日頃の注意にもかかわらず、税務調査で期ズレを指摘されることは少なくありません。期ズレは、本来の会計期間とは異なる期間に売上や費用を計上してしまうことで、企業の所得計算に直接影響するため、税務調査で厳しくチェックされます。
期ズレを防ぐための具体的な対策
経理として期ズレ対策を行うには、売上と費用の計上基準の明確化と決算前後の取引に対する特別なチェック体制の構築が重要です。
期ズレの指摘を避けるため、特に決算前後の取引について以下の対策を講じましょう。
売上・費用の計上基準の明確化
最も基本的な対策ですが、社内および取引先との間で計上基準の認識を統一することが不可欠です。
- 売上計上基準の徹底
- 実現主義に基づき、商品やサービスを相手方に引き渡した日(役務提供を完了した日)を売上計上日とすることを徹底します。
- 検収基準、出荷基準、引渡基準など、取引の形態に応じてどの基準を採用しているかを明文化し、関係部署(営業など)と共有します。
- 費用計上基準の明確化
- 発生主義や費用収益対応の原則に基づき、当期の売上に対応する費用は当期に計上します。
- 特に、広告宣伝費、旅費交通費、消耗品費など、支出のタイミングとサービスの提供時期がずれる経費について、計上時期を明確にします。
決算前後の取引の重点チェック
期ズレは決算日をまたぐ取引で発生しやすいため、決算日直前・直後の数週間の取引に特に注意を払います。
- 売上の期ズレ対策
- 決算日直後の請求書・入金をリストアップし、それらの売上が当期に引き渡しが完了していないかを、出荷伝票や納品書、契約書などで個別に確認します。
- 締日と決算日が異なる場合、締日以降決算日までの期間の売上計上漏れがないかをチェックします(例:20日締め企業が月末決算の場合、21日~末日までの売上)。
- 費用の期ズレ対策
- 未払金・未払費用の確認:当期にサービスを受けたものの、まだ支払いが済んでいない経費がないかを確認し、未払費用として計上します(例:電気代、家賃、業務委託費など)。
- 前払費用の確認:当期に支払ったものの、サービスの提供が翌期以降になる費用がないかを確認し、前払費用として資産計上します(例:保険料、家賃の前払い、年間契約サービスの費用など)。
- 棚卸資産(在庫)との連携
- 売上原価の計上にも期ズレは影響します。売上と仕入・在庫の計上タイミングにズレがないか、特に決算日時点で現物があるにもかかわらず仕入計上されていないものがないかを確認します。
関係部署との連携強化
経理部門だけで全ての取引の詳細を把握することは困難です。営業、購買、倉庫などの関係部署と密に連携を取りましょう。
- 定例の情報共有:決算が近づいたら、営業部門に対し、売上計上の最終ラインを再確認させ、大型案件や期をまたぐ可能性のある取引について事前に情報をもらいます。
- 証憑類の徹底管理:納品書、検収書、契約書、請求書など、取引日や役務完了日を証明する書類の回収・整理を徹底し、会計処理と証憑が一致しているかを確認できるようにします。
内部統制・業務フローの改善
属人的なミスを減らすため、業務フローを見直します。
- チェックリストの導入:決算整理業務に関する期ズレ防止チェックリストを作成し、計上基準、未払費用、前払費用の確認などを漏れなく行う仕組みを作ります。
- ダブルチェックの実施:決算前後の特に重要な取引については、担当者だけでなく、責任者や他の経理担当者によるダブルチェックを必須とします。
チェックリストサンプル
経理部門が中心となり、決算前後の取引を網羅的にチェックするための「期ズレ防止チェックリスト」のサンプルを示します。
このチェックリストは、売上、費用、在庫の3つの視点から、特に期ズレが発生しやすいポイントに絞って構成しています。
【利用時期】 決算日直前および決算整理期間
| 区分 | No. | チェック項目 | 担当部署 | 確認結果 (OK/NG) | 備考 (証憑、処理内容など) |
| 売上 | S-1 | 決算日直後の請求書について、納品日・役務提供完了日が当期に含まれていないか、全件確認したか? | 経理/営業 | ||
| (実現主義の徹底) | S-2 | 営業部門より、期末付近の大型案件の納品完了日に関する情報をすべて受領し、帳簿と一致しているか確認したか? | 経理/営業 | ||
| S-3 | 締日(例:20日)以降、決算日(例:31日)までの売上について、計上漏れがないか、納品伝票等に基づき全件確認したか? | 経理/販売 | |||
| S-4 | 前受金・仮受金残高の中に、既に役務提供が完了しているにもかかわらず売上計上されていないものがないか確認したか? | 経理 | |||
| S-5 | 返品・値引き処理について、納品が当期・返品が翌期となっていないか、日付を確認したか? | 経理/営業 | |||
| 費用 | H-1 | 当期に納品・役務提供が完了しているが、まだ請求書が届いていない、または未払いの費用(未払費用)をすべてリストアップし、計上したか? | 経理/総務 | ||
| (発生主義の徹底) | H-2 | 特に固定的な費用(家賃、リース料、業務委託費、公共料金)の未払分について、期間按分処理が正しく行われているか? | 経理 | ||
| H-3 | 決算日後に届いた請求書について、納品日・役務提供完了日が当期に含まれていないか、すべて確認し、当期の費用として計上したか? | 経理/購買 | |||
| H-4 | 当期に支払い済みだが、サービスの提供・納品が翌期以降となる費用(前払費用・前渡金)を特定し、資産計上処理したか?(例:翌期分の保険料・家賃など) | 経理/総務 | |||
| H-5 | 大規模な修繕費用や広告宣伝費用について、サービス提供期間や検収日を確認し、計上時期に誤りがないか確認したか? | 経理/総務 | |||
| 在庫 | Z-1 | 決算日時点で倉庫に現物がある棚卸資産が、仕入帳簿および在庫リストにすべて含まれているか?(仕入計上漏れ・在庫計上漏れがないか) | 経理/倉庫 | ||
| (費用収益対応) | Z-2 | 未着品(輸送中)の所有権移転時点(FOB/CIFなど)を確認し、当期末の在庫に含めるべきものが計上されているか? | 経理/購買 | ||
| Z-3 | 当期に売上計上した商品が、決算日時点でまだ在庫リストに残っていないか(売上計上と在庫除外のズレがないか)? | 経理/販売 | |||
| その他 | O-1 | 期ズレに繋がりかねない例外的な取引(特殊契約、試用販売など)について、営業部門と連携して適切な会計基準で処理したか? | 経理/営業 | ||
| (証憑の確認) | O-2 | 期末の取引について、納品書、請求書、契約書等の証憑類をすべて回収し、日付操作の形跡がないかチェックしたか? | 経理 | ||
| O-3 | 全ての預金口座の残高証明書と帳簿残高が一致しており、決算日前後に不自然な資金移動がないか確認したか? | 経理 |
チェックリスト運用のポイント
- 証憑との連動:チェックリストの「備考」欄には、チェックの根拠となった納品書や請求書の日付、金額、取引先名などを必ず記載し、証拠(証憑)と紐づけてください。
- 関係部署への依頼:「売上」や「費用」の項目の中には、営業や総務などの情報提供が不可欠な項目があります。事前にこれらの部署に対し、リストアップを依頼する業務プロセスを組み込んでおくことが重要です。
- 過去の指摘事項の反映:もし過去に税務調査等で期ズレを指摘されたことがある場合は、その事例に関連するチェック項目をこのリストに特に追加し、再発防止を徹底してください。
経理からの依頼文サンプル
期ズレ防止のためには経理部門だけでなく、営業部門をはじめとする関係部署との連携と注意喚起が不可欠です。
以下の通り、「期ズレ防止と適正な決算に向けたお願い」というタイトルで、注意喚起文書の文案を作成しました。関係部署が納得し、行動につながるよう、期ズレのリスクと部署ごとの具体的な依頼事項を盛り込んでいます。
期ズレ防止と適正な決算に向けたお願い
関係各位
平素は経理業務にご理解とご協力をいただき、誠にありがとうございます。
さて、当社の適正な期間損益の計算と、将来的な税務調査への対策のためには、決算日をまたぐ取引における「期ズレ(計上時期のズレ)」の防止が非常に重要となります。
期ズレが発生した場合、意図的したものでなくても、税務署から指摘を受け、追徴課税(加算税や延滞税)が発生するリスクがあります。
つきましては、下記のとおり売上・費用の計上基準を改めてご確認いただき、特に決算日(X月X日)前後の取引について、ご協力をお願い申し上げます。
記
1. 計上基準の再確認
当社の会計処理は、原則として以下の基準に基づいています。
| 項目 | 基準(原則) | 留意点 |
| 売上 | 引渡基準(実現主義) | 顧客へ商品を引き渡した日、または役務(サービス)の提供が完了した日で計上します。入金日や請求日ではありません。 |
| 費用 | 発生主義 | 経費が発生した、またはサービスを受けた日(納品された日)で計上します。支払い日ではありません。 |
2. 各部署への具体的な協力依頼事項
(1) 営業部門・販売管理部門の皆様へ(売上に関するご協力)
適正な売上計上のため、特に以下の点についてご協力をお願いします。
- ① 納品日の厳格な管理:
- 決算日前後に納品・引渡しが完了した取引について、納品書や検収書の作成日が正確に記録されているかを確認してください。
- 納品が完了しているにもかかわらず、計上を翌期に回す行為は厳禁です。
- ② 請求書の早期連携:
- 当期売上分の請求書について、発行日(または計上日)を翌期にずらしていないかを確認し、作成後速やかに経理に連携してください。
- 特に、締日と決算日が異なる期間(例:決算日X月31日、締日X月20日の場合、21日~31日の期間)の売上計上漏れがないよう、売上リストと証憑類を再確認してください。
(2) 購買部門・管理部門の皆様へ(費用に関するご協力)
適正な費用計上のため、特に以下の点についてご協力をお願いします。
- ① 未払費用の特定:
- 当期中にサービス(広告、コンサルティング、修繕など)を受けた、または商品や備品の納品が完了したにもかかわらず、まだ代金を支払っていないもの(未払金・未払費用)がないかをすべてリストアップし、決算処理期限(X月X日)までに経理部門へ提出してください。
- ② 前払費用の特定:
- 当期中に代金を支払ったものの、サービスの提供を受けるのが翌期以降になるもの(例:翌期分の家賃、年間契約サービスの費用など)がないかを確認し、経理部門へ通知してください。
期ズレ防止は、会社の信頼性とコンプライアンスを守る上で最重要課題の一つです。ご不明な点や、計上時期に迷う取引が発生した場合は、自己判断せずに必ず事前に経理部門にご相談ください。
ご理解とご協力を重ねてお願い申し上げます。
【本件に関するお問い合わせ先】
経理部:〇〇(担当者名)
内線:X-XXXX メール:XXXX@XXXX.co.jp
期ズレの指摘は、「意図的な脱税」ではなくても「税額の過少申告」と見なされ、過少申告加算税や延滞税の対象となる可能性があります。日頃から「うっかりミス」を防ぐ仕組みを作り、会社全体の取引の流れを会計原則に照らして正しく把握する努力を続けることが、最も有効な対策となります。

