Last Updated on 2025年8月27日 by 勝
来客が会社の玄関前で蜂に刺されてしまいました。蜂は当社の敷地に巣を作っているものではなく、他所から飛んできたものだとと思われます。こうした場合、当社が治療費などを負担しなければならないものでしょうか?
会社が責任を負うのは、その施設に通常あるべき安全を欠いていた場合です。他所から飛んできた蜂について責任を負うことは通常はないと思われますが、検討してみましょう。
法律的な検討
会社(施設管理者)が責任を負うのは、その施設に通常あるべき安全を欠いていた場合です。
民法上は「工作物責任(民法717条)」が典型ですが、これは施設の設置や管理に瑕疵(欠陥・不備)がある場合に限られます。
今回の蜂は「会社の敷地に巣を作っていたわけではなく、いわば通りすがりの蜂に運悪く刺されてしまったという不可抗力の事故と考えられます。このような場合は、通常の管理上の瑕疵があるとは言い難いので、断定はできませんが、法律上、会社に賠償責任が生じる可能性は低いと考えられます。
実務的な対応
法的責任になる可能性は低くても、来客が被害を受けた以上、誠意ある対応が必要でしょう。任意(善意)ですが、薬の購入、病院への搬送、見舞金などが考えられます。
なお、今回は他所から飛んできた蜂だということですが、蜂の巣が会社の敷地内にみつかったときは、状況が変わってきます。
敷地内の危険な状態を放置していた場合には、管理者に責任が認められる傾向があります。先ほどの、工作物責任(民法717条)の適用です。
他所からたまたま飛んできた蜂ではなく、敷地内に蜂の巣があるということになれば、危険を予見できたのに除去を怠っていたとみられ、会社が損害賠償責任を負う可能性がたかまります。
このようなことは蜂の巣にとどまりません。会社は、来客や従業員の安全を守るため、敷地内の状態を点検する義務があると考えたほうが良いでしょう。
定期的に敷地内を点検し、もし、危険なものを発見したら迅速に撤去依頼するのはもちろん、注意喚起の掲示を行うことが「管理上の相当な注意」とされます。
これらの「予防措置」を行っていれば、仮に事故が起きても「会社はできる限りの対応をしていた」と主張でき、責任が軽くなる余地があります。
類似のケース
次に、雨の日に自動車で訪問してきた来客が、会社の駐車場で滑って転んだ場合と、会社に入ってから、他の客の傘からおちた雨水で濡れていた床で転んだ場合で検討してみます。
雨の日に駐車場で滑った場合
基本
雨の日に駐車場の地面が濡れるのは自然現象であり、歩行者にとって通常予想されるリスクです。通常の舗装や排水がされている場合、会社に特別な管理上の瑕疵があるとは言えないことが多いです。
例外
排水設備が壊れて水たまりができていた、苔や油が放置されて極端に滑りやすくなっていたなど「通常以上の危険」を放置していた場合は、管理不備とされ会社の責任が生じ得ます。
玄関や廊下で雨水により滑った場合
基本
雨の日に他人の傘から水が落ち、床が濡れているのであれば、「施設の管理者」としては来客が安全に出入りできるように、玄関マットを敷く、床を定期的に拭く、「床が滑りやすいので注意」の掲示をする、などの措置を講じる義務があるとされています。
対応を怠った場合
来客が転倒・負傷したとき、管理上の瑕疵と評価され、会社が損害賠償責任を負う可能性がたかくなります。
結論
会社は、駐車場よりも玄関・廊下など「施設内」の転倒事故で責任を問われやすいと考えられます。その場合、日常的に「安全配慮のための措置」をとっているかどうかが、責任の有無を左右します。
保険での備え
以上のような、来客が蜂に刺されたり、転んだりしたときに、その責任が会社にある場合に備えた保険があります。「施設賠償責任保険」 です。
施設賠償責任保険とは、会社や店舗、工場、事務所などの「施設の管理・利用」に起因して、第三者(来客・取引先・通行人など)にケガや財物損害を与えた場合に補償する保険です。
典型例:
- 来客が玄関で雨水に滑って転倒し、骨折
- 駐車場の不備で車が損傷
- 看板が落下して歩行者がケガ
補償範囲:
- 治療費・慰謝料・休業損害などの賠償金
- 損害賠償に関わる弁護士費用や訴訟費用
単独で「施設賠償責任保険」に加入することもできますが、多くの場合、企業火災保険・店舗総合保険・事務所保険などのパッケージに特約として付けられるケースが一般的です。
以上、一般的に解説しましたが、ちょっとして状況の違いで責任が変わってくるので、実際にこのような場面に遭遇したときは、弁護士等の専門家にご相談してください。
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