Last Updated on 2022年2月26日 by 勝
いつでも辞めることができる
取締役は、通常は任期を満了して再選されないときに退任します。ここで説明するのは、任期中に退任したいときの手続きです。
原則として、取締役はいつでも辞任することができます。会社と取締役の関係は委任関係であり、委任関係は、民法651条1項の規定によりいつでも解除できます。会社の承諾は不要です。
(株式会社と役員等との関係)
会社法第330条 株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。
(委任の解除)
民法第651条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
損害賠償責任が発生する可能性
多くの場合は自由に辞任することができますが、場合によっては損害賠償責任が生じることがあります。
民法第651条2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。
やむを得ない事由があったときは賠償義務は発生しません。
具体的にどういう時期が「不利な時期」であるか、あるいは、どのような事由であれば「やむを得ない事由」と認められるかはケースバイケースで検討しなければなりません。基本的にはよほど無責任な辞め方をしなければ該当しないと思われますが、疑義があるときは辞任を申し出る前に弁護士等の専門家に相談した方がよいでしょう。
辞めるときは辞任届を提出する
辞任の意思表示は口頭でもよいのですが、通常は、明確にするために、辞任しようとする取締役が辞任する旨を書面にして代表取締役に提出します。一般的に辞任届といいます。
辞任届の文例
辞 任 届
〇〇株式会社代表取締役〇〇〇〇殿
私は、一身上の都合により、平成〇年〇月〇日をもって、貴社の取締役を辞任いたしたく、届出いたします。
令和〇年〇月〇日
住所
氏名 印
辞任届の宛名
宛名は代表取締役にします。取締役の地位は会社との委任関係なので、〇〇株式会社御中で問題ないという説もあります。ただし、「取締役辞任の意思表示は代表取締役に対してすることを要する」という裁判例もあるので、代表取締役宛の方が無難と思われます。
記載する辞任理由
辞任理由は「一身上の都合により」と記載するのが無難です。例えば「経営上の責任を取って」などと記載すれば、後日、会社に損害を与えたとして株主代表訴訟を起こされたときなどに、相手方に有利な証拠になる恐れがあります。
自書する
署名以外の部分はパソコン等で作ってもよいですが、署名は自筆で書かなければなりません。また、印鑑は認印でも構いませんが、決意を伝えるために実印を押印した方がよいでしょう。
辞任させてもらえないとき
辞任届を提出しても、遺留されるなどして辞任届を受け取ってもらえないこともあるかもしれません。
その場合は、さらに意志が固いことを述べて受け取りを懇請します。
これを繰り返しても辞任届を受取ってもらえなければ、辞任の意思表示をしたことの証拠作りをします。
一例としては、代表取締役に対して内容証明で辞任の意思を通知します。同時に、念のために、同僚取締役に対してもメール等で辞任届の写しを添付し、辞任の意思表示をしたことを連絡します。
辞任は登記されなければならない
辞任の意思表示が伝わっても、辞任の登記してくれなければいつまでも取締役の登記が残ります。自分では辞めたつもりでも法的には取締役のままです。第三者は登記をみて判断するので、損害賠償請求などの思わぬトラブルに巻き込まれるおそれがあります。
辞任の登記をするように強く要望し、それでも辞任登記をしてくれないときは、会社を被告として、辞任登記を求める訴訟を提起をして、判決に基づいて辞任登記をする方法もあります。
定数を欠く場合は難しい
取締役会非設置会社においては最低1人、取締役会設置会社においては3人以上の取締役が必要です。取締役が辞任したことによって、法律又は定款に定める取締役の員数を満たさなくなるときは、辞任しても新しく選任された取締役が就任するまで取締役としての権利義務を有します。
(役員等に欠員を生じた場合の措置)
会社法第346条 役員(監査等委員会設置会社にあっては、監査等委員である取締役若しくはそれ以外の取締役又は会計参与。以下この条において同じ。)が欠けた場合又はこの法律若しくは定款で定めた役員の員数が欠けた場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員(次項の一時役員の職務を行うべき者を含む。)が就任するまで、なお役員としての権利義務を有する。
2 前項に規定する場合において、裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができる。
このような場合、新たな取締役が選任されるまでは、会社に対して責任を負い続けることになり、退任の登記もできません。
対抗策としては、2にある「一時役員の職務を行うべき者」の選任を裁判所に申し立てる方法があります。
ただし、時間とコストがかかるので、まずは会社に対して、速やかに新たな取締役を選任することを求めるべきでしょう。