労働組合がない会社で従業員から待遇改善の要求があった場合、会社として取るべき対応のステップを順を追ってご説明します。
最初の対応:基本的な姿勢と心構え
要求が出た際、会社として最も重要なのは誠実な対応と対話の姿勢を見せることです。感情的にならず、冷静かつ客観的に状況を把握することに努めましょう。
- 基本的な姿勢:
- 要求の受理: まずは、要求書を正式に受け取ります。この段階で、内容の是非について判断したり、安易な回答をしたりすることは避け、「内容を拝見し、会社として検討いたします」と伝えて持ち帰るのが賢明です。
- 事実確認と情報収集: 要求内容に記載されている事柄が事実かどうか、客観的なデータ(例:勤務記録、賃金テーブル、過去の事例など)に基づいて確認します。
- 対応者が気をつけるべきこと:
- 冷静な態度: 従業員の不満や感情的な訴えに引きずられず、常に冷静で落ち着いた態度を保ちます。
- 相手の尊重: 要求を出してきた従業員を不満分子と切り捨てず、職場の代表者として尊重する姿勢を見せます。敵対的な雰囲気を作らないことが、その後の円滑な協議につながります。
- 記録の徹底: いつ、誰から、どのような内容の要求があったかを詳細に記録します。これは後々の交渉経緯を把握するため、また万が一のトラブルの際に重要となります。
回答書の作成と対面での説明
要求内容を検討し、会社としての方針を固めたら、文書で回答を作成し、対面で説明します。
- 回答書の作り方:
- 丁寧かつ簡潔な表現: 回答書は丁寧な言葉遣いで、要点を簡潔にまとめます。
- 要求への言及: 要求書に記載された項目一つひとつに対し、会社の立場や見解を明確に示します。
- 事実関係の整理: 法令違反の指摘があれば、それが事実であるかどうかを調査し、事実であれば「ご指摘の通り、当社に改善すべき点があることが判明いたしました。つきましては、〇〇までに改善を実施いたします」といった具体的な改善策と時期を明記します。
- 賃上げへの回答: 賃上げについては、会社の財政状況や経営方針に基づき、「現状では厳しい」という結論になった場合でも、その理由(例:市場環境、競争力の維持、先行投資など)を論理的に説明します。安易に「できません」とだけ回答するのではなく、将来的な検討の可能性を示唆するなど、対話の余地を残すことも重要です。
- 対面説明の注意点:
- 人数制限: 相手の人数に制限を設けることは合理的であり、円滑な対話のために有効です。事前に「落ち着いてお話しさせていただきたいため、〇名まででお願いできますでしょうか」などと伝えておきましょう。
- 対話の心構え: 回答書を読み上げて終わるのではなく、対話を通じて相手の疑問や懸念に答えることに注力します。一方的に説明するのではなく、「どのような点についてご不満をお持ちでしょうか?」と質問するなど、相手の意見を引き出す姿勢が重要です。
- 記録のとり方: 対面でのやり取りは議事録として記録します。誰が、いつ、どのような発言をしたかを正確に記録し、後で認識のずれが生じないように努めます。可能であれば、録音をして正確な議事録を作成するのが望ましいです。
今後の継続的な対話
一度の協議で全ての問題が解決するわけではありません。従業員が抱える不満や意見を吸い上げるための継続的な対話の場を設けることが、健全な労使関係の維持につながります。
- 定期的な対話の場の設定: 一回目のメンバーと定期的に話し合う場を提案することも一つの方法です。従業員との信頼関係を築く上で非常に有効です。
- 従業員代表との協議: 労働基準法に定められた「過半数代表者」制度を活用するのも有効です、就業規則の変更や36協定の締結など、労使間で協議が必要な事項について、民主的な手続きで選出された代表と協議を行う体制を整えましょう。
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