カテゴリー: 経理の事務

  • 税務署が税務調査にくるそうですが、どういうことを聞かれますか?

    税務調査は、通常は、提出した確定申告書が正確かどうか確認する手続きです。税務調査にきた税務署員は、帳簿や書類を調べて、申告漏れや誤りがないか、意図的な所得隠しがないかなどを確認します。

    調査の流れ

    税務調査の流れは次のとおりです。すべてこの通りということではありませんが、一般的にはこうなります。

    事前通知

    原則として、事前に電話などで調査の日程が通知されます。この際に、調査の対象期間や、準備しておくべき書類などが伝えられます。

    契約している税理士がいればすぐに連絡しましょう。当日立ち会ってくれます。税理士の立ち会いは必須ではありませんが、不安が大きければ、スポット契約で税理士に立ち会いをお願いすることもできます。修正申告や交渉が必要になった場合は、税理士に頼んだ方が安心です。

    帳簿や書類の確認

    税務署員は、売上帳、仕入帳、経費の領収書、請求書、預金通帳など、事業に関わるあらゆる書類をチェックします。帳簿の記載と実際の取引内容が一致しているか、不正な経費計上や売上除外がないかなどを精査します。

    現況確認

    必要に応じて、事務所や店舗、工場など事業所の内部を視察し、在庫の状況やレジの管理状況などを確認することがあります。

    関係者への質問

    納税者本人や経理担当者などに、事業内容や取引の実態について質問が行われます。例えば、売上計上方法や現金取引の有無、高額な経費の使途などが聞かれます。ここで答えを拒んだり嘘をつくのは危険です。

    正直に、聞かれたことにだけ答えましょう。知らないことを憶測で言わない、余計なことまでおしゃべりしないように、基本的には雑談は控えるのが無難です。

    時間が経つと言われたことを忘れてしまうのでメモを取りながら聞きましょう。

    調査のポイント

    税務署員が注目するポイントは多岐にわたりますが、代表的なものとして以下が挙げられます。

    • 売上の計上漏れ: 現金売上やインターネット取引などがもれていないかなど、売上が正確に計上されているか。
    • 架空経費: 実際には支出していない経費を計上していないか。
    • 個人的な経費の混入: プライベートな支出を事業の経費としていないか。
    • 人件費: 架空の従業員を作っていないか、家族への過大な給与などがないか。

    税務調査は「犯罪捜査」ではなく、「帳簿の正確さの確認」を目的にしています。うっかりミスや経理の知識不足での間違いはよくあることなので過度にうろたえることはありません。誠実に対応すれば大ごとになることは少ないです。

    指摘と修正申告

    調査で申告漏れや誤りが判明した場合、正しい内容に「修正申告」を行うことを促されます。

    修正内容や金額は 口頭か書面で示されます。当日示されずに、後日になることもあります。

    もし、納税者が指摘内容に納得しない場合は、修正申告をせず、税務署が一方的に税額を決定する「更正処分」を行うこともあります。この場合、納税者は不服申立てを行うことができます。

    通常は、合意した内容に基づいて、納税者が修正申告書を作成・提出します。

    修正申告の際は、過少申告加算税、重加算税、延滞税などが必要になることがあります。


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  • 在庫商品(棚卸資産)を処分するときの注意点

    棚卸資産とは

    棚卸資産とは、企業が販売する目的で保有している商品、製品、またはその生産に使用する材料のことです。小売店なら店頭や倉庫の商品、製造業なら原材料・仕掛品・完成品などが該当します。

    棚卸資産は「在庫」と呼ぶこともあります。基本的に同じ意味ものです。社内に残っている商品などを通常「在庫」と呼びますが、決算時に計上するときに「棚卸資産」という勘定名を用います。

    棚卸資産の評価

    棚卸資産は、帳簿に記載されている数量と一致することが大事ですが、それだけでなく、品質や状態も大事です。 破損や腐食などが発生している商品は、棚卸資産としての価値が減じているので、そのまま同じ価格で計上しておくのは不都合です。適切な価格に訂正するか、商品を処分する(除却)必要があります。

    棚卸で発見された商品価値がなくなった商品の除却処理について、いくつかの注意点があります。

    除却損を計上するポイント

    税務上、除却損が認められるためには、「客観的に見て、もはや販売が困難であり、事業の用に供する見込みがない」という事実を証明する必要があります。単に「売れない」という主観的な理由では不十分です。

    以下の対策を講じることで、税務調査への備えをすることができます。

    除却の理由を明確にする

    なぜこの商品が売れないのか、その理由を客観的に説明できるようにします。例えば、

    陳腐化: モデルチェンジ、新しい技術の登場、流行の終焉などにより、市場での需要がなくなった。

    破損・劣化: 長期保管により、商品のパッケージや本体に目に見える傷や汚れがある。

    市場性の喪失: 特定のイベントや季節に特化した商品で、時期を逃してしまった。

    社内での意思決定プロセスを記録する

    除却処理は、社長や担当役員の独断ではなく、組織として正式に決定したものであることを示すことが重要です。

    稟議書、指示書などに、除却の理由、対象商品、除却方法などを記録し、決裁者の署名や押印をもらっておきましょう。

    物理的な処分を証明する

    除却は、帳簿上だけでなく、実際に商品を物理的に処分することが原則です。

    これは、税務調査において架空の除却損と見なされるリスクがあるためです。除却処理をしたのであれば、その商品は物理的に処分(廃棄、売却、譲渡など)し、帳簿上の処理と物理的な状態を一致させることが重要です。また、証拠の写真や産廃業者の処分証明書を保存しておきましょう。

    廃棄時の写真や動画: 廃棄している状況を、日付や商品が特定できるように撮影しておきます。

    廃棄証明書: 産業廃棄物処理業者に依頼して処分する場合は、必ず廃棄証明書を発行してもらい、保管しておきます。

    売却: ゼロまたはごくわずかな金額で売却する場合も、売却先との契約書や請求書、入金の記録などを残しておきます。

    除却以外の選択肢

    除却だと否認されるのではないかと感じる場合、または完全に価値がなくなったとまでは言えない場合、除却以外の会計処理を検討することもできます。

    棚卸資産の評価損を計上する

    商品の価値が著しく下落したと認められる場合、帳簿上の価額を時価まで引き下げる評価損を計上することができます。

    ただし、税務上、この評価損が認められるのは「著しい陳腐化」など、一定の厳しい要件を満たす場合に限られます。単に売れ残っているというだけでは、なかなか認められにくいのが実情です。

    安価での販売を試みる

    B級品としての販売、あるいは専門業者への安価な一括売却なども選択肢です。

    わずかでも収益があれば、その分は売上として計上し、仕入原価との差額が損失となります。除却損を計上するよりも税務調査で指摘されるリスクは低い方法です。


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  • 与信ってなんですか?課長に聞いてみました

    課長が新人に与信管理を教える会話形式で与信管理を説明します。

    与信管理についての会話

    【登場人物】

    • 課長(営業部/経験20年、与信管理に詳しい)
    • 新人(営業配属1か月目)

    与信管理とはなにか

    新人
    課長、ちょっと質問いいですか?「与信管理」って社内の書類に出てきたんですけど、正直よく分からなくて…。

    課長
    与信管理っていうのは、簡単に言うと「取引先にどこまで掛売りしていいかを決めて、その範囲内で取引を管理すること」だ。

    新人
    掛売りって、商品やサービスを先に渡して、お金はあとで払ってもらうやつですよね?

    課長
    そうそう。それ自体は普通の商習慣だけど、もし相手が倒産したり支払いが滞ったら、こっちの売掛金は回収できなくなる。これを「貸倒れ」っていうんだ。貸倒れは会社にとって大きな損失だから、事前にリスクを見極めて取引できる限度を決めるのが与信管理なんだよ。

    新人
    なるほど…。じゃあ「与信を設定する」っていうのは、その限度額を決めるってことですか?

    課長
    その通り。たとえば調査して「この会社なら月に500万円まで掛売りしても大丈夫」と判断したら、その500万円が与信限度額だ。もし与信限度額を超えた注文が来たら、前金をもらうとか、納期を分けるとか、取引を断るとか、条件を工夫しなければならない。

    調査はどうするのか

    新人
    取引先の信用って、どうやって調べるんですか?

    課長
    主な方法はこんな感じだ。

    1. 信用調査会社の報告書(帝国データバンクや東京商工リサーチ)
    2. 決算書を提出してもらって分析
    3. 登記情報などで担保情報をチェック
    4. 実際に訪問して現場の様子を見る
    5. 支払状況を継続的にチェックする

    新人
    決算書って…中小企業相手だと失礼じゃないんですか?

    課長
    そんなことはないよ。ある程度の掛取引をするなら、決算書提出はごく一般的だ。依頼するときは「社内規定で一定額以上の掛取引は財務状況の確認をお願いしています」と理由を添えれば、ほとんどの会社は応じてくれる。応じてくれないような会社は、何か後ろめたいこと隠れていると思って、取引を見送った方が良いくらいだ。

    新人
    なるほど…。つまり与信管理って、取引開始前に相手先を調査したうえで限度額を決めて、その後も定期的にチェックすることなんですね。

    限度額はどう決める

    新人
    ところで、課長、さっきの限度額って、私が決めても良いんですか?

    課長
    いや、担当者が独断で決めることはないよ。ウチの会社ではこうだ。

    課長
    まず①担当者が事前調査をする。信用調査会社のレポートを取ったり、決算書をもらって財務分析をする。あと、支払実績や業界の状況もチェックだ。

    次に②与信案を作成する。たとえば「この会社は自己資本比率が高くて利益も安定しているから、月500万円まで掛売り可能」といった形で、根拠をまとめるんだ。

    その案を③上司が審査する。課長や部長が「妥当だな」と思えば次のステップに進む。

    次のステップというのは④決裁権限者が承認する段階だ。会社の規程で金額ごとに決裁者が決まっていて、たとえば500万円までは部長、2,000万円までは役員、それ以上は社長決裁…みたいな感じだ。大きな金額や特殊な案件なら、会議を開く場合もある。

    最後に⑤社内システムに登録して、営業や経理で共有する。これで「この取引先はどこまで掛売りOKか」が社内で統一されるんだ。

    社内システムに登録されれば、与信限度を超えた納品書は発行されない仕組みになっている。

    新人
    なるほど…。じゃあ営業は、まず信用調査をして与信案を作るところまでが役割なんですね。

    課長
    そうだな。しかも限度額は一度決めたら終わりじゃない。⑥定期的な見直しも大事だ。年1回は見直すし、もし支払い遅延や業績悪化の兆候があれば、すぐに再調査しなければならない。

    新人
    分かりました!つまり、与信管理は売る前にリスクを見極めて限度を設定し、承認フローを通して会社としての判断を固める手続きですね。しかも、決まったからと安心しないで、継続して取引先を観察する必要があるってことですね。

    課長
    その通り。営業は売上を作るだけじゃなく、会社の資金を守る責任もあるからな。与信管理を軽く見ると、一回の貸倒れで利益が吹っ飛ぶこともある。しっかり覚えてほしいですね。


    関連記事:与信管理とは何をどう管理することなのか?

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  • 棚卸し作業の進化〜手書きからデジタル〜

    近年、棚卸しの方法は大きく進化しています。昔ながらの手書き方式から、デジタル技術を活用した効率的な方式へと段階的に移行してきました。

    棚卸し作業の進化

    第1段階: 手作業での棚卸し

    昔ながらの方法で、現物を見ながら在庫を数え、手書きの棚卸表に品名、数量などを記入する方式です。

    この方式は、特別な機器が不要で誰でもすぐに始められるという利点がありますが、以下のような課題がありました。

    人為的なミスが多い: 数え間違いや、書き間違い、記入漏れが発生しやすい。

    時間がかかる: 在庫数が多い場合、作業に膨大な時間がかかる。

    データ入力の手間: 手書きのデータを後でパソコンに手入力する必要があり、ここでもミスが発生しやすい。

    リアルタイム性の欠如: 集計が完了するまで正確な在庫数が把握できない。

    第2段階: バーコードリーダーの導入

    棚卸し作業にバーコードリーダーが導入されるようになりました。

    バーコードを読み取ることで、棚卸表への記入が不要になり、データ入力の手間やミスが大幅に削減されました。

    作業の効率化: バーコードをスキャンするだけで商品情報が自動的に入力されるため、作業時間が短縮される。

    ミスの削減: 手書きや手入力によるミスが減る。

    データの一元管理: 読み取ったデータはPCに直接転送され、在庫管理システムと連携しやすくなる。

    しかし、この段階ではまだ、バーコードを一つずつスキャンする手間や、リーダーを持ち運んで作業する必要がありました。

    第3段階: RFID(ICタグ)の活用

    近年、さらに進化した方法としてRFID(Radio Frequency Identification)が注目されています。RFIDタグ(ICタグ)を商品に貼り付けることで、複数の商品を一括で、非接触で読み取ることが可能になりました。

    劇的な時間短縮: リーダーをかざすだけで、箱の中の商品や、離れた場所にある複数の商品を一度に読み取れるため、棚卸しにかかる時間が大幅に短縮されます。

    作業の効率化: バーコードのように商品を一つずつスキャンする必要がないため、手間が大きく削減されます。

    リアルタイム管理: RFIDリーダーが在庫数を常に更新することで、リアルタイムでの在庫管理が容易になります。

    この技術は、特にアパレル業界や物流倉庫など、大量の在庫を扱う現場で導入が進んでいます。コストはバーコードよりも高くなりますが、それ以上の効率化効果が期待できます。

    自社での棚卸しから第三者の棚卸しへ

    棚卸し作業を専門業者に委託する企業が増えています。自社でやるよりも多くのメリットがあるからです。主な理由を以下にまとめます。

    1. 本業への集中と生産性の向上

    棚卸しは、多くの従業員を動員し、長時間を要する作業です。特に小売店などでは、棚卸しのために店舗を休業したり、深夜に作業を行ったりするため、通常業務に大きな負担がかかります。専門業者に委託することで、従業員は本来の業務(接客、販売、製造など)に集中でき、販売機会の損失を防ぎ、全体の生産性を高めることができます。

    2. コスト削減

    一見すると業者への委託費用がかかるように思えますが、実はコスト削減につながるケースが多々あります。

    人件費の削減: 棚卸しのために残業代や休日手当を支払う必要がなくなります。また、他部署から応援を出すことによる非効率もなくなります。

    ミスの削減: 専門業者は棚卸しのプロなので、数え間違いや入力ミスが少なく、やり直しの手間やそれに伴うコストも削減できます。

    機会損失の回避: 閉店せずに棚卸しができるため、その間の売上を確保できます。

    3. 棚卸し精度の向上

    専門業者は、棚卸しに特化したノウハウや専用の機材(ハンディターミナル、RFIDリーダーなど)を持っています。これにより、正確かつスピーディーに棚卸しを行うことができ、在庫の差異を最小限に抑えることができます。正確な在庫データは、その後の発注計画や経営判断に不可欠です。

    4. 経営の客観性・透明性の確保

    棚卸しは、会社の利益を計算する上で非常に重要な作業です。自社の従業員が棚卸しを行う場合、意図的でなくても過少・過大計上といったミスが生じる可能性があります。専門業者という第三者が棚卸しを行うことで、より客観的で信頼性の高い在庫数を確保でき、監査などに対しても説明責任を果たしやすくなります。

    5. 在庫管理の課題解決につながる

    専門業者は棚卸し作業だけでなく、在庫管理に関するコンサルティングまで行うケースもあります。棚卸しを通じて得られたデータを分析し、過剰在庫や滞留在庫の課題を指摘してくれるなど、より効率的な在庫管理の提案を受けられることもあります。

    これらの理由から、特に在庫数が多かったり、棚卸し作業が複雑だったりする企業では、専門業者への委託が有効な選択肢となっています。


    関連記事:棚卸しの手順

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  • 仕訳って何?簿記初心者のためのやさしい解説

    仕訳とは、会社やお店の経済活動(取引)を、「借方(かりかた)」「貸方(かしかた)」 の2つの項目に分けて記録することです。これは簿記の基本的なルールで、すべての取引をこの形式で記録することで、会社の財政状態や経営成績を正確に把握することができます。

    借方と貸方について

    仕訳は、必ず左右に分かれます。左側が借方、右側が貸方です。

    仕訳は、以下の5つのグループのどれかが増えたか減ったかを記録します。

    資産(現金、売掛金など): 会社の財産のことです。

    負債(買掛金、借入金など): 会社が将来支払うべき義務のことです。

    純資産(資本金など): 資産から負債を引いた、返済不要なお金のことです。

    収益(売上など): 会社がお金を稼いだ活動のことです。

    費用(給料、家賃など): 会社の活動でお金を使ったこと、または将来使うお金のことです。

    これらのグループの増減を、借方と貸方に以下のようにルールに従って記入します。

    グループ増えた場合減った場合
    資産借方貸方
    負債貸方借方
    純資産貸方借方
    収益貸方借方
    費用借方貸方

    最初は難しく感じるかもしれませんが、この5つのグループのどれが増えて、どれが減ったのかを考えることが大事です。慣れてくると「仕訳」ができるようになります。

    具体的な仕訳の例

    例として、「コピー用紙1,000円を現金で買った」という取引を考えてみましょう。コピー用紙は「消耗品費という費用」で、現金は「現金という資産」です

    この取引では、以下の2つの動きがあります。

    1.「現金」 という 資産 が1,000円 減った

    2.「消耗品費」 という 費用 が1,000円 増えた

    上記のルールに当てはめると、

    資産の減少は貸方に記入するので、(貸方)現金 3,000 となります。

    費用の増加は借方に記入するので、(借方)消耗品費 3,000 となります。

    これを帳簿に書くと以下のようになります。これを「仕訳」といいます。

    借方貸方
    消耗品費現金
    3,0003,000

    このように、必ず借方と貸方の金額が同じになるのが仕訳の基本的なルールです。これが簿記の最も重要な考え方である 「複式簿記(ふくしきぼき)」 です。

    複式簿記とは

    「複式」とは、一つの取引を「原因」「結果」という2つの側面から記録することです。

    家計簿のようなものを「単式簿記」といいます。単式簿記は、例えば、お金の動きがあったときに、「食費として3,000円使った」などという事実だけを記録します。

    一方、「複式簿記」では、この取引を「お金が減った」という結果と、「食料品を買うという原因(=費用が発生した)」という2つの側面で捉え、それぞれを借方(左)貸方(右)に分けて記録します。

    複式簿記の仕組み

    すべての取引はこの2つの側面で記録されるため、借方と貸方の合計金額は常に一致するようになります。この「二重に記録する」という仕組みが「複式」の由来です。

    この記録方法によって、お金の動きだけでなく、会社の財産(資産)、借金(負債)、儲け(利益)などがどのように変動したかを詳細に把握できます。これにより、会社の正確な財政状態や経営成績を把握できるようになるのです。

    簿記と仕訳の関係

    簿記を理解する上で、仕訳の知識は欠かせません。

    簿記における仕訳の重要性

    簿記は、会社の経済活動を記録・計算・整理し、その結果を報告するための技術です。そして、その記録の出発点となるのが仕訳です。すべての取引は、仕訳という形式で記録され、それが集計されて決算書(貸借対照表や損益計算書など)が作成されます。

    仕訳を理解するということは、「なぜこの取引が、この勘定科目で、借方と貸方にそれぞれ記録されるのか」という簿記のルールや論理を理解することに他なりません。つまり、仕訳を正しく行えなければ、その後のすべての作業も成り立たないため、簿記の学習において仕訳は最も基本的な、かつ最も重要な土台となります。

    簿記3級と仕訳のレベル

    簿記3級の試験では、仕訳の知識は必須です。

    試験問題の多くは、まず取引を正確に仕訳できるかどうかを問う形式になっています。具体的には、現金預金の増減、売上・仕入、費用・収益の認識、商品の販売、手形取引、借入金・貸付金など、個人商店や中小企業で発生する基本的な取引の仕訳が問われます。

    簿記3級に合格するためには、これらの仕訳を正確に、かつスムーズにこなせるレベルの理解が求められます。仕訳のパターンを丸暗記するのではなく、取引の「原因」と「結果」を理解し、借方と貸方のどちらにどの勘定科目が来るのかを自分で判断できるようになることが大切です。


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  • 全部を修繕費として経費にできるわけではない、資本的支出についての解説

    修繕費と資本的支出は、会社が持っている建物や機械などの固定資産にかかった費用を、帳簿にどう記録するかという話です。この2つは似ていますが、税金や会社の利益計算に大きく影響するため、区別することがとても重要です。

    修繕費とは?

    修繕費は、固定資産を「現状維持」したり、「元の状態に戻す(原状回復)」ために使った費用です。イメージとしては、壊れたものを直したり、古くなったものを買い替えることで、買った時と同じように使えるようにする費用です。

    たとえば、

    • 雨漏りする屋根を直すための修理費用
    • 車のタイヤがパンクしたので交換した費用 (同じ性能のタイヤの場合)
    • パソコンが壊れたので部品を交換して使えるようにした費用
    • 給排水設備の水漏れを修理する費用

    などがあります。これらの費用は、原則として、支払った年に全額を費用(経費)として計上できます。

    資本的支出とは?

    一方、資本的支出は、固定資産の「価値を高める」または「使用できる期間を延ばす」ために使った費用です。単に元に戻すだけでなく、以前よりも便利になったり、長持ちするようになったりする場合がこれにあたります。

    たとえば、

    • 建物の耐震補強工事を行った費用 (より頑丈になった)
    • 車のエンジンを高性能なものに交換した費用 (以前より性能が上がった)
    • エレベーターのないビルに新しくエレベーターを設置した費用 (ビルの機能が向上した)
    • 通常のガラス窓を、断熱効果の高い二重窓に取り替えた費用 (価値が向上した)

    などがあります。資本的支出は、その年に全額を費用にすることはできません。固定資産の「取得価額に含めて資産として計上」し、その後、減価償却という方法で、何年かに分けて少しずつ費用として計上していきます。

    修繕費と資本的支出のちがい:なぜ重要なのか?

    この2つを区別することが重要なのは、税金の計算に大きく影響するからです。

    • 修繕費: 支払った年に全額経費になるので、その年の利益が減り、支払う税金が少なくなる効果があります(節税効果が高い)。
    • 資本的支出: 複数年にわたって少しずつ費用になるので、その年の税金への影響は小さいですが、将来にわたって費用を分散できます。

    そのため、どちらに該当するかで、会社の税負担や財務状況の見た目が大きく変わる可能性があります。

    判断に迷った時のヒント

    修繕費と資本的支出の区別は、時に難しいことがあります。実務では、以下の点が判断基準になります。

    • 目的: 「現状回復」や「維持管理」が目的なら修繕費、「価値向上」や「耐用年数延長」が目的なら資本的支出。
    • 金額基準:
      • 20万円未満または3年以内の周期の支出: 1つの修繕や改良にかかる費用が20万円未満の場合や、およそ3年以内の周期で発生する定期的な支出は、修繕費として扱ってよいとされています。
      • 60万円未満または取得価額の10%以下の支出: 支出が資本的支出か修繕費か明らかでない場合、その費用が60万円未満であるか、あるいは対象の資産の前期末時点の取得価額の約10%以下であれば、修繕費として扱えます。
    • 例外規定: 例えば、災害で被災した固定資産の修理費用などで、修繕費か資本的支出か判断が難しい場合、特例で一定の割合を修繕費にできる規定もあります。

    重要なのは、名目ではなく「実質的な内容」で判断することですが、正確な知識については、税理士や税務署に相談することをおすすめします。


    関連記事:初心者でもわかる!固定資産管理の基本

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