会計ソフトとはどのようなものか?初歩から解説

経理の事務

会計ソフトとは?

会計ソフトや経理ソフト(一般的には同じような意味で使われることが多いです)は、会社や事業のお金の動きを記録・集計し、決算書や確定申告書などの書類を作成するためのアプリケーションソフトウェアです。

以前は、すべての作業を紙の帳簿に手書きで行っていましたが、会計ソフトを使うことで、その作業のほとんどを自動化・効率化できます。

最も基本的な役割は、日々の取引を「記録」することと、その記録を基に「集計・書類作成」を行うことです。

  1. 取引の記録(仕訳):
    • 商品が売れた、経費を支払った、銀行からお金を引き出したなど、事業で発生したお金の動き(取引)をソフトに入力します。この記録作業を「仕訳(しわけ)」と呼びます。
    • 最近のソフトの多くは、銀行口座やクレジットカード、電子マネーの利用履歴と自動で連携し、入力の手間を大幅に削減してくれます。
  2. 集計・転記の自動化:
    • 手書きの場合、記録した取引を「総勘定元帳」や「売上帳」などの各種帳簿に分けて転記(書き写すこと)し、集計する必要がありましたが、ソフトはこの作業をすべて自動で行います。
  3. 決算書・申告書の作成:
    • 集計されたデータをもとに、会社の最終的な成績表である決算書(貸借対照表や損益計算書など)や、税務署に提出する確定申告書・消費税申告書などを自動で作成できます。

会計ソフトを利用するメリット

簿記や経理の知識が少ない初心者の方でも、会計ソフトを使うことで多くのメリットがあります。

  • 簿記の知識が少なくても使える:
    • 「消耗品を買った」「売上があった」といった簡単な取引内容を選ぶだけで、ソフトが自動で専門的な「仕訳」を作ってくれる機能があります。これにより、複雑な簿記の知識がなくても経理作業が進められます。
    • 簿記とは、お金の動きをルールに基づいて記録・整理する技術のことです。会計ソフトはこの簿記のルールに基づいて処理をしてくれます。
  • 計算ミス・転記ミスがなくなる:
    • 手作業での計算や帳簿への書き写し(転記)に伴う人為的なミスがなくなります。
  • 作業時間を大幅に短縮できる:
    • 銀行連携や自動仕訳機能により、日々の記帳作業にかかる時間が大幅に削減され、本来の事業活動に集中できます。
  • 経営状況がすぐにわかる:
    • リアルタイムで入力されたデータが集計されるため、いつでも最新の売上や経費、利益(もうけ)の状態を確認でき、スピーディな経営判断に役立ちます。

クラウド型とインストール型の比較

基本的な違い

項目クラウド型 (例: freee, マネーフォワード)インストール型 (例: 弥生会計のパッケージ版)
データの保存場所インターネット上のサービス提供会社のサーバー(クラウド)利用しているパソコンのハードディスク
利用環境インターネット接続が必須。Webブラウザまたは専用アプリ。ソフトをインストールした特定のパソコンのみ。オフラインでも利用可能。
利用料金月額または年額の継続課金制(サブスクリプション)買い切り型が基本(最初にまとまった費用が必要)
法改正・更新自動でアップデートされるため、常に最新版が利用できる。手動でバージョンアップが必要(別途費用が発生する場合が多い)。
データ連携銀行口座、クレカ、決済サービスとの自動連携機能が充実している。自動連携機能は限定的、または手動でのデータ取り込みが中心。
複数人での利用アカウント管理で複数人・複数拠点からの同時アクセスが容易。リモートワークに強い。複数台利用には別途ライセンスが必要な場合が多く、同時編集が難しい。
動作速度インターネットの速度に依存するため、入力時にタイムラグが発生することがある。パソコン内で処理が完結するため、動作が安定しており高速。大量入力向き。
データ紛失リスクサーバー側で自動的にバックアップされるため、PC故障時のデータ紛失リスクが低い。PC故障時はデータも失われるリスクがあるため、利用者側でバックアップが必要。

クラウド型会計ソフトの特徴

近年、急速にシェアを伸ばしているのがクラウド型です。

メリット

  • どこでも使える:インターネットがあれば、オフィスでも自宅でも、PC、タブレット、スマホからアクセス・作業が可能です。
  • 手間いらず:法改正(消費税率変更など)や機能改善のアップデートが自動で行われます。
  • 初心者向きの機能:銀行口座やクレジットカードとの自動連携、AIによる自動仕訳提案機能が充実しており、経理知識がなくても使いやすいです。
  • セキュリティ:専門の会社が厳重にデータを管理・バックアップするため、一般的に安全性が高いです。

デメリット

  • インターネット依存:ネット接続ができない環境では作業ができません。
  • ランニングコスト:利用している限り、月額/年額の利用料が発生します。

インストール型会計ソフトの特徴

従来の会計ソフトの主流であり、大量の手入力を行う場合に強みがあります。

メリット

  • 安定した動作:インターネット接続環境に依存しないため、動作が速く、サクサクと入力できます。
  • ランニングコスト:一度購入すれば、基本的にその後は費用がかかりません。(ただし、サポートや法改正対応には別途費用が必要です)
  • カスタマイズ性:自社独自の細かい勘定科目や帳票の形式などに合わせて、柔軟に設定できるものが多いです。

デメリット

  • アップデートの手間:OSのバージョンアップや法改正の都度、利用者が自分でソフトの更新(再購入や有償アップデート)をする手間や費用がかかります。
  • 利用場所の制限:ソフトをインストールしたPC以外では作業ができません。
  • バックアップ必須:PCが故障するとデータが消えてしまうため、利用者が定期的にデータのバックアップを取る必要があります。

結論として

  • 個人事業主や小規模な企業、経理初心者の方、そしてリモートワークを重視するなら、クラウド型が圧倒的に便利でおすすめです。
  • 経理経験者がいて、大量の手入力を頻繁に行う、またはインターネット環境が不安定な場所にいる場合は、インストール型も選択肢になります。

知識がなくても使えるか?

結論から言うと、大丈夫です!

近年主流のクラウド会計ソフトの多くは、簿記や経理の知識が全くない初心者の方でも、直感的に操作できるように設計されています。

「家計簿をつけるような感覚」で使えるように工夫されており、特に以下の機能が知識不足をカバーしてくれます。

  • 銀行・クレジットカードとの自動連携:
    • お金の動きをソフトが自動で取り込むため、入力の手間とミスが激減します。
  • 自動仕訳・AI提案:
    • 取り込まれたデータ(例:「〇〇スーパーで3,000円」)を見て、ソフトのAIが「これは消耗品費だろう」といったように、適切な勘定科目を自動で提案してくれます。
  • 質問形式の入力画面:
    • 「何を使って?」「何を?」といった対話形式で入力できるため、専門用語を意識せずに作業が進められます。

知っておくと安心な知識

全く知識がなくても使えますが、よりスムーズに、より正確に、そして経営状況をしっかり把握するために、最小限知っておくと役立つ知識がいくつかあります。

「勘定科目」の分類(特に経費)

「勘定科目(かんじょうかもく)」とは、お金の出入りを目的別に分類するためのラベルのことです。

  • 知識がなくても: ソフトが提案してくれます。
  • 知っておくと役立つこと:
    • どの経費にどの勘定科目を使うか、自分で迷わず判断できるようになります。
    • ソフトが提案した科目が正しいか、確認できるようになります。
    • 経営状況の把握に役立ちます。(例:「通信費が先月より増えた」など)

「仕訳」の超基本(取引を記録する形式)

「仕訳」とは、すべての取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」に分けて記録する、簿記の基本的なルールです。

  • 知識がなくても: ソフトの自動連携機能を使えば、この仕訳作業はほぼ自動で完了します。
  • 知っておくと役立つこと:
    • 手入力が必要な場合や、自動仕訳が間違っていた場合に自分で修正できます。
    • 帳簿を見たときに、お金の流れ(原因と結果)が理解できるようになります。

個人事業主なら「青色申告」のメリット

個人事業主として会計ソフトを使う場合、確定申告の種類(白色申告か青色申告か)を知っておくことで、会計ソフトのメリットを最大限に活かせます。

  • 青色申告を選択すると、最大65万円の控除(節税効果)を受けられるメリットがあります。
  • このメリットを受けるためには、「複式簿記」という少し複雑な記帳が必要ですが、会計ソフトを使えば、知識がなくても自動的に複式簿記の帳簿を作成できます。

これらの最小限の知識は、会計ソフトを使い始めるうちに自然と身についていくことも多いです。まずは「使ってみること」をおすすめします。

会計ソフトと税務申告書の関係

会計ソフトで税務申告書まで作成できるかどうかは、そのソフトが個人事業主向けか法人向けか、そしてどの範囲まで機能を持っているかによって異なります。

個人事業主の場合(確定申告書)

  • 作成できます。
  • 個人事業主向けの会計ソフト(例:freee会計、マネーフォワード クラウド確定申告、やよいの青色申告 オンラインなど)は、日々の記帳から「青色申告決算書」や「所得税の確定申告書」までの一式を作成する機能をメインに持っています。
  • 多くのソフトがe-Tax(電子申告)にも対応しており、作成した申告書をそのまま税務署にオンラインで送信できます。

法人の場合(法人税申告書など)

  • ソフトの種類によって異なります。
  • 一般的な法人向け会計ソフト(例:弥生会計、freee会計、マネーフォワード クラウド会計など)は、「決算書(貸借対照表、損益計算書など)」を作成するところまでがメイン機能です。
  • 法人税申告書は、決算書の情報をもとに、税法特有の複雑な調整計算(別表と呼ばれる数十枚の書類)を行う必要があり、高度な税務知識が求められます。
    • 多くの中小企業:会計ソフトで決算書を作成した後、そのデータを税理士に渡し、税理士が専用の「税務申告ソフト」を使って法人税申告書を作成するのが一般的です。
    • 一部のクラウドソフト:近年、「freee申告」や「全力法人税」のように、会計ソフトと連動して法人税申告書まで一気通貫で作成できるサービスも登場しています。

決算書作成後の税務申告までの手順(一般的な流れ)

法人でも個人事業主(青色申告)でも、税務申告書を作成するためには、まず会計ソフトで「決算書」を確定させる必要があります。

ここでは、会計ソフトを使った後の、申告書作成の一般的な流れを解説します。

Step項目目的と作業内容
❶ 決算書の作成会計ソフトで最終化日々の取引記帳を締め切り、「決算整理仕訳」(減価償却費、引当金、売上原価の確定など)を入力し、貸借対照表・損益計算書などの決算書を確定させます。
❷ 法人税等の計算会計上の利益を税務上の所得に調整確定した決算書の「当期純利益」をスタート地点として、税務上のルール(税法)に基づき、申告書(別表)を作成しながら法人税・住民税・事業税などの税額を計算します。
❸ 申告書の完成提出書類の作成税額計算の結果をもとに、法人税申告書一式(別表)や消費税申告書(該当する場合)などの提出書類を作成します。
❹ 提出と納税税務当局への報告と納付作成した申告書一式を、税務署や都道府県・市区町村役場にe-Tax/eLTAX(電子申告)または郵送で提出し、計算された税金を納付します。
  • 個人事業主の場合:会計ソフトがStep❷とStep❸の大部分(確定申告書)を自動で作成してくれます。
  • 法人の場合:Step❷の税務上の調整計算が複雑なため、多くの中小企業は専門家(税理士)に依頼します。

ご自身の事業形態(個人事業主か法人か)や、どの範囲までご自身で完結したいかによって、選ぶべきソフトや必要な知識が変わってきます。

サポート体制と料金の仕組み

会計ソフトのサポート体制と、それに伴う料金については、ソフトの種類や選んだ料金プランによって異なります。

多くの会計ソフトでは、料金プランの中にサポートが含まれているか、別途「保守サポート」として契約するかのどちらかになります。

クラウド型会計ソフトの場合 (月額・年額制)

クラウド型ソフト(freee会計、マネーフォワード クラウド、弥生会計オンラインなど)の多くは、月額または年額の利用料金の中に、基本的なサポートが含まれています。

料金プランのレベル基本的な料金に含まれるサポート内容(一例)
廉価プラン / セルフプランメールやチャットでの問い合わせサポートが中心。電話サポートは対象外、または回数制限があることが多い。
標準プラン / ベーシックプラン上記に加え、電話サポートが利用可能になることが多い。初心者の方が安心して使うために、このレベル以上のプランを選ぶことが推奨されます。
手厚いプラン / トータルプラン操作方法に加え、「この取引の仕訳(勘定科目)はこれで合っているか?」といった会計業務に関する相談まで対応してくれることが多い。

ポイント: 最近の多くのクラウドソフトは、初心者でも使えるように「手厚いサポート込みのプラン」を用意しているので、ご自身の予算と必要なサポートレベルに応じて選ぶと安心です。

インストール型会計ソフトの場合 (買い切り型+年間サポート)

インストール型ソフト(弥生会計のパッケージ版など)は、ソフトを買い切った後、別途「保守サポート契約」をすることが一般的です。

サービス形態特徴
ソフト購入費用最初の一回だけ支払う(買い切り)。
別途契約する「保守サポート料金」(年額)ソフトの操作方法や会計上の疑問へのサポート、そして法律(消費税など)の改正への対応プログラムの提供などが含まれます。この契約をしないと、法改正に対応できず、数年後にソフトが使えなくなるリスクがあります。

ポイント: インストール型でも、サポートを受けたり、ソフトを最新に保つには、実質的に毎年費用がかかると考えておくと良いでしょう。