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定年後再雇用後の待遇について

Last Updated on 2025年8月10日 by

定年後の再雇用制度では、多くの場合、待遇は変わります。特に、給与や雇用形態は変更されることが一般的です。

待遇の一般的な変化

1. 給与

再雇用後の給与は、定年前の7~8割程度に減る企業が多いです。これは、役職手当や責任手当などがなくなり、基本給が引き下げられることが主な理由です。ただし、人手不足の状況によっては、給与の減額幅が縮小する傾向も見られます。

2. 雇用形態と労働時間

多くの場合、正社員から嘱託社員や契約社員といった有期雇用の形態に切り替わります。これに伴い、フルタイム勤務から短時間勤務に変更されることもあります。

3. 業務内容と責任

定年前と同じ業務を担当することもありますが、多くの場合は、責任の範囲が狭まり、後進の育成や専門的な業務に特化するケースが増えます。役職から外れることも一般的です。

4. 福利厚生

健康保険や厚生年金などの社会保険は、引き続き加入が可能です。また、有給休暇は定年前からの勤続年数が通算されます。しかし、住宅手当や家族手当など、一部の手当が支給されなくなることがあります。

法的な制約

再雇用後の待遇変更には、法的な制約も存在します。

同一労働同一賃金の原則

2020年4月に施行された「パートタイム・有期雇用労働法」により、同一労働同一賃金の原則が強化されました。これは、同じ仕事をしているのに、定年後の再雇用であるという理由だけで不合理に待遇を下げることを禁止するものです。

具体的には、以下の点が求められます。

業務内容: 定年前と全く同じ業務内容、責任の程度、配置転換の範囲であるにもかかわらず、給与を大幅に引き下げることは不合理と判断される可能性があります。

合理的な説明: 企業は、定年後の賃金や待遇を定年前と変える場合、業務内容や責任の変更に応じて、その待遇差が合理的であることを明確に説明する必要があります。

労働契約法

労働契約法は、定年後の再雇用者が不当に不利益な労働条件を押し付けられないよう、保護する役割も持っています。企業は、再雇用者との間で新しい労働条件について、個別の合意を得ることが必要です。

これらの法的な制約があるため、企業は再雇用時の労働条件を一方的に決定することはできず、従業員と十分に話し合い、納得を得ることが重要です。

裁判

定年後の再雇用における待遇の変更について、過去にいくつかの重要な裁判が行われています。中でも、「同一労働同一賃金」の原則が争点となった事案が注目されました。これらの裁判は、再雇用後の待遇差が法的に「不合理」かどうかを判断する際の指針となっています。

主要な裁判例とその判断

最高裁は、再雇用後の待遇差が不合理かどうかを判断する際、個別の手当や給与項目ごとにその趣旨を考慮し、総合的に判断するという考え方を示しました。

1. 長澤運輸事件(2018年)

この裁判では、定年後再雇用されたトラック運転手と定年前の正社員との間で、給与や各種手当に違いがありました。

判決: 最高裁は、給与や賞与の減額について、「定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると、定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない。」と判断しました。

ポイント: 全ての待遇差が不合理とされるわけではなく、待遇差が生じる合理的な理由があれば、それは認められるという考え方を示しました。ただし、精勤手当などを契約社員に支給しないのは不合理で違法と判断しました。

2. ハマキョウレックス事件(2018年)

こちらも運送会社の再雇用社員が、正社員との待遇差を訴えた裁判です。

判決: 最高裁は、一部の手当(無事故手当や作業手当など)について、正社員に支給して再雇用社員に支給しないのは不合理と判断しました。

ポイント: 業務内容が同じであれば、その業務に対する手当に差をつけることは難しいという考え方を示しました。

3. 名古屋自動車学校事件(2023年)

定年後再雇用された嘱託職員の基本給が、定年前の半分以下に大幅に引き下げられたことが争点となりました。

判決: 最高裁は、定年前後の職務内容や責任に大きな違いがない場合、基本給の大幅な減額は不合理である可能性が高いとして、審理を差し戻しました。

ポイント: 基本給は、労働者の生活の基盤となるものであり、その減額にはより慎重な判断が求められるという考え方を示しました。

名古屋自動車学校事件は、2023年7月20日に最高裁が二審判決を破棄し、審理を名古屋高等裁判所に差し戻したため、現時点(2025年8月)では確定判決は出ていません。

まとめ

これらの裁判からわかるのは、再雇用後の待遇は、定年前後で「仕事内容」や「責任の程度」が同じであれば、不合理な待遇差は認められないということです。特に、勤務実態に直結する手当や、生活の基盤となる基本給については、待遇差を設けることの合理的な理由がなければ、違法と判断されるリスクがあります。

企業は、再雇用制度を運用する際、待遇差について従業員に丁寧に説明し、その合理性を確保することが極めて重要になります。


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