傷病手当金は報酬を得ると受給できない?詳しく解説

健康保険

傷病手当金は、本来、「療養のため労務不能であり、賃金の支払いがない」場合に支給されるものです。そのため、会社から何らかの金銭が支給された場合、その性質によって以下の2つのパターンで取り扱いが異なります。

就労を伴わない報酬の支給(生活支援など)

これは、会社から労務の対価ではない金銭が支払われるケースです。あくまでも「労務不能である」という大前提が満たされている期間に対して、会社から給与等が支払われた場合「調整」が行われます。

項目詳細
支給調整の原則傷病手当金は、支給された金銭の日額と比較され、差額が支給されます。
全額支給停止支給日額が、傷病手当金の日額を上回る場合は、傷病手当金は全額支給停止(ゼロ)となります。
減額支給支給日額が、傷病手当金の日額を下回る場合は、差額分だけ傷病手当金が支給されます。

具体的な計算のイメージ

項目金額の例傷病手当金は…
本来の傷病手当金の日額6,000円
会社から支給された金銭(日額換算)2,000円差額の 4,000円 が支給されます。
会社から支給された金銭(日額換算)7,000円支給されません(ゼロ)。

つまり、労務に服した対価ではない金銭の支給があったときは、会社から支給された金額が、本来受け取れる傷病手当金の日額を下回る場合に、その差額分が傷病手当金として支給されることになります。

この場合、調整の対象になるのは、会社から支給される金銭が、休業中の生活保障を目的とした給与や報酬の性質を持つと判断された場合であり、災害見舞金や慶弔見舞金のように、労働者の福利厚生や恩恵的な目的で一時的に支給される金銭は、原則として傷病手当金の支給調整の対象にはなりません。

労務の対価としての報酬の支給

これは、短時間でも実際に労働(労務の提供)を行ったケースです。労務可能と判断されて支給要件を満たさなくなります。

項目詳細
労務不能の判断実際に就労した日(時間や報酬額に関わらず)は、原則として「労務可能」と判断され、「労務不能」という支給要件を満たさなくなります。
傷病手当金の扱い就労したその日については、傷病手当金は支給されません(報酬との差額支給も適用されません)。
無給での就労無給であっても、会社の指揮命令下で実質的な業務を行ったと判断されると、その日は「労務可能」と見なされ支給停止となります。ただし、「リハビリ・療養の一環」として業務性のない出勤(通勤訓練など)と認められれば、継続して支給される可能性がありますが、保険者(健康保険組合など)への事前確認が不可欠です。
通勤費の補助リハビリ出勤であっても、通勤手当などは報酬とみなされ、傷病手当金の減額調整の対象となる可能性が高いです。

傷病手当金は、以下の4つの条件をすべて満たした場合に支給されます。

  1. 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
  2. 仕事に就くことができないこと(労務不能)
  3. 連続した3日間を含み、4日以上仕事を休んでいること
  4. 休業した期間について給与の支払いがないこと(または傷病手当金の日額より少ないこと)

特に重要なのが2つ目の「仕事に就くことができないこと(労務不能)」という要件です。

  • 傷病手当金における「労務不能」とは、被保険者が従事している業務を全くできない状態を指します。
  • たとえ短時間であっても、実際に就労した日は、「その日は仕事に就くことができた」とみなされ、労務不能とは認められません。

したがって、

実際に少しの時間だけ就労して、その報酬を支払ったときは、その就労期間は労務不能とは認められなくなり、傷病手当金の支給が止まる

という理解が必要です。

休業中のリハビリ出勤の扱い

リハビリ出勤の取り扱いは、傷病手当金と労務不能の判断において非常にデリケートな問題となります。リハビリ出勤が療養の一環とみなされれば傷病手当金の支給が継続される可能性があります。

支給が継続する可能性が高いケース

  • 業務の実態がない:会社からの具体的な業務指示や指揮命令がなく、ただ出社して席に座っている、仕事を眺めたりパンフレットに目を通している、つまり、実質的な労働と見なされない場合。
  • 目的が復帰判断:あくまで主治医の指示や会社の復職支援プログラムに基づき、体調や通勤に慣れることを目的としている場合。

この場合、「労務不能」の状態が継続していると判断され、傷病手当金が継続して支給される可能性が高くなります。ただし、この運用をするには、就業規則やリハビリ勤務制度で明確に定め、従業員と無給であることの合意を書面で交わしておくことが極めて重要です。

支給が停止する可能性があるケース

  • 実質的な業務:たとえ短時間でも、上司の指揮命令の下で会社の売上や利益に直結するような実務を行った場合。
  • 賃金の発生:無給としていても、実質的に労働とみなされた場合、後から未払い賃金の請求や労務管理上の問題が発生するリスクがあります。

ポイント: 傷病手当金の支給を判断するのは健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合)です。リハビリ出勤の内容によっては、「労務が可能になった」と判断され、支給が打ち切られるリスクがあります。事前に保険者に相談・確認することが最も確実です。

推奨事項

リハビリ出勤の実施にあたっては、以下の対応をお勧めします。

  1. 主治医の意見:主治医にリハビリ出勤の計画を伝え、「労務不能だが、復職のためのリハビリ・訓練として〇〇時間なら可能」という旨の意見書をもらう。
  2. 保険者への確認:保険者(協会けんぽまたは健康保険組合)にリハビリ出勤の具体的な内容(無給、指揮命令なし、時間など)を伝え、傷病手当金の支給が継続されるかを事前に確認する。
  3. 書面での合意:従業員と会社の間で、リハビリ出勤中の目的、内容、期間、無給であること、万が一の労災適用の有無などについて書面で明確に合意する。

このリハビリ出勤が、労務と見なされてしまうと、その日から傷病手当金が停止するだけでなく、その後の継続給付の権利自体が消滅してしまうリスクも考えられるため、細心の注意が必要です。