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  • 専属産業医の兼務について

    専属産業医について

    次に該当する事業場の産業医は専属の者としなければなりません。
    1 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
    2 一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場

    専属とは、そのの事業場で常勤で勤務する者を指します。原則として他の事業場の産業医を兼務することはできません。

    兼務できる場合

    通達

    兼務対象としたい事業場が専属を要しない事業場である場合に、条件を満たせば兼務させることができます。専属を要する事業場を複数兼務することはできません。

    「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて」平成9.3.31基発第214号

    「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の事業場間の地理的関係について」平成25年12月25日付け基安労発1225第1号

    兼務する事業場との関係

    労働衛生に関する協議組織が設置されている等労働衛生管理が相互に密接し関連して行われていること、労働の態様が類似していること等、一体として産業保健活動を行うことが効率的であること。

    なお、通達では「元請事業場等の専属産業医がその職務の遂行に支障を生じない範囲内において、非専属事業場の産業医を兼ねても差し支えない場合の要件」とも書いてあるので、「構内下請事業場等」以外は適用が難しいかもしれません。

    兼務できる事業場の数と労働者数

    兼務する事業場の数については通達では数を明示していません。

    「専属産業医が兼務する事業場の数、対象労働者数については、専属産業医としての趣旨を踏まえ、その職務の遂行に支障を生じない範囲内とする。」

    要件を満たすかどうかについて衛生委員会等で調査審議を行う必要があります。

    地理的に密接

    専属産業医の所属する事業場と非専属事業場とが、地理的関係が密接であること。

    当該2つの事業場間を徒歩又は公共の交通機関や自動車等の通常の交通手段により、1時間以内で移動できる場合も含まれます。


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  • 産業医の職務と権限

    産業医とは

    産業医とは、事業場において労働者が健康で快適な作業環境のもとで仕事が行えるよう、専門的立場から指導・助言を行う医師をいいます。常時使用する労働者数が50人以上の事業場では産業医を選任しなけれなりません。

    関連記事:産業医とはどういう制度ですか?

    産業医の職務は労働安全衛生法に定められており、その職務を遂行するための権限を与えられています。

    産業医の職務

    具体的な活動で整理すると次のようになります。

    衛生委員会に出席する

    従業員50人以上の事業場は衛生委員会を設置し、毎月1回以上開催する義務があります。また、特定の業種では安全衛生委員会を設置します。

    関連記事:産業医は衛生委員会に「出席」しなければならないか?

    産業医は、衛生委員会または安全衛生委員会の構成員となり、(毎回出席する義務はありませんが)出席して意見を述べます。

    職場を巡視する

    産業医は少なくとも毎月1回(条件付きで2ヶ月に1回以上)職場を巡視し、職場環境の確認を行います。

    関連記事:産業医による職場巡視についての詳細

    職場の整理、整頓、清掃、清潔の状態、職場の照明、温度などが適正であるか、休養・休憩の設備の状態などを実際に巡回して自ら確認します。

    衛生教育を実施する

    衛生教育は、従業員の心身の健康維持・増進のために行います。産業医は衛生委員会等の場において、健康管理や衛生管理についての講話をします。

    健康診断結果を確認する

    産業医は、健康診断の結果について報告を受け、異常の所見があると診断された従業員について就業判定を行い、就業制限や休職が必要と判断した従業員について意見書を作成します。

    事業主は、健康診断結果報告書に産業医の押印をもらい、労働基準監督署に報告します。

    健康相談などを行う

    健康相談を希望する従業員の相談を受け、また、従業員に対する健康指導を行うことがあります。

    事業主には、産業医が健康相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、その他の必要な措置を講じる努力義務があります。(安衛法第13条の3)

    長時間労働者に面接指導を実施する

    月あたり100時間超の時間外労働を行い、疲労蓄積があって面接を申し出た従業員、月あたり80時間超の時間外労働を行い、健康上の不安があるとして面接を申し出た従業員等に対して、長時間労働者面接指導を行います。

    関連記事:長時間労働者への医師による面接指導制度

    ストレスチェックに関与する

    産業医は、ストレスチェックの実施者としてストレスチェックの全般に関わります。

    ストレスチェックの結果、高ストレスであり、面接指導が必要であると判断された者を対象とする面接指導を行います。

    関連記事:ストレスチェック後の医師による面接指導とはどういうものか?

    休職者に関与する

    事業場によっては、産業医が休職希望の従業員との面談等を行うことがあります。また、休職者の職場復帰にあたって面談を行い、職場復帰の可否を判断し、職場復帰後の労働条件について事業主に対して意見を出します。

    関連記事:メンタル不調者への職場復帰支援

    産業医の権限

    直接行動する権限

    産業医は、事業主の指示や許可がなくても、労働者の健康管理を実施するために必要な情報を、労働者から直接収集できます。

    産業医は、事業主の指示や許可がなくても、労働者の健康を確保するために緊急の必要があるときは、労働者に対して直接必要な措置をとるように示すことができます。

    情報収集をする権限

    産業医は事業主から、健康診断結果や長時間労働を行っている労働者の情報等、産業保健業務を適切に行うために必要な情報を受ける権限があります。

    具体的には、行政通達で次のとおり示されています。(基発0907第2号、基発1228第16号)

    □ 異常の所見のある者への健康診断実施後の措置
    □ 長時間労働者に対する面接指導実施後の措置
    □ 高ストレス者の面接指導実施後の措置
    □ またはこれらに対して予定する措置の内容、措置を講じない場合の理由(提供時期:医師等からの意見聴取を行った後、遅滞なく)
    □ 週40時間を超える労働時間があり、その超えた時間が月80時間超となった労働者の氏名・超えた時間に関する情報(該当者がいない場合も「該当者なし」の情報提供が必要)
    □ 労働者の業務に関する情報であって、産業医が労働者の健康管理等を適切に行うために必要な情報(作業環境、労働時間、作業態様、作業負荷の状況、深夜業等の回数・時間数等)

    意見を述べる権限

    産業医は、事業主や総括安全衛生管理者に対して意見を述べることができます。

    関連記事:産業医が「意見」を述べるのはどういうときですか?

    衛生委員会に審議を求める権限

    産業医は、衛生委員会等に対して、必要な調査審議を求めることができます。

    緊急措置の指示をする権限

    労働者の健康を守るために緊急な措置が必要となる場合には、産業医から指示をおこなうことができます。

    保護具等を着用していないなど労働災害が発生する危険のある場合のほか、熱中症等の徴候があり、健康を確保するため緊急の措置が必要と考えられる場合などが含まれます。

    勧告する権限

    産業医は、労働安全衛生法13条にもとづいて「勧告」することができます。

    勧告は、助言や指導とは違います。勧告のときは、産業医から「これは助言ではなく安衛法13条に基づく勧告です」と伝えられます。はっきりしないときは確認してください。

    事業者が正しく理解することが必要であるため、勧告しようとするときはあらかじめ勧告の内容について事業者の意見を求めることも規定されています。(安衛則第14条の3第1項)

    勧告を受けた事業者は、勧告内容、措置内容、措置を講じない場合の理由について、速やかに衛生委員会等に報告しなければなりません。衛生委員会等は、委員会の意見および意見を踏まえた措置内容を議事録に記録しなければなりません。

    勧告の内容や、勧告を受けて講じた措置の内容、措置を講じない場合の理由を記録し、記録し3年間保存しなければなりません。


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  • 産業医による職場巡視についての詳細

    産業医が職場巡視する目的

    労働者の健康障害を未然に防ぐため、作業環境・作業方法・健康管理の状況を把握し、必要な改善を事業者に勧告・助言するのが目的です。労働安全衛生規則第15条に定められた産業医の義務です。

    単なる安全点検ではなく、労働衛生面(有害物質・騒音・照明・温湿度など)も含めて確認する点が特徴です。

    巡視の頻度

    原則:毎月1回以上

    巡視結果は記録し、事業者に意見を述べ、その記録を3年間保存します。

    例外:2か月に1回以上

    条件を満たせば、2か月に1回にできます。

    条件は、事業者の同意と、次に掲げる情報の提供を受けていることです。

    ①衛生管理者が行った巡視の結果
    ②前号に掲げるもののほか、掲げるもののほか、労働者の健康障害を防止し、又は労働者の健康を保持するために必要な情報であつて、衛生委員会又は安全衛生委員会における調査審議を経て事業者が産業医に提供することとしたもの

    ②が複雑ですが、通達等によると次の情報が含まれるとされています。

    産業医に提供すべき具体的な情報

    通達や指針で示されている、提供が推奨される情報は以下の通りです。

    • 作業環境の測定結果
      • 有害物質の濃度測定、騒音レベル、放射線量など、作業環境の状況。
    • 健康診断の結果
      • 労働者の定期健康診断、特殊健康診断、事後措置の実施状況。
    • 長時間労働者の状況
      • 労働者の労働時間、特に長時間労働になっている者の氏名、時間外労働時間数など。
    • 作業内容や作業方法の変更に関する情報
      • 新たな設備の導入、作業工程の変更、有害物質の使用など。
    • 化学物質の安全データシート(SDS)
      • 事業場で使用される化学物質の危険性や有害性に関する情報。
    • 健康保持増進のための措置に関する情報
      • 健康相談の実施状況、メンタルヘルス対策、健康指導など。

    これらの情報を衛生委員会または安全衛生委員会で調査審議して産業医に提供する流れになります。

    2.事業者の同意があること

    巡視で何を視るか

    厚生労働省「職場巡視の実施に関する指針」などを参考にすると、以下が代表例です。

    • 作業環境
      • 換気・温度・湿度・照明・騒音レベル
      • 粉じん、有害ガス、化学物質の管理状況
      • 作業場の整理整頓、通路確保、非常口の状態
    • 作業方法
      • 重量物の取り扱い方法
      • 無理な姿勢や長時間同一姿勢の有無
      • 防護具・保護具の使用状況
    • 健康管理面
      • 休憩・水分補給の確保
      • 長時間労働や過重労働の兆候
      • 精神的負担の大きい業務の有無
    • 設備・器具
      • 安全装置の機能
      • 点検・保守状況

    チェックリストの例

    小規模な機械組立工場を想定した産業医向け巡視チェックリストを作成しました。加除訂正してお使いください。

    産業医巡視チェックリスト

    令和◯年◯月◯日◯時◯分実施
    産業医 ◯◯◯◯

    1. 作業環境
    • [ ] 照明は十分か(作業台・機械周辺で暗所なし)
    • [ ] 換気装置は適切に作動しているか(粉じん・溶接ヒューム・溶剤臭)
    • [ ] 温湿度は作業に適しているか(夏季・冬季)
    • [ ] 騒音レベルが過大でないか、防音対策はされているか
    • [ ] 通路や作業エリアに障害物や転倒の危険がないか
    2. 機械・設備の安全対策
    • [ ] 機械のガードや安全カバーは装着されているか
    • [ ] 緊急停止装置は機能しているか
    • [ ] 回転体・可動部への接触防止措置は適切か
    • [ ] 高温部位や火傷の危険箇所に注意喚起表示があるか
    • [ ] 電気設備・コードの破損や漏電の恐れがないか
    3. 作業方法・姿勢
    • [ ] 無理な姿勢・過度な前屈・ねじれ作業が常態化していないか
    • [ ] 重量物の取り扱いに補助具や複数人作業が行われているか
    • [ ] 作業姿勢に応じた椅子・作業台の高さが確保されているか
    4. 保護具の使用
    • [ ] 安全靴・保護メガネ・手袋など必要な保護具が支給・使用されているか
    • [ ] 保護具の損耗やサイズ不適合がないか
    • [ ] 耳栓や防じんマスクの着用が必要な作業で実施されているか
    5. 化学物質管理
    • [ ] SDS(安全データシート)が整備・周知されているか
    • [ ] 危険有害物のラベル表示が明確か
    • [ ] 保管場所の換気や施錠管理が適切か
    • [ ] 廃棄物は適切に分別・処理されているか
    6. 衛生管理
    • [ ] 休憩室・更衣室・トイレが清潔に保たれているか
    • [ ] 手洗い設備・石けん・消毒液が備えられているか
    • [ ] 飲料水が確保されているか
    • [ ] 救急箱や応急処置用品の整備状況
    7. 健康管理・メンタルヘルス
    • [ ] 長時間労働や過重労働の兆候がないか
    • [ ] 疲労や体調不良を訴える労働者がいないか
    • [ ] ストレスの高い職場環境や人間関係の問題がないか
    8. その他
    • [ ] 過去の巡視指摘事項の改善状況
    • [ ] 災害・事故の発生状況と再発防止対策
    • [ ] 緊急時の避難経路・表示・誘導灯の確認

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  • 産業医とはどういう制度ですか?

    産業医とは

    産業医とは、事業場における労働者の健康管理や安全確保について、専門的な立場から指導・助言を行う医師を言います。なお、医師であれば誰でもよいということではなく、専門の研修を終了した医師等の条件があります。

    労働安全衛生法により、常時使用する労働者数が50人以上になった事業場は産業医を選任しなければなりません。もっと大規模になれば専属の産業医や、複数の選任が求められます。

    選任すべき産業医の数など

    選任すべき人数

    産業医は、労働者数が50人以上になれば1人を選任しなければなりません。

    次に該当する事業場は、その産業医は専属の者とする必要があります。
    1 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場
    2 一定の有害な業務に常時500人以上の労働者を従事させる事業場

    また、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場では、2人以上の産業医を選任しなければなりません。

    専属とは

    専属というのは、その事業場において常勤の産業医として勤務するということですが、どのくらい居れば常勤になるかというのは若干わかりにくいところもあります。

    フルタイム勤務であれば、直接雇用はもちろん、業務委託契約であっても疑義は生じないでしょう。

    週に4日とか、週に3日だったらどうか、あるいは、毎日出勤するとしても6時間勤務ならどうか、4時間勤務ならどうか、ということになると、この辺を明示した通達は無いようです。契約内容によっては労働基準監督官の指導対象になるかもしれません。

    専属産業医の兼務

    専属の産業医に他の非専属事業場の産業医を兼務させることができる場合があります。

    関連記事:専属産業医の兼務について

    選任の手続き

    産業医を選任するべき事業場になったときから14日以内に選任しなければなりません。

    選任したら、所轄の労働基準監督署長に遅延なく選任報告書を提出しなければなりません。

    産業医が離任または解任したときは、労働基準監督署長に届け出るとともに、その理由を衛生委員会に報告しなければなりません。

    産業医の選任報告は、令和7年1月1日より電子申請による提出が義務づけられています。

    産業医が不在になったら

    衛生管理者の設置義務は労働基準法に定められた義務なので、選任した産業医がいなくなったときは、直ちに後任を選任しなければなりません。

    やむを得ない事由で産業医が不在になり、後任をすぐに見つけることができない場合には、労働基準監督署を通じて都道府県労働局長の特例許可を申請しなけれなりません。

    産業医に関する事項を従業員に周知する

    産業医を選任した事業者は産業医の業務に関する事項を従業員に周知(知らせること)しなければなりません(安衛法第101条第1項)。周知の方法等も定められています。

    周知する方法

    1.各作業場の見やすい場所に掲示または備え付ける
    2.書面を従業員に交付する
    3.磁気テープ、磁気デスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ各作業場の従業は記録の内容を常時確認できる機器を設置する(具体的には、パソコン等の機器を用いて、常時確認できることを意味しています。)

    周知すべきこと

    1.事業場における産業医の業務の具体的な内容
    2.産業医に対する健康相談の申出の方法
    3.産業医による労働者の心身の状態に関する情報等の取扱い方法
    4.労働者の心身の状態に関する情報の取扱い

    周知文書の例

    産業医の業務についてお知らせします

    総務部

    1 健康上の相談

    当社の従業員は、健康診断後に気になること、普段の体調で気になること、メンタル面で気になることを産業医に相談することができます。

    2 残業時間が超過している従業員への面談

    産業医は時間外労働が1か月あたり80時間を超えている従業員に対する面談を担当します。面談終了後、必要に応じてご本人の同意を得て、会社へ意見を述べます。

    3 ストレスチェックの実施と高ストレス者への対応

    産業医はストレスチェックの実施、およびストレスチェックの全体分析結果について助言を行います。

    また、高ストレス者のうち、面談を希望する従業員に対して面談を行い、面談結果について会社に報告をします。

    4 就業制限や休職、及び復職に関する事

    産業医は、従業員の就業制限や休職、及び復職について、会社に意見を述べます。

    5 健康診断結果のチェックと就業判定

    産業医は、健康診断結果について確認を行います。異常の所見があると診断された従業員については医療機関への受診を促したり、保健指導等を行います。

    6 職場巡視

    産業医は、少なくとも2か月に 1 回職場を巡視をし健康管理や安全確保について点検を行っています。職場巡視の際に質問をすることがあったらご協力をお願いします。点検の結果は衛生委員会など報告します。

    7 衛生委員会出席

    産業医は、月に一度開催されている衛生委員会に出席して、講話や助言等を行います。

    8 その他

    産業医は法律により守秘義務が課せられています。安心して相談してください。

    ただし、労働者に健康上安全上の問題がある場合には、会社に安全配慮義務を適切に果たしてもらう観点から、会社に報告をすることが必要となる場合もあることをご承知ください。そのような必要があると認めたときは産業医から事前にご本人に説明があります。

    当社には産業医が常駐していないので、相談や面談はあらかじめ日時を設定させていたくので希望日等を総務部(担当◯◯)に申し出てください。相談の内容を具体的に申し出る必要はありません。

    産業医は、疾患によっては専門医ではないこともあるので、専門的対応が必要な場合は産業医から別の医療機関をご紹介します。その場合、紹介された医療機関以外で受診しても構いません。

    以上の内容について分からないことがあるときは遠慮なく総務部◯◯まで申し出てください。

    産業医の職務と権限

    産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項に規定されています。また、産業医の職務を遂行するための権限が与えられています。

    関連記事:産業医の職務と権限


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