Last Updated on 2025年6月13日 by 勝
顧客による従業員への著しい迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対策を企業に義務付ける改正労働施策総合推進法などが2025年6月4日の参院本会議で可決成立しました。この改正内容と、施行時期、これから企業が準備しなければならないことについて説明します。
改正内容
先生:社長、本日はお忙しい中お時間をいただきありがとうございます。本日はカスタマーハラスメント(カスハラ)対策の法改正についてご説明させていただきます。先日、企業がカスハラ対策を講じることが法的に義務化されることが決定したのはご存知でしょうか。
田中社長: ああ、山田先生、今日はよろしくお願いします。その件はニュースでも少し見ましたが、うちにどう影響するのか、正直まだ理解できていません。義務化というのは、結構大変なことだと思うんですが。
先生: はい、これまではハラスメント対策というと、社内のパワハラやセクハラが中心でしたが、今後は、カスハラ、つまりお客様からの迷惑行為についても企業の責任として対策が求められるようになります。従業員の皆さんが安心して働ける環境を整えることが企業の責任ということです。
具体的な義務
先生: 具体的にどのような対策が義務化されるかというと、主に以下の点が挙げられます。
1.カスハラ対策の基本方針を明確にし、従業員に周知すること。
2.相談窓口を設置し、相談があった際には適切に対応できる体制を整えること。
3.現場での初期対応の方法や手順を明確にすること。
4.カスハラ被害を受けた従業員への心身のケアなど、適切な配慮を行うこと。
5.事実関係を確認し、再発防止策を検討・実施すること。
6.従業員のプライバシー保護も考慮すること、例えば名札を苗字だけにするなども検討事項になります。
社長: なるほど、相談窓口の設置やマニュアル作成など、色々やることがありそうですね。従業員への教育も必要になんですね。
先生: その通りです。カスハラに該当する行為としては、大声での執拗なクレーム、金銭や不可能な要求、人格否定、長時間の拘束、性的な言動などが含まれます。線引きが難しいケースもありますが、従業員の心身に著しい影響を与えるような行為が対象となります。
社長:これは義務なんでしょうか。やらなければ罰則があったりしますか。
先生:あとで条文をお示ししますが「講じなければならない」という部分は一般的にいう義務規定です。「努めなけれならない」の部分は努力義務規定です。また、罰則は直接には定められていません。ですが、求められている対策をしなければ行政指導されることがありえます。また、対策が充分でないことに起因して従業員に万一健康被害などが発生すれば、安全配慮義務違反による損害賠償もありうるわけですから、努力義務だから努力すればよいということでは済まされないのです。
社長:そうですね。
施行時期
先生: この改正法は、公布の日から1年6か月以内に施行される予定です。具体的な施行日はまだ確定していませんが、報道などを見る限り、来年、2025年中には施行される可能性が高いです。
社長: 来年中には、ですか。あまり時間がないですね。
今後の準備
社長:うちとしては、具体的に何から手をつければいいんでしょうか?
先生: はい、今から準備すべきことがいくつかあります。
1.就業規則やハラスメント防止規程の改定(カスハラ対策に関する条項を盛り込む必要があります)
2.相談窓口の設置と担当者の育成(相談を受け付け、適切に対応できる人材の育成が必要です)
3.カスハラ対応マニュアルの作成(現場の従業員が困った時にすぐ対応できるよう、具体的な手順を定めたマニュアルが必要です)
4.従業員への研修・教育(カスハラの具体例や企業の対応方針、相談窓口の利用方法などを周知徹底します)
5.メンタルヘルスケア体制の強化(被害を受けた従業員が心身の不調を訴えた際に、適切なケアを受けられる体制を整えておくことも重要です)
社長: 社内規程の変更、窓口の設置、マニュアル作り、それに研修ですか。結構大変ですね。しかし、従業員が疲弊してしまっては、会社としても良いことはないですからね。これを機に、しっかりとした体制を作らないといけないですね。
先生:御社ではパワハラ、セクハラ、マタハラといった他のハラスメント対策は既に実施されているので、それらの措置の内容を参考に、カスハラについても同等の対策を講じる流れになると思います。具体的なことは、今後順次ご提案させていただきます。
社長:よろしくお願いします。
条文等
カスハラ対策の義務化は、主に「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」の改正によって行われました。
直接的にカスハラ対策を義務付ける条文として、労働施策総合推進法 第30条の2 が改正され、新たに第2項が追加されました。
労働施策総合推進法 第30条の2 (抜粋・改正後)
「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。」
そして、今回の改正で追加されたのが以下の部分です。
「2 事業主は、前項の措置を講ずるに当たっては、労働者が業務に関して他の労働者又は事業主以外の者から著しい迷惑行為を受けることによって、その就業環境が害されることのないよう、雇用管理上必要な措置を講ずるように努めなければならない。」
また、労働施策総合推進法第30条の2の規定に基づき、厚生労働大臣はハラスメント防止のための指針を定めることになっています。この指針の中で、カスハラ対策として具体的にどのような措置を講じるべきかが示される予定です。
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