず、企業が通勤時の飲酒運転防止を目的に検査を導入する場合、以下の点に注意する必要があります。

    業務上の必要性・合理性の判断

    合理的と見なされるケース: 通勤後に社用車や個人の車で業務上の運転を行う可能性がある場合。この場合は、通勤時の検査は業務上の安全確保に直接つながるため、合理性が認められやすいです。

    合理性が認められにくいケース: 通勤後、社内で事務作業のみを行うなど、業務上の運転が一切発生しない場合。この場合は、検査の必要性が低いと判断され、従業員のプライバシー権の不当な侵害と見なされるリスクがあります。

    就業規則への明記

    自家用車通勤許可の条件としてアルコール検査を義務付ける場合は、その旨を就業規則や関連規程に明確に記載し、かつ、個別に同意を得ることが重要です。

    自家用車で通勤する従業員へのアルコール呼気検査は、通勤後に業務上の運転が予定されている場合に限り、自家用車通勤許可の条件として実施する合理性があると判断できます。業務上の運転がない従業員に対して一律に実施することは、慎重になるべきです。


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