Last Updated on 2025年10月2日 by 勝
優良な電子帳簿の主な要件
国税庁の関係で言及されている「優良な電子帳簿」とは、電子帳簿保存法において定められた、一定の要件を満たした信頼性の高い電子帳簿のことです。
通常の電子帳簿保存の要件に加えて、さらに厳格な要件を満たすことで、税務上の優遇措置を受けることができます。
優良な電子帳簿の対象となるのは、所得税法や法人税法などで記帳が義務付けられている国税関係帳簿のうち、主に仕訳帳、総勘定元帳、およびその他必要な帳簿(売上帳、仕入帳、固定資産台帳など)とされています。
主な特徴と要件は以下の通りです。
通常の電子帳簿として満たすべき一般的な要件(システム関係書類の備え付け、見読可能性の確保、税務職員によるダウンロードの求めに応じることなど)に加えて、主に以下の要件を満たす必要があります。
- 訂正・削除履歴の確保:記録事項の訂正や削除を行った場合に、その事実と内容を確認できる電子計算機処理システムを使用していること。または、訂正・削除ができないシステムであること。
- 相互関連性の確保:帳簿の記録事項と、それに関連する他の帳簿の記録事項との間で、相互にその関連性を確認できるようにしていること。
- 検索機能の確保:以下の条件で検索できること。
- 取引年月日、取引金額、取引先により検索できること。
- 日付または金額の範囲指定による検索ができること。
- 2つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件による検索ができること。
メリット
優良な電子帳簿の要件を満たし、所定の届出書を税務署に提出することで、以下の税務上の優遇措置を受けることができます。
- 過少申告加算税の軽減措置:優良な電子帳簿に記録された事項に関して申告漏れがあった場合、過少申告加算税が5%軽減されます(原則の税率より低い税率が適用)。
- 青色申告特別控除額の増額(個人事業主の場合):所得税の青色申告を行っている個人事業主が優良な電子帳簿の要件を満たして備え付けた場合、青色申告特別控除額が通常の55万円から最高額である65万円に増額されます(ただし、e-Taxによる電子申告でも65万円控除の適用は可能です)。
「青色申告承認申請書」を提出した場合の特別控除との違い
「青色申告承認申請書」を提出することで適用される青色申告特別控除は、基本的な制度として同じですが、「優良な電子帳簿」の届出は、その控除額を最大にするための追加要件に関わるものです。
つまり、以下の関係にあります。
1. 青色申告特別控除(基本的な制度)
個人事業主が「青色申告承認申請書」を所轄の税務署に提出して承認を受けると、青色申告者として以下のいずれかの特別控除を受ける権利が得られます。
控除額 | 適用を受けるための基本的な要件 |
10万円 | 簡易帳簿など、最低限の記帳要件を満たしている場合。 |
55万円 | 複式簿記による記帳と、貸借対照表・損益計算書を添付して申告する場合。 |
65万円 | 上記55万円控除の要件に加え、さらに特定の要件を満たした場合。 |
2. 「優良な電子帳簿」と「65万円控除」の関係
「優良な電子帳簿」の制度は、この最大額である65万円の青色申告特別控除の要件の1つとして位置づけられています。
65万円控除を適用するための特定の要件は、以下のいずれかを満たすことです。
- 電子帳簿保存(優良な電子帳簿):
- 優良な電子帳簿の要件に従って帳簿を保存し、かつ、前述の「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除…の適用を受ける旨の届出書」を提出していること。
- e-Taxによる電子申告:
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用して、所得税の確定申告書を提出すること。
したがって、
- 「青色申告承認申請書」の提出は、青色申告特別控除(10万円、55万円、65万円)を受けるための大前提です。
- 「優良な電子帳簿」の届出は、青色申告特別控除の額を55万円から65万円に引き上げるための、2つの選択肢(e-Tax利用か優良な電子帳簿か)のうちの一つです。
まとめとしては、優良な電子帳簿を作成することで、メリットを得られる反面、個人事業主や小規模事業者にとって、優良な電子帳簿の要件を満たすための準備は、少しハードルが高いかもしれません。個人事業主が青色申告特別控除65万円の適用対象になるためであれば、優良な電子帳簿に対応するよりもe-Taxによる確定申告を選択する方が容易です。
届け出
「優良な電子帳簿」に関連しては所定の「届出」が必要です。
届出書の名称
「国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出書」
(国税庁のウェブサイトでは、個人事業主用と法人用で様式が異なります。)
この届出書の目的
この届出書は、「優良な電子帳簿」の保存によって得られる税務上の優遇措置を適用したい場合に、その旨を税務署に伝えるために提出するものです。
具体的には、以下の特例の適用を受けるために必要となります。
- 過少申告加算税の軽減措置(法人・個人事業主共通)
- 青色申告特別控除額の65万円控除(個人事業主のみ)
提出期限
この届出書を提出する期限は、優遇措置の適用を受けようとする事業年度(個人事業主の場合は年分)の 法定申告期限 までです。
- 法人: 適用を受けたい事業年度の確定申告書の提出期限まで
- 個人事業主: 適用を受けたい年分の翌年3月15日まで
※期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
注意点
- 電子帳簿保存法全般の届出は不要: 2022年1月の電子帳簿保存法改正により、単に帳簿を電子データで保存する(優良な電子帳簿ではない「その他の電子帳簿」を含む)ことについては、事前の税務署長の承認や届出は不要になりました。
- 届出が必要なのは「優遇措置」を受けたい場合: この届出書が必要となるのは、あくまで「優良な電子帳簿」の要件を満たした上で、過少申告加算税の軽減や65万円青色申告特別控除(e-Taxを使わない場合)といった「特例(優遇措置)」の適用を受けたい場合です。
どのようなソフトが対象か?
「優良な電子帳簿」であるかどうかは、そのソフトが電子帳簿保存法で定められた「優良な電子帳簿」の要件をすべて満たしているかどうかで決まり、市販か自社開発かは関係ありません。
しかし、それぞれのケースで対応のハードルが異なります。
市販されている会計ソフトについて
多くの主要な市販会計ソフトやクラウド会計サービスは、「優良な電子帳簿」の要件に対応した機能を提供しています。
- 対応していることが多い:
- 多くの市販ソフトは、優良な電子帳簿の要件である「訂正・削除履歴の確保」「相互関連性の確保」「詳細な検索機能の確保」といった機能を標準またはオプションで搭載しています。
- 確認ポイント(JIIMA認証):
- 会計ソフトを選ぶ際の一つの目安として、**「JIIMA認証(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会による認証)」**を取得しているかを確認すると安心です。この認証は、そのソフトが電子帳簿保存法の要件を満たしていることを示しています。
- 利用者の手続きが必要:
- ソフトが優良な電子帳簿に対応していても、実際にメリット(過少申告加算税の軽減など)を受けるためには、利用者が税務署に対して所定の「届出書」を提出し、かつ、ソフトの機能を適切に設定・運用する必要があります。ソフトを導入しただけで自動的に優良な電子帳簿になるわけではありません。
自社で開発した会計ソフトについて
自社開発のソフトでも、「優良な電子帳簿」にすることは可能です。
- 要件を満たせば該当する:
- 法律の要件は、ソフトの出所(市販か自社開発か)ではなく、ソフトの機能と運用体制に求められます。自社で開発したソフトであっても、前述の「訂正・削除履歴の確保」「相互関連性の確保」「詳細な検索機能の確保」といった優良な電子帳簿の要件をすべて満たすように開発・運用すれば該当します。
- ハードルが高い点:
- 開発・維持のコスト: 自社でこれらの厳格な要件(特に訂正・削除履歴の保持や詳細な検索機能)を満たすシステムを設計・開発し、法改正があった際に継続的に改修していく必要があります。
- 文書の整備: 「優良な電子帳簿」の要件には、システムの概要書、仕様書、操作説明書、事務処理マニュアルなどのシステム関係書類を整備し、備え付けることも含まれます。これらの文書を自社で作成・維持する必要があります。