退職する従業員が秘密保持誓約書の提出を拒否したら?

退職・解雇

退職時に従業員から秘密保持誓約書の提出を拒否された場合、会社が取り得る対抗策や措置について説明します。

法的保護の根拠の確認

退職時の誓約書は、従業員に改めて秘密保持義務を認識させるためのものですが、提出を拒否されても、以下の根拠で営業秘密を保護できる可能性があります。

入社時などの誓約書

多くの場合、従業員は入社時に秘密保持義務を負う旨の誓約書を提出しています。この入社時の誓約は、通常、退職後も効力が継続すると定められているため、法的な拘束力は維持されます。

就業規則・秘密管理規程

会社の就業規則営業秘密管理規程に、在職中および退職後の秘密保持義務が明記され、その規定が従業員に周知されていれば、従業員はその規定に従う義務を負います。

不正競争防止法による直接の保護

そもそも、貴社の情報が不正競争防止法上の「営業秘密」の3要件(秘密管理性、有用性、非公知性)を満たしていれば、退職時の誓約書の有無にかかわらず、同法に基づき不正な取得・開示・使用に対して、差止請求や損害賠償請求を行うことができます。

会社が取り得る具体的な対抗策

誓約書の提出拒否に直面した場合、会社は以下の現実的・法的な措置を講じるべきです。

情報へのアクセス遮断と監視の強化

提出拒否があった時点で、情報漏洩のリスクが特に高まったとみなし、以下の措置を直ちに実行します。

  • アカウントの停止: 当該従業員の社内システム、メール、各種データベースへのアクセス権限を即座に停止または削除します。
  • 情報端末の回収: 会社が貸与していたPC、スマートフォン、USBメモリなどの情報端末を速やかに回収します。
  • ログの保全と監視: 当該従業員のPC操作ログ、メール送受信履歴、社内ネットワークへのアクセスログなどを重点的にチェックし、証拠として保全します。不審なデータのダウンロードや持ち出しの形跡がないか確認します。
  • 最終確認書の作成: 誓約書は拒否されても、「会社から貸与されたPCや資料を全て返却し、個人所有の記録媒体に会社の秘密情報を一切残していない」ことを確認する旨の書類(ただし、誓約書ではない形式)に署名を求めることを試みることができます。

義務の再認識と警告の実施

提出拒否の理由を問わず、会社側の意思を明確に伝えることが重要です。

  • 口頭・書面による通知: 誓約書の提出とは別に、入社時の誓約や就業規則に基づき、退職後も秘密保持義務が継続すること、および違反した場合の法的措置(損害賠償、刑事罰など)について、内容証明郵便など記録が残る形で改めて通知します。

競業避止義務の確認と適用(特約がある場合)

入社時契約や就業規則に競業避止義務の規定がある場合、その有効性を確認します。

  • 競業避止義務は、退職後の職業選択の自由に制限を加えるため、その期間、地域、職種の範囲が合理的であり、代償措置(例:手当の支給)がある場合に有効と認められやすいです。もし、提出拒否した従業員が競合他社へ転職する情報があれば、この義務に基づき警告を行います。

注意点:強制は避ける

誓約書の提出を強制したり、拒否したことを理由に退職金を不当に減額・不支給にしたり、退職の手続きを遅延させたりする行為は、法的に問題となる可能性があります。あくまで法的な根拠に基づき、リスク管理としての対策を冷静に進める必要があります。