精勤手当とは?メリットと注意点を解説

賃金・賃金制度

精勤手当は、精勤=欠勤がない、あるいは欠勤が少ないことを条件に支給する手当のことです。会社を休まず、熱心に働く姿勢を評価し、出勤を奨励する目的で導入されます。

精勤手当のメリット

精勤手当は、主に以下の3つの側面から企業に利益をもたらし、必要とされています。

業務の安定性と生産性の維持

多くの業種、特に製造業、サービス業、医療・介護、運輸業などでは、従業員一人が欠けるだけで業務全体に大きな支障が出ます。

  • 欠員リスクの軽減: 精勤手当は、従業員に対し、急な欠勤や遅刻を控えるための経済的なインセンティブとなります。これにより、現場の出勤率が高く保たれ、業務の連携がスムーズになり、生産性の低下を防ぐことができます。
  • 現場の負担軽減: 一人の欠勤は、他の従業員の残業や業務量の増加に直結します。精勤手当によって欠勤が減れば、周囲の従業員の不満や疲労の蓄積を防ぎ、チーム全体の士気を維持できます。

従業員のモチベーション向上と公平性の担保

真面目に出勤し、責任感を持って職務を遂行する従業員の努力を正当に評価するために必要です。

  • 勤務態度の評価: 頻繁に欠勤や遅刻をする従業員がいる一方で、毎日安定して出勤し続ける従業員がいます。精勤手当は、この真面目な勤務態度と責任感に対して、基本給とは別の形で報いる明確な評価制度となります。
  • 不公平感の解消: 頑張って出勤している従業員が「休んでも休まなくても同じ」と感じてしまうと、モチベーションが低下します。手当を設けることで、勤怠が良好な社員に報いる公平性を保つことができます。

人材確保と定着率の向上

特に人手不足の業界において、精勤手当は企業が選ばれるための重要な魅力の一つとなります。

  • 採用競争力: 求職者にとって、手当の有無は給与条件を判断する際の重要な要素です。精勤手当があることで、競合他社に対する賃金面での魅力を高め、優秀な人材の獲得に有利に働きます。
  • 離職の抑止力: 安定した収入の一部として精勤手当があることで、「辞める」という選択肢を思いとどまらせる心理的な効果も期待でき、結果として従業員の定着率向上につながります。

精勤手当は、「安定的な出勤」という企業の土台を支える行為に対し、明確な形で報酬を支払うことで、現場の秩序と企業活動の継続性を確保するために不可欠な制度だと言えます。

精勤手当の運用

精勤手当の額について

「この金額が良い」という法的な基準や明確な一般的な相場はありません。支給の有無、条件、金額は会社が独自に定めることができます。

しかし、以下のようなバランスを考慮することが重要です。

  1. 金額のバランス
    • 高すぎないこと: 従業員が体調不良を隠して無理をするほどに高額であると、かえって従業員の健康を害し、インフルエンザなどの感染症を蔓延させるリスクを高めます。
    • 相場を参考に: 同業他社の相場を参考に、基本給や他の手当とのバランスを考慮し、経営への負担も加味して適切な額を設定します。
    • モチベーション維持との両立: 低すぎると出勤奨励の効果が薄れるため、従業員のモチベーション向上につながる程度の金額である必要があります。
  2. 支給条件の明確化と柔軟性
    • 「皆勤手当」との違い:
      • 皆勤手当:「無遅刻・無早退・無欠勤」が条件で、一度のミスで不支給になることが一般的で、より厳格です。
      • 精勤手当:皆勤手当より条件がゆるやかで、「欠勤は月1日以内」「遅刻・早退は合計〇回まで」など、ある程度の欠勤・遅刻・早退を許容する設計が多いです。この柔軟性が、無理な出勤を防ぐ一助になります。
    • 有給休暇の扱い:
      • 有給休暇の取得を欠勤とみなして精勤手当の支給対象から外すことはできません。就業規則で「有給取得は欠勤とみなさない」ことを明確にすることが必要です。
    • 基準の明文化: 誰が見ても同じ判断になるように、就業規則や賃金規程に具体的な数値基準(欠勤、遅刻・早退の回数など)を明記することが不可欠です。

同一労働同一賃金における精勤手当の扱い

精勤手当(皆勤手当を含む精皆勤手当)は、出勤を奨励し、安定的な出勤に対する報酬という性質を持っています。

  • 同一の業務の場合: 正社員と短時間・有期雇用労働者(契約社員、パートなど)が業務の内容や責任が同一である場合、精勤を奨励する必要性も同じであると判断されます。
  • 結論: 業務が同一であるにもかかわらず、「正社員にだけ精勤手当を支給し、非正規社員には支給しない」という待遇差は、原則として不合理な待遇差(違法)と見なされます。

この点は判例でも明確に示されています。

  • 判例の趣旨: 過去の裁判例では、精勤手当について「正社員と契約社員(あるいは定年後再雇用の嘱託社員)との間で職務の内容が異ならない限り、精勤・皆勤を奨励する必要性は変わらない」として、非正規社員に支給しないことは不合理な待遇差に当たると判断されています。
    • 例: 井関松山製造所事件、長澤運輸事件など

精勤手当見直しの動き

精勤手当を廃止する企業が増えているというデータがあります。背景には、主に以下のような理由があります。

従業員の健康と企業リスクの観点(健康経営への逆行)

精勤手当が従業員に「無理な出勤」を促し、健康経営の取り組みに逆行するという懸念が大きな理由です。

  • 「隠れ欠勤」の誘発: 手当が惜しいために、体調が悪いにもかかわらず無理をして出勤する「隠れ欠勤」を招きやすくなります。
  • 感染症のリスク拡大: 特に新型コロナウイルスの流行以降、体調不良時の出勤自粛が重要視されています。手当の存在が、インフルエンザなどの感染症を職場で拡大させるリスクを高めてしまいます。

働き方の多様化とのミスマッチ

働き方改革の進展や技術の進化により、従来の「毎日決まった場所に出勤する」ことを前提とした制度が、企業の現状に合わなくなってきています。

  • テレワーク(リモートワーク)の普及: 在宅勤務では「出勤」の概念自体が希薄になり、精勤手当の前提が崩れます。
  • フレックスタイム制の導入: 柔軟な勤務時間制度では、従来の「遅刻」「早退」の定義が当てはまらなくなり、制度設計が困難になります。
  • 成果主義への移行: 特にIT業界などでは、出勤の有無よりもアウトプットの質や成果が重視される傾向が強まり、出勤奨励の手当の意義が薄れています。

コスト意識と賃金制度の見直し

労働契約通りに勤務することは本来「当たり前」であるという考え方に基づき、その「当たり前」に対して手当を支払う必要性を見直す動きがあります。

  • 人件費コストの見直し: 経営の効率化を進める中で、目的や効果が薄れた手当を廃止し、その財源を基本給や他の手当(職務手当、資格手当など)に振り替えて、より職務能力や貢献度に報いる賃金制度へ移行するケースが多く見られます。

補足:廃止時の注意点

精勤手当の廃止は、従業員にとって労働条件の不利益変更にあたるため、企業は以下の点に留意して慎重に進める必要があります。

  • 合理的な理由: 経営状況の悪化や、賃金制度全体の抜本的な見直しなど、客観的かつ合理的な理由が必要です。
  • 従業員への説明と同意: 一方的な廃止は労使トラブルを招くため、廃止の理由と、減額分を基本給などに組み入れるなどの代替措置を従業員に丁寧に説明し、理解を得る(原則として同意を得る)ことが重要です。

就業規則規定例