Last Updated on 2025年7月30日 by 勝
企業の採用活動には、応募者の人権を尊重し、公正な採用を行うために様々な法規制があります。主なものを挙げ、それぞれの要点を解説します。
企業の採用活動における主な法規制
労働基準法
労働基準法は、労働条件の最低基準を定めた法律ですが、採用活動においても基本的な原則が適用されます。
目的・原則(第1条、第2条):
要点: 労働条件は、労働者が「人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきもの」であり、労使対等の立場において決定されるべき、という原則が採用活動の根底にも流れています。不当な労働条件での募集や採用は認められません。
均等待遇(第3条):
要点: 採用において、応募者の国籍、信条(思想・信仰)、社会的身分(生まれや育ち、職業など)を理由に差別的な取り扱いをしてはいけません。例えば、「〇〇教の人は採用しない」「特定の地域の出身者は不採用」といったことは違法です。
男女同一賃金の原則(第4条):
要点: 採用において、労働者が女性であることを理由に、男性と賃金で差別的な取り扱いをしてはいけません。同じ職務内容・能力であれば、性別を理由に賃金を低く設定することはできません。
強制労働の禁止(第5条):
要点: 採用の過程で、暴行、脅迫、監禁などの手段を用いて、応募者の意思に反して労働を強制することはできません。これは非常に重い違反です。
男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)
男女雇用機会均等法は、性別による差別を禁止し、均等な機会と待遇を確保するための最も重要な法律です。
募集・採用における性差別の禁止(第5条):
要点: 募集・採用において、性別を理由に差別的な取り扱いをすることは一切禁止されています。
例: 「男性のみ募集」「女性は応募不可」といった求人募集。
例: 面接で女性にだけ結婚・出産予定を執拗に尋ねる。
例: 男女で採用基準や選考方法を変える。
例: 身長、体重、体力といった、職務遂行上客観的に合理的な理由がない限り、性別を特定するような要件を設定すること。
間接差別の禁止(第7条):
要点: 一見性別とは関係ない条件に見えても、特定の性にとって著しく不利になる条件を設定し、職務遂行上必要な合理的な理由がない場合は、間接差別に該当し、禁止されます。
例: 転居を伴う転勤に応じられることを採用条件にする(女性に不利になる傾向があるため)。
例: 応募者の身長、体重、体力を採用条件にする(職務遂行上、特定の体格が必要不可欠でない場合)。
関連記事:男女雇用機会均等法とは?知っておきたいポイントを分かりやすく解説
職業安定法
職業安定法は、職業紹介や労働者の募集に関するルールを定めた法律です。
募集情報提供の義務(第5条の3):
要点: 求人票や求人広告で募集する際は、労働条件(業務内容、賃金、勤務時間など)を正確かつ詳細に明示する義務があります。虚偽の表示や誤解を招く表現は禁止されています。
関連記事:募集時の労働条件の明示
個人情報保護の義務(第5条の5):
要点: 採用活動を通じて取得した応募者の個人情報(履歴書、職務経歴書など)は、業務目的の範囲内で適切に取り扱い、安全に管理する義務があります。不適切な利用や漏えいは許されません。
指針による規定:
要点: 応募者の適性と能力に関係のない事項(家族状況、生活環境、思想・信条、本籍地、健康状態など)を質問したり、調査したりしてはならないとされています。これは差別をなくし、公正な採用を行うための重要な指針です。
例: 「ご家族の職業は?」「支持政党は?」「本籍地はどこですか?」「恋人はいますか?」といった質問はNGです。
労働施策総合推進法
労働者の募集及び採用における年齢制限の禁止(第9条):
要点: 事業主は、労働者の募集及び採用をするに当たって、年齢を理由として差別的な取扱いをしてはならないとされています。これは、求人広告などで「30歳まで」「経験不問(40歳まで)」などと、特定の年齢を上限とする記載をすることを原則として禁止するものです。
この規定は、性別を問わず、すべての年齢層がその能力や経験に応じて公平に雇用機会を得られるようにすることを目的としています。
例外: 例外的に年齢制限が認められるケースも存在しますが、これらは厚生労働省令で定める「例外事由」に厳格に限定されています。
定年年齢を上限とする場合: 例えば、定年が60歳の場合に「60歳未満の方」と募集すること。
長期勤続によるキャリア形成を図る観点から、若年者等(35歳未満)を期間の定めのない労働者として募集・採用する場合: 新卒採用や、職務経験を問わない中途採用で「35歳未満」と定めること。
特定の職種で、芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から特定の年齢層を対象とすることが必要である場合や、技能・ノウハウの継承の観点から特定の年齢層を募集・採用する場合。
労働基準法その他の法令の規定により特定年齢層の就業が禁止されている職種: 例えば、年少者の深夜業禁止など、法令で年齢制限が設けられている場合。
労働施策総合推進法は、労働者がその能力を有効に発揮できるよう、労働に関する施策を総合的に推進し、雇用の安定と職業生活の充実を図ることを目的とした法律です。この法律は、特に「差別禁止」の観点から採用活動に大きな影響を与えます。
職場におけるパワーハラスメント対策の義務化(第30条の2)
要点: 企業は、パワーハラスメントに関する方針の明確化、相談窓口の設置、被害者への配慮などの措置を講じる義務があります。これは主に在職中の労働者を対象としていますが、採用選考の過程においても、面接官などが応募者に対してパワハラ行為を行うことは許されず、企業はこれに対する防止措置を講じる責任があります。採用面接も「職場における」活動の一環とみなされるためです。
例: 面接官が応募者に対して、性的、あるいは権力的な言動で不快感を与えること。
労働施策総合推進法は、以前は「雇用対策法」という名称でしたが、労働に関する総合的な施策を推進する目的で改正され、特にハラスメント対策に重点が置かれるようになりました。採用活動においても、応募者の人権を尊重し、ハラスメントのない公正な選考プロセスを確保することが、企業に求められています。
関連記事:労働施策総合推進法のあらまし
個人情報保護法
採用活動で取得する個人情報(履歴書、職務経歴書、面接記録など)は、個人情報保護法の対象となります。
利用目的の特定・通知(第18条):
要点: 応募者から個人情報を取得する際は、その利用目的を明確に特定し、本人に通知または公表する義務があります。採用活動で取得した個人情報は、原則として採用活動以外の目的で利用してはいけません。
廃棄義務(第22条):
要点: 不採用となった応募者の個人情報など、利用目的を達成して不要になった個人データは、速やかに消去または廃棄する義務があります。不必要に保管し続けることはできません。
安全管理措置(第23条):
要点: 応募者の個人情報が漏えい、滅失、き損しないよう、組織的、人的、物理的、技術的な安全管理措置を講じる義務があります。履歴書の厳重な保管、シュレッダーによる破棄、PCのパスワード管理などが含まれます。
関連記事:会社における個人情報の取り扱い
障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)
障害者の雇用の促進等に関する法律は、障害のある方が職業生活において自立できるよう、雇用機会を確保し、職業能力の開発・向上を支援するための法律です。
募集・採用における差別禁止(第34条):
要点: 募集・採用において、障害があることを理由に差別的な取り扱いをすることは禁止されています。例えば、障害があるというだけで応募を拒否したり、障害のない人と異なる採用基準を設けたりすることはできません。
合理的配慮の提供義務(第36条の2):
要点: 障害のある応募者から申し出があった場合、募集・採用過程においても、その障害に応じた「合理的配慮」を提供する義務があります。これは、障害のある人が他の人と同じように機会を得られるよう、個別の状況に応じて過重な負担にならない範囲で調整や変更を行うことです。
例: 面接会場にスロープを設置する、筆談器を用意する、手話通訳者を配置する、点字での資料を提供するなど、応募者の特性に応じた配慮が求められます。
障害者雇用率制度:
要点: 一定規模以上の企業には、常用雇用労働者数に占める障害者の割合を法定雇用率以上にする義務があります。この雇用率は定期的に見直されており、未達成の場合は納付金制度や行政指導の対象となります。採用活動において、この雇用率を意識した計画的な採用が求められます。
青少年雇用促進法(若者雇用促進法)
青少年雇用促進法(正式名称:若者雇用促進法)は、青少年(35歳未満)がその能力を有効に発揮できるよう、職業能力の開発・向上を促進し、雇用の機会を確保するための法律です。
企業情報提供の義務(第13条):
要点: 青少年の募集及び採用の状況、職業能力の開発及び向上並びに職場への定着の促進に関する取組の実施状況その他の情報の提供に努める義務があります。これにより、青少年が企業の実情を把握し、ミスマッチのない就職ができるよう支援します。
不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)
不当景品類及び不当表示防止法(通称:景品表示法)は、消費者が商品やサービスを自主的かつ合理的に選択できるよう、不当な表示や過大な景品類を禁止する法律です。一見採用活動とは関係なさそうに見えますが、求人広告も「サービス」に関する表示とみなされ、この法律の規制対象となる場合があります。
不当表示の禁止(第5条):
要点: 求人広告において、「実際よりも著しく優良であると誤認させる表示」や「実際よりも著しく有利であると誤認させる表示」をしてはなりません。これは、応募者(消費者)をだます行為として禁止されます。
例:
二重表示: 「初任給25万円以上可(ただし実態は基本給15万円で、残業手当や手当でかさ上げされている)」といった、あたかも高い給与が保証されているかのように誤認させる表示。
根拠のない最高の表示: 「業界トップクラスの給与」「最高の福利厚生」など、客観的な根拠がないにもかかわらず、あたかも優位であるかのように表示すること。
架空の役職・手当: 存在しない役職名や支給されない手当を記載するなど、実態と異なる待遇を表示すること。
実際の業務内容と異なる誇大な表現: 「未経験者でも月収100万円可能!」など、客観的な根拠が乏しく、容易に達成できない目標をあたかも誰でも達成できるかのように誤認させる表現。
まとめ
企業の採用活動は、単に人材を確保するだけでなく、人権尊重と法令遵守が強く求められるデリケートなプロセスです。
これらの法規制を理解し、遵守することは、単なる義務に留まらず、企業が優秀な人材を惹きつけ、健全な組織文化を築くための基盤となります。
これまでもこうしてきた、どこでもそうしている、と考えるのはリスキーです。疑問点や不明な点があれば、労働法に詳しい弁護士や社会保険労務士などの専門家に相談することをお勧めします。