カテゴリー: 退職

  • 退職代行会社が従業員の退職を伝えてきたらどうする?

    退職代行サービス業者とは

    退職代行サービスが世間に広く知られるようになってから、その需要は急速に拡大し、現在では一定の市場規模を形成しています。

    利用者の数は年々増加しており、企業の約23.2%が退職代行を利用した従業員を経験しているというデータも出ています(2024年上半期)。特に20代の若年層での認知度が非常に高く、利用の中心となっています。

    運営形態について

    退職代行サービスを営む会社は、大きく以下の3つの形態に分けられます。

    1. 民間業者

    最も数が多いのがこの形態です。弁護士資格を持たないため、法律で定められた範囲内での業務に限られます。具体的には、「従業員の退職の意思を会社に伝える」という使者としての役割が中心となります。退職日の交渉や未払い賃金の請求など、法律的な交渉は行うことができません。

    2. 労働組合

    特定の労働組合が退職代行サービスを提供しているケースです。労働組合法に基づき、団体交渉権を有するため、会社との間で退職日や有給休暇の消化など、労働条件に関する交渉を行うことができます。民間業者よりもできることの範囲が広いため、交渉を希望する利用者に選ばれることがあります。

    3. 弁護士

    弁護士が退職代行サービスを提供しているケースです。弁護士法に基づき、法律の専門家として代理交渉を行うことができます。未払い賃金の請求やハラスメントによる損害賠償請求など、法的トラブルの解決まで含めて対応できる点が最大の強みです。

    このように、退職代行サービスは専業・兼業を問わず、様々な事業者が参入しており、その運営形態によってできることや法的な位置づけが異なります。会社として退職代行の連絡を受けた際には、まず相手方がどの形態の業者であるかを確認することが、その後の適切な対応のために非常に重要となります。

    連絡がきたらどう対応するか?

    退職代行会社を利用した退職の連絡は、一般的な退職手続きとは異なる部分が多く、事前に流れを把握しておくとスムーズに対応できます。

    退職代行会社からの連絡と、その後のやり取りの流れは以下の通りです。

    1. 退職代行会社から連絡が来る

    まず、退職代行会社からあなたの会社の人事担当者、または直属の上司へ電話、またはメールで連絡が入ります。内容は、従業員の〇〇さんの退職の意思を伝えるというものです。この際、退職届の提出、必要な書類、貸与物の返却など、退職に必要な手続きについて確認を求められます。

    この最初の連絡で、退職代行会社から従業員本人に直接連絡を取らないよう求められることが一般的です。これは、本人が会社からの連絡で心理的な負担を感じてしまうことを避けるためです。

    2. 退職に伴う具体的な手続き

    主なやり取りのポイントは以下の通りです。

    • 退職日の決定: 従業員が希望する退職日を伝えられます。調整が必要な場合は、その旨を退職代行会社に伝えます。
    • 離職票や雇用保険被保険者証などの書類手続き: 退職に必要な書類をいつ、どこへ送付すればよいか確認します。

    これらのやり取りは、すべて退職代行会社を介して行います。

    3. 貸与物の返却

    会社から従業員に貸与していた、社員証、制服、PC、携帯電話などの返却方法について確認します。返却物を宅急便等で送ってもらうよう依頼することが一般的です。

    4. 会社から退職者への連絡は控える

    退職代行を利用する従業員は、会社との直接のやり取りを避けたいため、退職代行会社を介して手続きを進めています。トラブルを避けるためにも、会社から本人へ直接連絡を取ることは控えて、退職代行会社とのやり取りに徹しましょう。

    5. 退職完了

    すべての手続きが完了したら一連のやり取りが終了します。

    このように、退職代行会社からの連絡は、最初から最後まで退職代行会社が従業員の代わりとなって手続きを進めるという特徴があります。


    会社事務入門従業員が退職するときの手続き>このページ

  • 退職勧奨を行う管理職向けマニュアル

    退職勧奨の一般的説明

    退職勧奨とは、会社が従業員に対して自主的な退職を促す行為です。これは、あくまで従業員本人の自由な意思決定に委ねられるものであり、強制はできません。

    会社側の目的は、会社の経営状況の改善、組織の活性化、能力や適性の欠如が見られる従業員への対応など多岐にわたります。しかし、その実施方法を誤ると、従業員から「退職強要」として訴えられ、損害賠償請求や不当解雇の訴訟に発展するリスクがあります。

    そのため、管理職は、従業員の意思を尊重し、穏やかで冷静な対話に努め、決して強制的・威圧的な言動をしてはなりません。

    具体的な会話例

    退職を促す際の穏当なアプローチ

    シナリオ妥当な会話例ポイント
    会社の事業方針転換「当社の事業が今後〇〇の分野に注力していくことになりました。それに伴い、〇〇さんのご経験とスキルを活かせるポジションが社内になくなってしまう可能性があります。ご相談させていただきたいのですが、今後のキャリアについて、当社での選択肢だけでなく、社外での可能性も視野に入れて考えてみませんか?」会社の状況を説明し、従業員のスキルやキャリアを尊重する姿勢を示す。一方的に押し付けるのではなく、今後のキャリアについて一緒に考える姿勢を見せる。
    従業員の能力不足「〇〇さんがこれまでに努力されてきたことは承知しています。ただ、現在の業務に必要なスキルと〇〇さんの能力に、少しギャップが生じているように感じます。このままではお互いにとって良い状況とは言えません。今後のキャリアをより良くするために、別の道を探すことも選択肢の一つとして考えてみてはいかがでしょうか?」努力を認めつつも、現状の課題を具体的に示し、双方にとってのメリットを提示する。従業員の感情に配慮し、あくまで提案であることを強調する。

    禁止される話し方(退職強要と見なされる言動)

    以下の発言は、退職強要と見なされる可能性が高く、絶対に行ってはなりません。

    • 「明日から来なくていい」「今すぐ辞めてもらう」
      • 解雇に等しい一方的な通告であり、従業員の自由な意思決定を妨げる行為です。
    • 「辞めなければ、部署を異動させる」「給料を減らす」
      • 退職しない場合に不利益な扱いをほのめかし、従業員に心理的な圧力をかける行為です。
    • 「辞めてくれないと、会社はやっていけない」
      • 退職しないと会社に損害を与えるというプレッシャーをかけ、従業員に罪悪感を抱かせる行為です。
    • 「君のような人間はどこにも通用しない」
      • 人格を否定するような侮辱的な発言は、ハラスメントと見なされ、従業員に精神的苦痛を与える行為です。
    • 「〇〇さんが辞めてくれるまで、この面談は終わりません」
      • 長時間の拘束や、退職するまで面談を終わらせないという意思表示は、心理的な圧迫であり、退職強要と見なされます。

    注意点

    • 複数名での対応: 退職勧奨の面談は、必ず複数名の管理職で行い、言動の記録を取るようにします。これにより、後から言った言わないのトラブルを防ぎ、客観的な証拠を残すことができます。
    • 複数名での対応の注意点: 面談の進め方によっては、従業員に心理的な圧迫を与え、「退職強要」と判断されるリスクが高まることに注意が必要です。したがって、複数名で面談を行う際には、面談の目的を明確にし、従業員の意思を尊重する姿勢を崩さず、威圧的な言動や長時間の拘束は絶対に避ける必要があります。
    • 面談内容の記録: 面談の日時、場所、参加者、会話の内容(特に会社側の発言と従業員の発言)を詳細に記録し、従業員の署名をもらうようにします。
    • 明確な退職意思の確認: 面談の最後に、従業員の意思が「退職」であることを明確に確認し、口頭だけでなく書面(退職届など)で受け取ることが重要です。
    • 無理強いはしない: 従業員が退職に応じない場合は、それ以上無理強いをせず、面談を終了します。無理強いを続ければ、退職強要と見なされるリスクが高まります。
    • 専門家への相談: 退職勧奨はデリケートな問題であり、ケースによっては法律的な知識が必要になります。迷った場合は、すぐに人事課に連絡・相談してください。

    会社事務入門解雇するときの注意点退職勧奨はあくまでも選択肢の提示、無理強いをしてはいけない>このページ

  • 死亡した従業員の遺族に遺族厚生年金の説明をする(説明文付き)

    従業員が死亡したときは、会社から厚生年金から給付される遺族厚生年金について説明しましょう。ご遺族の方は専門的な知識がないことが多いため、専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明することが大切です。

    ここでは、ご遺族の方に寄り添いながら、遺族厚生年金について理解してもらうための会話例と、後で読み返せる説明文書のサンプルをご提案します。

    ご遺族への説明

    まずはお悔やみを述べます。その上で、ご家族のための年金制度があることをお伝えします。

    総務担当者: この度は誠にご愁傷様でございます。突然のことで、心よりお悔やみ申し上げます。大変な時にお時間をいただきありがとうございます。

    ご遺族: いえ、とんでもないです。

    総務担当者: 実は、〇〇さんがこれまでお勤めの中で加入されていた年金制度から、ご家族のために遺族厚生年金というものが支給されます。難しい話かもしれませんが、今後の生活を少しでも支えるための大切な年金ですので、簡単にご説明させていただけますでしょうか。

    ご遺族: はい、お願いします。

    総務担当者: 毎月お給料から厚生年金保険料が引かれていたのを覚えていらっしゃいますか?

    ご遺族: はい…。

    総務担当者: その厚生年金保険料は、〇〇さんが将来、老齢年金を受け取るためのものですが、もしものことがあった場合、ご遺族の方に遺族年金が支払われる仕組みになっています。

    ご遺族: そうなんですね。

    総務担当者: 「遺族年金には、国民年金から支払われる「遺族基礎年金」と、厚生年金から支払われる遺族厚生年金の2つがあります。〇〇さんの場合、会社にお勤めでしたので、条件を満たせば両方を受け取ることができます。〇〇さんの場合、お子様がお小さいので、両方受け取れるケースに当たります。

    ご遺族: そうですか。

    総務担当者: 正確な金額は、日本年金機構が計算するため、書類を提出してから年金事務所で教えてもらえます。この年金は、生活の支えとなる大切な収入源となりますので、ぜひ、早めに年金事務所に行って手続きを進めていただければと思います。手続きに必要な書類や、今後の流れについては、この説明文書にまとめておりますので、後ほどご確認ください。ご不明な点があれば、いつでも私にご連絡ください。

    説明文書のサンプル

    会話で大まかな内容を理解してもらった上で、後から内容を確認できる文書を渡すと親切です。専門用語はできる限り避け、簡潔にまとめましょう。

    故 〇〇 様ご遺族向け 遺族厚生年金のご案内

    遺族厚生年金とは

    遺族厚生年金とは、故人様が会社にお勤めされていた期間に加入していた厚生年金保険から、ご遺族の生活を支えるために支給される年金です。

    遺族厚生年金を受け取れる方

    死亡した方に生計を維持されていた以下の遺族のうち、最も優先順位の高い方が受け取ることができます。

    • 子のある配偶者
    • 子(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)
    • 子のない配偶者
    • 父母
    • 孫(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)
    • 祖父母

    簡単に説明すると上記のようになりますが、細かな要件があるので、年金事務所でご質問ください。

    なお、子がいない妻については、次のようになります。

    • 夫の死亡当時、妻が 30歳以上 → 60歳までの間、遺族厚生年金が支給され、その後は65歳以降に自分の老齢年金と調整。
    • 妻が 30歳未満で子がいない場合 → 遺族厚生年金は「5年間のみ」支給。

    年金額について

    年金額は、故人様が会社にお勤めだった期間や、その期間の収入(厚生年金保険料の納付額)に基づいて計算されます。

    具体的な金額は、日本年金機構が審査・決定します。

    手続きについて

    遺族厚生年金を受け取るためには、日本年金機構への手続きが必要です。直接の窓口は末尾に記載した〇〇年金事務所です。最初は書類をもらって説明を聞き、2回目で書類を提出するつもりでお考えください。

    手続きの流れ

    1. 必要書類の準備
      • 年金請求書
      • 戸籍謄本
      • 死亡診断書の写し など
    2. 年金事務所へ提出
      • お近くの年金事務所にご自身で提出していただくことになります。
    3. 審査・決定
      • 提出された書類をもとに、日本年金機構が受給資格や年金額を審査します。
    4. 年金証書の送付・年金支給
      • 審査が通ると、ご自宅に年金証書が届き、年金の支給が開始されます。

    ご相談窓口

    手続きに関するご不明な点や、必要書類の詳細については、下記の窓口にご相談ください。

    〇〇年金事務所
    住所:
    電話番号:

    〇〇株式会社総務部 〇〇〇〇
    電話番号:


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  • 退職する従業員から回収しなければならない物品やデータ(誓約書サンプル付き)

    退職する従業員から回収すべきものは、会社の所有物であり、業務上必要とされたものです。一般的に回収するべきものは以下の通りです。

    会社から貸与された物品

    • 健康保険証(本人分および扶養家族分)
    • 社員証、IDカード、社章
    • 鍵(会社、ロッカー、社用車など)
    • パソコン、携帯電話、タブレット端末
    • 制服、作業着
    • 会社の経費で購入した書籍、文房具、事務用品
    • 社用車の鍵、ETCカード、ガソリンカード
    • 通勤定期券

    業務に関連する情報やデータ

    • 業務で使用した書類やデータ(紙媒体、電子データ問わず)
    • 社内マニュアル、規定集
    • 顧客情報や取引先リスト
    • 開発中の製品情報や企画書、設計図面

    顧客の名刺や取引先のパンフレットについて

    「顧客の名刺」や「取引先のパンフレット」などは営業マンの私物化されていることもありますが、次の理由により通常は回収対象品です。

    • 顧客の名刺
      • 名刺に記載されている情報は、会社に指示された営業活動で得たものであり、会社の情報資産と見なせます。
      • 名刺に含まれる個人情報は、退職後に従業員が何らかの目的で利用すると、情報漏洩や不正競争につながるリスクがあります。
      • 後任者への引き継ぎをスムーズに行うためにも、名刺は会社に返却し、社内で適切に管理されるべきものです。
    • 取引先のパンフレット
      • 業務遂行のために入手したものであれば、会社の所有物です。
      • 競合他社に渡ったり、退職者が個人的に利用したりする可能性を防ぐためにも、回収するのが一般的です。

    回収を徹底すべき理由

    退職する従業員からの物品やデータの回収は、単なる返却だけでなく、以下のような重要な目的があります。

    • 情報漏洩リスクの防止:顧客情報や会社の機密情報が社外に流出することを防ぎます。
    • 不正競争の防止:退職者が競合他社に転職したり、独立したりする際に、持ち出した情報を使って会社に不利益をもたらすことを防ぎます。
    • コンプライアンスの遵守:個人情報保護法や会社の規定を遵守するためにも、適切な回収が必要です。

    誓約書を求める

    「これで全て返却しました」「情報持ち出しはしていません」という誓約書は、退職者から書面で確認を取る際に有効です。法的な強制力は限定的ですが、従業員の意識付けや、万が一の際の証拠の一つとして役立ちます。

    以下に書式の例を示します。必要に応じて項目を追加・修正してご活用ください。

    誓約書

    甲:〇〇株式会社
    乙:氏名 〇〇 〇〇

    乙は、〇〇株式会社(以下「甲」という)を20〇〇年〇月〇日付で退職するにあたり、下記の事項を甲に対し誓約いたします。

    1. 乙は、甲より貸与された物品(健康保険証、社員証、鍵、パソコン、携帯電話、各種カード、制服、備品、その他甲の所有物一切)について、全て甲に返却いたしました。

    2. 乙は、甲の業務上知り得た顧客情報、技術情報、営業情報、財務情報、個人情報、その他一切の機密情報及び営業秘密(以下「機密情報等」という)について、業務以外の目的で使用しないことを誓約いたします。

    3. 乙は、機密情報等を、いかなる媒体(USBメモリ、外付けHDD、個人のPC、スマートフォン、クラウドストレージ、その他)にも複製、保存、転送等により持ち出していないことを誓約いたします。

    4. 乙は、甲の業務上作成したデータ、書類、名刺、パンフレット等、甲の所有に属する一切の業務関連情報を、甲に全て返却し、自己の管理下には一切保管していないことを誓約いたします。

    5. 本誓約に違反し、甲に損害を与えた場合、乙は甲の被った損害を賠償する責任を負うものといたします。

    上記の内容を相違ないことを誓約いたします。

    20〇〇年〇月〇日


      (甲)〇〇株式会社
    代表取締役 〇〇 〇〇 (印)

    (乙)氏名:〇〇 〇〇 (印)

    【誓約書作成のポイント】

    • 具体的に記載する: 「全ての物品」「一切の機密情報」といった包括的な表現だけでなく、具体的な物品名や情報の種類をできるだけ例示するとより明確になります。
    • 返却物リストとの照合: 念書を書いてもらう前に、返却物リストを用意し、一つずつ確認しながら回収し、双方でチェックするようにすると、抜け漏れを防げます。
    • 法的な効果: この念書は、あくまで「本人が持ち出していないことを表明した」という事実の証明であり、それ自体が情報持ち出しを物理的に防ぐものではありません。万が一持ち出しが発覚した際の、会社側の主張の補強材料として用いるものです。

    データの持ち出しをシステム的に防ぐ方法

    データ持ち出しを完全に防ぐことは難しいですが、システム的に対策を講じることで、リスクを大幅に低減できます。

    データ持ち出しを制限・監視する

    • USBポートや外部ドライブの制限:
      • 会社のPCでUSBメモリや外付けHDDの使用を制限したり、特定のデバイスのみを許可したりする設定を行います。
      • Group Policy(Windowsの場合)やMDM(モバイルデバイス管理)ツールなどで一元管理できます。
    • DLP(Data Loss Prevention)ソリューションの導入:
      • 機密情報と定義されたデータが、メール、ウェブアップロード、USBメモリなど、社外への経路を通じて送信されるのを検知・ブロックするシステムです。
      • どのデータが、誰によって、どこへ持ち出されようとしているのかをログとして残すことも可能です。
    • クラウドストレージの利用制限:
      • 会社の許可していない個人用のクラウドストレージ(Google Drive, Dropbox, OneDriveなど)へのアクセスやアップロードを制限します。
      • 社内でのみ利用を許可されたクラウドストレージやファイルサーバーを活用し、そこでのアクセス権限を厳密に管理します。

    アクセス管理を徹底する

    • 役割ベースのアクセス制御(RBAC):
      • 従業員の役職や業務内容に応じて、必要なデータにのみアクセスできる権限を設定します。
      • 退職時には、速やかにアカウントを無効化し、アクセス権限を削除します。
    • ファイルサーバーや共有フォルダのアクセスログ管理:
      • 誰が、いつ、どのファイルにアクセスしたか、編集したか、ダウンロードしたかなどのログを記録し、定期的に監視します。
      • 不審なアクセスがあれば、すぐに検知できる体制を整えます。

    物理的・運用的な対策も重要

    • PCの起動時パスワード:
      • PCにパスワードを設定するだけでなく、起動時にもパスワードを要求する設定にすることで、PCの紛失・盗難時のリスクを低減します。
    • 持ち出し制限に関する社内規定の明確化:
      • データ持ち出しに関するルールや罰則を明確にし、従業員に周知徹底します。
      • 入社時に誓約書を交わすことも有効です。
    • 退職時のデータ消去の徹底:
      • 退職者が使用していたPCやデバイスのデータは、専門のツールで完全に消去するようにします。

    これらの対策を組み合わせることで、情報漏洩のリスクを最小限に抑え、会社の重要な資産を守ることができます。


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  • 退職者はどこまで引き継ぎをしなければならないか?

    引き継ぎ義務について

    法的な義務について

    労働基準法などの法律に「退職者は必ず引き継ぎをしなければならない」といった規定はありません。

    ただし、労働契約法3条4項にある「労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。」という規定や、民法の信義誠実の原則から、退職時にも一定の範囲で誠実に対応する義務があると解されます。

    実務上は、多くの会社が就業規則等に「業務の引き継ぎを行うこと」と定めています。

    就業規則による拘束力

    就業規則に「退職に際しては業務の引き継ぎを誠実に行うこと」と定められていれば、労働者はこれに従う義務があります。

    ただし、退職は労働者の権利ですので、引き継ぎの不備を理由に退職を妨げることはできません。

    引き継ぎを一切行わず、会社に大きな損害や混乱を与えた場合には「職務怠慢」等として懲戒処分を検討する余地はあります。

    ただし、懲戒処分は退職日までにできることであり、退職後には処分できません。

    また、そもそも、会社が社員の業務を把握していれば引き継ぎも簡単に終わるはずなので、一方的に従業員の責任にすることはできません。「引き継ぎが不十分だった」という程度で重い処分を科すのは裁判例上も難しいでしょう。

    したがって「できる範囲で」ということが現実的な落としどころになります。

    退職後に判明した引き継ぎもれ

    退職後に業務上の引継ぎ義務は基本的にありません。退職日までの間は誠実に引き継ぐという一定の義務がありますが、退職後に呼び出されて追加対応をする義務まではありません。

    引き継ぎ書について

    引き継ぎ書の作成は、法的な義務ではありませんが、一般的に行われています。

    引き継ぎ書の基本的な構成

    引き継ぎ書に決まった書式はありませんが、一般的には以下の項目を含めると良いでしょう。

    1. 基本情報:書類のタイトル、作成日、作成者、引き継ぎ先(後任者)の名前など
    2. 業務一覧:担当している業務をリストアップします。
    3. 引き継ぎ内容:それぞれの業務について、具体的な進め方や注意点などを記載します。
    4. 資料・ファイル一覧:業務で使用している資料やファイルの保管場所、アクセス方法などを記載します。
    5. その他:引き継ぎに関する連絡先や、口頭での補足事項など

    各項目の具体的な内容

    1. 業務一覧

    まずは、担当しているすべての業務を洗い出しましょう。年間、月間、週間のルーティン業務や、イレギュラーな業務、進行中のプロジェクトなども忘れずにリストアップします。

    2. 詳細な引き継ぎ内容

    このセクションが最も重要です。「誰が見ても分かるように」を意識して、具体的に記載しましょう。

    • 業務の目的:なぜこの業務を行うのか、その意義や目的を伝えます。
    • 業務フロー:業務の開始から完了までの流れを順を追って説明します。
    • 使用ツール・システム:業務で使用するシステム名やソフト名、ログイン情報などを記載します。
    • キーパーソン:業務に関わる社内外の連絡先や担当者名を記載します。
    • 注意点・コツ:業務を進める上での注意点や、円滑に進めるためのコツなどを共有します。

    3. 資料・ファイル一覧

    業務で使用する資料やファイルの保管場所、アクセス方法を明確に示します。ファイル名やフォルダ名も具体的に記載すると後任者が探しやすいです。

    引き継ぎ書を書かなかったらどうなるか?

    法的な義務ではないため、引き継ぎ書を書かなかったからといって罰則はありません。

    しかし、引き継ぎが不十分だったために会社に大きな損害が出た場合、会社側が「善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)」違反を主張し、損害賠償を求めるケースは考えられます。

    ただし、実際に損害賠償が認められるケースは極めて稀で、相当な悪意や過失が認められない限り、会社が訴訟に踏み切ることはほとんどありません。

    退職日までに間に合わない場合

    引き継ぎは通常業務と並行して行うため、時間的に厳しいと感じる方も多いです。もし退職日までに引き継ぎが完了しそうにない場合は、早めに上司に相談しましょう。

    相談することで、引き継ぎ内容の優先順位を決めたり、周囲の協力を得られたりするなど、解決策が見つかるかもしれません。


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  • 有給休暇中の副業はOK? 退職日前にアルバイトを始める場合の注意点

    はじめに

    退職を控えた社員が「有給休暇の消化中にアルバイトをしたい」と考えるケースが増えています。しかし、そのような働き方には法令上・実務上のリスクが潜んでいます。次のような事例をもとに、考えられる問題点を整理しました。

    【事例】

    私は10年ほど勤務した会社を退職予定です。退職理由は自己都合で、円満退社の予定です。30日分の有給休暇が残っているため、その期間を消化して最終出勤日から30日間は休暇に入ります。ただ、ずっと家にいるのはもったいないので、有給休暇中にアルバイトをする予定です。アルバイト先はすでに決まっており、近所の店舗での短時間勤務です。なお、今の会社には副業禁止規定がありますが、有給中なら関係ないと思っています。

    問題点を3つの視点から整理

    考えられる問題点は主に次の3つです。

    ① 元の勤務先(退職予定の会社) 就業規則違反、副業禁止規定との抵触

    ② アルバイト先 二重就業の把握漏れ、信頼関係のトラブル

    ③ 本人 懲戒の可能性、労災・社会保険の誤認リスク、雇用保険トラブル

    元の勤務先― 副業禁止と就業規則違反

    有給休暇中とはいえ、退職日までは在籍中です。

    就業規則に「在職中の副業を禁止」と定めている場合、副業を行うことは就業規則違反として処分できる可能性があります。

    特に、以下のような事情がある場合は、問題が大きくなる可能性があります。

    • 退職前の勤務先が同業他社である場合(競業行為)
    • 業務情報を持ち出して副業に活かされた場合(秘密保持違反)

    アルバイト先 ― 二重就業による誤解と責任

    本人が退職前であることを申告していない場合、アルバイト先にも次のようなリスクがあります。

    • 二重就業を知らずに雇用した場合のリスク
    • 労働時間の通算管理ができない
    • 競合企業に該当する場合、元の会社と法的トラブルになるおそれ
    • 本人が虚偽申告していた場合、信頼関係が損なわれる

    本人 ―「バレなければ大丈夫」は危険

    有給休暇中でも、退職日までは元の会社の健康保険・厚生年金に加入中です。

    アルバイト先が本人の事情を知らず、誤って社会保険・雇用保険の資格取得届を出すと、手続きが重複しエラーになります。

    マイナンバー制度により、国側では重複を把握できますが、 現場での誤入力・届出ミス・本人確認不足により、二重手続き・誤った保険証発行などのトラブルが生じる可能性があります。

    有給中にアルバイト先でケガをした場合、元の会社の労災は適用されず、アルバイト先での労災申請が必要です。その際に、労働保険の加入状況や就労実態に齟齬があると、給付遅延や否認リスクがあります。

    推奨される対応

    本人:退職日、有給期間、副業の有無について正直にアルバイト先に説明する。

    アルバイト先:雇用前に現在の在籍状況・社会保険加入状況を確認する。

    元の会社:「有給中の副業の扱い」や「就業規則の適用範囲」についてルールを明確にしておく。

    まとめ

    「有給休暇中だから自由に働いても問題ない」と考えるのは危険です。

    退職日までは在籍中であり、就業規則・社会保険・労災などの面で法律上の関係は継続しています。

    トラブルを防ぐためには、本人・元の会社・アルバイト先の三者が正確な情報と理解をもって行動することが重要です。


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