Last Updated on 2022年2月27日 by 勝
再雇用後の賃金の現状
細かな数字は省略しますが、
現在、60歳定年制を定めてる企業が圧倒的に多く、
60歳以後については、一旦、定年による退職手続きをして、改めて、有期雇用労働者として雇用して、65歳まで継続雇用する企業が大多数のようです。
定年後の再雇用については、労働契約を改めて結びなおすことになるので、前の待遇と比べて20%から40%低下するところが多いようです。
雇用継続給付金の扱い
定年後再雇用で賃金が低下したときに支給される「高年齢雇用継続基本給付金」は、賃金が60歳到達時点の賃金と比較して75%未満になる場合に支給され、賃金が61%以下に下がった場合に、新賃金の15%が支給されるように設計されています。
つまり、40%の低下を想定しているともいえるので、企業においては、賃金を下げる場合に、この40%を超えなければ問題ないだろうとする一つの目安になっていました。
有期雇用労働法による規制
短時間労働者及び有期雇用労働者法には、通常の労働者と有期雇用労働者等の待遇について、不合理と認められる相違を設けてはならないという規定があります。
短時間労働者及び有期雇用労働者法第8条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。
「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して」というところを、定年後再雇用に当てはめれば、前と同じ仕事をさせているのであれば、賃金を下げるのは無理があるという解釈も成り立ちます。
N社事件最高裁判決
被告 運輸業
原告 定年退職後、1年間の有期労働契約を締結して再雇用されていたドライバー
原告の主張
定年前と定年後では、従事している職務に違いがないにもかかわらず賃金格差(平均21%減)があり、これは労働契約法20条に違反し無効である。
最高裁判決
事業主は、高年齢者雇用安定法により、60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置を義務付けられており、定年退職した高年齢者の継続雇用に伴う賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること等を考慮すると、定年退職後の継続雇用における賃金を定年退職時より引き下げること自体が不合理であるとはいえない。
定年退職後の再雇用において、職務内容等が同じでも、定年後再雇用という点に着目(これを「その他の事情に」に含まれるとしました)して、賃金の低下はやむを得ないという判断を示しました。
この裁判で会社が定めていた賃金低下は約2割であったため、今後、2割カットが一つの目安になっていくものと思われます。
ただし、以下のようにも判示しています。
有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。
一つ一つの項目ごとに検討を行い、結果として、休日を除く全ての日に出勤した者に支払われる「精勤手当」を契約社員に支給しないのは不合理で違法と判断し、時間外労働に関する手当については金額などを改めて検討するため、東京高裁に審理を差し戻しました。
まとめ
定年後の再雇用制度を導入している企業は、ほとんどの場合、待遇を引き下げています。この最高裁判決は、合理性な範囲での格差の存在を容認したものであり、現状が追認されたと受けとめられています。
ただし、総額で比較するものではなく、個別の賃金項目ごとに判断することを求めています。
この判決を踏まえて、定年前と定年後に待遇を変えている企業では、項目ごとに一つ一つ合理性があるかどうかの検証が必要です。
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