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  • ボランティア休暇制度を導入する場合の留意点(ボランティア休暇規程付き)

    ボランティア休暇制度とは

    ボランティア休暇制度とは、従業員が、ボランティアとして、災害救援、社会福祉、地域社会の振興、環境保全、その他の活動に参加するために取得できる特別休暇制度です。

    ボランティア休暇制度は、法律上の義務はなく、会社が任意に設ける制度なので、会社によって制度の内容が異なりますが、概ね次のような制度です。

    • 法律上の義務はなく、導入は会社の任意です
    • 年次有給休暇とは別枠で付与されます。一般的には無給の休暇です。
    • 日数は、災害時の支援の場合で3日程度が多いようですが、10日以上の例もあります
    • 年次有給休暇のように法律に定められた権利ではないため、業務に支障がでないように、上司との間で日程日数を調整することが前提です
    • 基本的には承認されるのが前提ですが、すべての申請が承認される訳ではありません
    • 旅費等の金銭的支援は一般的ではありません

    災害ボランティア休暇規程

    規程例を示します。あくまでも一つの例なので、会社の実情に合わせて加除訂正してお使いください。

    災害ボランティア休暇規程(案)

    第1条(目的)
    この規程は、従業員が社会貢献活動に参加することを支援し、社会への奉仕および従業員の自己成長を促進することを目的とする。

    第2条(定義)
    本規程における「ボランティア活動」とは、災害救援、社会福祉、地域社会の振興、環境保全その他会社が認めた活動をいう。

    2 政治活動または宗教活動、営利を目的とする活動は含まない。

    第3条(対象者)
    本規程の対象者は、当社に勤務する正社員とする。パートタイマー、契約社員については会社が特に必要と認めた場合に承認する。

    第4条(休暇日数)
    ボランティア休暇は、年度ごとに通算して5日を限度として取得することができる。時間単位等の取得は認めず、1日の単位での取得を原則とする。

    第5条(休暇の扱い)
    ボランティア休暇は無給とする。ただし、災害対策基本法で定められた緊急災害対策本部が設置される規模の災害に赴くときは有給とする。

    2 この休暇は年次有給休暇とは別に付与される。

    第6条(申請手続き)
    ボランティア休暇を取得しようとする従業員は、所定の申請書に活動内容を記載し、所属長を経て会社に提出しなければならない。会社は業務の都合を考慮し、休暇取得を承認するか否かを決定する。

    第7条(費用負担)
    ボランティア活動に要する交通費・宿泊費・食費等は原則として従業員の自己負担とする。ただし、会社が必要と認めた場合にはその一部を補助することがある。

    (安全確保と責任)
     第8条 従業員は、ボランティア活動に参加するにあたり、自ら安全確保に努め、ボランティア活動主催者の指示に従うものとする。

     2 活動中に発生した事故・負傷その他の損害については、原則として本人の責任とし、会社は一切の責任を負わない。

     3 ボランティア活動に参加する従業員は、ボランティア保険等に加入するものとする。

    第9条(報告義務)
    休暇終了後、従業員は活動内容を簡単にまとめ、所属長を経由して会社に報告するものとする。

    第10条(その他)
    本規程に定めのない事項、及び本規程の適用に疑義が生じたときは総務部長の指示に従うものとする。

    ボランティア保険について

    ボランティア活動は、会社の指示や命令で行うものではないので、事故等が発生した場合でも会社からの補償等はありません。そこで、ボランティア保険への加入をボランティア休暇取得の条件とするのが一般的です。

    ボランティア保険は、ボランティア活動中の 事故やトラブルに備えるための保険 です。活動中に本人がケガをした場合(傷害保険部分)、または他人にケガをさせたり物を壊してしまった場合(賠償責任部分)をカバーします。

    主に 社会福祉協議会(社協) を通じて加入する仕組みが全国で整備されています。

    加入方法は、各市区町村の社会福祉協議会が窓口です。ウェブで申し込むこともできます。活動開始前に社協で手続きし、保険証明を受け取ります。


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  • 来客が蜂に刺されてしまったのですが、会社に責任がありますか?

    来客が会社の玄関前で蜂に刺されてしまいました。蜂は当社の敷地に巣を作っているものではなく、他所から飛んできたものだとと思われます。こうした場合、当社が治療費などを負担しなければならないものでしょうか?

    会社が責任を負うのは、その施設に通常あるべき安全を欠いていた場合です。他所から飛んできた蜂について責任を負うことは通常はないと思われますが、検討してみましょう。

    法律的な検討

    会社(施設管理者)が責任を負うのは、その施設に通常あるべき安全を欠いていた場合です。

    民法上は「工作物責任(民法717条)」が典型ですが、これは施設の設置や管理に瑕疵(欠陥・不備)がある場合に限られます。

    今回の蜂は「会社の敷地に巣を作っていたわけではなく、いわば通りすがりの蜂に運悪く刺されてしまったという不可抗力の事故と考えられます。このような場合は、通常の管理上の瑕疵があるとは言い難いので、断定はできませんが、法律上、会社に賠償責任が生じる可能性は低いと考えられます。

    実務的な対応

    法的責任になる可能性は低くても、来客が被害を受けた以上、誠意ある対応が必要でしょう。任意(善意)ですが、薬の購入、病院への搬送、見舞金などが考えられます。

    なお、今回は他所から飛んできた蜂だということですが、蜂の巣が会社の敷地内にみつかったときは、状況が変わってきます。

    敷地内の危険な状態を放置していた場合には、管理者に責任が認められる傾向があります。先ほどの、工作物責任(民法717条)の適用です。

    他所からたまたま飛んできた蜂ではなく、敷地内に蜂の巣があるということになれば、危険を予見できたのに除去を怠っていたとみられ、会社が損害賠償責任を負う可能性がたかまります。

    このようなことは蜂の巣にとどまりません。会社は、来客や従業員の安全を守るため、敷地内の状態を点検する義務があると考えたほうが良いでしょう。

    定期的に敷地内を点検し、もし、危険なものを発見したら迅速に撤去依頼するのはもちろん、注意喚起の掲示を行うことが「管理上の相当な注意」とされます。

    これらの「予防措置」を行っていれば、仮に事故が起きても「会社はできる限りの対応をしていた」と主張でき、責任が軽くなる余地があります。

    類似のケース

    次に、雨の日に自動車で訪問してきた来客が、会社の駐車場で滑って転んだ場合と、会社に入ってから、他の客の傘からおちた雨水で濡れていた床で転んだ場合で検討してみます。

    雨の日に駐車場で滑った場合

    基本
    雨の日に駐車場の地面が濡れるのは自然現象であり、歩行者にとって通常予想されるリスクです。通常の舗装や排水がされている場合、会社に特別な管理上の瑕疵があるとは言えないことが多いです。

    例外
    排水設備が壊れて水たまりができていた、苔や油が放置されて極端に滑りやすくなっていたなど「通常以上の危険」を放置していた場合は、管理不備とされ会社の責任が生じ得ます。

    玄関や廊下で雨水により滑った場合

    基本
    雨の日に他人の傘から水が落ち、床が濡れているのであれば、「施設の管理者」としては来客が安全に出入りできるように、玄関マットを敷く、床を定期的に拭く、「床が滑りやすいので注意」の掲示をする、などの措置を講じる義務があるとされています。

    対応を怠った場合
    来客が転倒・負傷したとき、管理上の瑕疵と評価され、会社が損害賠償責任を負う可能性がたかくなります。

    結論
    会社は、駐車場よりも玄関・廊下など「施設内」の転倒事故で責任を問われやすいと考えられます。その場合、日常的に「安全配慮のための措置」をとっているかどうかが、責任の有無を左右します。

    保険での備え

    以上のような、来客が蜂に刺されたり、転んだりしたときに、その責任が会社にある場合に備えた保険があります。「施設賠償責任保険」 です。

    施設賠償責任保険とは、会社や店舗、工場、事務所などの「施設の管理・利用」に起因して、第三者(来客・取引先・通行人など)にケガや財物損害を与えた場合に補償する保険です。

    典型例:

    • 来客が玄関で雨水に滑って転倒し、骨折
    • 駐車場の不備で車が損傷
    • 看板が落下して歩行者がケガ

    補償範囲:

    • 治療費・慰謝料・休業損害などの賠償金
    • 損害賠償に関わる弁護士費用や訴訟費用

    単独で「施設賠償責任保険」に加入することもできますが、多くの場合、企業火災保険・店舗総合保険・事務所保険などのパッケージに特約として付けられるケースが一般的です。

    以上、一般的に解説しましたが、ちょっとして状況の違いで責任が変わってくるので、実際にこのような場面に遭遇したときは、弁護士等の専門家にご相談してください。


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  • 休憩時間でも電話に出てもらう必要があります、小規模事業の特例はないでしょうか?

    労働基準法の休憩についての質問です。従業員5名の零細企業です。通常、事務所に事務員1名しかいないので、昼休み中でも電話に出たりしてもらっています。電話番をさせると休憩を与えたことにならないそうですが、仕事の性格上、電話に出ないわけにはいきません。違う時間に休憩を与えるにしても、どの時間でも電話は鳴ります。このような小規模事業への特例はないのでしょうか?

    大変悩ましい問題ですが、特例はありません。労働基準法の休憩時間の規定は雇用している人が一人でも守らなければなりません。対策について検討してみましょう。

    法律上の原則

    労働基準法34条は「労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えること」と定めています。

    この休憩は「自由利用できること」が要件なので、電話番をしながらの休憩は「休憩」とは認められません。

    事業の規模が小さい、電話応対が必須、などの事情があっても労働基準法の休憩規定に特例はありません。

    従業員本人が「電話番していても構わない」と言っていても、会社が違反していることに変わりありません。休憩は「自由利用」が必須なので、電話に出てもらうと違反になってしまいます。

    実務的な対応策

    以下のような工夫が考えられます。

    1. 休憩時間を交代制にする
      事務員の休憩時間には、他の誰かが事務所に戻って電話を取るようにする。
    2. 留守番電話や転送機能を活用
      休憩時間中は携帯や外部のコールセンターに電話を転送する。

    一つの例

    労働基準法の休憩は、次の要件があります。

    • 労働時間が6時間を超えるとき45分以上、8時間を超えるとき1時間以上
    • 自由利用が条件
    • 途中に与えること(勤務の始めや終わりにまとめるのはNG)
    • 一斉付与の原則あり(ただし労使協定で適用除外可)

    以上の条件を踏まえると、例えば3時ころには他の社員が戻ってくるという職場であれば、次のようなやり方が可能です。

    • 休憩を例えば3時からとする(労働時間の途中であれば問題ありません)
    • お昼には30分の食事休憩を与える。この時間は法定外の休憩なので、有給にする必要がありますが、代わりに電話応対等の軽い労働はしてもらうことができます。

    法定休憩の要件は午後3時の1時間で満たしているので、昼の電話番をしている状態が問題になることはありません。

    この場合の規定例

    第○条 事務員の休憩時間は正午から1時間とする。ただし、事務員が複数配置されるようになるまでの期間は、午後3時から午後4時までの1時間とする。
    2 前項の但し書きが適用されている期間には、前項の休憩時間とは別に、正午に30分間の法定外休憩時間を与える。この時間は有給とし、業務上の必要に応じて電話応対その他の軽度の業務に従事してもらうことがある。

    これは、やり方の一つです。できない、無理だという発想では「違反状態」から抜け出すことができません。いろいろ工夫してみましょう。


    会社事務入門労働時間の適正な管理休憩時間って法律でどう決まってる?労働基準法に定められた休憩のルール>このページ

  • 従業員が逮捕されたのですぐに解雇したいのですが問題ありますか?

    従業員が破廉恥な犯罪で逮捕されました。会社としてはすぐに解雇したいのですが、当人についた弁護士は、帰宅後の事件なので会社の就業規則は適用されないはずだ、執行猶予がつくと思うし、実刑がついても数年で社会復帰する、戻ったときに仕事がないと辛いので解雇されれば不当解雇で争う。と言っているそうです。とんでもない主張だと思います。何としても復帰させないつもりですが、どう対応すればよいか教えてください。

    結論から言うと、「私生活上の非行」でも、企業の社会的信用や職務遂行に重大な悪影響が及ぶ場合は懲戒解雇・普通解雇の対象になり得る、というのが裁判例の流れです。ただし、解雇有効性をめぐって争いになったときは、どのような判決が出るかわかりません。リスクが高いので、慎重に手順を踏んで進める必要があります。

    会社として検討すべき事項

    1. 就業規則の確認
      • 「社員が刑事事件を起こして逮捕・起訴された場合」「会社の信用を著しく失墜させた場合」など、懲戒解雇や諭旨解雇の条項があるか確認しましょう。社会的評価を失墜させる行為が懲戒事由に含まれている会社は多いです。
    2. 犯罪内容と職務の関連性の検討
      • 破廉恥罪(性犯罪やわいせつ系など)の場合、会社の社会的信用への影響は大きいです。その社員が対外的に顧客接点がある職種なら、特に重大です。つまり、「私生活だから関係ない」とは必ずしも言えません。
      • ただし、勤務時間外の行為そのものを懲戒対象にすることはできません。
    3. 処分の選択肢
      • 懲戒解雇:一番重い処分。裁判になれば争われやすい。
      • 諭旨解雇/退職勧奨:争いを避けやすい。合意退職に持ち込むことも選択肢。
      • 休職→自然退職:有罪判決で服役する場合、「一定期間の休職期間満了により自然退職」も可能。
    4. 手続きの適正確保
      • 就業規則に基づき、本人に弁明の機会を与える。
      • 処分理由を文書で明示する。社会的信用や業務影響を具体的に示す。

    主張への反論

    • 「私生活上の行為でも、会社の名誉や業務に重大な影響を及ぼす場合は懲戒事由になる」→ 裁判例上も認められている。
    • 「執行猶予つきなら解雇できない」→ 執行猶予の有無ではなく、事実の重大性と会社への影響が判断基準。
    • 「戻ったときに仕事がないと困る」→ 会社は福祉施設ではない。会社の秩序維持・信用保持のために解雇が有効とされる余地は十分ある。

    安全な進め方

    • 当方も速やかに弁護士を依頼する。
    • 事実誤認・冤罪の可能性もあります。早い段階で「破廉恥な犯罪を犯した」と断定して行動すると名誉棄損など別な問題になることもあります。
    • 従業員・取引先への説明は最小限にしましょう。名誉毀損リスクもあるので注意が必要です。
    • 本人から退職願が提出されれば通常の退職として処理できます。争いを持ち越すこと無く決着できます。

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  • 無断欠勤したので就業規則の定めに則って解雇しましたが問題ありませんね?

    当社の就業規則には3日以上の無断欠勤は解雇と明記されています。従業員の一人が無断欠勤を始めてから3日経ったので、すぐに解雇通知書を郵送しました。その後、1週間経っても返事がないので、給料の精算をして、職安や年金事務所にも退職に伴う手続きをしました。離職票などは本人に郵送しました。就業規則に書いてある通りの処分なので問題ないと思うのですが、何かリスクはありますか?

    これは問題がありそうです。以下で解説します。

    就業規則に書いているから良いとは言えない

    まず、就業規則に「3日以上の無断欠勤は解雇」と定められていても、それだけで即座に解雇が有効になるとは限りません。

    労働契約法第16条には「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定めています。

    解雇について就業規則に定めるのは必要なことですが、それは、一つの要素にすぎません。実際に解雇するときは、さらに、いろいろな観点から考えて実施しなければなりません。

    次に、裁判になった場合、そもそも「3日以上の無断欠勤は解雇」という規定は「短すぎる」と判断される可能性があります。

    何日なら良いという決まりはありません。少し古い通達ですが、「昭和63年3月14日付け基発第150号、昭和31年3月1日付け基発第111号、昭和23年11月11日付け基発第1637号」では、労働者の責めに帰すべき事由」の一つに、「原則として2週間以上の正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない場合」と例示しているのが参考になるかもしれません。

    事例から考えられるリスク

    解雇予告のリスク

    解雇するには、原則30日前の解雇予告か30日相当分の解雇予告手当が必要です(労働基準法第20条)。無断欠勤を理由に「懲戒解雇」した場合でも、予告手当が不要になるには労働基準監督署長の認定が必要です。

    ご相談内容には予告手当について書いていませんが、もし払っていないなら、請求されるリスクがあります。

    欠勤理由によるリスク

    無断欠勤の原因が、職場でのハラスメント等にある場合があります。後日、そのような主張があった場合は、解雇無効となる可能性が高いです。

    無断欠勤している理由に思い当たることがないか、本人の周辺を調査する必要があります。

    無断欠勤の理由が、本人の意図しないやむを得ない事情(例えば、事故に遭った、病気で動けなかったなど)だった場合、「合理的な理由」を欠いていると判断されるでしょう。

    上で述べた「病気で動けなかった」には高熱を出していた、だけでなく、メンタル不調で連絡がとれなかったという場合も含まれます。

    以上のように、無断欠勤には多くの場合は理由があるので、単に何日経過したからという形式的条件を満たしたとして処分するのはリスキーです。

    連絡・確認不足のリスク

    無断欠勤が始まってから3日という短い期間だと、本人への連絡や状況確認が不十分だとされ、解雇が無効となるリスクが高まります。

    つまり、就業規則に3日と書いてあるとしても、連絡・確認の努力をどの程度したかが後日問題になります。

    • 本人への連絡:電話やメール、書面など、複数の方法で連絡を試みる。
    • 家族などへの連絡:本人の状況が不明な場合、緊急連絡先として登録されている家族に連絡を取る。
    • 書面による警告:無断欠勤が続けば解雇となる旨を記した警告書を郵送または交付する。

    これらの手続きを踏まずに、いきなり解雇通知書を送付した場合、解雇の有効性が争われる可能性があります。

    懲戒手順のリスク

    解雇する場合は、社内手続きをきちんと行う必要があります。特に、懲戒解雇の場合は手続きが重要です。

    • 充分に調査したか
    • 会議(懲戒委員会等)を開いて審議したか
    • 本人の弁明を聴いたか

    関連記事:懲戒処分をするときの注意点

    今後の対応について

    解雇以外の選択肢

    無断欠勤を理由に解雇するのではなく、状況に応じて、普通退職として処理することも検討しましょう。

    就業規則に、「〇日以上連絡なく無断欠勤し、会社からの連絡にも応じない場合は、会社からの最終通知後〇日を経過した日をもって退職とする」という規定があれば、解雇とは異なり、会社側の意思表示がなくても退職が成立するため、解雇紛争のリスクを低減できます。

    解雇不当で訴えられたら

    本人が後で「解雇は不当」「退職の意思はなかった」と争ってくる可能性があります。そうした場合、「就業規則に3日と書いてある」というだけでは通らない可能性があります。会社としては、本人の欠勤理由が処分に値するものであることを説明し、解雇に至るまでに十分な努力をしたことを証明する必要が出てきます。

    また、離職票には「会社都合退職(解雇)」と記載したと思われますが、このような場面では、本人の主張と食い違いがでることが考えられ、手続きがやり直しになるリスクがあります。

    解雇に関する問題は、弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することもご検討ください。


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  • わずかな残業をグダグダ言うなら、勤務中に手を休めている時間を差っ引くと言われました。こういうのはアリですか?

    中途入社で1年経ちました。この会社は、定時で帰る人はいなくて、残業する日でなくても30分くらい仕事してから帰ります。先日、「こういうのは残業はつかないんですかね」と軽く言ってみたら、課長から「お前は貰うことしか考えていないのか。就業時間内は1分も休まず働いているのか、なんだったら手を休めている時間を測って全部差っ引いてやろうか。差し引いていないんだからグダグダ言わずに少しでも多く働け。」と脅すように言われました。あまりことを荒立てる気はないのですが、勤務中に仕事をしていない時間があれば差っ引けるものなのか、教えてくれませんか。

    結論から言うと、勤務時間中に仕事をしていない時間があったからといって、その時間を給料から引くことは認められません。

    労働時間とは

    判例等では「労働者が使用者の指揮命令下にある時間」を労働時間とみなします。したがって、次の仕事に入る前にただ座っていた時間(いわゆる手待ち時間)も労働時間に含まれます。

    勤務中に多少の休憩や雑談があったとしても、それをいちいち測って賃金から差し引くことはできません。労働時間のカウントは「使用者の管理下にあるかどうか」で判断されるため、労働者が勝手に席を外して長時間私的行為をしているなど、明確に「労務提供していない」と言える時間でなければ、差し引く根拠にはなりません。

    それに、会社が従業員の給与から何かを差し引くためには、就業規則にその根拠が明記されており、かつその内容が合理的である必要があります。単に「仕事をしていない時間」という曖昧な理由で給与を差し引くことは、労働基準法第24条に定められている「賃金の全額払い」の原則に反する可能性が高いです。

    つまり、課長の発言は、あなたを威圧し、残業代の請求を諦めさせるためのものだと思われます。法的な根拠に基づいたものではないため、真に受ける必要はありません。

    定時後30分の慣習的な居残りについて

    法定労働時間(通常は1日8時間、週40時間)や就業規則で定めた所定労働時間を超えて働いた分は、たとえ1分でも時間外労働です。法定労働時間を超えていれば割増賃金も払う必要があります。

    このような場合、会社側が「指示していないから残業ではない」と主張するケースがありますが、職場の雰囲気や慣習で事実上帰れない状況であれば、会社の黙示の指示(明確な指示ではないが実質的に仕向けている)とみなされ、労働時間に含まれます。

    結論

    勤務中の「手を休めた時間」を会社が差し引くことは、できません。裁判ではほぼ通用しない主張です。

    定時後30分の作業は、時間外労働とみなされる可能性が高いでしょう。

    つまり、課長の「手を休めた時間を差し引く」という発言は、根拠のない脅し文句であって、現実に通用することではありません。

    荒立てたくないお気持ちとのことですが、このような(パワハラの可能性が高い)発言が今後も続く可能性があります。また、サービス残業の問題も重要です。きちんと対応していくためには、今後は、記録(出退勤時間、日々の残業の状況、言われた言葉)を残しておくことが大切です。


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