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  • カスタマーハラスメント対応マニュアル(サンプル)

    このマニュアルサンプルは、TOKYOはたらくネットに掲載された「カスタマー・ハラスメント防止のための各団体共通マニュアル」の「事業者マニュアルのひな形」を元に筆者の経験を加味して作成したものです。従業員数が数百名程度の中小企業を念頭に作成しました。

    カスハラ対応マニュアル

    1.本マニュアルの目的

    株式会社◯◯は従業員の健康と安全を守るため、カスタマーハラスメント(カスハラ)事案発生時の対応手順と、従業員が安心して業務に取り組める環境を整備するための指針としてこのマニュアルを制定します。

    また、前提として、顧客等から寄せられるクレームの全てがカスタマーハラスメントではないことをご理解ください。商品・サービスの不具合等を起因とした顧客等からの商品交換や代替サービスの提供等の要求自体は、社会通念上妥当であり、真摯に受け止めることを原則とします。傾聴し、時には寄り添いながら顧客等の主張を正確に聞き取ってください。感情的にならず常に冷静な言動と判断を心がけてくださるようお願いします。

    2.定義

    (1)カスハラの定義

    カスタマーハラスメントとは、顧客からの言動のうち、社会通念上相当な範囲を超えるもので、従業員の就業環境を害するものを指します。具体的には(2)に示した行為が含まれます。ただし、これらはあくまで例示でありこれらに限られるものではありません。

    (2)カスハラの例

    ①暴力・暴言(殴る、蹴る、大声を出す、脅迫的な言動、侮辱的な言動、威嚇、脅迫など)

    ②精神的攻撃(人格否定の発言、差別的な発言、長時間の拘束、執拗な連絡、SNS等での誹謗中傷、個人的な要求、土下座の強要など)

    ③不当な要求(正当な理由のない金銭やサービスの要求、企業秘密の開示要求、反社会的勢力との関係を匂わせる言動など)

    ④ハラスメント(性的な冗談、不快な視線、身体への不必要な接触、性的な要求などのセクシャルハラスメント、その他のハラスメント)

    3.クレームへの初期対応

    (1)要求内容を特定する

    要求内容を明確に特定し、特定した要求内容を踏まえ、対応の可否を検討してください。顧客等の氏名や連絡先等を教えていただき、クレームの原因と要求内容を正確に把握するために復唱して確認してください。

    クレームの原因と要求内容は、When(いつ)/Where(どこで)/Who(誰が)/What(何を)/Why(なぜ)/How(どのように)の5W1Hにより正確な事実関係を把握してください。

    (2)事実を確認をする

    回答する前に顧客の申し立て内容が事実かどうか調査する必要があります。事実を確認しないまま、顧客等の要求内容を認める発言はしてはいけません。

    事実関係の確認前の段階では限定的な謝罪(例:お客様に嫌なお気持ちを与えてしまい誠に申し訳ございません。)にとどめてください。

    充分な調査が必要だと判断した事案については、必要な調査等を行った上で回答する旨を顧客等に伝えてください。その場合、できるだけ具体的な日数を(例:〇日間、〇週間程度)を伝えるようにしてください。

    (3)複数人で対応する

    単独で対応しないで複数人で対応してください。

    突発的だったなどやむを得ない事情で単独で対応したときは、できるだけ速やかに応援を求めて複数体制にしてください。

    顧客等が複数の場合は同数以上の複数人で対応してください。多数で押しかけた場合は必要最小限の人数(対応する従業員数以下)にしてくださるように求めてください。

    電話でのクレーム対応の場合は、初期対応した従業員が引き続き対応するのが原則ですが、手に余ると感じたときは1人で抱え込まず速やかに上司に対応を要請してください。

    いずれの場合においても、対応に不安を感じたときはためらわずに上司、同僚、他部門に応援を要請してください。

    (4)対応場所を選ぶ

    原則として事務所や店舗のオープンスペースで対応してください。会議室や応接室等で対応するのは例外です。

    会議室等で対応する必要があると認めた場合は次の点に留意してください。

    ①密室状態にしてはいけません。ドアを開けて室内の状況を周囲が確認できるようにしてください。

    ②すぐに退室できるように従業員は出入口側に着席してください。

    ③退去しない場合に不退去とみなすため、管理権の範囲内の場所で対応してください。店舗の外の路上等では対応しないでください。

    ④クレーム対応のために顧客等を訪問することは可能な限り避けてください。やむを得ず訪問しなければならない場合は、対応力のある者を複数の者を人選して慎重に行動してください。弁護士等の第三者の動向を求めたい場合は申し出てください。

    (5)時間制限をつける

    長時間に渡ったときは、「恐れ入りますが、次の予定がございますので、〇時までにお話を伺えますでしょうか(次回は明日にしてもよろしいでしょうか)」などと時間制限を設けてください。

    (6)記録を作成し関係者で情報を共有する

    ①顧客等への対応内容を可能な限り詳細に記録して、速やかに関係者で情報共有してください。

    記録は事実に即して記載してください。例えば、顧客等が同じ話を何度も繰り返す場合、何度も繰り返しているからといって省略しないでください。時系列での記録で適切な対応をしていることを示す必要があります。発言の内容を別な言葉に置き換えないでください。できるだけ発言の言葉をそのまま記載し、聞き取り不能の個所は聞き取り不能と記載し、声の大きさ、腕の動きなどの状況も記載してください。

    ②事実関係を正確に記録するために会社の電話はすべて録音を原則とします。携帯電話等もすぐに録音をスタートできるように操作方法を確認しておいてください。必要と認める場所には防犯カメラを設置してください。その他に、録音できる装置を用意してください。

    録音する場合、事前承諾を得ることが望ましいので、顧客との対応がクレームであることが判明した時点で「正確にご要望を把握してサービスを向上させるために会社の方針で録音しておくことになっております。ご了承いただけますか。」と発言して録音をスタートさせてください。なお、同意を得ない録音でも直ちに違法ではないとされているので、2(2)のカスハラの定義で示したような反応があったときは了承を得られなくても「録音させていただきます」と発言して了承を得られなくても録音を開始してください。

    ④インターネットで寄せられたクレームの場合、メール等を電磁的に記録するとともに印刷して保管してください。SNSの投稿やメッセージはすぐに削除される可能性があるため、スクリーンショット等を活用し保存してください。

    4.カスハラ認定後の対応

    (1)従業員のケアとサポート

    ①精神的なダメージを受けた従業員に対し、産業医や外部のカウンセリング機関と連携し、心のケアを提供します。

    ②担当した従業員から希望があれば休業や一時的な配置転換を検討します。本人が希望しない場合でも、上司の判断により休養を命じまたは担当を交代させることがあります。

    (2)要求に対する拒否または提案

    相手の要求が不当であると判断した場合は、対応できないことを明確に伝えることになります。一部受け入れる余地があると判断した場合は、関係部署の上長との協議を経て当社のルールに基づいた代替案や解決策を提示してください。

    不当な要求に対しては、毅然とした態度で明確に拒否してください。その場の流れで対応しないで、気後れするような場合は速やかに上長にとりついでください。

    拒否してもなお暴言や不当な要求が続く場合は、「申し訳ございませんが、そのようにお話しされると対応いたしかねます」などと明確に伝え、一旦対応を打ち切ってください。

    (3)出入禁止の通告

    カスハラ行為が繰り返される場合や、悪質性が高いと判断される場合は、出入禁止を命じることを検討し、上長らの協議のうえ「この度は大変不本意ですが、今後の入店をお断りさせていただきます。」などと口頭で通知してください。書面による通知をもとめられた場合は所定の様式により作成して交付してください。

    (4)警察への通報・弁護士との連携

    直接的な暴力、器物損壊、脅迫などの犯罪行為に該当する行為があったときは迷わず警察に通報してください。

    暴力等が衝動的一時的なもので相手がその場で謝罪したとしても、その場で警察に通報してください。会社の体面を考えてためらってはいけません。

    被害を受けたときは軽症でも労災保険で医師の診断を受けて診断書を入手してください。器物については写真を撮り現物を保管してください。

    また、会社は適切なタイミングで弁護士事務所と打ち合わせを開始し法的措置の可能性を検討しますが、現場において法的な助言が必要な場合は遠慮なく申し出てください。

    5.マニュアルの周知と研修

    このマニュアルは、社内ポータルサイトに掲載するとともに全従業員に配布することにより周知します。

    このマニュアルは事案が発生した毎に評価・見直を行って必要に応じて改定し直ちに周知します。

    カスハラ事例や対応策について全従業員を対象に定期的な研修を実施して、対応能力の向上を図ります。

    6.担当部署

    本マニュアルに記載した事項についての担当部署は本社総務部とします。責任者は総務部長とし、総務部長は顧客対応担当課長を指名します。

    すべての従業員がカスハラに関して相談ができる「顧客対応相談室」を本社総務部内に設置します。顧客対応相談室への連絡方法等については社内ポータルサイトにて明示します。

    附則

    このマニュアルは令和◯年◯月◯日より施行します。


    関連記事:マニュアルのサンプル

    会社事務入門ハラスメント対策の留意点カスハラ対策の義務化について>このページ

  • カスハラ対策の義務化について

    顧客による従業員への著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対策を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法などが2025年6月4日の参院本会議で可決成立しました。この改正内容と、施行時期、これから企業が準備しなければならないことについて説明します。

    改正内容

    先生:社長、本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。本日はカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の法改正についてご説明させていただきます。先日、企業がカスハラ対策を講じることが法的に義務化されることが決定したのはご存知でしょうか。

    田中社長: ああ、山田先生、今日はよろしくお願いします。その件はニュースでも少し見ましたが、うちにどう影響するのか、正直まだ理解できていません。義務化というのは、結構大変なことだと思うんですが。

    先生: はい、これまではハラスメント対策というと、社内のパワハラやセクハラが中心でしたが、今後は、カスハラ、つまりお客様からの迷惑行為についても企業の責任として対策が求められるようになります。従業員の皆さんが安心して働ける環境を整えることが企業の責任ということです。

    具体的な義務

    先生: 具体的にどのような対策が義務化されるかというと、主に以下の点が挙げられます。

    1.カスハラ対策の基本方針を明確にし、従業員に周知すること。
    2.相談窓口を設置し、相談があった際には適切に対応できる体制を整えること。
    3.現場での初期対応の方法や手順を明確にすること。
    4.カスハラ被害を受けた従業員への心身のケアなど、適切な配慮を行うこと。
    5.事実関係を確認し、再発防止策を検討・実施すること。
    6.従業員のプライバシー保護も考慮すること、例えば名札を苗字だけにするなども検討事項になります。

    社長: なるほど、相談窓口の設置やマニュアル作成など、色々やることがありそうですね。従業員への教育も必要になんですね。

    先生: その通りです。カスハラに該当する行為としては、大声での執拗なクレーム、金銭や不可能な要求、人格否定、長時間の拘束、性的な言動などが含まれます。線引きが難しいケースもありますが、従業員の心身に著しい影響を与えるような行為が対象となります。

    社長:これは義務なんでしょうか。やらなければ罰則があったりしますか。

    先生:あとで条文をお示ししますが「講じなければならない」という部分は一般的にいう義務規定です。「努めなけれならない」の部分は努力義務規定です。また、罰則は直接には定められていません。ですが、求められている対策をしなければ行政指導されることがありえます。また、対策が充分でないことに起因して従業員に万一健康被害などが発生すれば、安全配慮義務違反による損害賠償もありうるわけですから、努力義務だから努力すればよいということでは済まされないのです。

    社長:そうですね。

    施行時期

    先生: この改正法は、公布の日から1年6か月以内に施行される予定です。具体的な施行日はまだ確定していませんが、報道などを見る限り、来年、2025年中には施行される可能性が高いです。

    社長: 来年中には、ですか。あまり時間がないですね。

    今後の準備

    社長:うちとしては、具体的に何から手をつければいいんでしょうか?

    先生: はい、今から準備すべきことがいくつかあります。

    1.就業規則やハラスメント防止規程の改定(カスハラ対策に関する条項を盛り込む必要があります)
    2.相談窓口の設置と担当者の育成(相談を受け付け、適切に対応できる人材の育成が必要です)
    3.カスハラ対応マニュアルの作成(現場の従業員が困った時にすぐ対応できるよう、具体的な手順を定めたマニュアルが必要です)
    4.従業員への研修・教育(カスハラの具体例や企業の対応方針、相談窓口の利用方法などを周知徹底します)
    5.メンタルヘルスケア体制の強化(被害を受けた従業員が心身の不調を訴えた際に、適切なケアを受けられる体制を整えておくことも重要です)

    関連記事:カスタマーハラスメント対応マニュアル(サンプル)

    社長: 社内規程の変更、窓口の設置、マニュアル作り、それに研修ですか。結構大変ですね。しかし、従業員が疲弊してしまっては、会社としても良いことはないですからね。これを機に、しっかりとした体制を作らないといけないですね。

    先生:御社ではパワハラ、セクハラ、マタハラといった他のハラスメント対策は既に実施されているので、それらの措置の内容を参考に、カスハラについても同等の対策を講じる流れになると思います。具体的なことは、今後順次ご提案させていただきます。

    社長:よろしくお願いします。

    条文等

    カスハラ対策の義務化は、主に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」の改正によって行われました。

    直接的にカスハラ対策を義務付ける条文として、労働施策総合推進法 第30条の2 が改正され、新たに第2項が追加されました。

    労働施策総合推進法 第30条の2 (抜粋・改正後)
    「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」

    そして、今回の改正で追加されたのが以下の部分です。

    「2 事業主は、前項の措置を講ずるに当たっては、労働者が業務に関して他の労働者又は事業主以外の者から著しい迷惑行為を受けることによって、その就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講ずるように努めなければならない。」

    また、労働施策総合推進法第30条の2の規定に基づき、厚生労働大臣はハラスメント防止のための指針を定めることになっています。この指針の中で、カスハラ対策として具体的にどのような措置を講じるべきかが示される予定です。


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