Last Updated on 2025年8月29日 by 勝
罰金制度の問題点
結論を先に言えば、「罰金制度」は法令に違反する可能性が極めて高いのでやるべきではありません。
賠償予定の禁止
交通事故を起こした従業員や、仕事上のミスやトラブルを起こした従業員に対して「罰金」と称するペナルティを科す制度を設けることは、労働基準法第16条の、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことを禁止する条文に抵触する可能性が高いと思われます。
減給の制限
労働基準法第91条は、会社が従業員に制裁として賃金の減給を行う場合、その額に上限を設けています。
もし懲戒処分として減給を検討する場合は、就業規則に明記し、かつ法律で定められた上限額の範囲内で行う必要があります。
具体的な制限は以下の通りです。
- 一回の事案における減給額: 平均賃金の1日分の半額を超えてはなりません。
- 一賃金支払期(通常は1ヶ月)における減給総額: 賃金総額の10分の1を超えてはなりません。
この上限を超えた場合は違法となります。上限の範囲内であっても懲戒処分の一つとして行うものなので、懲戒処分の要件を満たさなければなりません。
関連記事:懲戒処分をするときの注意点
罰金と損害賠償の違い
法律上、会社が従業員に「罰金」を課すことと、実際に発生した損害に対する「損害賠償」を請求することは全く別の問題です。
- 罰金制度: 原則として設けることはできません。
- 損害賠償: 従業員の故意または重大な過失によって会社に損害が生じた場合、会社は従業員にその損害の賠償を請求することは可能です。しかし、事情にもよりますが、裁判所において認められる可能性は小さいでしょう。
交通事故は、従業員に不注意(軽過失)があったとしても、その損害の全額を従業員に負担させることは、信義則や公平の原則に反するとされています。通常、会社の指揮命令下での業務中に発生した損害は、会社が負担すべきものと考えられています。
謝罪させるのはどうか
パワハラに注意
事故を起こした従業員に対して、罰金ではなく、朝礼などの場で、社長に謝罪させることはどうでしょうか?
従業員を多くの社員の前で社長に謝罪させることは、パワハラと見なされる可能性が高く、問題があります。これは、人格権の侵害にあたり、従業員に精神的苦痛を与える行為だからです。
懲戒処分としての謝罪は認められない
会社が従業員に謝罪を命じる行為は、懲戒処分の一環として行われることがあります。しかし、判例や法的見解では、以下のような理由から、多くのケースで謝罪を命じる懲戒処分は認められていません。
- 謝罪の強要: 謝罪は本人の反省に基づいて自発的に行われるべきものであり、会社が強制的に謝罪を命じることは、個人の良心の自由や人格権を侵害する可能性があります。
- 不相当な制裁: 全員の面前での謝罪は、従業員に精神的な苦痛を与え、社会的な評価を著しく低下させる行為です。これは、就業規則に定められた懲戒事由に比べて、あまりにも過度な制裁と判断される可能性が高いです。
謝罪を求めることの代替案
謝罪を求めることの目的が、従業員の反省を促し、他の従業員の安全意識を高めることにあるのであれば、より適切な方法を考えましょう。
- 個別の謝罪: 事故を起こしたことについて、社内の関係者(社長や上司)に対して、個別に、自主的な意思に基づいて謝罪を促す。
- 事故報告会での共有: 事故の再発防止策を話し合う目的で、事故報告会を開催し、事故の経緯や原因、対策を客観的に発表させる。この際、本人の発言を求めることは問題ありませんが、人格的な非難や公開謝罪を強要してはいけません。
このような方法であれば、従業員に不当な精神的苦痛を与えることなく、事故防止の目的を達成することができます。
指導とパワハラの違い
事故を起こした従業員への指導は、安全運転を徹底させる上で重要ですが、指導方法によってはパワハラと見なされるリスクがあります。
パワハラ(パワーハラスメント)は、厚生労働省の定義では、「優越的な関係を背景とした、業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」を指します。つまり、「必要性」と「相当性」が判断の鍵となります。
パワハラと見なされる言動 | 正当な指導と見なされる言動 | |
内容 | 人格を否定する発言、罵倒、大声での叱責、長時間の説教、無視、退職を示唆または強要 | 具体的な改善点を指摘、事故の原因究明、再発防止策の指導、報告書の作成指示、反省を促す問いかけ |
目的 | 個人の責任追及、見せしめ、精神的な苦痛を与える | 業務上の必要性、安全確保、事故防止、従業員の成長 |
パワハラにならない指導の具体例
- 冷静な態度で事実確認を行う
- 事故の経緯、状況、原因について、感情的にならずに冷静にヒアリングします。
- 「なぜこんな事故を起こしたんだ!」と感情的に怒鳴るのではなく、「この事故はなぜ起きたのか、原因をどう分析していますか?」と問いかけ、本人の内省を促します。
- 具体的な問題点を指摘する
- 漠然と「お前は運転が下手だ」と非難するのではなく、「交差点での一時停止が不十分だったため、右方から来る自転車を見落とした」など、具体的な問題点を明確に伝えます。
- 再発防止策を共に考える
- 一方的に指導するのではなく、従業員に「次に同じ状況になったとき、どうすれば事故を防げたと思いますか?」などと尋ね、解決策を一緒に考えます。
- 単に叱るだけでなく、「ヒヤリハット報告書を書いてもらう」「運転シミュレーターで訓練する」など、具体的な改善策を提示します。
- 指導の場と時間を配慮する
- 他の従業員の前で見せしめのように叱責するようなことをしてはいけません。
- 指導の時間は、必要以上に長くならないようにしましょう。
- 指導の記録を残す
- 後日、パワハラと言われることがないか、自分の言動を自ら確認しながら指導しましょう。指導日時、指導内容、従業員の反応、今後の改善策などを記録しておくことで、指導が業務上の必要性に基づいたものであったことを証明できます。
これらの方法で、従業員の安全運転意識を高めるとともに、指導する側もパワハラのリスクを避けることができます。