Last Updated on 2021年7月28日 by 勝
採用の基準にすることは問題がある
選考過程で「健康状態」や「病歴」を質問していますか?
採用担当者の間でも、個人の病歴は聞いてはいけないのではないか、躊躇することがあるようです。
たしかに、相当と認められる理由がない限り、原則として病歴を理由に採用を拒否することはできません。
相当と認められる理由は、限定的に解釈する必要があります。会社で勝手に基準を決めても、一般に認められる基準でなければ意味がありません。
例えば、目まいを伴う持病がある人に高所での作業や機械の運転をさせるのは危険です。したがって、少規模で、現場作業以外に仕事がない職場であれば、職場事情を理由に採用を拒むことは許されるかもしれません。しかし、他の仕事もあるような規模の大きな職場であれば、その持病があるという理由だけで採用しないのは、病気差別とみなされるリスクがあります。
配属を検討するためであればよい
採用後の配属先などを検討するためであれば聞くことができます。
労働安全衛生法65条の3では「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」と定めています。
健康に配慮するためには、「健康状態」や「病歴」を把握しなければなりません。
把握するためには、健康診断を実施するか、本人からを聞かなければなりません。
病歴等を聞くときに注意するべきこと
聞いてよいからと言って無条件ではありません。
聞き方の配慮
面接では、
「まだ採用が正式に決定したわけではありませんが、もし採用が決まったらという前提の質問をいくつかさせていただきます。」
と前置きした上で、
「健康上のことで採用後に配慮してほしいことはありますか」
「これまでに大きな病気をしたことはありますか」
という質問は許容範囲だと一般的には言われています。
ただし、この質問への回答次第で採用予定がくつがえるのであれば、労働安全衛生法65条の3を持ち出すことはできません。健康状態や病歴を理由にする差別となります。つまり、この質問をした場合は、原則として不採用にできない可能性がでてくるのです。
病歴は聞かないという選択肢
であれば、「採用決定までは聞かない」というのも一つの選択肢です。聞いたとしても採否に反映させることはできず、採否に反映させなかったとしても、最終的に不採用になれば、病歴等の理由で採用しなかったと受け取られる可能性が高いからです。
しかし、労働安全衛生法65条の3の「事業者は、労働者の健康に配慮して、労働者の従事する作業を適切に管理するように努めなければならない」を考慮すれば、面接では聞かないにしても、その後の採用手続き段階では、聞く必要があります。
聞いた後の情報管理
病歴は重要な個人情報ですから、その情報を聞いた面接担当者や人事担当者は、その情報を秘密情報として、不必要に拡散しないように管理しなければなりません。
しかし、病歴は、関係ある人は知っておくべき情報です。人事部門で秘密情報として管理したうえで、その者の上司や衛生管理者、産業医などの関係者には「配慮すべき事項」を伝達しなければなりません。配属替えがあったときは、引継ぎ事項の一つとして次の関係者に伝達しなければなりません。
虚偽の申告について
健康状態や病歴に関する虚偽の事実を告げた者に対しては、これが発覚した際には、懲戒事由になるのでしょうか。
虚偽申告の結果、会社の業務に大きな悪影響を与えたり、事故などを起こして社内外に大きな迷惑をかけたなどのことがあれば、懲戒処分の対象になると考えられます。
ただし、虚偽申告をしたこと自体を懲戒処分の対象にするのは、慎重になるべきでしょう。弱い立場の労働者が、正直に申告すれば不利益になると思い込んでついた嘘であれば、同情は労働者の方に行くことが多いと思われます。