カテゴリー: 労災保険

  • 労災保険の休業補償給付について会社から説明する(例)

    労災保険の給付の一つである休業補償給付について、労災を原因とする負傷によって休業することになった従業員に対して、会社の担当者が、制度のあらましと、給付を受ける従業員が知っておくべきことを説明します。

    労災保険 休業補償給付の説明

    休業補償給付の概要

    山田: 佐藤さん、具合はいかがですか?まずはゆっくりと療養に専念してくださいね。

    佐藤: ありがとうございます。まさかこんなことになるとは…。正直、働けない間の生活が少し心配で。

    山田: 今日は、その辺りのこともご説明にあがりました。今回の怪我は業務中に発生したものですので、労災保険の対象となります。労災保険にはいくつかの給付制度がありますが、佐藤さんのように仕事ができない期間の生活を保障してくれる給付として、「休業補償給付」があります。今日はその制度の概要と、佐藤さんに知っておいていただきたいことを説明します。

    佐藤: 休業補償給付ですか。具体的にどういうものなんですか?

    山田: 簡単に言うと、労災による怪我や病気が原因で働けなくなり、お給料がもらえない期間に、その損失を補ってくれる制度です。給付を受けるための条件はいくつかあります。

    佐藤: どんな条件ですか?

    山田: 大きく分けて次の3つです。

    1. 労災による負傷や疾病の療養のために仕事ができないこと。
    2. 賃金を受けていないこと。
    3. 仕事ができない期間が4日以上あること。

    佐藤: 4日以上なんですね。

    山田: はい。最初の3日間は「待期期間」と呼ばれ、労災保険からの給付はありません。この3日間については平均賃金の60%を会社が支払います。

    佐藤: ありがとうございます。それで、4日以降の給付金はどれくらいもらえるのでしょうか?

    山田: 労災保険からの休業補償給付は、「給付基礎日額」をもとに計算されます。給付基礎日額とは、原則として労災発生直前の3か月の賃金総額を、その期間の暦日数で割った1日あたりの平均賃金です。この金額の60%が「休業補償給付」、さらに20%が「休業特別支給金」として支給されます。合計すると、給付基礎日額の80%が補償される形になります。

    佐藤: 80%補償されるんですね。どうやって申請すればいいんでしょうか?

    山田: 申請書類は会社で準備します。佐藤さんには、病院から証明をもらう部分や、ご自身の情報などを記入していただく必要があります。申請は会社を通じて労働基準監督署に行いますので、書類ができ次第ご連絡しますね。

    佐藤: わかりました。他に何か知っておくべきことはありますか?

    山田: 申請にはいくつかの注意点があります。

    • 申請書類(様式第8号)の提出: 会社が用意しますので、病院の証明をもらってください。
    • 療養の継続: 医師の指示に従い、療養に専念してください。給付を受けるには、医師から「療養のために働けない」という証明が必要です。
    • 定期的な連絡: 療養の状況や復帰の目途について、定期的に会社へご連絡をお願いします。

    佐藤: この休業補償給付は、退院すれば打ち切りになるんですか?

    山田:いいえ、退院したからといってすぐに打ち切りにはなりません。休業補償給付は、「療養のために働くことができない」という状態が続いている限り支給されます。もし退院後も、医師が「まだ仕事に戻れる状態ではない」と判断した場合は、引き続き給付を受けることができますのでご安心ください。給付が終了するのは、医師から「治癒」の診断が出たときです。

    給付金の入金時期と受任者払い制度について

    佐藤: すみません。給付金はいつ頃、私の通帳に振り込まれるのでしょうか?

    山田: はい。通常、労働基準監督署に申請書を提出してから振り込まれるまでに、審査期間として1~2か月程度かかるようです。書類に不備がない場合でも、初回の申請は少し時間がかかる傾向にあります。

    しかし、当社では、佐藤さんの生活を少しでも早く安定させていただくために、「受任者払い制度」を活用することをお勧めしています。

    佐藤: 受任者払い制度、ですね。それはどういう仕組みですか?

    山田: この制度を利用すると、労働基準監督署からの振込は会社に直接入りますが、会社は、労働基準監督署からの入金を待たずに、会社の給料日に合わせて受給見込み額を先に佐藤さんへお振込みします。

    佐藤: 会社の給料日に振り込んでもらえるんですか!それはすごく助かります。

    山田: はい。この制度を利用する場合は、申請書にその旨を記載していただきます。

    佐藤: はい、お願いします。書類の方、できるだけ早くお願いします。

    山田: はい、できるだけ急いでやらせていただきます。他にもわからないことが出てきたら、いつでも私に聞いてください。一日も早い回復を心から願っています。


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  • 持病が悪化した際の労災保険の給付について

    労災保険の認定要件

    労災保険は、業務が原因でケガや病気になった場合に給付される制度です。持病をお持ちの方が業務によってその症状が悪化した場合も、以下の3つの要件をすべて満たせば、労災と認定される可能性があります。一般的な労災は、1と2の2つの要件を満たせば認定されます。

    1. 業務遂行性(業務中の出来事であること)
      • 労働者の方が、会社の指揮命令下にある状態で病気が発生したこと、または悪化したこと。例えば、会社で荷物の運搬作業をしている最中に腰痛が悪化したなど、業務と時間的・場所的なつながりがあるかどうかがポイントです。
    2. 業務起因性(業務と病気の因果関係)
      • 労働者の方の病気や症状の悪化と、行っていた業務の間に「相当な因果関係」があること。これは、「その業務を行っていれば、その病気が発生したり悪化したりするのは自然なことだ」と客観的に判断できる関係を指します。
    3. 業務の過重負荷(持病の自然な経過を超えた悪化)
      • 業務が原因で、持病の「自然な経過」を超えて、症状を著しく悪化させたことがポイントです。
        • 「自然な経過を超えて」とは、普段の生活を送っているだけでは考えられないようなスピードや程度で症状が悪化した、という意味です。
        • 例えば、普段から腰痛があっても、通常の生活では急激に椎間板ヘルニアを発症するようなことはなく、それが会社での重い荷物運搬によって急激に悪化した、といったケースが該当します。
        • また、高血圧や糖尿病などの持病がある方が、長時間労働や過度なストレスなどの業務による負担で、脳卒中や心筋梗塞といった重い病気を発症したケースも可能性があります。

    判断は労働基準監督署が行います

    業務が持病を悪化させた主な原因であると認められれば、労災保険の給付を受けられる可能性があります。ただし、最終的な判断は、詳細な状況や証拠に基づいて行われます。

    労災保険が適用されるかどうかは、会社ではなく所轄の労働基準監督署が判断します。そのため、会社が安易に「持病だから労災にはならない」と判断することはできませんし、すべきではありません。

    会社がアドバイスできること

    労働基準監督署への相談を勧める

    まず、かかりつけの医師に相談し、業務が腰痛悪化の原因となった可能性について意見を聞いてみてください。医師の意見は、労災認定の重要な判断材料となります。

    その上で、お住まいの地域を管轄する労働基準監督署の労災課に相談に行くことをおすすめします。労働基準監督署では、具体的な状況を詳しく聞き取った上で、労災認定の可能性や必要な手続きについて教えてくれます。

    労災認定が受けられなかったときのアドバイス

    仮に労災認定の要件を満たさないと判断された場合でも、健康保険に加入していれば、傷病手当金の支給対象となる可能性があります。これは、病気やケガで仕事を休んだ場合に、生活を保障するための制度です。

    また、どうしても労災保険の手続きを進めたいにもかかわらず、不支給決定が出た場合は、その決定に対して不服申立てを行うことも可能です。


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  • 社会保険や労働保険での待期期間とは

    待期期間とは

    傷病手当金、休業補償給付、基本手当は、休業の初日、失業の初日からは支給されません。それぞれに給付が受けられない期間が定められていて、その給付を受けられない期間のことを待期期間といいます。

    傷病手当金の待期

    健康保険から支給される傷病手当金には3日間の待期期間があります。

    健康保険の傷病手当金は病気やケガを理由に3日間の休業があり、4日目も引き続き仕事に就けないことを支給要件としています。その3日間の休業を「待期期間」と呼びます。

    傷病手当金の場合には、この待期期間の3日間が連続していなければなりません。

    例えば、待期期間3日目に出勤すれば待期期間がクリアされて、改めて3日連続の待期期間を経過しなければなりません。

    待期期間の起算日にも注意が必要です。出勤して、所定労働時間内に早退して、病院に行った場合は、その日から待期期間になります。具合が悪いのを我慢して所定労働時間まで勤務して、終業後に病院に行った場合は、その翌日が待期の起算日です。

    なお、待期期間は有給休暇や休日、祝日に該当する日であっても対象としてカウントされます。

    休業補償給付の待期

    労災保険から支給される休業補償給付には3日間の待期期間があります。

    労災保険の休業補償給付にも3日間の待期期間があります。休業補償給付の待期期間は連続している必要がありません。通算して3日間休業していれば待期期間を満たします。

    起算日は傷病手当金の場合と同じです。

    休暇等の扱いも傷病手当金と同じです。

    基本手当の待期

    雇用保険から支給される基本手当には7日間の待期期間があります。

    具体的には、ハローワークで離職票の提出と求職の申込みを行った日(受給資格決定日)から通算して7日間が待期期間です。

    その期間が満了するまでは雇用保険の基本手当は支給されません。 これは、離職の理由等にかかわらず誰でも一律に適用されます。


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  • 労災保険の第三者行為災害届

    第三者行為災害とは

    労災の原因が、第三者による不法行為などによる場合を「第三者行為災害」といいます。

    具体的には、勤務中に労働者が、交通事故(自損事故を除く)にあったり、暴行されたりする等、第三者にケガ等をさせられて、第三者に対し損害賠償請求を行うことができる労災の類型のことです。

    この場合、労災保険の受給権者である被災労働者または遺族に対して、第三者が損害賠償の義務を有していることになります。

    つまり、被災労働者等は第三者に対し損害賠償請求権を取得すると同時に、労災保険に対しても給付請求権を取得することとなります。

    この場合、同一の事由について両者から損害のてん補を受けることになれば、二重に補償金を受け取ることとなり不合理が生じます。

    もし、先に労災保険から給付を行った場合は、被災労働者等が持つ第三者に対する損害賠償請求権を、労災保険給付を行った国が取得して第三者に求償します。

    逆に、先に第三者から損害賠償を受けている場合は、労災保険からは給付額からその額を控除して支給します。

    第三者行為災害届の手続き

    被災労働者や遺族が第三者行為災害について労災保険給付を受けようとする場合には、被災者の所属する事業場を管轄する労働基準監督署に、「第三者行為災害届」を提出しなければなりません。

    労働基準監督署が、第三者からも賠償を受けられることを把握し、労災保険から支給する保険金と第三者が賠償する賠償金との調整を行う必要があるからです。

    この届けは、原則として労災保険給付に関する請求書に先立って、または請求書と同時に提出しなければなりません。正当な理由なく「第三者行為災害届」を提出しない場合には、労災保険給付が一時差し止められることがあります。

    第三者行為災害の場合は、労災保険の手続きは一般の労災手続きと違うところがあります。特に添付書類が多いので注意が必要です。

    注意事項

    加害者への損害賠償請求は、加害者との交渉が難航することも多く、法律的な手段を用いなければならなくなることがあります。こうしたことを個人で行うことは現実的ではありません。弁護士等への依頼が必要になるでしょう。

    また、示談について特に注意が必要です。示談とは当事者同士の話し合いで解決することですが、示談が成立すれば被災者は示談内容以外の損害賠償請求権を放棄するとされ、ほかの請求内容の労災保険が給付されないことがあります。

    示談をおこなう際は事前に労働基準監督署に示談をおこなうことを報告し、示談書を提出する必要があります。労働基準監督署に連絡なしに示談を行わないことを頭に入れておきましょう。

    また、どの段階でどのような内容の示談をするのが妥当なのかについて、素人には判断できないことが多いので、この点についても弁護士等へ依頼したほうがよいでしょう。


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