職業安定法では、主に求職者等の個人情報の保護について定めており、特に収集・保管・使用の範囲を厳しく制限することで、求職者の職業選択の自由と人権を守ることを目的としています。
これらの定めは、「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、労働者供給事業者などが均等な待遇、労働条件などの明示、求職者等の個人情報の取り扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示などに関して適切に対処するための指針」(平成11年労働省告示第141号。以下、「指針」といいます)によって具体化されています。
職業安定法の個人情報に関する定め
職業安定法第5条の5では、公共職業安定所、職業紹介事業者、労働者の募集を行う者、労働者供給事業者など(公共職業安定所等)が、求職者等の個人情報を取り扱う際の基本原則を定めています。
収集・保管・使用の原則
公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を収集し、保管し、または使用するにあたっては、以下の原則を守らなければなりません。
- 業務目的の範囲内: 業務の目的の達成に必要な範囲内で個人情報を収集し、当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければなりません。
- 例外: 本人の同意がある場合その他正当な事由がある場合は、この限りではありません。
適正な管理措置の義務
公共職業安定所等は、求職者等の個人情報を適正に管理するために必要な措置を講じなければなりません。
具体的な内容
職業安定法に基づき定められた指針(平成11年労働省告示第141号)では、個人情報の取り扱いについて詳細な義務と留意事項が定められています。
収集の目的と範囲の明確化
職業紹介事業者等は、その業務の目的の達成に必要な範囲内で、当該目的を明らかにして個人情報を収集することとされています。
原則として収集が禁止される個人情報(機微な個人情報)
求職者の人権を尊重し、差別の原因となる情報を排除するため、原則として以下の特定の個人情報(機微な個人情報)を収集してはならないとされています。
区分 | 収集が禁止される情報(例) |
人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項 | 家族の職業・収入、本人の資産情報(労務管理に必要なものを除く)、容姿、スリーサイズなど差別的評価につながる情報 |
思想及び信条 | 人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書 |
労働組合への加入状況 | 労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報 |
例外: ただし、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合はこの限りではありません。
収集方法の適法性・公正性
個人情報を収集する際は、本人から直接収集するか、本人の同意の下で本人以外の者から収集するか、または本人により公開されている個人情報を収集する等、適法かつ公正な手段によらなければなりません。
保管又は使用の制限
個人情報の保管または使用は、原則として収集目的の範囲に限られます。収集目的以外の目的で保管または使用する場合には、他の保管もしくは使用の目的を示して本人の同意を得る必要があります。
同意を得る際の方法
求職者等から個人情報の収集・保管・使用に関する同意を得る際には、求職者等が適切な判断を行えるよう、同意を求める事項について可能な限り具体的かつ詳細に明示しなければなりません。
適正な管理のための措置
職業紹介事業者等は、個人情報の適正管理のために以下の措置を講じ、求職者からの求めに応じ、その措置の内容を説明しなければなりません。
- 個人情報を目的に応じ必要な範囲で正確かつ最新に保つための措置。
- 個人情報の紛失、破壊、改ざんを防止するための措置。
- 正当な権限を有しない者による個人情報へのアクセスを防止するための措置。
- 保管する必要がなくなった個人情報を破棄または削除するための措置。
また、個人情報適正管理規程を作成し、従業者に遵守させる義務も課されています。
これらの定めは、職業紹介や労働者の募集といった就職活動の過程において、求職者の個人情報が不適切に取り扱われたり、差別的な取り扱いに利用されたりすることを防ぎ、公正な採用選考と職業安定に資することを目的としています。
面接等での注意事項
職業安定法とその指針によれば、採用選考における面接において、応募者の適性・能力に関係のない個人情報を収集する発言や質問は問題となります。
これは、これらの情報が就職差別の原因となるおそれがあるため、応募者の人権を尊重し、公正な採用選考を確保するために厳しく制限されています。
職業安定法および指針では、原則として以下の機微な個人情報を面接等で尋ねることは禁止されています。
社会的差別の原因となるおそれのある事項
これらの事項は、応募者本人の努力で変えられない「本人に責任のない事項」を含み、差別的な選考につながる可能性が極めて高いため、質問は不適切です。
区分 | 具体的なNG質問の例 |
本籍・出生地 | 「本籍地はどこですか?」「ご両親の出身地はどこですか?」「生まれてからずっと現住所に住んでいますか?」 |
家族・家庭環境 | 「ご家族の職業や役職、収入は?」「ご両親は共働きですか?」「ご家庭の雰囲気は?」「お父様(お母様)がいない理由は何ですか?」「学費は誰が出しましたか?」 |
住宅状況・生活環境 | 「ご自宅は持ち家ですか、賃貸ですか?」「ご自宅の周辺はどのような環境ですか?」「家の間取りや部屋数を教えてください。」(自宅の略図の提出を求めることも不適切) |
資産状況 | 「貯金はどれくらいありますか?」「不動産を所有していますか?」 |
身体的特徴・健康状態 | 「病歴(業務遂行に真に必要な情報を除く)は?」「身長や体重、容姿について」 |
思想及び信条
憲法で保障された「思想の自由」「信教の自由」を侵害するおそれがある質問です。
区分 | 具体的なNG質問の例 |
思想・信条・宗教 | 「信仰している宗教は?」「特定の宗教についてどう思いますか?」「尊敬する人物は誰ですか?」「購読している新聞は?」 |
支持政党 | 「支持している政党は?」「選挙では誰に投票しましたか?」 |
人生観・生活信条 | 「あなたの人生観について教えてください」 |
労働組合への加入状況
区分 | 具体的なNG質問の例 |
労働組合 | 「過去に労働組合に加入していましたか?」「労働組合についてどう思いますか?」 |