退職者面談において有益なデータを引き出し、労働環境の改善につなげるための具体的な質問事項、避けるべきタブー、および面談担当者の心構えを整理しました。福祉・介護現場をはじめとする労務管理の実務において、人事担当者向けのマニュアル作りの参考になれば幸いです。
一般的な質問事項(ヒアリング項目)
本音を引き出すため、事実確認から入り、徐々に組織の課題へと話題を広げていく構成が効果的です。
- 退職の決定的な理由とタイミング
- 「退職を考え始めたのはいつ頃ですか。また、そのきっかけは何でしたか?」
- 「最終的に退職を決断した一番の理由は何でしょうか?」
- 業務量・労働環境に関する評価
- 「あなたの業務量や労働時間は適切だと感じていましたか?」
- 「シフトの組み方や有給休暇の取りやすさについて、改善すべき点はありましたか?」
- 人間関係・マネジメントに関する評価
- 「上司とのコミュニケーションや、評価に対して納得感はありましたか?」
- 「チーム内の人間関係や、現場の風通しはいかがでしたか?」
- 会社・組織への総合的なフィードバック
- 「この職場で働いて良かったと思える点は何ですか?」
- 「この職場で働いていて、これは良くないと思った点は何ですか?」
- 転職先(次のキャリア)について
- 「話せる範囲で教えてください。次の職場はどのような環境(業界、働き方など)を重視して選ばれましたか?」(自社の労働条件の劣後要因を分析するため)
質問してはならない事項(NG質問)
退職者のプライバシーを侵害する質問や、心理的負担をかける発言は、トラブルに発展するリスクがあるため厳禁です。
- 転職先企業に関する執拗な詮索:具体的な企業名や、次の職場の給与額などを無理に聞き出すことは避けなければなりません。本人が自発的に話す場合を除き、深追いは禁物です。
- 個人的な思想・信条、家庭の立ち入った事情:労働法規上も不適切とされる宗教、支持政党、個人の病歴、家族のプライバシーに踏み込む質問は行ってはいけません。
- 退職への批判や責任追及:「今現場がどれだけ困っているか分かっていますか」「あなたの忍耐力が足りないのではないか」といった、退職の決断を責める発言や罪悪感を煽る言動は、ハラスメントに該当し得ます。
面談担当者が気をつけるべき心構え
- 「傾聴」に徹し、絶対に反論・弁解をしない:退職者から会社や上司に対する耳の痛い不満が出たとしても、「それは誤解だ」「会社にも事情がある」と反論してはいけません。面談の目的は「議論して説得すること」ではなく「現場の生の声を収集すること」です。共感の姿勢を示し、ひたすら聞き役に徹します。
- 慰留(引き留め)を行わない:退職者面談は、退職が正式に合意された後に行うものです。この場で「給料を上げるから残ってくれないか」「部署を変えるから考え直して」と慰留を始めると、面談の趣旨がブレて本音を話さなくなります。
- 情報の取り扱い(守秘義務)を確約する:面談の冒頭で「今日話していただいた内容は、個人の不利益になるような扱い(退職金や離職票の会社都合・自己都合の判定など)には一切影響しません」「個人が特定されないよう加工した上で、組織改善のためだけに役立てます」と約束し、心理的安全性を担保することが不可欠です。
- 事務手続きの確認(労務トラブルの防止):対話の最後に、未消化の有給休暇の取り扱い、健康保険証や制服などの貸与物の返却方法、離職票の発行時期などを事務的に確認し、認識のズレによる退職後の労務トラブルを未然に防ぎます。
会話事例
退職者面談(エグジットインタビュー)の具体的な会話のスクリプト(台本)例をご紹介します。
シフト制が敷かれている福祉・介護現場や医療機関などを想定し、人事・労務担当者(面談者)と退職予定者(スタッフ)の会話の流れを4つのステップで構成します。
ステップ1:導入・安心感の醸成
最初の数分で、面談の目的を伝え、「何を言っても不利益にならない」という心理的安全性を確保します。
人事:「〇〇さん、本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。退職日も近づいてきましたが、本日はこれまでのご尽力に感謝をお伝えするとともに、今後の当法人のより良い職場づくりのヒントをいただきたく、この場を設けさせていただきました。」
人事:「まず初めにお約束しますが、今日ここでお話しいただいた内容によって、〇〇さんの退職手続きや有給消化、離職票の扱いなどに不利益が生じることは絶対にありません。また、現場にフィードバックする際も個人が特定されないよう細心の注意を払いますので、どうか気兼ねなく、率直なご意見を聞かせてください。」
退職者:「はい、分かりました。」
ステップ2:退職理由の深掘り(建前→本音)
最初から「不満は何ですか?」と聞くのではなく、相手の言葉を受け止めながら、少しずつ核心に迫ります。
人事:「今回、退職を決断された一番の理由をお伺いしてもよろしいですか?」
退職者:「そうですね、以前から別の分野の仕事にも興味がありまして、そちらにチャレンジしたい気持ちが強くなったのが理由です。」(※建前の理由)
人事:「なるほど、新しい分野への挑戦ですね。前向きな決断を応援します。ちなみに、そのお気持ちが強くなった時期や、日々の業務の中で『今のままでいいのかな』と感じたような出来事は何かありましたか?」(※否定せず、きっかけを深掘りする)
退職者:「うーん…実は、ここ半年ほど人員不足で夜勤や不規則なシフトが続き、体力的にも少しきついなと感じることが増えていました。そんな中で、自分の将来の働き方を考えるようになりまして…。」(※本音が見え始める)
ステップ3:労働環境・人間関係へのフィードバック
出てきた不満に対して決して反論せず、「会社の課題」として受け止める姿勢を示し、さらに現場の状況を引き出します。
人事:「そうだったのですね。人員配置の面で〇〇さんに大きなご負担をおかけしてしまい、本当に申し訳ありませんでした。そうしたシフトの負担や体調について、現場のリーダーや管理職に相談できるような雰囲気はありましたか?」
退職者:「リーダーも常に現場に入っていて忙しそうですし、ピリピリしている時もあって…。個人的なシフトの希望は、正直とても言い出しにくかったです。有給の申請も直前までためらってしまう雰囲気がありました。」
人事:「なるほど。現場のリーダーもプレッシャーを抱えていて、スタッフが声をかけづらい状況が生まれていたのですね。それは法人として改善すべき極めて重要な課題だと受け止めます。教えていただきありがとうございます。」(※「リーダーも頑張っている」等の弁解は絶対にしない)
人事:「もし〇〇さんが施設長だとしたら、スタッフがもっと働きやすくなるために、まずどこを変えたいですか?」
退職者:「そうですね…シフト作成のルールをもう少し明確にして、せめて月に何日かは希望休が確実に通るような仕組みがあれば、みんな気持ちに余裕ができると思います。」
ステップ4:クロージングと事務手続き
前向きな感謝で締めくくり、後々の労務トラブルを防ぐための事務確認に移行します。
人事:「非常に貴重なご意見をありがとうございます。今後の制度見直しに必ず活かしてまいります。改めて、これまで当法人を支えてくださり本当にありがとうございました。新しい職場でのご活躍を心から応援しております。」
人事:「最後に、事務的な確認だけさせてください。残りの有給休暇の最終消化日と、制服や保険証の返却フローについてですが……」
活用ポイント:
こうしたスクリプトをベースに、「面談者は絶対に反論しない(『でも』『だって』を使わない)」「相槌を打ちながら共感を示す」というルールを現場のヒアリング担当者に事前に研修しておくことで、退職者面談が単なる事務手続きから「組織改善のための強力なツール」へと変わります。