Last Updated on 2025年8月19日 by 勝
経理担当の従業員が勝手に会社の通帳からお金を引き出して使い込んでいました。このようなことが発覚したときに、会社としてはどのような対応ができるでしょうか?
大変な事態ですね。このようなケースでは、法的な対応、人事的な対応、そして再発防止策を多角的に検討する必要があります。それぞれの対応について、以下に整理して解説します。
事実確認と証拠収集
まず何よりも先に、事態の全容を把握するための事実確認と証拠収集を行う必要があります。
証拠の保全:通帳、出金伝票、領収書などの確認、会社のPCやメール、チャット履歴なども、不正行為の証拠となりうるため、保全しておきます。
内部調査: 調査担当者を決めて、従業員への聴取を行い、事実関係を確認します。この段階での聴取は特に慎重に行う必要があります。
横領された金銭の回収
横領された金銭を回収するために、以下の方法が考えられます。
従業員との示談交渉
- メリット: 迅速な解決が期待でき、訴訟費用もかかりません。全額返済すれば刑事告発については情状の余地があるなどの条件で、損害回収が期待できることがあります。
- 方法: 従業員と直接交渉し、横領した金額の返還と、その支払い方法(一括払い、分割払いなど)について合意します。示談書を作成し、公正証書にしておくことで、法的な効力を持たせることができます。示談書の作成等には専門的知識が必要なので専門家と情報共有して進めましょう。
- 注意点: 従業員が支払い能力を欠く場合、交渉が難航する可能性があります。
損害賠償請求訴訟
- メリット: 示談交渉で合意に至らない場合、裁判所の判決を得て強制的に金銭の回収を図ることができます。横領された金銭だけでなく、横領によって会社が被ったその他の損害(調査費用など)も併せて請求することができます。
- 方法: 民事訴訟を提起します。従業員の財産(預貯金、不動産など)を差し押さえるための手続きも同時に進めることができます。
- 注意点: 訴訟には弁護士費用がかかり時間もかかります。勝訴を得ても従業員に資力がない場合は回収できないリスクがあります。
人事処分(懲戒解雇)
横領は重大な非違行為でなので、懲戒処分として懲戒解雇を検討することができます。
- 懲戒解雇の要件: 会社の就業規則に懲戒解雇事由として横領が明記されている必要があります。また、従業員に弁明の機会を与えるなど、適正な手続きを踏む必要があります。
- 手続き:
- 懲戒委員会の開催: 社内のしかるべきメンバーで懲戒委員会を開き、事実関係を審議します。
- 弁明の機会の付与: 従業員に弁明の機会を与えます。
- 懲戒処分の決定: 懲戒委員会の審議結果に基づき、懲戒解雇を決定します。
- 解雇通知: 従業員に懲戒解雇を通知します。
- 注意点: 懲戒解雇は従業員のその後の生活に大きな影響を与えるため、慎重に判断しなければなりません。特に横領について否認している場合、何か背景事情がありそうな場合は更に充分な調査が必要です。
刑事告発
横領は、刑法上の「業務上横領罪」に該当する犯罪です。警察に被害届を提出し、告訴を行うことができます。
- メリット:
- 受理されると警察による捜査が行われ、横領の事実がより明確になります。
- 従業員に対する社会的制裁となります。
- 会社の調査ではわからなかったことが明らかになる可能性があります。
- 方法:
- 警察署に被害届を提出します。
- 告訴状を作成し、警察に提出します。これも通常は弁護士に依頼します。
- 注意点:
- 告訴は、民事上の金銭回収とは直接関係ありません。
- 事件が明らかになることで、会社の信用が傷つくおそれもあります。
再発防止策
同様の事態を二度と起こさないために、再発防止策を講じることが最も重要です。
内部統制の強化
複数人によるチェック体制: 経理処理や支払い手続きを一人に任せるのではなく、複数人でチェックする体制を構築します。
職務分掌の明確化: 経理担当者の権限を明確にし、担当者以外が会社の通帳を管理できないようにします。
定期的な監査: 外部の監査法人や税理士による定期的な監査を実施します。
従業員への教育と啓発
倫理規定の周知徹底: 従業員に対して、会社の倫理規定やコンプライアンスに関する教育を行います。
経理システムの導入
経理ソフトウェアの導入: 不正な取引を検知する機能がある経理ソフトウェアを導入します。
まとめ
経理担当従業員による横領事案は、会社にとって大変深刻な問題です。
法的対応: 損害賠償請求(示談交渉または訴訟)と刑事告発を検討します。
人事対応: 懲戒解雇を視野に入れ、就業規則に則った適正な手続きで対応します。
再発防止策: 内部統制の強化、従業員教育、システム導入などを通じて、会社のガバナンス体制を立て直すことが不可欠です。
専門的な知識が必要となるため、事態が発覚した時点で、速やかに弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。