営業担当者の方々に期ズレの重大性を理解してもらい、税務調査での期ズレの指摘を防ぐためには、単に「ルールだから」と伝えるだけでなく、「なぜそれが会社と個人のリスクになるのか」を具体的に伝えることが重要です。
以下に、社内研修で使えるレジュメと講話例を作成しました。
営業担当者向け社内研修レジュメ
研修テーマ
売上計上ルールの徹底とコンプライアンスの重要性
〜なぜ「期ズレ」は絶対にダメなのか?~会社の信用と、あなた自身を守るために~
| 時間 | 項目 | 内容のポイント |
| 5分 | オープニング | 研修の目的(お客様との関係維持と会社の信頼性)と、過去の事例の共有(事実に基づき冷静に)。 |
| 10分 | フェーズ1:期ズレのメカニズムと影響 | 「期ズレとは何か」を分かりやすく解説。入金日ではないことの徹底。税務調査で指摘されるとどうなるか(追徴課税)。 |
| 15分 | フェーズ2:現場判断のリスク | 「取引先の要望」を安易に受け入れることの重大なリスクを説明。会社と個人が負うペナルティを明確化。 |
| 10分 | フェーズ3:正しいプロセスと対処法 | 期をまたぐ取引が発生した場合の正しい判断フロー(誰に相談するか)を提示。「困ったときは経理に相談」を徹底。 |
| 5分 | 質疑応答・まとめ | 現場からの質問を受け付け、コンプライアンス徹底を再確認。 |
| 合計45分 |
講話例:売上計上ルールの徹底とコンプライアンスの重要性
(講師:経理部門)
【オープニング:問題提起と研修の目的】
皆さん、お疲れ様です。本日は、会社の基盤に関わる非常に重要なテーマ「売上計上ルール」について、皆さんと一緒に考えたいと思います。
実は過去に、「期中に納品したものとして処理してほしい」というお客様からの要請に対し、現場の判断で売上計上日をずらしてしまった事例がありました。お客様との関係上、断りづらい気持ちは痛いほど分かります。しかし、この「小さな判断」が、会社と皆さんのキャリアに大きなリスクをもたらします。
今日の研修の目的は一つ。「なぜ期ズレが絶対にダメなのか」を本当に理解し、二度とこのような判断をしないための知識と判断基準を持つことです。
【フェーズ1:期ズレのメカニズムと影響】
1. 期ズレとは何か?(売上計上の原則)
売上を計上するルールは、税法と会計ルールで厳密に決まっています。
- 原則: 売上は、「商品をお客様に引き渡した日」、または「サービス提供が完了した日」に計上しなければなりません。これを「実現主義」と言います。
- 間違いやすい点: 「入金された日」でも「請求書を発行した日」でもありません。あくまで納品した事実が基準です。
期ズレとは、この納品日を無視して、売上を前倒ししたり、翌期に繰り延べたりすることです。
2. 会社に与える深刻な影響
期ズレが発覚する場が「税務調査」です。
- 税務調査で期ズレが指摘されると、会社は本来納めるべきだった税金に加え、ペナルティとして重い「追徴課税」を支払うことになります。
- この追徴課税は数十万円から数千万円になることもあり、会社の資金繰りを一気に悪化させます。
- さらに、会社の利益操作が疑われ、「悪質な企業」というレッテルを貼られ、社会的な信用も大きく失墜します。
【フェーズ2:現場判断のリスクと「お客様の要望」への対応】
1. なぜ「お客様の要望だから」は通用しないのか
「お客様の事情(予算消化など)を汲んであげたい」という気持ちは理解できます。しかし、お客様の要望を受け入れることが、「法律違反の片棒を担ぐ」行為になるのであれば論外です。
- お客様の会計も歪めるリスク: こちらが期ズレを容認することで、結果的にお客様の会計処理も不正になり、お客様自身が税務調査で指摘されるリスクを負うことになります。長期的な信頼関係の構築にはつながりません。
- 個人のキャリアリスク: 現場担当者が独断で計上日を操作すると、「会社の指示」ではなく「個人の不正行為」と見なされる可能性があります。最悪の場合、会社から懲戒処分を受ける可能性もゼロではありません。
2. 期ズレのチェックポイント
税務調査官は、決算前後の取引を徹底的に調べます。特に以下の書類の日付を比較されます。
- 納品日・検収日(営業が把握している事実)
- 売上計上日(経理の帳簿)
- 在庫の出庫日(倉庫の記録)
これらが一つでもズレていると、「期ズレ」として指摘されます。この複数の証拠書類の整合性を合わせることは、現場の判断では絶対に不可能です。
【フェーズ3:正しいプロセスと対処法】
1. 「困ったとき」の対応フローを徹底してください
お客様から計上日に関する相談や要望があった場合、決して独断で「OK」を出さないでください。
- お客様には、「社内ルールで厳密に定められているため、経理部門と連携して正しい処理方法を確認します」と丁寧にお伝えください。
2. 経理部門の役割(最終防衛ライン)
経理は、お客様との関係を断ち切るためにいるのではありません。
- お客様の要望と当社のルールを両立させるため、「代替案」や「次期以降の取引の調整」など、お客様と営業担当者を守るための正しい着地点を一緒に探します。
【まとめ】
皆さんの日々の活動は、会社の売上と利益の源泉です。しかし、その活動の成果が「適正なルール」の上に乗っていなければ、それは「リスク」に変わってしまいます。
売上計上ルールは、皆さんが安心して営業活動を続け、会社が健全に発展するための「会社のコンプライアンス(法令順守)」そのものです。
「これは期ズレかもしれない」と迷ったとき、「会社の信用と、自分自身のキャリアを守る」という視点に立ち返り、必ず経理部門に相談してください。
くれぐれもよろしくお願いします。今日はお忙しい中ありがとうございました。


