経理で言う資金繰りとは、会社の現金や預金(資金)の流れを管理し、不足しないように調整することです。企業が事業を継続していく上で最も重要なことの一つです。
資金繰りの基本
会計上の利益(黒字)と、手元にある資金(キャッシュ)は同じではありません。例えば、商品を売って利益が出ても、その代金がすぐに入金されるとは限りません。売掛金として数ヶ月後に入金される場合、その間の仕入れ代金や給与の支払いなどに充てる資金が足りなくなることがあります。この状態を「勘定合って銭足らず」といい、最悪の場合、帳簿上は黒字でも倒産してしまう「黒字倒産」に繋がります。
資金繰りは、こうした「入金と支払いのタイミングのズレ」によって資金が不足することを防ぐために行われます。
- 入金:売上代金の回収、借入金、増資など
- 出金:仕入れ代金の支払い、人件費、家賃、借入金の返済など
これらの収支のバランスを常に把握し、資金が不足しそうであれば、早めに資金調達(融資など)を検討したり、支払い条件を交渉したりするなどの対策を講じます。
資金繰りの重要性
倒産リスクの回避:最も重要な目的です。資金ショートを未然に防ぎ、事業を継続させるために不可欠です。
信用力の向上:支払いを滞りなく行えることは、取引先や金融機関からの信頼を高めます。これにより、有利な条件での取引や資金調達が可能になります。
経営判断の質の向上:将来の資金予測ができるようになることで、設備投資や新規事業など、より正確な経営判断が可能になります。
一般的な資金繰り表
資金繰りを管理するためのツールとして、「資金繰り表」がよく用いられます。これは、一定期間(月単位など)の資金の入出金を予測し、手元に残る資金の残高を可視化するものです。
この表を作成することで、いつ資金が不足するのかを事前に把握でき、資金繰り悪化を防ぐための具体的なアクションを計画できます。
一般的な資金繰り表のサンプルを以下に示します。
項目 | 収入 | 支出 | 備考 |
期首残高 | 1,500,000円 | ||
I. 営業収入 | |||
売上入金 | 2,500,000円 | 9月分の売掛金回収 | |
II. 財務収入 | |||
借入金 | 1,000,000円 | 設備資金として銀行から借り入れ | |
III. その他の収入 | |||
100,000円 | 事務所の備品を売却 | ||
収入合計 | 3,600,000円 | ||
I. 営業支出 | |||
仕入代金 | 1,200,000円 | 10月分の商品仕入れ | |
人件費(給与) | 800,000円 | ||
家賃 | 250,000円 | ||
広告宣伝費 | 150,000円 | ||
水道光熱費 | 50,000円 | ||
事務用品費 | 30,000円 | ||
II. 財務支出 | |||
借入金返済 | 300,000円 | ||
利息の支払い | 20,000円 | ||
III. その他の支出 | |||
50,000円 | 税理士への報酬 | ||
支出合計 | 2,850,000円 | ||
期末残高 | 2,250,000円 | ||
(期首残高 + 収入合計 - 支出合計) |
資金繰り表の作成手順
この表を作成する基本的な手順は以下の通りです。
1. 前月末の現金残高を記入する
まず、表の期首残高に、前月末日時点の現金および預金の合計額を記入します。これが、当月の資金繰り計算の出発点となります。
2. 収入と支出の予定を記入する
当月に見込まれるすべての収入と支出の項目をそれぞれ記入します。
- 収入:売上代金の回収、借入金、資産の売却などを記入します。実際に資金が入ってくる予定日ベースで計上するのがポイントです。
- 支出:仕入れ代金や給与、家賃、借入金の返済などを記入します。こちらも実際に資金が出ていく予定日ベースで計上します。
3. 収入と支出の合計額を計算する
各項目の合計を計算します。
- 収入合計:すべての収入項目を合算します。
- 支出合計:すべての支出項目を合算します。
4. 月末の資金残高を計算する
最後に、月末の資金残高を計算します。計算式は以下の通りです。
期末残高 = 期首残高 + 収入合計 - 支出合計
この計算を繰り返すことで、数か月先の資金残高を予測することができます。予測した残高がマイナスになりそうな場合は、その前に銀行融資を検討したり、支払いの交渉をしたりするなど、対策を立てることが可能になります。