取締役にしてやると言われたら、承諾する前にデメリットもよく検討しよう

取締役と監査役

Last Updated on 2025年10月6日 by

従業員から取締役に選任されることには、大きなメリットとデメリットがあります。特に、デメリットについて詳しくご説明します。

従業員から取締役に選任されることのメリット

  1. 経営への参画と大きな権限:
    • 会社の経営戦略や重要な意思決定に直接関与できるようになり、自分の考えを反映させることができます。
    • 役職に伴う権限が大きくなり、業務の裁量が広がります。
  2. 報酬・待遇の向上:
    • 一般的に、役員報酬は従業員の給与よりも高くなるケースが多く、経済的な安定や向上が期待できます。
    • 退職時には役員退職金を受け取れる可能性があります(株主総会などの決定が必要)。
  3. キャリアにおける実績と信頼の獲得:
    • 経営者としての実績を積むことができ、自身のブランド価値を高め、将来のキャリアに有利に働きます。
  4. 定年がない:
    • 会社が必要とする限り働き続けることができ、定年退職という概念がなくなります。ただし、役員に内規として定年制を設けている会社もあります。

デメリット

責任が増大する

会社経営に対する責任が非常に重くなります。会社に損害が生じた場合、株主や債権者から損害賠償請求を受けるリスクがあります。

従業員の不正行為なども含め、他の取締役の違法行為についても責任を追及される可能性があります。

連帯保証を求められることもある

従業員から取締役に選任されると、特に代表取締役や会社の主要な経営陣になる場合、会社の銀行借入の個人保証(連帯保証)を求められることがあります。これは、非常に大きなデメリット(リスク)となります。

連帯保証人は、会社(主債務者)とほぼ同等の返済義務を負います。

  • 「連帯」保証の重さ: 会社が倒産するなどして借金を返済できなくなった場合、金融機関は会社に請求することなく、すぐに取締役個人に対して残債の全額を一括で請求することができます。
  • 個人資産の喪失: 請求に応じられない場合、取締役個人が所有する自宅(マイホーム)や預貯金などの個人資産を処分して返済に充てなければなりません。
  • 自己破産のリスク: 会社の負債が多額で個人資産でも返済しきれない場合、会社と同時に取締役個人も自己破産せざるを得なくなる可能性が極めて高くなります。

取締役就任の条件として、個人保証の有無を必ず確認し、リスクを理解した上で判断することが重要です。

日本では、特に中小企業が金融機関から融資を受ける際、会社の信用力を補完するため、経営者個人に連帯保証人となることを求める商慣行が根強く残っています(近年、政府主導で「経営者保証に関するガイドライン」が策定され、見直しが進められていますが、依然として多くのケースで個人保証が求められます)。

労働法の適用が除外される

原則として労働者ではなくなるため、労働基準法の保護を受けられなくなります。

残業代、休日出勤手当が支給されない

年次有給休暇が適用されない

解雇規制の適用を受けないため、株主総会の決議により解任される可能性があります。

労災保険と雇用保険の適用が除外される

従業員から取締役に就任し、「労働者」としての立場を離れると、原則として労働保険(労災保険・雇用保険)の対象外となります。

労災保険から外れることによるデメリット

労災保険は、業務上または通勤途中の事故による怪我や病気、死亡に対して給付を行う制度です。対象外となるデメリットは以下のとおりです。

  • 業務上の災害に対する補償がない:
    • 業務中に怪我や病気に見舞われた場合、原則として労災保険からの療養補償給付(治療費)や休業補償給付(休業中の所得補償)を受け取ることができません
    • 治療費は自己負担となるか、通常の健康保険(業務外の病気や怪我用)での治療費負担となります(例外規定あり)。
  • 障害が残った場合の補償がない:
    • 業務上の災害により障害が残った場合も、労災保険の障害補償給付を受け取ることができません
  • 死亡時の補償がない:
    • 業務上の死亡事故の場合も、遺族は労災保険の遺族補償給付を受け取ることができません

【対策】

中小企業の役員など、特定の要件を満たす場合は、労災保険の「特別加入制度」を利用できる場合があります。これにより、一定の範囲で労災保険の補償を受けることが可能になります。

雇用保険から外れることによる退職時のデメリット

雇用保険は、失業した場合などに生活の安定と再就職を支援するための給付を行う制度です。対象外となるデメリットは以下のとおりです。

  • 失業給付(基本手当)を受給できない:
    • 取締役を退任したり、解任されたりして職を失った場合、雇用保険の被保険者ではないため、失業給付(基本手当)を受け取ることができません
  • 育児休業給付金・介護休業給付金を受給できない:
    • 育児や介護のために休業した場合の給付金も、雇用保険の制度に基づくため、受給資格がなくなります。
  • 再就職支援制度を利用できない:
    • 再就職を促進するための各種給付(就業促進手当など)や支援制度の対象外となります。

【対策】

失業時の生活費については、個人的な貯蓄や、加入している民間の保険等で備える必要があります。

補足:兼務役員の場合

会社から「従業員としての身分」も残す形で取締役(兼務役員)に就任する場合もあります。その場合は、労働者性が認められる範囲で労災保険や雇用保険の適用を受けることができる場合がありますが、判断が複雑になります。具体的には、労働基準監督署やハローワークの判断が必要となります。

最終的な判断を下す前に、ご自身の会社の状況や、受ける予定の役員としての役割、報酬体系などを踏まえて、専門家(社会保険労務士など)に相談されることを強くお勧めします。