商工会議所簿記検定2級に合格するために必要な「本支店会計」の知識について、仕訳例を交えて解説します。
本支店会計は、本店と支店がそれぞれ独立した帳簿(独立会計制度)を持ち、期末に合算して一つの企業の財務諸表を作成する際の処理を学習します。特に重要な論点は、本支店間の取引の仕訳と、内部利益の消去です。
本支店間の取引(相互債権・債務の相殺)
本支店間の取引は、一般の取引先との取引とは異なり、「本店」勘定と「支店」勘定を用いて処理します。これらは、お互いに対する債権・債務を表しており、期末には相殺されます。
項目 | 本店の帳簿 | 支店の帳簿 | 意味 |
本店 勘定 | (なし) | 負債(本店への支払義務) | 支店から見た本店 |
支店 勘定 | 資産(支店からの受取権利) | (なし) | 本店から見た支店 |
仕訳例
取引内容 | ||
本店が支店に商品を売る | (借)支店 100 | (貸)売上 100 |
支店の仕訳 | (借)仕入 100 | (貸)本店 100 |
支店が本店に現金を送る | (借)本店 50 | (貸)現金 50 |
本店の仕訳 | (借)現金 50 | (貸)支店 50 |
【ポイント】
本店における商品送付時の仕訳
本店が支店に商品(原価ではなく売価や適当な価格で)を送った場合、本店は支店への債権(資産)の増加と、売上(収益)の発生として記録します。
1. 「支店」勘定の使用(資産の増加)
本店と支店が独立した会計単位として機能しているため、本店は支店を一つの取引先と見なし、商品を送ったことで支店から代金を受け取る権利(実質的な投資)が発生したと考えます。
2. 「売上」勘定の使用(収益の発生)
本店は、支店への商品送付を「内部的な売買」と捉えるため、収益科目である「売上」を使用します。これにより、本店側の損益計算書に利益が計上されます。
支店における商品受取時の仕訳
このとき支店の帳簿では、本店からの送付を仕入として記録し、本店への債務(負債)を認識します。
残高の処理
- 本店帳簿の「支店」勘定残高と、支店帳簿の「本店」勘定残高は、必ず同額になります(貸借逆)。
- 期末の合算(連結)処理の際は、これらの勘定は相殺消去されます。
内部利益の消去(商品原価修正)
本店が支店へ商品を送る際、原価(仕入れたときの値段)ではなく、原価に利益を上乗せした売価(¥200,000)で送付することがあります。この上乗せされた利益を内部利益と呼びます。
この処理を行う場合、支店の帳簿には実際より高い「仕入原価」が計上されており、期末にまだ売れ残っている商品(期末商品)の中に、未実現の利益(まだ外部に売って実現していない利益)が含まれてしまいます。
企業全体(本店+支店)の正しい利益を計算するため、決算時にこの未実現の内部利益を消去する仕訳が必要です。
設定
- 本店が支店に送った商品の原価:¥150,000
- 本店が支店に送った商品の売価(支店の仕入):¥200,000
- 上乗せ利益(内部利益率):
- 期末、支店に売れ残った商品(期末商品):¥40,000(売価ベース)
内部利益消去のための計算
- 支店の帳簿に残っている未実現内部利益の額を計算します。
未実現内部利益=支店の期末商品残高(売価ベース)×内部利益率
- 未実現内部利益=¥40,000×25%=¥10,000
- この¥10,000を消去します。
内部利益消去の仕訳(本店の帳簿でのみ処理)
処理内容 | 本店の仕訳(本店で内部利益を消去) |
未実現内部利益の消去 | |
(借)仕入 10,000 | (貸)支店 10,000 |
【ポイント】
- 商品勘定:支店の売れ残った商品の原価を修正するため、貸借対照表上の商品勘定を減額(原価に近づける)します。決算振替仕訳を考慮すると、この仕訳は損益計算書上の売上原価に影響を与え、利益を修正します。
- 支店勘定:支店勘定を減額することで、本店から見た支店の純資産(実質的な投資額)を、内部利益を含まない正しい額に修正します。
合算財務諸表(本支店連結)
期末には、本店と支店の個別の財務諸表を合算し、一つの企業の財務諸表を作成します。
合算処理では、以下の2つの修正(消去)が必要です。
- 相互債権・債務の相殺消去
- 本店帳簿の「支店」勘定残高と、支店帳簿の「本店」勘定残高を相殺します。
- (例:支店の帳簿の借方残高である「本店」150と、本店の帳簿の貸方残高である「支店」150を消去)
- 未実現内部利益の消去
- 上記「2. 内部利益の消去」で本店が行った仕訳(商品 10,000 / 支店 10,000)を反映させることで、支店の商品の原価が修正され、企業全体の利益が正しく計算されます。
2級の試験では、これらの本支店間の仕訳と決算時の内部利益消去の仕訳を理解し、精算表または財務諸表の作成において、これらの修正を適用できることが求められます。